世界の寿命が縮んだ日
頭がクラクラする。視界がぼやける。体の感覚が無くなっていく。音も聴こえなくなる。何が起きて…。
ん、眩しい。朝、朝か。目が覚めた。いつの間にか寝てしまっていたようだ。
いや、待て。ここはベッドの中でも、部屋の中でもない。外だ。うん、外にいる。そうだ、家に帰る途中で、急に意識が遠のいていって。
そうだ、そうなのだが、地面はアスファルトで覆われていた筈だ。ここのは未舗装。土が剥き出しだ。どこなんだ、ここは。
それと、さっきから肩に掛かっているこれ、僕の頭から生えているようだ。つまり、僕の髪の毛ということだが。長すぎるし、白い。白髪、いや、銀髪なのだ。あれ、そういえば服を着ていない。
ちょっと待って。これが僕の身体?雪のように、というのは大げさかもしれないが、白い肌。女性的、いや、少女のような体つき、というか少女の身体。あ…。て、なに眺めてるんだ!まあ、貴重な体験ができたってことで。
そんなことより、現状の把握だ。時間は、太陽の位置と気温から朝。場所は、屋外。道路は未舗装。僕は少女で、服を着ていない。裸だ。訳がわからん。
とりあえず、服が欲しいかな。女の子なら、可愛い服がいいのかな。スカート、とかも?あれ、服を着ている。さっきまで着ていなかったのに。
ま、まあいい。あるのなら問題ない。とりあえず、道を辿れば人里にでも出るだろ。下り坂のほうに。
夢、なのかね。そういえば、前にクラスの女子から、「**って可愛いよね」「確かにー」とか言われたもんな。そのせいでこんな変な夢を?でも、そんなに可愛いのかな。一応男だけど。
あ、人が来る。猪の死体を持ってる。狩りの帰りのようだ。そして、やけに獣臭い。ここまでリアルだと、夢ということはないのかもしれない。
「おい、どうしたんだ?親は?」
話しかけられた。あ、えっと…。
「どうした?顔を赤くして。迷子か?まあいい。こんなところを一人で歩いてちゃ危険だぞ?取り敢えず、ついてきな。」
緊張したのを、恥ずかしがったのだと勘違いしたみたい。ついてこー。
「うん…。それ、銃?」
「ああ。そうか、珍しいもんな。撃ってみるか?」
「撃ちたい。」
銃を手渡される。ライフル銃っぽい。重い、でも、いい。なんだか、安心する。しっくりくる。そんな、不思議な感じだ。
あの木ね。ちょうど窪んでいるところがある。あそこを狙えばいいのか。少し、上を狙わないと当たらないよな。どのくらいだろう。このくらいかな。
『ダァン』
ちょっと上過ぎたみたい。思ってたより真っ直ぐ飛ぶんだ。
「惜しかったな。もう一発撃ってみるか?」
「じゃあ、撃つ。」
誤差修正。ちょい下狙う。これくらいだろうか。風は、ほぼないな。この距離なら、気にする必要は無さそうだ。
『ダァン』
当たった。ど真ん中。やった。
「お、うまくいったな。素質あるんじゃないか?」
「そうかな?」
ライフル、いい。欲しいな…。あ、返さないと。
それから暫く歩き、村に着いた。道中、名を問われ、咄嗟にシャロンと名乗った。相手の名前が西洋風だったから、日本風の名前ではおかしいんじゃと思ったから。○○地方の…、とか言われたら面倒だし。
シャロンという名前には、これといった意味はない。咄嗟に出てきたのが、それだったから。
面倒だし、親がいないという設定にした。
「シャロン、いく宛がないなら、暫くうちにでもいるか?」
「いいの?」
「俺たちは問題ない。丁度、息子がいた部屋が空いててな。そこに住めばいい。あ、ちゃんと掃除はしてるし、変な物はない筈だ。ベッドもある。」
ベッド、部屋あり。三食、衣服も用意できそう。断る理由はない。
取り敢えず、一晩休ませてもらった。眠れなかったけど。ベッドがいつもと違うからかな。あれ、でも、林間学校とか、修学旅行の時はぐっすり眠れたよな。異世界に来て、落ち着かないでいるのかな。
「シャロン!起きてるか!!」
ハイハイ、起きてまーす。一睡もしていないからね。呼ばれたんなら、向かうとするか。
「今から猟にいく。お前も来るか?」
興味はある。どうせ、やることもない。
「うん、いく」
「なら、こいつを持ってけ。ライフル銃一丁、弾は5発。こっちは昼食だ。」
ライフル銃は、昨日使わせてくれたのと同じタイプ。こちらはそんな使われていないようだ。予備だろうか。
「それじゃ、いくぞ。」
わわ、ちょっと待って。
「あ、あそこに熊がいるよ。」
「よく見つけたな。よし、お前がやれ。」
えっ、いきなり動くやつを?頭狙う、いや、当てやすい胴体、やっぱり頭狙う。昨日の感じだと、高さはこれくらい。風はない。
『ダァン』
命中。ゆっくりと、倒れる。即死だろうか。熊が相手だけど、ヘッドキルしちゃった。
「回収は俺がする。お前はここに居ろ。」
「わかった。」
ライフル銃、気に入った。そして、猟も。おまけに、空気が綺麗。
『ガサガサ』
後ろで音が…。狼!?咄嗟にその場から離れる。あ、体の動きが、とってもいい。身体が変わって、身体能力も上がったみたいだ。
って、感心してるんじゃなくて!どうにかしないと。どうにかって言っても、殺すだけだけど。
『ダァン』
あ、頭が…。至近距離だもんな。潰れて、脳が飛び散っている。すごく…、いい。へえ、脳ってこんな色してるんだ。
「どうした!」
「狼が襲いかかってきたから殺した。何にも問題はない。」
「そうか、怪我はなさそうだな。その、こんな風になってるが、大丈夫か?」
あ、そういや、凄いことになってたんだ。頭の潰れた狼、飛び散る脳、血肉。その中に、小柄な少女が、ライフル銃を持って立っている。異様な光景だ。
「大丈夫、問題ない。」
「そうか、ならいいが…。」
でも、これどうすんだろう。あ、道端に投げ捨てた。血だとかは、雨が流してくれるか。
「もう帰ろう。よし、今夜は熊の肉だ。」
あの熊、食べるんだ。まあ、毒がある訳じゃあ無いだろうし、食えなくもないのかも。旨くは無さそうだけど。
ー数ヵ月後ー
鳥、雁の群れだ。一匹ちょーだい。いいよね。
『ダァン』
よし、当たった。
飛行している鳥ですら、撃ち落とせるように。地上にいるなら、外さない。いつの間にか中々に上達してた。
回収しよう。ゆっくりしていると、他の生物に盗られる。走って、跳んで、いっそげー。
回収。生きてたから、ナイフで血管切って殺した。
あ、糞だ。足跡もある。まだ新しいな。これは、鹿かな。あっちのほうに続いてる。行ってみるか。
ゆっくり、慎重に。音をたてるな。気配を消せ。
立派な角だ。傷つけないように。
『ダァン』
首を撃った。暴れられても面倒だし、死ぬまで待つ。
必死で、起き上がろうとしている。次々と血が出てくる。暴れても寿命を縮めるだけなのに。まあ、暴れなくても、大して変わんないか。必死で、呼吸を(しようと)している。でも、段々と動きが鈍くなっていく。おや、もう動けないようだ。目が開いたまま、口も開いたまま。動かない。死んだな。
よし、こんなもんで十分だな。十二分か。
夕食を終え、銃の手入れをしていた。けど、呼ばれたから中止。
「明日から学校だ。荷物はまとめてあるな?」
「うん。でも、いいの?銃って高いんでしょ?」
なんと、入学祝いに銃をやると言い出したのだ。おまけに、弾を数十発。
そもそも、学校に通えという話し自体、昨日急に言われたからね。手続きは済ませてくれてるらしいけど。
貴族等の場合、やたら金が掛かるらしいが、平民は完全無料。教科書はもちろん、寮での生活費もだ。
「そろそろ、迎えがくる筈だ。じゃあな。」
「うん、いってきます。」
迎えは、知り合いの商人が引き受けてくれた。毛皮とかを取引してもらっている人だ。優しいおっちゃん、といった感じ。
「シャロンちゃん、着いたよ。」
門がある。閉鎖されている、というわけではないが。おっちゃんともここでお別れ。後は自分だ。地図を頼りに、まずは寮へと向かう。
「元気でな。」
「うん。ありがとう。それじゃ、バイバイ。」
おっちゃんも仕事がある。別れの挨拶をしたあと、直ぐに遠くへ去ってしまった。
現在地は南門、ここの通りを真っ直ぐいって…。
ここかな。うん、ここだ。部屋は、三階の、二号室。毎日三階まで登り降りしなきゃなの?別にいいか。
寮は、他にもいくつかあるらしい。詳しくは知らないが。
部屋によっては電気が付いている。あ、火か。
どんな人たちだろうか。楽しみだけど、怖い人は嫌だなあ。向こうも、同じようなこと考えてるのかな。
ここか。鍵は、これか。
『ガチャ、ギィィ』
開いた。中は綺麗に掃除されており、必要最低限の物を除けば、ごみも含め、何もない。そして、僕は僕で置くものが特にない。私物は、ライフル銃と弾、幾つかの本だけだからね。あと、筆記用具か。でも、それだけ。ベッドは備えられている。ならいい。服も、村の人が作ってくれたのがある。クローゼットもあるようだし、平気だな。何もない部屋に加わるのは、ライフル銃と弾、幾つかの本だけ。女の子の部屋としては失格だな。気にしないけど。
時間までまだある。本でも読んでいよう。
学園パートへれっつらごー。