埋合せ
《埋合せ》
またまた今日も目を覚ますと、優でもあるユーディが居て、今日も一緒に使命を果たした。あの黒いモノは遠くでもやっぱり不気味さを感じるけど、それ以上に歌うのは気持ちが良い。こっちで歌うのは本当に爽快。ユーディもやっぱり素敵だし。
愛理はうきうきした気分でユーディに目をやった。
あれ?どうしたんだろう?ユーディ、浮かない顔している?
「どうして、向こうへ戻ると信じてくれない?」ユーディが溜息交じりに聞いた。
えっ?そんな風に聞かれても…どうしてだろう?相変わらずこっちへ来るとなんの疑いもなく信じられる。あっちへ戻ると優がユーディのはがずない。ただの夢か妄想に違いないと思ってしまう。その繰り返し。…ぁ、そうだ!
「優もこっちの事覚えてれば、そうすれば信じられるかもしれない」これ名案じゃない?
「それは出来ない」ユーディはきっぱりと即答した。「キーになってるのは愛理の方。優は何も問題ない。愛理が元の気持ちを取り戻してくれればそれで上手く行く」
え? 今は上手く行ってないって事? 上手く歌えてるよね?浄化もできてるよね?
「第一、優を覚醒なんてさせたら、向こうの優の精神がとても持たない」
「へ?」
「愛理の場合は良い。愛理がこちらでしている事は、たまに危ない事はあるとしても、基本的には歌う事。向こうで愛理がどう頑張っても出来ない気持ち良く歌う事。こちらでの記憶が残っても気持ち良さが優先するはず」
うん。確かにそう。
「優がこちらでやっている事を考えてみて」
「私を守って…刈る事…あの不気味なモノを…」愛理は離れて存在してるだけでもとても嫌な感じのするあの黒いモノが、近くに迫ってきた時の事を思い出した。
あの形相、思い出すだけで身震いがする。あれを毎晩何体も近くで見て、刈る。
「そう。あれが近くに来るだけでも嫌な事。いくらそれが使命とはいえ、鎌でなんらかの生き物を刈る行為自体も気持ちの良い事では無い。わかるだろ?」
愛理は頷いた。
あの、傍で聞こえたザクッと言う生々しい音、あれはユーディがあれを刈った音に違いない。私は何も見て無い。けど、あの音だけでも私は嫌。寒気がする。
「向こうの優が色々と恵まれているのは、その事の埋合わせでもあるんだ。そうしないとバランスが取れない」
「あ…」
「でも、それだけでは無理。優がそんな不快な事を今までずっと出来ていたのは、愛理への愛があるから」
「へっ?愛?優が私に?そんなのあるわけないし」
「あ、恋愛の愛じゃないよ。もっと深い愛」
「深い愛?って何?」
ジリジリジリジリ
ああっまずいっ!2個目の目覚まし鳴ってる。起きなきゃ・・・