6話
「うわー、でっかい病院だね。」
私たちの目の前に広がるのは、白い白い大きな病院。
日本で4番目くらいに大きく、設備は1、2位を争う私でも知っている所だった。
ここ10数年前に開院したらしい。
兎に角広い。
1度は見てみたかったんだよね、こんなところで資料が手に入るとは、しめしめ。
このまま進むとトンネルに入ってしまうので私が一生懸命メモを取っていると彼は左に曲がった。
あれ?
「友達の家行かないの?もしかして、近道?」
「違う。ここに俺の友達がいるんだ。」
…………えっ 病院ですけど……
私は今自分がどんな顔をしていたかはわからない、彼の顔を見ても今日はわからなかった。
駐車場に車を停めるまで私たちは無言だった。
お互いにかける言葉がわからなかったのかもしれない。
自分でもわからない。
15分ほどしか経ってないだろうか、私には1時にも2時間にも感じた。
少しの右にずれて止まっている事を知ったのは全てが終わって車に戻って来たときだった。
今思うと彼も緊張していたのだろう。
彼は大事なところで顔に出ない、私とは大違い。
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彼が受付に行っている間、私はというと立ったり、座ったりと繰り返していた。
兎に角落ち着かない。
皆さんも経験があるのではないだろうか、白い服を着た先生や鼻を攻撃し続ける臭い。
日常生活とはかけ離れすぎたこの異空間を。
しょうがなく隅っこの方へと移動して腰をおろした。
まだ早いせいか子どもが多い。
突然走り出した子どもが転んび母親が助けに行く。
かわいいなあ。
私たちはまだ子どもがいない。
2人とも好きなのだが、仕事が忙しい過ぎてそこまで考えが回らないのだ。
私としてはもう少し新婚生活を楽しみたいので構わないのだか、両親たちが何かとうるさい。
孫の顔がみたいのはわかるが急ぐでない。
短い脚を動かすと足元に何か当たった。
持ち上げて見るとクマのぬいぐるみだった。
落としたのはさっきの子だろう、目をキョロキョさせながら這っている。
私はその子に近よりクマで顔を隠し言った。
「ねぇ、さっきボクを落としたでしょ。いたいよ。ママがあれだけ走ったらダメだって言ってたのに。」
「ごめんねクーたん、いたいのいたいのとんでけ」
「ありがとう。いたくなくなっちゃた。でも、もう走らないでね。」
「うん」
クーたんを渡し席に戻ろうとすると彼が後ろに立っていた。
「行くぞ。」
彼はそう言うと歩き出した。
心の整理をする時間はないのでしょうか。
私も彼の後ろを追いかけた。
ここまで来ればわかる、彼の友達のカレはここにいるんだと。
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エレベーターで26階まで上がった20階から上は個室が完備されている所謂VIP又は特別な病気を持っている患者しか入れない所だった。
カレはどっちだろうか。
カバンの紐を握り絞めているいるのを見られ、彼に視線を向けると頭をポンポンされ、ちょっぴり安心した。
いや、彼らしくない行動にびっくりしたのかもしれない。
1番奥の部屋にたどり着き辺りを観察した。
他の個室より広く、日当たりがいい。
うろちょろしている私を捕まえた彼はドアのとってに手をかけ息をはき出し、静かにドアをスライドさせた。
腕を引かれながら私は気がついた、無くてはならないものがここにはないということに。
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ドアを開けると広がるのは真っ白に室内とベットの上でピクリとも動かないカレ。
彼はゆっくりとした足取りでベットに近づき、カレの顔を覗きながな言った。
「久しぶり」
あんな顔をした彼を私は見たことがない。
だからこそ、カレの顔を声を性格を聞かなくてもカレが彼の親友である事がわかる。
私もカレに挨拶しようとベットに近づいた。
「初めまして五月の妻です。」
そう言い眠っているカレを覗き込んだ。
そこに眠っていたのは明るいブラウンの猫毛に高い鼻、シャープな輪郭、そして白い肌。
ハリウッドスターにでも出てきそうなほどのイケメンだった。
カレが英国貴族といわれても違和感はないだろう。
私は気になっていることを聞くことにした。
「名前が掲示してなかったんだけど、何ていうの?」
「……知らないんだ。」
ん~ん?
昨日耳掃除したばかりの耳がちゃんと機能していないようだ。
よし、もっかい聞こう。
「おなまえは?」
「知らない。教えてくれなかったんだ。」
私の耳は機能していたようだ。
「えっ、ちょっ待って落ち着こう。ひっひっふー。」
「落ち着いてないのはお前だけだ。」
「何処で頭打って忘れたとかじゃなくて?本当に知らないの?」
「だから言ってるだろ。」
本当に知らないようだ。
彼は持って来たスーツケースから大量の日記帳から数冊私に渡してきた。
高校生のときのようだ。
「こいつとは高校のときに知り合ったんだ。」
彼も日記帳を捲りながら話し始めた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。とりあえず一区切り。次回からは過去に入ります。
なるべく早い更新頑張ります。