2話
「お待たせ」
自分でも驚くくらい緊張した声。
いつもは音をあまりたてずに歩く私だが、今日に限って裸足……Oh,my god
そんな空気を読めないfootなど気にせず私は先月購入したばかりのソファーに腰かけた。
「終わった?」
労いの言葉をかけてくれる彼。
そっと私は彼の顔に目を向けた。
いつもはご飯の後の会話で穴が開くほど見るのだが今日は見なかった。
だって仕事してたもん。
いや、嘘。
見ようとすれば見れた。
ただ私が臆病で見られなかっただけ。
今日初めて見た彼の目尻はぼんやり黒かった。
体調など崩した事のないような彼がこんな顔を見せるなんて初めてだった。
私たちの関係も崩れてしまったかのように思えた。
「ごめんね、思ったより時間かかっちゃった」
「こっちこそごめんな、今の時期忙しいってわかってるのに」
「そんな事ないよ。私より五月の方が忙しいじゃん。 ほら、この間関本さんが言ってたよ。来年頃には社長の席は譲れるって。」
私はいつもよりテンション高めで言った。
今の空気を壊す為に。
1秒でも長く関係が続くように。
「五月もさ来年には社長様になるんだからビシッとしなさいビシッっと。」
しゃべっている間テンションが迷宮に入り込んでるのを理解しつつしゃべり続けた。
でないと私は自分はが彼女の為に書いたレールの上を一緒に歩かなければならないと思ったから。
何が楽しくて体験談を小説にしなければならないのだ。
御免こうむる。
そんな私なんぞ露知らず彼はまるで海の底から昆布狩りをしてきた後のおっさんのような声で言った。
「あー、あのさ。その事なんだけどさ」
さ が多いな。さ っが。
お前はさの妖精か
ああ、さの妖精か、五月は元が良いからきっとプリティーな妖精でツンデレで、でも優しくて……
ヤバいそんな事考えがえてる暇など私にはない。
止まれ私の妄想。
無意識に左手を挙げていた私。
たまに私がイタいことをすると突っ込んでいる彼だが今日は何故か柔らかい眼差しを向けていた。
自分の手が濡れてきたのがわかる。
こんなになっているのは初めてかもしれない。
ついでに背筋が伸びる。
高校面接かってくらい緊張している。
と、同時に私は彼の事をどれだけ思っているかが今になってわかった気がする。
もう、遅いかもしれないけど。
「その事?って関本社長の話?」
情緒不安定だなあと思いつつ長い前髪で左目を隠し欠伸を堪えるふりをしながら聞いた。
でないと目からも汗が出てきちゃいそうだったから。
「ていうか五月から話なんて初めてだね。」
「そうだっけ」
「そうだよ。だって社長になるって話も私が言い出したんだもん。」
話している最中彼は一瞬動きを止めた。
「その社長になるって話だけど。」
ん?私が考えてた話と違うぞ。
馬鹿な私でもわかる。
それと私は今またかつて誰もなったことがないようなアホズラをしている。
「_断った。」
今度は変顔の代わりに火山か噴火してるんじゃねってくらいのBig Voiceで叫んだ。
ソファーから落ちなかっただけでも誉めてもらいたい。