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東方転性譚  作者: Parfait
3/3

日常、そして異変へ

ひんやりとした風に頬を撫でられ目を開けると、魔理沙の寝顔が目に入ってきた。

呼吸に合わせて胸が上下に運動し、まだ熟睡してるだろうことがよくわかる。

「綺麗な寝顔だな……」

顔を近づけてよく見てみると、長く生えたまつ毛が上を向き綺麗に揃っているのが見える。

まあそもそも寝ていない限り恥ずかしくてこんなに間近で顔なんて見れないが。

小窓から差し込む光に目を細めながら窓を開けるといい感じに小鳥の囀りが聞こえてきた。思った以上の馴染み方だと自分を褒めたくなる。

そんなことをしていると、昨日の夕飯後の事を思い出す。

この世界では風呂なんて当然家にありもせず、月に数度の水浴び以外は夜に濡れタオルで体を拭くだけだった。

普通の家なら井戸から水を汲まなければならないらしいが、魔理沙の魔法で桶に水を張る。やっぱ魔法は便利。

しかし問題は其処からだ。

目の前でいきなり魔理沙が服を脱ぎ始めたのだ。

いやまあ一応向こうからしたら女同士だから当然かも知れないが俺としてはその、あれだ。

魔理沙の絹の様な肌を首筋から滴り落ちる雫が胸の谷間を通り、足の付け根に吸い込まれて……。

まあ後は言わないでおこう。

そんなラッキーな出来事があった訳だが一つ何とも言えないこともあった。

水面に映る自分の顔を見たとき、ああ端整な顔立ちだなと感じた。

さらに言えばそうとしか感じなかった。

今までならば、この世界に来る前ならば確実に胸が高鳴っていたはずが冷静に自らの容姿を評価している様な気持ち悪さ。

まるで自分に恋することがないかの様に、忽然と桜庭さんへの恋心が消失していた。

驚いたのはそのことに対して悲しみすら生まれなかったことだ。

どうやらただ身体が桜庭さんになっただけではないらしい。

一際大きな鳥の声で昨日の記憶から呼び戻されると、隣でごそっと布団が動き魔理沙が目を覚ました。

眠たそうに目をこすりながら起き上がり、少し皺のついた可愛らしいネグリジェを見せてくる。

「おはよう、魔理沙」

「ああ、おはようだぜ時子」

まだ寝ぼけているのか立ち上がろうとした拍子によろめき、魔理沙がこちら側に倒れこんでくる。

「眠い……」

いやいや眠いのは分かるけどさ、勘弁して欲しい。

丁度抱きしめている様な格好で魔理沙を支えてる今、目の前に首筋があり仄かに匂ってくる女の子らしい甘い香りのせいで思わす顔をうずめたい欲求に駆られてくるんだよね。

「ほら、起きなって」

肩を抱き、ゆっくりと共にベッドから降りると

「いつも朝は弱いんだ」

何この子かわいい。なんかめちゃくちゃ可愛いんだけど。

そのままイスまで連れて行き座らせると、ちょこんと膝の上に手を置きまだ虚ろな目でお人形さんのように行儀よく座っている。

「じゃあ朝ごはん作るね」

「ああ、頼むぜ」

この家の台所は意外と広い。

大きめの材料庫に洗い場、それと洋風の家に似合わない釜戸。

昨日の内に大体の材料、調味料の場所は確認したので、大根、葱などをてきぱきと取り出して切り刻んでいく。

現代日本では気持ち悪い位に大きく形が揃っている野菜たちが、ここでは自然を感じさせる程に一つ一つ個性のある形をしている。

味噌汁を作っている間に鍋で初めて使う兎肉を煮ていくと段々といい匂いが香ってきた。

すると匂いに釣られたのか、ついに眠気がとれ切ったらしい魔理沙が台所まで訪ねてきていた。

「なんかこの家に来たばかりなのにやたらと手際がいいな」

「料理は数少ない得意分野だからね」

ドヤ顔で言い切ると、魔理沙は少しからかったような顔で

「魔法は残りの数多い苦手分野か?」

「うっ、それを言われると立つ瀬がないよ」

この家を水浸しにしたことは軽くトラウマだよ……。

「何か私にも手伝うことあるか?」

「いや、もう少しで出来上がるからテーブルで待っててよ」

「りょーかい」

手を振って戻っていく。まだ会って二日とは思えないような馴染みようだ。

きっとそれは魔理沙の特性だろう。

当たり前のようにどこの馬の骨とも知れない俺に心を開いてくれる魔理沙の特性。

出来上がった料理を皿によそって持っていくと、魔理沙が待ち遠しそうに手元のお盆に目線を向けていた。

ここまで楽しみにされるのは作っている側としては一番嬉しいな。

皿を並べているとひょいと煮付けた大根をつままれる。

「美味しいぜ」

「そんな爽やかな顔で言われたら怒れないよ」

少し照れながら席に着き、手を合わせる。

「いただきます」と共に口にすると早速魔理沙が箸を皿へと向けていた。

其れを見ていると、とても上手い箸使いに見た目とのギャップを感じてしまう。

「そんなジッと見られると恥ずかしいぜ」

「ごめんごめん」

少し頬が朱に染まった魔理沙から目を逸らして自らも箸をつけると、口の中に醤油の甘みと兎肉のコクが広がりついつい頬が緩んでしまう。

初めて使った兎肉だが美味しくできていたようで何よりだ。見ると魔理沙も幸せそうに箸を突き出していてほっとする。

どんな場所に来ようとも食事は大事だな。

他愛もない会話をしながら箸も進んでいき、そろそろ皿の上が寂しくなり始めた頃に魔理沙が切り出す。

「今日は魔法の特訓でもしてみないか?」

魔法。

昨日初めて魔法を見て相当浮かれたが難易度は高そうだ。

この家を水浸しにしてしまったことも当然ながらあるが、それだけでなく昨日ちらりと流し見した魔道書の内容がまるで俺の苦手な化学の参考書みたいだったからだ。

元の世界でも錬金術から科学が大きく発展していったように魔法と科学は非常に密接な関係があるらしい。

まあだからといって好奇心が薄れる訳もない。笑顔で宜しくお願いすると、魔理沙も俄然張り切っていた。



ーーーーーーー



幾分か胃も落ち着いた頃、二人で庭に出ていた。

元の世界では春だったのだが冬の始めのように肌寒い。

寒さに少し身体を震わすと魔理沙が此方に近づいてくる。

「先ずは魔力の制御からしてみようぜ、昨日見た感じだと全く制御できていなかったからな」

すると魔理沙が後ろから抱きつくように手を回して俺の両の手に重ねてきて、思わず顔が赤くなってしまう。

「ちょ、魔理沙、近いって」

「最初は一緒に魔力をコントロールしないとな」

恥ずかしがる俺を全然気にしていないかのように喋っているが、耳にふんわりと当たる吐息、微かに匂ってくる甘い香り。そして背中に当たる二つの謎の膨らみが。

いや別に謎でもなんでもないけどね、当ててんのよ、的な?いやねぇな。

思わず後ろを振り向くと少し顔が赤い魔理沙と目が合う。

え?何その表情、反則じゃね?なんか余計恥ずかしくなってくるんだけど。

そうこうしてるうちに昨日感じたばかりの暖かさが再び手に灯っていく。

ただ今度はあれ程荒れ狂ってはなく、まだ落ち着いた感じだ。

「そのまま落ち着いて、身体に流れている魔力を抑えながら全て手に集めてくるイメージだぜ」

無心になりつつ言われたとおりにイメージしてみる。

しかしこれが案外難しい。今までに経験したこともない感覚を使わなければならないのでなかなかイメージがしずらい。

てか魔力を抑えるってなんだよ、魔理沙に抱きつかれて跳ね上がってる心臓すらおさえられていないんだが。

桜色の光が消えたりついたりしていまいち安定がしない。

何分か悪戦苦闘していると見兼ねた魔理沙が

「ああ、一回止めにするか?」

「うん、休憩させてくれると嬉しいよ……」

まだちょっとしかやっていないのにやたらと疲れる。

息が上がり荒い呼吸を整えていると、魔理沙が呆れたような表情で此方を見てくる。やめて、そんな目で見ないで。

「私が習い始めの頃も流石に魔力の制御ぐらいは直ぐに出来たぜ」

「やめてよ……何か私ができない子みたいじゃん……」

「いや、実際そうだと思うぞ?」

「……」

この後に何回も同じようにチャレンジしたのだがなかなか成功しない。

一応妄想は得意なんだけどな。あ、妄想と想像は違うんですね分かります。

思わず空を仰ぐと、青空に浮かぶ天辺まで登った太陽がギラギラと辺りを照らしている。

筈なのだが東の方から流れてきた赤黒い不気味な靄の様なものが徐々に太陽を覆い隠していく。

もう昼頃だろうに心なしか肌寒く、太陽の光が遮られたからだけでない寒気がした。

「ねぇ、魔理沙。あの霧の様なものってなに?」

魔理沙は俺が指差した方向に顔向けると一瞬怪訝な顔をした。

しかし何故か段々と嬉しそうな表情に変わっていき、笑みを零すと

「異変の予感だぜ!」



ーーーーーーー



何故か赤黒い霧を見てテンションが上がっている魔理沙に連れられて歩かされ、今はやたらと長い石段を登っていた。

「もう百段は登ったよね……」

空は既に殆ど霧に蝕まれ、かなりの明るさが失われていた。

てか階段長すぎ、隣の魔理沙はルンルンで登ってるけど訳解らん俺からしたら唯の苦行なんだけど。

何なの?これも魔法の修行なの?

「そろそろ見えて来たぜ」

魔理沙の声で顔を上げるとついに延々と続いていた石段が途切れ、朱色に染まった鳥居が見えた。

「あと……もう少し……」

やっとで登りきり鳥居をくぐるとかなり寂れた神社が鎮座していた。

ボロボロと迄はいかないが、かなりの年季を感じさせる境内では、やけに特徴的な巫女服に身を包んだ長い黒髪の少女が最近余り見なくなった竹箒で落ち葉を掃いている。

「霊夢、邪魔するぜ!」

魔理沙の声が境内に響き渡ると、いやに億劫そうな仕草でこちらに向けて顔を上げ

「本当に邪魔よ」

まさにジト目の鏡とでも言いたくなるような目力でこちらを見てくる。

てかこの娘辛辣すぎない?俺が言われたら心が幼稚園児の遠足に持っていかれたポッキーのようにポキポキに折れる自信がある。何なんだこの喩え。

まあ隣にいる魔理沙はどこ吹く風な顔をしてるが。

彼女はこれ見よがしな溜息をついてこちらの方へ歩いてくる。

その姿は凛としていて、大和撫子という言葉が浮かんだ。

「で、あんた誰?」

「私は桜庭 時子だよ」

「そう、私は博麗 霊夢。この博麗神社の巫女よ」

いきなり水を向けられ、そう淡白に呟く霊夢を見る。

こちらへ向けてくる漆黒の瞳を見つめていると、吸い込まれてしまうようなクラクラとした感覚がする。

「すごい、綺麗だね」

思わずポロリと零してしまうと、霊夢は少し頬を染めて俺から目線を逸らした。

てか俺こっちへ来てから気が大きくなり過ぎじゃね?昔だったら絶対こんなこと言わねぇよ。ヘタレ戻ってこい。

「お、霊夢が照れるなんて珍しいな」

「うっさい、魔理沙」

本当魔理沙って人を揶揄ってるときに清々しいまでに生き生きとした顔してるよな。

「それであんたらは何しに来たわけ?」

「空だよ空っ。あの変な霧は絶対異変だぜ!」

「あんなんほっときゃ其の内晴れるでしょ」

「晴れねぇよ、元凶を捜しにいこうぜ」

「はぁ……仕方ないわね、さっさと終わらすわよ」

何か話しが纏まりかけてるがここ迄置いてけぼりな俺。

そもそも俺は根本的な事を聞きたい。異変ってなんだよと。

いやでもさ、何か所謂二人だけの空間的なの作ってんだよね。

何か友達の友達と会っちゃって話してるのを黙って見てるだけみたいな。今の俺じゃん。

「じゃあ行こうぜ、時子」

魔理沙に話しかけられて意識を戻す。

あれ、後半話し聞いてなかったんだけど異変捜し今から行くの?

って霊夢浮いてるんだけど!?何、あれも魔法なの!?

そのまま空へと飛び立って行く霊夢を呆然と見つめていると、魔理沙に手を引っ張られる。

「私たちも行くぞ」

そういう魔理沙はさっき霊夢が落ち葉を掃いていた竹箒に跨っていた。

大体察しました。

「ねぇ、これお尻痛くないの?」

「大丈夫大丈夫、まあ乗ってみなって」

恐る恐る乗ってみると確かに案外痛くない。

これも魔法かな。とか思っていると急発進され思わず魔理沙にしがみつく。

「速い、速いよ魔理沙!」

「ちゃんと掴まってろよ」

言ってどんどんスピードを上げてくる。

漸く慣れて来て目を開けると絶景がそこにあった。

まさに、今は見れない日本の原風景。

そういって差し支えないほどに広がる自然が、文明社会に生まれ、文明社会で育った俺の心を揺さぶった。

「すごい、綺麗な景色だね。魔理沙」

「ん?ああ、そうだな」

なんか結構あっさりとした答えを返された。やっぱ見慣れてんのかね。

まあ俺が来てしまった世界にこんな風景が広がっているなんて考えもしなかった。いや本当にすごい風景を見せてもらったよ。 でもさ、一つ疑問が有るんだよね。

「今どこに向かってんの?」

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