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春人 潜入任務を開始する

 雲を貫く巨大なタワーの前。オメガは潜入任務のため、正面入り口に立っていた。


「立派な番犬だ。これだけの数……相当の愛犬家なのだろうねえ、お前達の主人は」


 狼型オーガの群れが守護する入り口。その前に恐怖もなく歩み寄るオメガ。


「コンクリートジャングルの小動物よ。百獣の……いや、万物の女王である私が遊んであげよう」


 そして巻き起こる大爆発。後に残るは無傷のオメガただ一人であった。


「おっと、タワーは壊しちゃいけないんだったねえ……人間の建物は貧弱で困るよ」


 瞬時にオメガを取り囲むオーガの群れ。

 クマ・狼・虎・アリクイ・トカゲ・象と、どれも大型だが種類が豊富だ。


「これじゃあ動物園だねえ。どうせなら動物園デートとかしたいなあ……」


 飛び掛っていくオーガ。だが突如として現れた光の剣により、どれも一撃で両断され消えていく。


「ほらほら、もうちょっと抵抗してくれたまえ。これじゃ退屈すぎて寝てしまいそうだよ」


 戦力の差は圧倒的であった。古参の神であるオメガことアメノウズメ。彼女の圧倒的な力は生物の追随を許さない。ただ遥かなる高みから弄び、気に入らなければ蹂躙する。


「君達に恨みも興味もないよ。でもね、多く倒すとハルトくんが褒めてくれる。私はそれだけでいい。それがいい。だから……」


 黒い光。ただただ黒いにもかかわらず、なぜか光と認識できる闇。

 生物ではないオーガは怯まない。だが、人間には直視することすらできない深い闇。

 その闇が音もなく、全てを破壊に包んでいく。


「――消えたまえ」


 あとに残るはオメガのみ。


「派手にやっているようだな」


 タワーの中腹。外が見渡せる展望台で春人は呟く。

 オメガは囮だ。正面で暴れてもらい、春人とアルファが潜入する手筈であった。


「ハルト様、こっち」


「今行くよ」


 春人、堂々とエレベーターにより展望台まで入場。

 そもそもオーガのサイズでは、エレベーターに乗ることができない。

 さらに気配を探り、春人が出した結論は、人が入ることしかできない場所にはオーガはいない。というものであった。


「理由はわからんが……このタワーは壊されることのないように気を配っている者がいそうだな」


「手入れがされているね。デートみたい」


「そうだな。売店でもやっていればお土産を買っていくか」


 完全に観光気分である。アルファと腕を組み、笑顔で展望台を一回りする春人。

 とりあえず三階までを裂け目と階段で移動し、潜入の雰囲気を堪能したところで飽きたのだ。

 そしてエレベーターに乗るという暴挙に出た。


「ん? 現れたか」


 春人達の前にクマ型オーガの群れが顔を出す。二メートル近い巨体が道を塞いでしまった。


「くまさん。きらい」


「ふむ、潜入がバレたのかも知れんな」


「どうするの?」


「適当に殲滅しながらデータのある部屋でも探そう」


「はーい」


 既にフロア一つ、丸々アルファの植物が根を張っていた。

 オーガの足を突き刺し、胴体を貫き活動を停止させていく。


「景観に似つかわしくないな。落とそう」


 オーガの足元に裂け目を作り、一階正門へと繋げて落とす。

 わざわざ戦う必要などなかったのである。


「ハルト様は凄いです」


「当然だ」


 そこでオメガから通信が入る。なんとなく嫌な予感を抱きながら、春人はそれに応じた。


『こおおらあああああ!! ハルトくううぅぅん! なんかいきなりクマが降ってきたよ! 急に落ちてくるから驚いただろう!!』


「すまんな。処分は任せる」


『雑!? 扱いが雑だよハルトくん!!』


「オメガがんばれー」


『心がこもってなあああぁぁいい!!』


 下から起きる大爆発。タワーがぐらぐら揺れている。


「まったく……もう少しスマートにできんのか」


『だああれのせいだあああぁ!!』


「これからデータのありそうな部屋を調べる。だめなら最上階に向かうから、引き続き敵の相手は任せた。期待しているぞ」


『ああはいはい。私が戦うって言ったのが悪いんだよねえ。はっはっは! こうなったら全滅させてやるぞ!』


 そこで通信は途切れた。爆発は途切れない。春人はオメガの気が済むまでやらせておこうと決めた。


「ハルト様。エレベーターが来たよ」


 エレベーターが春人達のいる階で止まる。そして中から出てきたのは。


「ふっ……やはりいたか。お約束だな」


 オーガと同じ機械のパーツを全身に移植され、目から生気が消えた人間達であった。


「どうせ出てくると思っていたぞ、人型オーガよ」


「テンプレ?」


「テンプレだな。あとはゾンビのような動きの遅いものか、それとも」


 口を大きく開け、ガトリングガンを撃ち出すもの。

 体中から飛び出す刃を振り回して突っ込んでくるもの。

 その種類は意外にも多彩。春人を飽きさせない。


「素早く動く戦闘マシーンか、だが後者だったようだな」


「どうするの?」


「あれはもう人間ではない。潰すぞ」


「はーい」


 銃弾をかわし、軽く殴りつけ強度を測る春人。

 その手ごたえと破損具合から、大型オーガ未満であると推定。


「内部も見ておこう」


 敵の腕を切断し、腹を切り裂き体内を調べてみる春人。

 人体と機械をどう繋げているのか、どうやって動いているのか。

 それは解明しなければならない。好奇心もあった。


「内臓が存在しない……血液は何か別の液体だな。もう少しサンプルが必要だ」


 体内は特殊な伸び縮みする素材と、青色に光る液体で作られている。

 オーガはうめき声を上げることもなく、痙攣することもなく機能を停止するだけだ。

 完全に機械そのものである。


「いっぱい捕まえておいた」


「よくやったアルファ」


 人型オーガの攻撃を無効化し、解析を続ける春人。

 あらかじめ貰っていた端末を繋げ、楽園へとデータを転送する。

 あくまで潜入任務なのだ。殲滅作戦ではない。


「シーラ。データは届いたな?」


『はい……人型とは悪趣味な……』


「こいつらの顔に見覚えは?」


『解析中ですが、私はまったく……楽園の住人ではない可能性もありますし』


「ただ人間を真似て作っただけの可能性もあるか」


『これだけのオーガをどうやって呼んだのでしょう。送られたタワーの内装はごく普通。そもそも大型オーガを大量に収容するには狭いはずです』


「まだ行っていない上か、もしくは地下室でもあるのか。いずれにせよここまで来たんだ、まず最上階まで行ってみるさ」


 そこで全オーガが機能を停止。タワーの証明が全て消えた。


「なんだ? どうなっている?」


「ハルト様、あれ」


 アルファの指差す先には、まるで誘導するように、そこだけ照明がついている。

 ぽつぽつと光る照明を目で追えば、口をあけているエレベーター。


「乗れと言っているのか」


『危険です。罠に決まっています』


「罠であることは間違いないだろう。だが、危険ではない」


『なぜ言い切れるのです?』


「俺だからだ」


 春人は本気で、心の底からそう思っている。

 他人が聞けばアホ丸出しの理由だが、春人にとってこれ以上ない理由なのだ。


「シーラ、大丈夫。任せて」


「ちょうどいい。黒幕がいるのであれば会ってみたい。潜入はばれてしまったようだしな」


『どの口でそんなことを……』


「ここに、オーガが集っている理由、調べてくるね」


『…………必ず生きて帰ってきてください』


「当然だ。行くぞアルファ」


「ごーごー」


 そしてエレベーターに乗り込んだ春人とアルファ。最上階行きのボタンが光っていた。


「さて、精々俺を楽しませて欲しいものだ」


「なにがあるかな。楽しみ」


 二人に恐怖など微塵もない。ただ好奇心と観光気分だけで動いている。

 そして、招待されるままに最上階へ。


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