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北へⅡ

「ククク、軍や警察どもから逃げてコソコソ暗がりを這いずってる筈のあたし達が堂々と国営の交通機関を使ってるとは思うまい」

「そうとも限らないので、大人しく頼みますよ?」


取りあえずの目的地を北へ、と決めたゆえ達であるが、この国は広大な面積を有する上に、国の端側は険しい土地となっていて、個人レベルで徒歩で向かう、と言うのはあまり現実的ではない。

だから旅を急ぐのなら、国家所有の鉄道を使うのが一番早くなる。


「前世でゲームやっててもすっげ詰まんなくて設定とか流し見だったけど、西洋ファンタジーってよりスチームパンクが近いのかね。蒸気じゃなくてマジカルな動力だが」


ゆえは感慨深げに列車表面をペタペタ触る。

ある程度は定期的な洗浄を成されているとはいえ、建造からそれなりに長い年月を経ている列車の表面は汚れていて、意外なほどに手のひらに汚れが付着している。


「うわばっち」

「子供ですかあなたは」

「ババアだよ? おーい駅員さん! 手のひら汚れたから綺麗に洗ってちょー」


ゆえは一応この国でいま一番注目を浴びている教科書にのるレベルの犯罪者なのだが、全くもって隠れ潜むという考えがあるように見えない。

同行者は気が気ではないのだが、下手にコソコソする方が危険か、と、割り切り堂々とした態度をとることにした。


おそらくは大丈夫だろう、という見込みはあるのだ。


ゆえの顔は似顔絵が出回り、新聞にゆえの顔が載っていない日はない。

変装などによるある程度の変化を見越し、化粧や服装、髪型の変化で「こうなっているかも」という予想も掲載されているほどた。


しかし、それでも今のゆえの変化を一見で見抜ける人間が居るとは思うまい

数日前は首にも届かないくらいに短かった髪が、今では肩に届いているし。

ゆえは「趣味じゃないがある程度髪の毛周りの新陳代謝だけを選んで早めることも不可能ではない」と豪語するだけあり、髪の毛の長さで騙すことができるため、変装という点では有利になのだ。

とはいえ、髪だけならカツラという選択もあるため、それだけで安心できるわけがない。

しかし、顔の形が大胆に変化すればどうか?

ゆえの元々の容姿は、少し性格が悪そうな印象を持たせるが、それでもかなりの美人と言えるものだが、今の容姿はどうか?

全体的にボコボコしており、目蓋も腫れぼったく酷いタレ目に見える。

本人いわく、顔の筋肉やら血流操作で顔の形くらいある程度は変えれるそうだ。疲れるらしいが。

さすがに、今のこの顔を見て国が探しているスクリュー・ドライバにたどり着くのは無理があるだろう。

ただ、ゆえは性格がいくらか個性的なので、もとの性格を知るものにバレる恐れがあるのだが・・・・・・


「前世を思い出したか、憑依したかが理由で今のあたしとちょっと前の性格とは結構違うし、今の性格での交流なんてあんま数をこなしてないから大丈夫じゃないかい?」


との事である。

男はゆえの前世がどうとかの話は嘘だと思っているので、上流階級の人間は気を付けるべきだと心配してはいる。


ただ、今の自分達はあくまで一市民を演じているので、そういった特権階級との接触は滅多にないだろうけど。


「てかあれだね、変身・・・・・・じゃなくて変装するまでもなく、あんな仮面つければ楽だったかも?」


駅員に手拭いを持ってこさせながらゆえが目を向ける先には、顔の上3分の2をのっぺりして、表面に数字の書いている仮面を付けた集団がなにやら忙しそうに走り回って荷物の搬入をしている姿があった。

あんな仮面を被っていて職質されないなんて驚きだ。


「あぁ、あれはこの国の特殊警察の訓練生でしょう。たしか彼らは訓練期間が終わるまで仮面の着脱が認められていないそうですし」


ゆえが怪しさ全開の格好なのに誰にも咎められない連中をどこか羨ましげな目で見ていたら、解説が入る。


「所属できるのは国から身分を保証されている貴族だけ、なのですが、功績が実家に影響を与えると、隊員が仕事を選り好みする危険性があるとして、実家からの繋がりを絶たれた子供の捨て場所とも言われていますね。あなたは元とはいえ上級貴族だったので知らなかったのでしょうが、あまり裕福でない下級貴族が面倒を見きれずに捨てたり、上級貴族でも隠し子だとか継承権が面倒な子供を捨てる場所として使っていると聞きます」


とのこと。


「つっても人間だし、家のために自分を捨てて実家に国の隠し情報を流す気合の入った不良隊員だっていそうなもんだけどねえ」

「あくまで噂ですが、薬物と催眠術のコンボで記憶操作と国への忠誠を植え付けて、その上で仮面を数年つけてたら顔の形も変わる術がかかってるらしいので、訓練を終えれば実家贔屓をしないし、家族が顔を見ても分からなくなってしまい、お互いが出会っても気付かないとか

「・・・・・・そこまでするならもう貴族じゃなくていいんでないかい?」

「彼らの仕事は犯罪者の逮捕より、殺害に特化してますからね。いくらか犯罪者でも貴族を平民が意図的に殺すのに文句があったそうですよ」

「はーん、貴族ってのぁめんどくさい連中だねぇ」

「元貴族の言うこととは思えませんね」


ゆえ達はそんな会話をして、もう仮面不審者たちに対する興味を失い、列車に乗り込んだ。

あんな不審者達が存在する国なら誰も自分達に注目すまいと自信を持って。


よもや、そのゆえを見ている人間がいるだなんて、完全に油断してた彼女達は気付きもしなかった。


「ああまさか訓練施設に入ってすぐ出会えるなんて、これは運命かしら? とはいえ、まだ私はあなたを捕まえるどころか、戦えるレベルですらないと言うのに」


もし気付いていたら、気持ち悪いから一回分遅れて乗るか、あるいは北へ行くのを止めていただろうに。

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