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クラスメイトの芸能事情  作者: やまだ
7/8

希望の聖夜

 仕事から帰ってきて、部屋でパソコンのモニターと睨み合ってしばらく経つ。

 この前、宮子ちゃんをクリスマスに誘うことに成功したのはいいものの、友達と過ごすクリスマスなんて経験のないことを前に、どうすればいいかもわからず、悶々としていた。

 ネットでいろいろ調べてみるも、あまりぴんとこないと言うか……。

 あの後勢いでクリスマスはどうするかは任せてくれなんて言ってしまったが、どこに行けばいいのかわからない。かといって、夜は家族で団欒すると言っていた宮子ちゃんの家にお邪魔するのも気が引ける。

 私の家に来てもらうことも考えたけど、私の家で何をするかと考えて結局何も浮かばないということに。

「困った」

 こういうとき、宮子ちゃんだったらどうするんだろう。宮子ちゃんは優しいから、きっと相手が好きな場所とかに誘ってくれるんだろうな。

「おお」

 宮子ちゃんの好きな場所か。ちょっと解決の糸口が見えてきたかも。

 正直宮子ちゃんの好きな場所とかはまだわからないから、宮子ちゃんが好きなものから連想していけばいいのだ。

 宮子ちゃんの好きなもの……甘いものかな?お菓子を食べているときの幸せそうな宮子ちゃんの表情が脳裏に浮かんでくる。うん、やっぱり宮子ちゃんに喜んでもらうにはこれが一番いいかもしれない。 

「クリスマスだし、ケーキとかいいかな」

 これは思わぬところでいい閃きだ。近くでおいしいケーキが食べられるところとかあるかな。

 宮子ちゃんとのことを考えて、なんだか楽しくなってきた。早速いろいろ調べてみよう。

「あ、もうこんな時間……」

 しばらく近くのお店なんかを探していたらもう結構遅い時間になっている。

「明日は……学校か。そろそろ寝ようかな」

 まだクリスマスまでは一週間ほどあるんだ。じっくり考えよう。



「むむむ……」

 じっくり考えよう、そう思ったのが数日前。そしてもうクリスマスまであと3日ということに。もう学校も冬休みに突入している。

 夏休みの宿題を後回しにした小学生のときの気持ちもこんなだったっけ。

 こういうときに私のこうも物事を決められないところが嫌になる。

「ってそんなこと考えてる場合じゃない!」

 本来なら、もう宮子ちゃんと一緒に行くお店はとっくに決まっていて、どういう服を着て行こうかとかどんな話をしようかだとかいろいろ考えているはずだった。

「やっばい。何にも決まってない」

 このままじゃとても3日後を迎えることなんてできない。

 せめてどこに行くかくらいはすぐに決めよう。一応候補はいくつか決めてあるのだ。まだやりようはある。

「よし」

 それぞれのルートでもしも当日行ったらという脳内シミュレーションをする。

 集中するために仕事をするときみたいに自分の中でスイッチを入れる。所詮は気の持ちようの話にはなるが、こうすると普段よりも集中できる。人前に出るのが苦手な私はこうやって自分を切り替えてなんとか芸能界でやってこられた。こればかりは私の数少ない特技だと言ってもいいかもしれない。

「……ふう。よし、やっぱりこのルートで行こう」

 やっとのことで自分の中で決着をつける。

 後は当日の私次第だろう。



 そして、とうとう宮子ちゃんと約束をした24日。クリスマス・イヴの日がやってきた。

 昨日の夜は楽しみなのと不安なのが入り混じって妙にドキドキしてしまって、あまり寝付けなかった。まるで遠足前の小学生のようだなと思って、苦笑が漏れた。

 いつもより早めに目覚ましのアラームを設定したこともあって、待ち合わせの時間まではまだかなり余裕がある。

 洗面所の鏡と向き合って、いつも以上に身だしなみにを整える。

 途中で、私より後に起きてきたお母さんに「今日は気合入ってるわね」なんて言われたりしたけど、大事なお仕事だからと言って誤魔化した。お仕事ではないけど、大事なことなのは間違いないし。

「よし」

 納得の一仕事だ。

 着替えて朝食を摂らずに家を出る。今日行くお店の都合上、お腹は減らしておいた方がいいのだ。



 待ち合わせ場所の駅に着いた。約束の時間の15分前。うん、今のところは完璧に作戦を遂行できている。

 改札口前で周囲を見回してみる。よかった。まだ宮子ちゃんは来ていないみたいだ。

 改めて忘れ物が無いかチェックしておく。

 うん、大丈夫。一番大事な宮子ちゃんへのクリスマスプレゼントだってちゃんと持ってきている。

「桃華ちゃんお待たせー!」

「お、おはよう!」

 危ないところだった。これはまだ秘密なのだから。

「待たせちゃってごめんね」

「ううん。全然大丈夫。それじゃ行こうか」

 二人で並んで寒空の下を歩きだす。それだけなのに、なんだかいい気分だ。

「今日はずっと楽しみにしてたんだよ。桃華ちゃんがどこに連れて行ってくれるのかなって」

「期待に沿えるようにがんばります」

「あははっ!ごめん、自分で言っておいてなんだけど、大袈裟だよ」

 宮子ちゃんが笑ってくれたからか、なんだか緊張が解けた気がする。

 他愛のない話をしながら歩いているうちに目的のお店のあるビルがもう見えた。もうしばらくこうやって話しながら歩いていたかったな。

 楽しいときほど時間が過ぎるのは早いみたいだ。

「ここって……」

「うん、多分宮子ちゃんの想像通りだよ」

 宮子ちゃんの顔がぱあっと明るくなっていく。

 本当に表情豊かだなあ。

「行こうか」

「うん!」



「わあ! すごい!」

 お店の受付を済ませて店内に入ると、甘い香りに包まれる。

 見渡す限りに並ぶスイーツ。今日やってきたのは、スイーツバイキングだ。

「どうしよう。どれにしようか迷っちゃうなあ」

「ゆっくり見てみようよ」

 時間内は食べ放題なんだし、じっくり見て決めればいい。それに、こうして隣で宮子ちゃんのことを見ていられるし。

 私も始めてきたけど、本当にいろんな種類があるんだ。スイーツだけじゃなくて、パスタとかのコーナーまである。これは私もちょっと迷ってしまいそうだ。

 宮子ちゃんはどうしているか、視線を移してみると、ケーキを始めとしたスイーツに目を奪われている宮子ちゃんの楽しそうな横顔が目に入った。

 うん、やっぱりここにしてよかった。

「うーん……最初はこんな感じかな。桃華ちゃんはどう?」

「うん、私も大丈夫だよ」

 お互いに最初に食べるものが決まったので、席に戻る。

「本当に嬉しい! 一回来てみたかったんだ!」

「よかった。そう言ってもらえると私も嬉しいよ」

 ニコニコしている宮子ちゃんを見ているとこちらまで嬉しくなる。だから、きっとお礼を言うべきは私なんだろうな。今言っても変に思われそうだから心の中に言葉はしまっておくけれど。

「さ、せっかくだし食べようか」

「あ、そうだね。いただきます」

 宮子ちゃんが取ってきたチョコレートのケーキを一口食べると、また宮子ちゃんの顔が明るくなる。

「おいしいぃ……」

 せっかく宮子ちゃんと一緒に来たんだし、私も食べよう。

 無難に選んだイチゴのショートケーキを食べる。

「あ、おいしい」

「だねー」

 そう言って、お互いに顔を見合わせると自然にお互いの口から笑みがこぼれた。

「次の取りに行く?」

「うん。……あっ、でも、食べ過ぎるとまた体重が……」

 さっきまではニコニコしていた宮子ちゃんの表情が曇っていく。

 宮子ちゃんはよく体重を気にしているみたいだけど、全然太ってるようには見えないのになといつも思う。

「宮子ちゃんは気にするような体型じゃないし、全然大丈夫だよ」

「う~……でも……」

 同じ事務所の子もこういう感じになってた子がいたなあ。全然太ってない。むしろ、標準よりも痩せているのに過剰に体重を気にするみたいな。

 こういうときってきっと誰かが気にするなって言ってもあまり効果がないように思う。

 だったらどうすればいいかな。

 ……いいことを思いついたかもしれないけど、なかなか言いだすのは恥ずかしい。いや、せっかくこうして宮子ちゃんと一緒にここまで来たんだ。今更怖気づいていられない。

「だったらさ、二人で別々の持ってきて食べ比べしてみない? それだったら食べる量も減らせて、いろんな味を楽しめるしさ」

「おお……桃華ちゃんナイスアイディアだよ!」

「そうと決まれば、早速取りに行こうか」

「うん!」

 嬉々として再びバイキングに向かう宮子ちゃんについて私も一緒に次のスイーツを取りに行く。

「うーん……やっぱり迷うなあ。でも、贅沢な悩みだよね。どれを食べようかって悩むのって」

「確かにね」

 こんなことで悩めるのはきっと幸せなことなんだと思う。そんなところが宮子ちゃんらしいなと思う。

「うん、こんな感じかな」

「私も決まったよ」

 それぞれの戦利品を手に席に戻る。

 やっぱり、色とりどりのスイーツが並ぶ様は圧巻で、まさに女の子の楽園と言ったところか。

「こっちのケーキもおいしいよ」

 宮子ちゃんが一掬いのケーキを私の目の前に持ちだした。

 これはあれか。ぱくっと行っちゃっていいんだよね?

「いただきます……うん、おいしいね」

 そうは言ったものの、正直ドキドキしていて味なんてわからない。

 未だにこういうのは慣れない。

「桃華ちゃんのはどう?」

「うん、こっちもおいしいよ」

 あっ。そうだ。さっき私が言ったんじゃないか。

 それに、私だけ宮子ちゃんからもらいっぱなしというのも失礼だろう。

「えっと、どうぞ」

「ありがとう」

 そう言うと、宮子ちゃんもぱくりと一口私のケーキを口に運んだ。

「わあ、こっちのもおいしいね」

「うん。せっかくだし、他のも食べ比べてみようよ」

「そうだね! なんだかテンション上がってきちゃうなあ!」

 なんとか平静を装っているけど、私の心臓はマラソンを終えた後のような早さで動いている。

 これって、いわゆる間接キスというやつですよね。今日だけでもう2回もしたことになる。それって実はすごいことなんじゃないだろうか。

「それじゃあ、次はこっち食べてみる?」

「あ、うん。ありがとう」

 宮子ちゃんがさっきと同じようにして、別のケーキを差し出してくれる。これは……また同じように言っちゃってもいいんですよね。

 ああ、幸せすぎて死んでしまいそうだ。


「ふう……ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした。こんなに甘いものをいっぱい食べたのって初めてかも」

「だねー。人生で一番幸せな時間だったかも」

 私も別の意味でそうだったかもしれない。

「まだ時間あるね。この後はどうしよっか?」

「近くのお店とかいろいろ見て回る? 食後の運動も兼ねて」

「いいね。そうだ! せっかくだし、ファッションリーダーの桃華ちゃんに服を選んでもらおうかななんて」

  私はそんな大層なものではないんだけど……。モデルの仕事をしているとは言っても、雑誌で着る服はスタッフさんが用意してくれているものだしなあ。

 全くおしゃれに気を遣っていないわけじゃないけど、センスがあるかと言われると……普通、だと思う。

「あまり自信ないけど。行ってみようか」

「うん!」



 少し歩いたところに結構大きなお店があったので、そこで絶賛物色中の私たち。

 そう言えば、最近服なんて買ってないなあ。着るものに困ってはいなかったから余計に。

「宮子ちゃんは結構服とか買うの?」

「あんまりかなあ。お金もないしね」

 確かにお金はかかるもんなあ。

 かと言って、見てるだけでも、欲しいものがあると諦めるのが辛かったりするし。

「あっ。ねえねえ宮子ちゃん。これなんかどうかな」

 白いロングスカートが目に入る。なんかこれって宮子ちゃんのイメージにぴったりだと思う。

「どれ? 本当だ、これかわいい」

「試着してみる?」

「うん。せっかく桃華ちゃんが見つけてくれたんだもん」

 スカートを持って宮子ちゃんが試着室に入る。

 店内のBGMが鳴り響いているはずなのに、しゅるしゅると宮子ちゃんが服を脱ぐ音が聞こえたような気がしてドキッとした。

 いやいや、思春期の男子じゃないんだからさ。落ち着け私。

「お待たせー」

 シャーっと試着室のカーテンが開く音とともに、宮子ちゃんの姿が露わになる。

「どう……かな?」

「すごくいいと思う。うん。すごくかわいい」

 案外私の目も悪くないのかもしれない。そう思えるくらいにこのスカートは宮子ちゃんに似合っていた。

「桃華ちゃん大袈裟だよ。でも、そう言ってもらえて嬉しい」

「全然大袈裟なんかじゃないよ。すごく似合ってる。本当に」

 なんでかわからないけど、言葉を上手くつなげられない。きっと私の心臓がいつも以上に早く鼓動しているからだ。

「そこまで桃華ちゃんに言ってもらえるなら、これ買っちゃおうかな」

「私がプレゼントするよ!」

「え? でも、悪いよ」

「ううん、私にプレゼントさせて!」

 私がこのスカートを履いた宮子ちゃんが見たいという非常に私的な考えから薦めたのに、宮子ちゃんに交わせるのは罪悪感を感じる。

「それじゃ、半分……お願いしちゃってもいい?」

「うん! もちろん!」

 結局、二人で半分ずつ出し合って、買うことになった。

 やっぱり自分でお金を出したかったけど、これはこれでよかったのかもしれない。


 服を買ってから、しばらく街を歩きながら過ごしているうちに、もう陽が落ちそうな時間になっていた。

「もう暗くなってきたね」

「うん。時間が経つのが早く感じるよ」

 本当にあっという間で、私は夢を見ているんじゃないかと思うくらいだ。

「そろそろ時間?」

「えっと、ごめん。そうみたい」

 もう宮子ちゃんは帰らないといけない時間みたいだ。

 宮子ちゃんだって、家族とクリスマスを過ごしたいだろうし、これ以上私に突き合わせるのは良くないだろう。

「み、宮子ちゃん!」

「桃華ちゃん」

 なんてことだ。タイミング良く被ってしまった。

「えっと、桃華ちゃんからどうぞ」

「え? 宮子ちゃんからでも……」

 なんだか変なやり取りになってしまって、気がつけばお互いに噴き出していた。

「ふふっ、なんだか変だね。私たち」

「そうだね。えっと、それじゃ、今度こそちゃんと言うね。これ、クリスマスプレゼント」

 空気が柔らかくなって、自他共に認める引っ込み思案の私とは思えない程にすんなりとこの日のために用意したプレゼントを渡すことができた。

「わあ! 嬉しい、ありがとう。開けてもいい?」

「うん」

 宮子ちゃんが包みを開けると、天使の羽の装飾をあしらったネックレスが街灯に照らされて輝いた。

「わあ! すごい、かわいい!」

「宮子ちゃんに似合うと思って……着けてみて?」

「うん!」

 宮子ちゃんがネックレスを身に着ける。その仕草の一つでさえも目が離せなかった。

「どう、かな?」

「うん、やっぱりすごくいいと思う」

「なんかさっきもそんなふうに褒めてもらっちゃったね。あ、でも、こんなにいいものをもらっちゃうと、私のハードルが上がっちゃったな」

 そう言って宮子ちゃんが鞄の中をごそごそと何か探している。

「これ、私からのクリスマスプレゼント」

「私に?」

「もちろん」

 宮子ちゃんから手渡されたのは、青い毛糸で編まれたマフラーだった。

「ちょっとがんばってみました」

「これって手編み?」

「一応私、家庭科部だから」

 えへへと恥ずかしそうに宮子ちゃんは頬を掻いている。

「すごい、今まで生きてきて一番嬉しいプレゼントだよ!」

「お、大袈裟だよ」

 大袈裟だなんて、そんなことはない。私にとって、これ以上に嬉しい贈り物はこれが初めてだ。

「ありがとう! ずっと大事にするから!」

「そう言ってくれると私も嬉しいな」

 宮子ちゃんから受け取ったマフラーの幸せの余韻に浸っていると、突然携帯の着信音が鳴り響いた。

「あ、ごめん。お母さんからだ」

 どうやら鳴ったのはみやこちゃんの携帯だったようだ。

「ごめん、なんかもうご飯とか作るから帰ってきなさいって」

 そうだよね。もうこんな時間だし、宮子ちゃんだって帰らないと。

「ううん、今日はありがとう。すごく楽しかった」

「そんな、こちらこそだよ。行きたかったスイーツバイキングにも連れて行ってくれて、こんなに素敵なプレゼントだって貰っちゃったし、桃華ちゃんには感謝してもし足りないよ」

 それから一瞬の間が空いて、

「それじゃ、またね桃華ちゃん」

「うん、またね宮子ちゃん」

 別れの言葉を交わした。

「あっ……」

 はずなのに、気がついたら私は宮子ちゃんの手を取っていた。まるで、行かないでと我儘を言う子どもみたいに。

「桃華ちゃん?」

「あっ、ごめんね。なんでもないの!」

 まずい、なんでだかわからないけど、なんかすごく涙が出そう。

 これじゃ本当に子どもみたいじゃないか。

「……もしもし? お母さん? ごめん、もうちょっと帰り遅くなるから、先に始めてて」

 私の奇行を咎めたりもしないで、宮子ちゃんは携帯を取り出して通話を始めた。

「ね、桃華ちゃん。もうちょっと一緒に居てもいい?」

「あ……うん!」

 それは、私が今一番望んでいる言葉だった。


 近くに、小さな公園を見つけて、ランコに二人で並んで座る。

「もしかして、桃華ちゃんって結構寂しがり屋さん?」

「ふぇっ!? え、ええっと……」

「あはは、ごめん。からかってるわけじゃないんだ」

 そりゃあ、あんな行動をされたらそんなふうにも思われるよね。

「その……こういうふうに友達と特別な日を過ごすのって始めてだったから」

「そっかー。この時期は仕事でいつもだったら忙しいって言ってたもんね」

 キーコキーコとブランコが揺れる音が私たち以外誰もいない公園に鳴り響く。

「ねえ、桃華ちゃん今度の元旦はお休みもらえたんだよね?」

「え? うん」

 この辺が休みなのは本当に久しぶりだと思う。

「だったらさ、一緒に初詣行かない?」

「え、いいの?」

「うん。桃華ちゃん、今特別な日を友達と過ごしたことないって言ってたけど、だったら、これからは私と一緒に特別な日を一緒に過ごしていければ……なんて、ちょっと思いあがったこと言ってるかな?」

 さっきと同じ、恥ずかしそうに頬を掻く仕草をしている宮子ちゃん。

 やばい、今度こそ泣いてしまいそうだ。嬉しいことで涙を流しそうになるなんて本当にあるんだ。なんてどうでもいいことが頭の中に浮かんだりした。

「全然そんなことない! 本当に嬉しい!」

「え、そ、そう? だったら、良かったあ」

 いつもの、私が大好きな宮子ちゃんのにっこり笑顔になる。

「えっと、これからもよろしくお願いします」

「ふふっこちらこそだよ。桃華ちゃん」

 私の人生最高のクリスマス・イヴに、人生で一番嬉しい言葉を私が一番好きな人から貰えた。私にとってはまさに、希望の聖夜だった。

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