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クラスメイトの芸能事情  作者: やまだ
3/8

みちとのそうぐう

 この前家に桃華ちゃんが来てから数日経つが、あれから桃華ちゃんは学校には来ていない。携帯で連絡しあってはいるけど、やっぱり仕事が忙しいみたいだ。

「ねーちゃん、ねーちゃん」

 桃華ちゃんのことを考えながらリビングでお菓子のレシピ本を読んでいると麻子が服の裾をくいっと引っ張ってくる。

「どうしたの?」

「この人って前家に来た人じゃない?」

 麻子に言われてテレビを見てみると桃華ちゃんの姿が映っている。ニュースのインタビューの映像が流れているようだ。

「おー、そうだね」

「ねーちゃん芸能人と友達なん?」

 麻子は家に来た人がテレビに映っているのが気になるみたいだ。

「そうなるのかな」

 インタビューに淡々と答える桃華ちゃんはやっぱりキャラが違うなと思う。まさしくクールって感じだ。

「へー。すごいなねーちゃん。そういえばこの人よくテレビで見るけど、なんかこの前と感じが違うね」

 麻子がそう感じるのも無理はないだろう。私も最初はこのギャップに戸惑ったし。

「うーん、複雑な事情があるんだよ」

 案外複雑ってことでもないような気もするけど。麻子はよくわからないといった風に首を傾げている。

「芸能人かあ……」

 それにしてもこうやってテレビに出ている桃華ちゃんを見るとやっぱり住んでいる世界が違うんだなと思い知らされるな。なんだかそう思ったら急に桃華ちゃんと話がしたくなった。桃華ちゃんはまだお仕事中かな。迷惑にならないように通話じゃなくてメッセージにしておこう。

『こんばんわ。お仕事中だったらごめんね。やっぱりしばらく忙しいのかな?』

数分経ってから携帯のバイブが鳴りだした。携帯の画面には桃華ちゃんの名前が表示されている。

『こんばんわ。今終わって家に帰るところだよ。やっぱりちょっと学校には行けなさそうかも』

 そうなのか。なんだか残念だ。といっても学校では桃華ちゃんとはあまり話せないのだけど。

『そっかー。それじゃなかなか会えないね』

『そうだね。次のお休みは土日だし』

 そうか。土日にお休みなのか。それじゃ確かに学校では会えないな。でも、別に学校じゃなくてもいいんじゃないかなと思った。せっかくだし遊びに誘ってみよう。

『それじゃよかったらだけど、今度のお休み一緒にどこか遊びに行かない?』

 先ほどのメッセージを送ってから数分経ってから携帯の画面に通話の通知が表示された。もちろん相手は桃華ちゃんからだった。

『もしもし?』

『えっと、白川です。その、行きたい!宮子ちゃんと一緒に遊びに行きたい!』

 なんだかテンションが高めな感じの桃華ちゃんの声。喜んでもらえてるんだったら嬉しいな。誘ってよかった。

『良かった。桃華ちゃんは行きたいところとかある? 』

 桃華ちゃんは普段どういうところに遊びに行くのかも気になって聞いてみた。

『うーんと……ごめん、私こういうのよくわかんなくて』

『じゃあ私に任せてもらってもいいかな?』

『うん、よろしくお願いします』

 どこに行くか考えておかないと。こういうことを考えるのは好きな方なのでなんだか楽しくなってきた。



 ホームルームまで特にすることもなくぼーっと自分の席で過ごす。ふと桃華ちゃんの席が目に入った。やっぱり今日もお仕事なんだな。

「おっす宮子。白川さんの席をぼーっと眺めてどうしたのさ」

「おはよう佳奈ちゃん。今日もお仕事なのかなって思って」

 教室に着いた佳奈ちゃんと挨拶を交わす。

「ふーん。宮子ってあんましそういうのに興味なさそうって思ったけど、意外にも白川さんのファンだったん?」

 私が桃華ちゃんのファンかと言われるとどうなんだろう。もちろん友達として桃華ちゃんのことは好きだけど、私自身あまり芸能人とかそういうのにそこまで興味が無かったからなんとも言い難い。

「うーん……確かにあまりそういうのは詳しくないけど、桃華ちゃんは好きだよ」

「桃華ちゃん?」

「あっ」

 つい桃華ちゃんと口に出してしまった。でも、別に桃華ちゃんの秘密をばらしたわけじゃないからセーフ……だよね?

「宮子って白川さんと親しい仲だったっけ?」

「えっと、つい最近ね」

 まあ、桃華ちゃんと友達だってことを話すくらいなら大丈夫かな。相手は佳奈ちゃんだから悪いことにはならないだろうし。

「おー?あたしというものがありながら浮気かー?」

「ええ!?」

「あはは、まあ友達が増えるのはいいことじゃん。宮子にとっても白川さんにとってもさ」

 やっぱり佳奈ちゃんはいい娘だ。心配せずとも、佳奈ちゃんには桃華ちゃんと友達になったことを話しても大丈夫だったみたい。



「あー終わった終わった。宮子ー部活行こー」

 本日最後のホームルームが終わって佳奈ちゃんがやっと解放されたという風にぐぐっと体を伸ばしている。

「うん。今日は先輩たちも来れるんだよね」

「みたいね」

 先輩たちも居るみたいだし今日は何を作ろうか。桃華ちゃんとどこに行くか考えてばかりで今日の部活で何を作るか決めてなかった。

「あたしも今日は家の店の手伝いもないし今日はみんなのんびりできそうね」

「うん」

 


「お、宮子に佳奈じゃん。おっす」

「こんにちは晴先輩」

「ういーっす、晴先輩。あれ?桜先輩は一緒じゃないんですか?」

 家庭科室に入ると既に3年生の晴先輩が来ていたが、もう一人の3年生の桜先輩はまだ来ていないみたいだった。

「んー、桜なら図書室に寄ってから来るみたいなこと言ってたけど。まあ、もうちょいしたら来るんじゃない?」

「そっかー。それじゃ先に始めちゃいますか。今日は何します?」

「いつも通り適当になんかお菓子でも作るんでいいと思うよ」

「今日は何作りましょうか?佳奈ちゃんと晴先輩は何か食べたいものあります?」

 こういうときはみんなが食べたいものを作ればいい。それこそ「適当」だ。

「パンケーキとかは?作るの楽だし。アレンジだって好きにやれるし」

 晴先輩が言う通りいいかもしれない。確かに手間もかからない割にそれなりに量も作れるしそれぞれの好みにアレンジできるし。

「私は賛成です」

「あたしもいいっすよ」

「おっし。そんじゃそれで決まりね」

 3人でさっそく材料やら調理器具やらを取り出して準備にとりかかる。

「ごめんねー遅れちゃった」

 準備を始めたところでおっとりとした声が聞こえた。桜先輩が来たみたいだ。

「お、桜遅かったじゃん」

「新作がいろいろ入っててねー。うちの図書室侮れないわー」

 桜先輩は借りてきたたくさんの本を机に置いた。

「いっぱい借りてきましたね」

「うん。これで来週まで忙しくなるわー」

「ほらー桜もさっさと手伝えよー 」

 晴先輩が不満そうにこちらを見ている。私たちも早く準備しないと。



「うん。やっぱ楽だし美味いしいいね、パンケーキ」

「そうですね。手間かけずにおいしいってのはいいっすね」

 みんなで作ったパンケーキを食べながらの雑談タイム。いろいろ作るのも楽しいけど、やっぱりこの時間が一番楽しい。

「そういえば桜先輩、いっぱい本借りてましたけど、何借りてきたんですか?」

「うんとね、結構いろんなのあるんだけど……」

「またラノベ?」

 どれどれ、と晴先輩も私と一緒に覗き込む。桜先輩の借りてきた本の表紙はアニメ調のイラストのものでなんだか漫画みたいだ。

「うん。なぜかうちの図書室ってこういうのもよく仕入れてくれるからありがたいのよね。毎月買ってたらお金なくなっちゃうし」

「あたしも金ある方じゃないけど、同じバイトで同じくらい働いてるってのに桜の方はいつも金欠だもんね」

 確かに桜先輩はいつもお金がないって言ってる気がする。だからなのか、おっとりしていて優しいお姉さんって印象が強い桜先輩は印象とは裏腹に結構忙しいバイト生活を送っているらしい。

「こういうのって高いんですか?」

 桃華ちゃんはアニメとか好きだって言ってたけど、こういうのも買ってるのかな。桜先輩がいつも金欠だというので、聞いてみた。

「ううん。一冊一冊は普通の文庫本とかと同じくらいよ。ただ、私はいっぱい買っちゃうから」

「あー、確かにこの前一緒に本屋行った時、桜先輩大人買いしてましたもんね」

 先ほど桜先輩がたくさん持ってきたくらいの量を買ったのかなと佳奈ちゃんの言った場面を想像してみるとお金がなくなるのも納得だ。

「そんなんだから金なくなるんだっての」

「この前佳奈ちゃんと行った時は給料日後だったからつい……」

「そういや値段を聞くってことは宮子もこういうのに興味あるの?」

 前の私なら特にそうでもなかったけど、最近桃華ちゃんと話してると面白そうだなとは思っている。

「そうですね。最近ちょっと興味が出てきて」

「へー、宮子がねえ。意外だ」

 晴先輩はそう言うけど、そんなに私ってこういうのに興味なさそうだったのかな。

「確かに宮子の関心の9割は甘いものに向いてるイメージでしたからね」

「そ、そこまで多くないよ!」

 多くても7割くらい……だと思う。

「でも、宮子ちゃんがこっちの世界に興味を持ってくれて嬉しいわー。晴も佳奈ちゃんもあまりこういうのに興味ないみたいで、あまりそういうお話できなかったもの」

「そうだったんですか。でも、まだ私も全然詳しくないので……」

「いいのいいの。興味を持ってくれただけでも私は嬉しいわ」

 そうだ。桜先輩になにかおすすめの本とか、こういうものが好きな人が行くようなところを聞いておけば今週末に桃華ちゃんと遊びに行くのにもいい案が浮かぶかもしれない。

「こういうの好きな人ってどういうところで買ったりするんですか?」

「うーん、やっぱりアキバじゃないかしら?」



「秋葉原かあ」

 最寄駅から1時間もかからず行けるからちょうどいいかもしれない。桃華ちゃんも同じ街に住んでるからそこは問題ないだろうし。そうときまれば早速桃華ちゃんに連絡してみよう。

『こんばんわ。今度遊びに行くところだけど、秋葉原にしてみようかと思うんだけど、大丈夫かな?』

『うん。私もずっと行ってみたかったんだ!』

 少ししてから桃華ちゃんから返信がくる。行先はここで問題ないみたいだ。桜先輩からいろいろ聞いておいたし、楽しみだ。



 約束していた日、待ち合わせ場所の駅着くと既に桃華ちゃんが待っていた。今日もいつもは下ろしている髪をポニーテールにして眼鏡をかけている。あれくらいなら一目で桃華ちゃんだってわかっちゃったけど、他の人は桃華ちゃんに気づいていないみたいだ。

「おはよー、ごめんね、待たせちゃった」

「あ、おはよう。大丈夫だよ。さっき着いたばかりだから」

 桃華ちゃん笑顔でそう返してくれた。よかった、一応待ち合わせ時間には間に合ったけど、待たせてしまったのかとちょっと不安だったから桃華ちゃんの笑顔で安心した。

「秋葉原行くの初めてで、宮子ちゃんと一緒に行けるから今日すっごく楽しみだったんだ!」

「私も楽しみだったんだ。秋葉原って行ったことなかったし」

 桃華ちゃんと電車に乗って。なんだか友達と初めて行くところってわくわくする。

「えっと、あと私まだ漫画とかアニメとかあまりわからないから、今日は桃華ちゃんに教えてもらってもいいかな?」

「うん!私がんばる」

 ぐっと拳を握りしめて気合を入れている桃華ちゃんはなんだか子どもみたいでかわいい。

「よろしくお願いします」

「お願いされました」

 なんだかおかしくなって二人で吹き出してしまった。


「次の駅だね」

 電車内のアナウンスで次の駅は秋葉原だというアナウンスが流れる。

「うん、なんかドキドキしてきた」

 桃華ちゃんは緊張した面持ちで外の景色を見つめている。

 電車が到着ししてドアが開くと私たち以外にもいっぱい人が降りて行く。ああ、そういえば秋葉原は乗換の路線もいっぱいあるんだったな。それでこんなに人がいっぱい乗り降りするのかな。

「すごい人だねぇ」

「うん、なんかすごい」

 まるで田舎から上京してきた人みたいに人の多さに圧倒されてしまう。駅でこれだと外に出たらもっとすごいんだろうか。

 ホームから出るとさっき見た以上の人の多さが待ち受けていた。

「ふわぁ……すっごい」

 桃華ちゃんはまさに目が点になったって感じだ。私も多分そうなんだと思うけど。

「よっし!行こうか!」

 これで圧倒されていたらダメだ。せっかく先輩にいろいろ教えてもらったんだし。

「人凄いし、はぐれないように手繋いでいい?」

「あ、うん!えっと、よろしくお願いします」

 桃華ちゃんの手を取っていざ、秋葉原探索へ。



「おおー!すごい!」

 最初に二人で駅前にある大きなビルの中にある本屋さんに入ってすぐのところの新刊コーナーにものすごい数の漫画が山のように積まれている。

「ほんとだねー。近所の本屋さんとかじゃこんなにないもんね」

 漫画の新刊だけでこれだけの数があると思うとすごいという感想しか出て来ない。

「うん、事務所の近くに大きい本屋さんがあるんだけど、それでも漫画はこんなにおいてないよ」

 桃華ちゃんは目を輝かせて漫画の山に目を奪われている。

「あっ!これ私好きなんだ」

 桃華ちゃんが手に取った漫画の表紙にはかわいい女の子のイラストが載っている。

「そうなの?どんな漫画?」

「えっとね、学園物なんだけど、すごいほのぼのしてて、読んでてすごい癒されるんだ」

 桃華ちゃん、なんだかイキイキしてるな。誘ってよかったって思う。

「そうなんだ。桃華ちゃんがおすすめなら私も読んでみようかな」

「だったら、今度私の貸そうか?」

「いいの?」

 正直お金はあまりないからそう言ってくれるならとてもありがたいけど、いいのかな。

「うん。私が好きな漫画を宮子ちゃんが好きになってくれたら私も嬉しいから」

 はにかみながら微笑む桃華ちゃんの姿はなんとも庇護欲を駆られるというか。これはかなりくるものがある。

「それじゃ、お願いしようかな」

「うん!」



 それから二人でしばらくいろんなお店を渡り歩いては、アニメのキャラクターのフィギュアの完成度とお値段に驚いたり、初めてのメイド喫茶などと新しい発見のラッシュだった。

「ここは何のコーナーだろう」

「えっと同人誌だって」

 ドウジンシ?なんだろうそれ。今まで聞いたことのない名前だ。ここでも新たな発見だ。秋葉原ってすごい。

「同人誌っていうのは、出版社とかを通さないで個人で出してる本のことで、その作者さんが非公式で好きな作品のパロディで書いたりしてることが多いんだって」

 私が同人誌と聞いてよくわからない顔をしていると桃華ちゃんが説明してくれた。

「なんだかすごいなー。今日だけでなんか一生分くらいの初めてを経験したかも」

「あ、その感じわかるかも。私も最初にこの世界にはまった時はそんな感じだった」

 やっぱり誰でも似たような感じになるのだろうか。確かにこれだけいろんなものがあればみんなそうなるかもしれない。

「あっ、この本のイラストかわいい」

 たまたま目に入った本の表紙がかわいくて手にとってみると桃華ちゃんも「どんなの?」と一緒に覗き込む。

「同人誌は裏面に見本があるみたいだよ」

「あ、ほんとだ」

 本を裏返して見ると、これまた衝撃的な見本だった。

「わわ、これって女の子同士で!?」

「そ、そういうのも多いみたい。男の人同士とか女の人同士とか。え、えっと……「びーえる」だとか「ゆり」っていうみたい!」

 本の見本には女の子同士でその、恋人同士でするような、いわゆるお口とお口をくっつけるあれをやっているシーンが描写されている。桃華ちゃんは説明してくれているが、その顔は真っ赤になっている。きっと私も同じようになっていると思う。

「な、なんかすごいな。世界は広いといいますか」

「う、うん。そうだね」

 なんだか私たちの間にも変な空気が流れてしまう。なんだかくすぐったいような変な感じだ。



「あ、もうこんな時間……」

 少し変な空気は流れたけど、それからもいろいろお店を巡って気がついたらもう夕方になっていた。ただ、あれから桃華ちゃんはどこかそわそわしてるというか、どことなく落ち着かない様子だったけど、大丈夫かな。

「ほんとだ。今日はいっぱい遊んだし、そろそろ帰ろうか?」

 桃華ちゃんの言う通り、今日はもう帰った方がいいかもしれない。すごく楽しかったけど、1日中歩き通しで、普段酷使しない足が悲鳴を上げている。

「その、今日はありがとう。すっごく楽しかった。宮子ちゃんと来れてよかったよ」

「私も楽しかった。また一緒に遊びに行こう!」

「うん!」

 こうして私たちの初秋葉原探検は幕を下ろした。桃華ちゃんと一緒だと私の知らなかった世界がどんどん広がっていくみたいだし、一緒に居てなんだかとても楽しい。これからも桃華ちゃんと一緒に居られればきっと今以上に楽しくなるような予感がした。

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