第46話 証明
「ずっっっっと前から好きでした!! 2番目でもいいので私と付き合ってください!!」
「本当……? じゃあ私のどこが好きなのか教えて?」
「えっ? え、えーっと……頭が良くて……魔法も凄くて……か、カワイイところ……?」
「それだけ? その条件を満たす子なら他にもいるよ?」
「い、いえ、あの、実はそう見えて男らしい一面もあるところ……とか?」
「本当!? 男らしいなんて滅多に言ってもらえないから私とっても嬉しい!!」
「う、う……うわあああああああああああああんやっぱ私にこの子を落とすなんて無理だよーーーーーーーーー」
俺から眩しい笑顔を向けられるた女子学生は、泣き言を口にしながら逃げ出してしまった。
「やれやれ」
『伝えたいことがあるから放課後、屋上に来てください』なんて手紙をもらったから来てみたのだが、待っていた女学生は俺の姿を見るや計算違いでもあったかのように挙動不審になり、その後やけくそ気味に告白。そして少し意地悪な質問をされるとすぐに撤退してしまうのだから、とても本気で俺が好きだったとは思えない。いかにもやらされた感のある告白だった。
……まあでも今のはストレートにきただけ好感が持てる。昼休みに会った貴族の子なんて自分の父親がどんなに凄くて立派なのかを長々と力説し、自身や俺の事に一切触れず最後に「で、どう?」だもんな。さすがに驚いたねアレは。他にも母親が誰々の妹だとか言っている子もいたし、貴族の告白って家族自慢が結果を左右するのかねえ。だとしたら――。
「明日以降も聞かなくちゃいけないのか……」
今日だけで6人の子に告白(内1人はクラスの男)されたのに、まだまだこの流れは続きそうだ。普通ならモテ期到来だと喜ぶべきなのかもしれないが、俺が好きなんじゃなくて背後にいるスイレンとアリサ目当てなのがモロ分かりだからな……。だからと言ってレイシアみたく真剣に告白されても困るんだけどね。
「……うぇ」
あー、レイシアとか嫌な奴を思い出しちゃったな。せっかく忘れかけてたのに……。こういう時は部室に行ってネルの髪を弄りながら癒されるとしようかな。
――そう考えたのがいけなかった。
「やあジル! 待っていたよ!」
部室の前で俺を待ち受けていたのはレイシアの嬉々とした姿だった。
「なっ、ど、どうしてアンタがここに……?」
それに俺の名前は教えていないはずなのに……。
「ふっふっふ、私は来年からここに通う予定だからね、見学したいって言ったらすぐに許可が出たよ。そして教師に1年で銀髪の美少女について詳しく教えてくれと頼んだらここに辿り着いたってわけさ」
おい、誰だよその教師は……!!
生徒の情報を漏らすなんてコンプライアンスがまるでなってないぞ……!!
「ああ……朝からずっと逢いたかったよ。さあ再会を祝してハグし合おうじゃないか」
「ええい、近寄るな!! これっぽっちもめでたくねえよ!!
「ほら、見てくれ。スカートだよ? 君が女の子が好きだと言うから慣れないスカートを履いてきたんだ!」
確かにレイシアは女子の制服を着ているが――。
「女の子っぽくない……!!」
というのもスカートの下にバッチリとジャージ(しかも男用)を履いていて、上も変に着崩しているから男みたいな印象を受けてしまうのだ。
「ふっ、自分でも分かっているさ」
「ならせめてそのジャージを脱げばいいのに」
そうすれば少しは女子らしく見えるはずだ。
「脱いだら寒いじゃないか。それとも……君が温めてくれるのかい?」
「だから近寄んなって!? 俺にはもう彼女がいるって言っただろ!?」
「そう、それだよ!!」
「はい?」
待ってましたと言わんばかりにビシッと指を突き付けてきた。
「聞いたところによると君はあのアリサ・フィーリアと付き合っているそうじゃないか!」
「うん、だから――」
「何でそれを先に言ってくれなかったんだい!? リヒャルトの孫娘が2番目じゃさすがに不味いかなーとか悩んでいたけど、君が大精霊の契約者と付き合っているのなら何の問題もないじゃないか!! それどころか家族と国も諸手を挙げて賛成してくれるだろう!! つまり私達を隔てる壁は最初からなかったんだよ!!」
「いや、だからって――」
「おっと、勘違いしないでくれよ。君がアリサ君の恋人だから好きなんじゃない。たまたま私が好きになった子に大精霊の契約者がおまけでくっ付いていただけだよ。あくまで本命はジル、君だけだということは忘れないで欲しい」
「あのう、俺の話を――」
「ふふ、そんな綺麗な足を出しちゃって……私を誘っているとしか思えないな。くっ、いけない。そろそろ自分が抑えきれない……! 君がいけないんだぞ? そんな扇情的な格好をしているから……」
ダメだこいつ……!!
人の話を全く聞かないで勝手に暴走している……!!
「おう、お前ら。そんなとこで何してんだ……んん!? おいジルちゃん、その格好チョー似合ってんじゃねえか!?」
この声は……。
「オロフ先生!!」
何故だろう、今はこの先生が物凄く頼りに見える――。
「これはオロフ先生。先程はありがとうございました。おかげでジルとも無事再会できました」
「みたいだな。良かったじゃねえか」
「――って、あんたが教えたのかよ!?」
やっぱりオロフは信用はならん!!
「そんなかわいく睨むなって。しょうがなかったんだよ。こいつの家は学園の設立の際、多額の寄付をしてくれたんだから、一介の教師である俺が無碍にできるわけないだろ? まあいいじゃねえか、教えたのはちょっと調べればすぐに分かることだけなんだしよ」
その“ちょっと”の時間が俺には欲しかったんだけどな……。
でももういいや。どうせオロフに文句を言ったって暖簾に腕押し。時間の無駄だ。
「遅れてゴメン。クラスの打ち合わせが長引いちゃった。王子はその関係で今日は来れないって」
と、ここでネルが早足でやって来た。
おお、天使様の来訪じゃ!!
「おや? おやおや? 君もかなりの美少女じゃないか! ねえ、どうだい? 私と楽しいこと、しないかい?」
うわぁ……。
天使様が早速レイシアのターゲットにされてしまったよ。
「…………誰……?」
「私はレイシア。君の好きなように呼んでもらって構わないよ。それで君の名前は……?」
「………………リーネルカ……」
「ふふ、俯いちゃって可愛いね。もしかして恥ずかしがり屋さんなのかな? 大丈夫だよ、私が君の心を開いてみせるから」
「……あの…………いきなりそういうのは……困る……」
「戸惑うのは最初だけさ。私を信じて身を任せて欲しい。そうすれば2人とも幸せになれる」
「ひっ……助けて……!!」
学年5位の実力者が為す術もなく壁に追い込まれ助けを求めている。
だがすまん、ネル!!
俺には荷が重い……!!
「くっくっく、あんなに慌てているリーネを見るのは初めてだ。今日はいい日だな」
でもさすがに見捨てるのは忍びないから、父親に頑張ってもらおう。
「なあなあ、オロフ先生。先生はレイシアから見向きもされてないけど、それって男としてどうなんですかね?」
「ほほう、俺を挑発しているのか? 舐めるなよ――と言いたいところだが、あの手の特殊タイプはな……。最初に興味を持たれなかったら諦めた方がいいんだよ。別に落とせないわけじゃないが……。よし、話しかけるとどうなるか見せてやろう」
そう言ってオロフは、ネルににじり寄っているレイシアの肩をちょんちょんとつついた。
「どうかしましたか?」
「お前、よく見たらなかなかカワイイじゃねえか。どうだ、俺が本物の女にしてやろうか?」
「ラングット最強にお誘いいただけるとは光栄です。ですが私は男性に一切興味ありません。申し訳ありませんが他をあたってください」
「そうか。…………な? こんな感じで取り付く島もないんだよ。権力者の孫娘だから強引に迫るわけにもいかないし、じっくりやろうにも時間があまりにもかかる。だから時には諦めも肝心なのさ」
「なるほど……。それで、ネルは助けなくていいんですか? 娘の貞操がピンチですよ?」
ほぼ密着しているぞアレ。
ネルも諦めたのか状況に流されているのか、抵抗も弱々しい。
「1回くらいならいいんじゃね? 3回までは処女みたいなもんだし、親だからってうるさく言うつもりもないしな」
何を言っているんだこの人は……。
「ちなみに俺の理論でもジルちゃん、お前は処女じゃないな?」
「当たり前です」
そりゃあ、どんな理論だろうと俺が処女であるわけがない。
「な、なんだって……!?」
あ、レイシアが食い付いた。
やっと離れてくれてネルもホッとしている。
「ぐぐっ……やっぱり処女じゃ…なかった……か……!! 彼女がいると聞いてから嫌な予感はしていたが……くっ……!! だ、だが、処女じゃなかったくらい……で、揺らぐ愛ではない!!」
手を血が滲む程きつく握りしめ、涙を流しながら高らかに吼える姿は、セリフさえ無ければかなりカッコよく見える。セリフさえ無ければな。
「でもさ、揺らがないとか言っている割にはネルに迫ってたじゃん」
「ち、ち、違う、あれは浮気じゃないぞ!? 私なりの軽い挨拶なんだ!!」
お、かなり動揺しているぞ。
これはチャンス……!!
「悪いけど信じられないな。手当たり次第女の子に“挨拶”する人とは付き合えないよ」
「ふっ」
レイシアの目が怪しく光った。
げっ、嫌な予感……。
もしかして罠だったか?
「じゃあ私がジルに一途であることを証明すれば付き合ってくれるんだね?」
「証明って言ったってどうやって――」
「その説明をする前に約束して欲しい。もし私が証明できれば付き合ってくれると。その代わりに私は証明できなければ今後一切ジルに関わらないことを約束しよう」
「今後一切……」
「ヒュー、なんか面白いことになってきたぞ!!」
「むっ……。お父さん、うるさい」
一瞬魅力的な提案に思えたが、ルールも分からないのに了承するのはあまりにもリスクがでかすぎる。
「ハグ3回でどう?」
「ノンノン、お話にならないよ」
「膝枕90分、耳掃除あり!!」
「ま、まだまだ釣り合ってない!!」
「背中を流す!!」
「くっ……まだダメだよ!!」
「ええい、ならデート1回でどうだ!?」
「もちろん抱いてもいいんだよね!?」
「却下!! 手を繋ぐぐらいで我慢しろ!!」
「私の将来がかかっているんだ、せめてキスはOKにしてくれないと!!」
「ぬぬぬ……わ、分かった、雰囲気次第でキスOKのデートで」
「それで決定だ!!」
だ、大丈夫だ。例えデートをする破目になっても雰囲気に流されなければいいんだ……!! それに最悪“アレ”でなかったことにすればいいんだし……。
「じゃあ証明方法だけど、これから5日間、私は君以外の女の子と必要最低限の事務的会話しかしないという苦行をする! もちろんボディタッチもなしだよ!」
「はあ?」
そんなの四六時中一緒にいない限り不正し放題――ってまさかレイシアの真の狙いは……。
「ふふふ、これから5日間よろしく頼むよ!!」
やっぱり……!!
こいつ、証明とか理由をつけて俺に付き纏うつもりだ!!
冗談じゃないぞ。
こんな危険な奴と5日も過ごせるか!!
もはや手段は選んでいられない。反則だろうがここはちょいと洗脳でもして――。
「おっとジル、まさかイカサマなんてしないよな?」
「!?」
とある事をしようと思ったら、オロフがニヤニヤした顔で右手を掴んできた。
「お前も本当に男だというのなら、このくらいは真面目にやれ。この程度であたふたしているようじゃあ、この先とてもやっていけないぜ?」
――っ。
「ええ、別にこのくらいどうってことありませんよ。もしレイシアが証明できたとしてもデート位してあげますとも!!」
「ハハ、そいつを聞いて安心したぜ」
「……大丈夫なの?」
「ああ、平気だ」
「ふふ、それじゃあジル。家に案内してくれるかな?」
「いいぜ」
さあ行くとするか――。
ティリカの住むスイレン邸に!!




