第44話 とある先生のハーレム理論2
部室へ向かう途中、ふと外に目をやると、女子生徒達が寒そうに肩を寄せ合っていた。
「ふむ」
彼女達を見ていたら何だか懐かしいことを思い出した。
そう言えば俺は毎年冬が訪れるたびに“女子はスカートで寒くないのか?”って疑問に思っていたよなー。
自問自答になってしまうが、今その質問に答えるなら“もちろん寒い”だな。俺の実体験だから間違いない。寒いからこそ女子はジャージやタイツ、ハーパンにハイソックスなどを履くのだ。
しかし中には冬でも生脚を晒す猛者もいる。彼女達は季節に関係なく、いついかなる時も生脚なのだ。雪の降る日でも生脚の時はさすがに言葉を失ったもんだね。前世で俺はそんな女子に寒くないのか尋ねたこともあったが、『慣れれば意外といける』『寒さよりファッション』『クッソ寒い』と、満足できる答えでなかったのをよく覚えてる。
だが今なら解るぞ。
「足を出したいから出す!」
至極単純な理由だ。
これ以上の言葉など不要だろう。
そうだ、寒さがどうした!! スカートを履きたいのなら履けばいい!! 足を出したいなら出せばいい!! だから次の休日はスカートを履くぞ!!
と、決意しながら部室のドアを開けると――。
「よお、遅かったじゃないか。早く席に着け」
オロフがニヤニヤしながら待ち構えていた。
なんかデジャビュ。
「さあ今日もハーレムの話をしてやるぞ! どうだ、嬉しいだろ?」
「いや、ぜんぜん」
昨日の話はまあ、そこはかとなく面白かったと認めるのもやぶさかではないが、だからと言って2日続けてはお断りだ。
そんな話を聞くよりも 『女の子』と『モフモフした服』の親和性について議論した方がよほど有意義だろ。
「じゃあ俺のハーレムに加わるのか?」
「先生、じゃあの使い方が間違っていますよー」
「はいはい分かった分かった。ハーレム講義は今回で終わりにしてやるからさ」
「ん……しょうがないな」
あと1回くらいなら構わないか。
「……ごめんね、お父さんのわがままに……」
お、リーネルカとアリサ、ミュランの3人も揃っている。ミュランは何やら惚けていて俺に気付いていないみたいだが……どうせ昨日の“素敵な店”とやらが原因だろうから放って置こう。
「ネルが気にする必要はないって」
「そうです、どうせすることもありませんし」
ミュランの特訓も目途がついたからな、実はけっこう暇だったりするのだ。
「そうだぞ、気にすんな。むしろ暇潰しを提供する素晴らしい父親だと俺を崇めろ」
いや、そこであんたが偉そうにするのはおかしいだろ……。
「まあいい、とにかく始めるぞー。まずは帝国のハーレムについてだ。あそこは4ヶ国の中で最もハーレムが多いことで有名だからな。ではアリサ君、皇帝の奥さんが何人いるか知っているかな?」
「5人です」
「そうだ。5人の妻に16人……くらいの子供がいる」
へぇー、皇帝とは1回だけ会ったことがあるけど、あの人そんなに子供がいたんだ。
「あの国は世襲制だが、後継ぎの生まれた順番は関係ない。どの妻の子供であろうと、最も優秀な“男”が次の皇帝に選ばれる。ハーレムを作るのも女好きというよりかは優秀な子が生まれる確率を高める為だな」
「でもさ、そんなに子供がいると当然変なのも出て来るんでしょ?」
実際、なんちゃら会にもいたしな。
「力がないと落ちこぼれの烙印を食らった奴は平民落ちだ。落第生を養ってやるほど甘くはないからな、あの国は。だから意外と平民でも王家の血を引く奴が多くいる珍しい国でもある」
「ふーん」
じゃあ、あの……少女暴行で捕まった人も平民落ちしちゃったのか。可哀想ダナー。
「でもまあ昨日も説明した通りハーレムには問題もあるから、帝国にハーレムが多いと言っても皆が皆ハーレムなわけじゃないぞ。実力主義で後継者を選ぶから必然的に子供同士や妻の仲が最悪で、お互い足を引っ張りまくる。“事故”で人が死ぬことももはや日常茶飯事。だからそういうのを嫌って1人の奥さんに1~3人の子供しか作らない貴族の方が実は多い。そうだな……だいたい5人に1人くらいの割合かね、ハーレム貴族は」
ここで「はい」っとアリサの手が上がった。
「質問があります。そういうオロフ先生は子供が何人いるんでしょうか?」
「俺か? 俺の子供はリーネルカだけだ。俺はまだまだ若いから子育てよりも女房とイチャイチャしていたいんだよ」
「若いって……。先生はもう30くらいなんじゃないの?」
ネルの歳を考えればそのくらいだよな。まあ30でも若い方だろうけど。
「ノーノー。俺は62歳だ。竜族基準だとようやく一人前と認められるくらいの歳だな」
「竜族!?」
マジで!? 人族と見た目が変わらないから全く気付かなかった。……ってことはネルも竜族の血を引く者ってことか。
「先生、竜族について興味があるので教えてください!」
「ほう? 俺に興味があるのか。いいぜ、特別に教えてやる。俺の長さと太さと固さ、どいつが知りたい?」
…………。
「じゃあ長さで」
「最大で6cmだ」
「6cm!? それはその……お気の毒様です……」
アリサが驚きの声を上げ、憐みの目をオロフへ向ける。
「長い奴なら10cmオーバーもいるが、そんなに長くってもしょうがないからな。竜族の平均である5cmもあれば十分だろう」
「平均で5……。確かに5cmあれば行為に問題はないかもしれませんが……ダ、ダメです、同情を禁じ得ません」
「くっくっく、何を言ってるんだ? 俺が言っているのは“爪”の話だぜ?」
「はい?」
ニヤニヤと笑いながら手を振るとオロフの爪が伸び、鉤爪のように弓なりに曲がった鋭い爪へと変化した。
「ったく、俺が竜族の特徴である爪を説明してたのによ、このエロエロメイドさんは何と勘違いしたんでしょうねぇ~。清い俺に教えてくれませんかあ~?」
「くっ……屈辱です……」
アリサが顔を真っ赤にして机に突っ伏してしまった。
ここまで恥ずかしそうにしているアリサは滅多に見れるもんじゃないから新鮮だ。目に焼き付けておかないと。……ちなみにアリサがエロエロなのは間違ってない。
「……お父さん、あんまりアリサをからかわない」
「くくく、分かったよ。じゃあハーレムの話に戻すか。えーっと、帝国のハーレムについてだったよな……ってああ、そう言えば帝国には逆ハーもあったな」
「逆ハー?」
「女が複数の男を独占するんだよ。あれは凄かったなー。屈強な男どもが1人の女に奴隷みたいに扱われているのに皆、幸せそうなんだぜ? そりゃあ、あんだけの美人なら飼われたい気持ちは分からんでもないが……やっぱ俺としては主導権を握る側でいたいね」
そんな凄い美人がいるのか。参考に会ってみたいけど……性格が悪そうだしやめておいた方がいいかもしれないな。
「……質問。同性愛者のハーレムはあるの?」
「ほほう、面白い着眼点だ。さすが俺の娘。そうだな……ショタ好きの男が集めた闇の楽園なら聞いたことはある。でもそれくらいで、同性愛者同士で複数くっついたっていう例は知らんな。探せばあるのかもしれんが……たぶん関わらない方がいいと思うぞ」
「大丈夫、ただの興味本位だから」
「そうか。んじゃ、次はハーレムを維持するポイントを教えてやろう。いいか、大事なのは“平等に扱わないこと”だ。下手に愛情を分散させてしまうと女に不満を抱かせちまうから、『今日はこいつを重点的に』って決めておくんだ。そうすれば――」
んー……。
今さらだけどさ、何でオロフはこんな真剣にハーレムの話なんてしてるんだろう? 1日だけならただのキマグレで片付けてもいいけど、2日続けてだと何か意図があるんじゃないかって思えてきた。
だとするとこれは推測だが……俺かアリサにハーレムの心構えを教えようとしているのかもな。もうすぐハーレムになるから上手くやれよって。
うーん、さすがに考えすぎかな?
でもオロフのバックにはローザ女王がいるし……。
「あと怒らせちまった時の対処法な。とりあえず口で口を塞ぐ。そん次に押し倒す。そうすればもうこっちのもんよ」
「でもその所為でファコラさんは……」
「おお、それでな!! ハーレムを作る時はやっぱ女同士の仲に気を付けた方がいいぞ、うん。女同士の仲が良いハーレムは長続きするからな、よく覚えておくといい」
まあ、気にしてもしょうがないか。
ネルが言ってた通り、適当に聞き流しておけばいいだろ。
(……ジル様)
(ん?)
アリサが机に突っ伏したままテレパシーを送ってきた。
横顔がまだ赤いからダメージは回復してないらしい。
(部活が終わった後に言おうと思っていたんですが、ちょっと気分を変えたいので今、言いますね)
(うん)
(実は昨日、カルカイム王から手紙が届きまして、私達が本当に付き合っているのか確認したいから会いたいそうです)
(別にいいんじゃないかな?)
そうなることは計算の内だったし。
(それがですね、会いたいのは私とスイレン様だけでジル様は来ないで欲しいそうです)
(はあ?)
何だそれ。
(手紙の内容をそのまま読み上げますと、『王都まで来てもらうのは貴殿達に悪いから、王都とクロスセブンの丁度中間の位置にある都市オールテアで会おう。くれぐれもジル・クロフト殿にはクロスセブンを出ないようお願いしたい』です)
(明らかに罠じゃん)
俺からアリサとスイレンを引き剥がして何かしますよーって言ってるも同然だろこれ。こんな誘い断ってしまいたいが……。
「あと女のメッセージには気を付けろ。あいつら『放って置いて』って言ってその通りにするとキレるからな。でもだからって構い過ぎもダメだ。いいか――」
ちょっとオロフがうるさいな。黙ってて欲しい。
(おそらく他国から圧力でも受けたんでしょう。私が悪い男に捕まってないか確認させろとかなんとか。その実、やることはジル様への嫌がらせか誘惑のどっちかでしょうね)
(……アリサはどうするつもりだ?)
(私はカルカイム王に言いたいことがあるので、会って来ようと思っています。それに最近スイレン様は私がジル様とばかり一緒にいて寂しかったのか、小旅行みたいだと行く気満々ですから)
そうかスイレンが……。
(分かった。少しとは言え離れ離れになるはちょっと……いやメッチャ辛いけど俺はお留守番しているよ)
(すいません、本当ならこうなる前に手を打っておきたかったんですが……。ジル様なら大丈夫だと確信していますが、くれぐれも油断だけはしないように注意してくださいね)
そうこう会話していたらバチンとオロフが手を叩いた。
「おし、じゃあこのくらいで終わりだ!! てなわけで行くぞ王子!! あの子達が待ってるぜ!!」
「はい!!」
颯爽と窓から飛び降りるオロフとミュラン。うとうとと船をこいでいた精霊のファイも慌てて2人の後を追いかけて行った。
「……私達も帰る?」
「帰る途中にクレープ屋さんがあるので寄って行きません?」
「いいね!! 3人で違う種類を頼んで食べ比べてみようぜ!!」
クレープという単語にテンションが上がってきたが、それでも先ほどのアリサの話が頭から離れるほどじゃない。
都市オールテアか……。
距離的にはサンフレアとそんなに変わらないから往復で6日、トラブルを見越すと10日はかかるかもな。でもスイレンがいるならアリサに万が一は有り得ない。むしろ問題は俺だな。暴力でくるなら簡単に対処出来るけど、色仕掛けで来られるとな……。引っかかるつもりはないけど断るのに骨が折れそうだ。
ふむ……。
そう言えばさっきスカートを履きたいとか思ってたよな。で、色仕掛けをしてくるのはたぶん女だろうから――。
――よし、アリサがいない間は女子の制服を着て過ごそう!!




