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1.5mの世界  作者: 粗井 河川
2章
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第42話  お披露目

 スイレンにアリサとのお付き合いを報告という一大イベントを終えた俺だが、実はまだ報告しなくちゃいけない人物が残っている。ある意味スイレン以上に反応が読めない上に、素直に祝福してくれるとも思えない子なのでためらってはいたのだが、アリサと相談した結果、打ち明けることを決意した。

 その人物とは――。


「兄さん兄さん! 今日は結果発表ですね! 兄さんの凄さを奴らに知らしめる素晴らしき日となるでしょう!」


 ――我が妹、ククルである。


「でも惜しいですよね。ジル様が初日から本気を出していれば総合1位も狙えたと思うんですが……。今回は私が頂いちゃいますね」


「そうです! 母様やマーシャさんにも手紙を出さないといけませんね! 2人もきっと喜んでくださるでしょう!」


 俺の右腕を抱きしめているククルはさっきから有頂天だ。俺の左腕にくっついているアリサを気にも留めていない。存在すら認識していないのではと思わせるくらいのガン無視。

 ……たぶん薄々勘付いてはいるんだろうな。だけどあやふやにしないで言葉でちゃんと伝えないといけない。


「あのな、ククル。俺とアリサの件で話があるんだ」


「……兄さんとそいつが付き合っている、というやつですか?」


 意を決して話を切り出すと、あからさまにテンションを下げながらも腕を離した。


「うん。やっぱり気付いていたか」


「そいつが合流するやいなや兄さんの腕に密着し出しましたからね。兄さんも止めませんでしたし、きっとそうなんだろうと思いました」


「そっか」


「それと付き合うのは大変ですよ?」


「分かってる。今日にも学園中に広まるだろう、これから騒がしくなるだろうね」


「私が言いたいのはそこではないんですが……」


「?」


 じゃあどういう意味なんだ?

 まあでも意外と冷静で助かった。最悪ここ等一帯が大変なことになるところだったからな。


「……おいそこのメス」


「なーに?」


「私は兄さんの意思を尊重しますが、お前のことは大っ嫌いのままですから。そもそもお前が兄さんを本当に好きなのかどうかすら怪しいと思っていることはゆめゆめお忘れなく。ふん」


「ふふ、そんな意地を張んないで私のことは“お姉ちゃん”って呼んでもいいんだよ?」


「くたばれ腐れメイド」


 捨て台詞っぽいものを吐き捨てると、ククルは1人で先に行ってしまった。


「やれやれ、これで味方はなしですか。先が思いやられますね」


「う~ん……」


 結局スイレンは「好きにすれば?」と否定も肯定もしなかった。しばらくは様子を見るスタンスでいくらしい。ククルも賛成とは言い難い態度だったし、ティリカは……うん、まぁ、あれだ。少なくてもあれ以上悪くなることはないでしょ。落ちる所まで行ったし後は上がるだけと思っておこう。


「まあ、そんなに悪くない結果なんじゃん? 3人とも賛成はしてくれなかったけど妨害をするような感じでもなかったし。俺としては最大の案件を乗り切ってホッとしているよ」


 もう報告すべき人はいないし気は楽d――ふと脳裏にメルフィとクロノスの姿がよぎったけどきっと大丈夫!! ……だろう。…………たぶんいけるかも。……いや大丈夫か? やっぱダメかも。てかダメですよね。

 メルフィはともかくクロノスはヤバい。本人は全く気にしない可能性もあるけど、もしもに備えて対策を講じておかないとマジで死ぬ恐れもある。あわわわ……。


「どうしました?」


「あー……いや、皆に見られてるなーと思って」


「そうですね、見られちゃってます。でも離しませんから」


 さっきから登校中の生徒やすれ違う人の視線を集めている。そりゃあ世界で最も注目されている学生の1人が男(?)の腕を抱いてるんだから嫌でもそうなるよな。


「ふふ、見て下さい。学園の前も凄いことになっていますよ。あれはきっとテストの結果だけの騒ぎじゃありませんね」


「ん、ホントだ」


 アリサの視線の先は巨大な掲示板に群がる人で溢れていた。大半は学生だけど、中には冒険者とか妙に高そうな服を着た連中や一般市民さんも混じっている。

 あの掲示板には今回のテストの結果と、とある事実が張り出されているのだが――。


「行こうか」


「ふふ、わくわくしてきましたね」


 さてと、臆せず堂々と突っ切るとしましょうか。


「あっ! 来たぞ!」


「すいませーん、ちょっと通りますよー」


 人混みを強引に掻き分け、掲示板の前へと移動する。


「あの2人は……」


「あれがジル・クロフトなのか?」


 えーっと、1年生の総合順位は……あれか。


「おお!! やっぱりアリサが1位じゃん!! おめでとう!」


 しかも純粋な体力テストを除けば全て満点だ。さすがは俺の彼女! 鼻が高いぜ。


「ありがとうございます。ジル様も初日に手を抜いたと仰っていたのに24位とはさすがですね!」


「う~ん……まぁこんなもんだよな」


 できれば20位以内に入りたかったが初日がな……。それに2日目の体力テスト。これもいくら本気を出したところで俺の素の体力は女子の平均より下だからな、結果も悲惨なことになっている。それでも総合順位は600人中24位なんだから悪くはないけどさ。

 ちなみにククルは2位で、ティリカは14位、そしてミュランは98位だ。あと何気にリーネルカが総合5位と超優秀な成績を収めているのが意外だった。


「来年はアリサに負けないからな」


「じゃあまずは体力をつけないといけませんね。体力テストで私に勝たない限りジル様に勝ち目はありませんから。……ふふ、夜の運動、頑張りましょうね」


 耳元に色っぽく囁かれた。

 く~~~~~~~~~~っ、こんなこと言われたら襲いたくなっちゃうじゃないか!!


「おい、君達」


「はい?」


 おでこにキスくらいで我慢しようかと悩んでいたら男子学生に声を掛けられた。


「君達はアリサとジルだよな? ならあそこに書いてあることは事実なのかい? ――いや、そんなの君達の態度が証明しているのは分かっている。でも僕達は君達の口から直接聞きたいんだ」


 ふと見れば誰も彼もが俺達を凝視している。

 その目はあの『アリサ・フィーリアとジル・クロフトは正式に交際を始めました』と書かれた垂れ幕は本当なのか? と語っている。

 ……うん、皆の意識はこっちに釘付けだし頃合いだな。


「その通り!! 俺はアリサとお付き合いをしている!! つまりどういうことかと言うと、アリサはもう俺の女だからお前らは手を出すなってことだ!!」


 拡声魔法を使って力強く宣言してやった。

 これでここにいる全員に聞こえたはずだ。ということは学園全体に暴露したも同然で、冒険者や貴族もいるからもはや世界中に知れ渡るのも時間の問題だろう。

 俺の発言は本当なのかと周囲はどよめいている。

 そこへ追い打ちをかけるようにアリサが前へ出た。


「私アリサ・フィーリアは、ジル・クロフト様を“主人”、そして生涯のパートナーであることを認めました。なのでこれ以上の私へのアプローチは無駄です。それでも諦め切れない方は姉のティリカへシフトしてくださいね」


 これが決め手となった。

 周囲は俺達の交際が事実だと受け止め、ガックリと肩を落とす者、黄色い悲鳴を上げる者、怒りの声を上げる者、真剣に何か考え事をする者、興味を失くし立ち去る者と様々な反応を示し、そして――。


「認められるか……!!」


 頑なに否定する者が現れた。


「んー、とりあえず言い分を聞きましょうか」


 この展開もぶっちゃけ飽きてきたんだけど、周囲の目もあるからちゃんと相手しないといけない。

 なお、イチャモンをつけてきたのは中肉中背のこれといって特徴のない男子学生だ。


「お前みたいな身分も実力も無い奴に彼女は相応しくない!」


「でもほら、俺は実戦魔法学で1位を取ってますよ?」


 正確にはアリサと同点1位なんだけど、タイムは俺の方が早いから俺の名前が1番上にある。


「不正をしたに決まっている! 大精霊様と契約していないお前がアリサさんよりも良いタイムを出せるはずがない!」


 ……つくづくワンパターンだな。


「はいはい、じゃあ貴方に認められないから俺はアリサと別れろと?」


「ふっ、そこまでは言わないさ。ただお前が本当に彼女と付き合えるだけの力を持っているのか証明させろ。……ガーウィン!」


「ガルルルゥ」


 男の影から犬――というよりライオンに近い大きさの精霊が出てきた。なかなかに凶暴そうな顔つきで、敵意を隠そうともしない。推測だけど闇の中位精霊かな。


「おっと、俺も参加させてもらうぜ」


「僕も」


「俺もだ。大精霊の契約者の彼氏なんだからこのくらいの数、ハンデにもならないよな?」


 まだ具体的にどうするかも聞いてないのに次々と名乗り上げ、結果6人の男子生徒&中位精霊が戦闘準備に入った。周りは見ているだけで止める雰囲気もない


「……」


 なるほどね、皆でよってたかって俺を虐めようってわけだ。おー怖い怖い。あんまりに怖いから俺も味方を召喚しちゃおう。


「来い、クロリア」


「ククク、呼んだカいマスター」


 俺の呼び掛けに応じ、影から漆黒のドレスに身を包んだクロリアが登場した。……首輪は外しておけって言っておいたんだけどな。俺の趣味と思われたらどうするんだ。


「なっ、完全な人型精霊だと!?」


 まあ全員純粋に驚くだけで首輪は気にしてないみたいだからいいか。


「ほらクロリア。皆さんに挨拶をしろ」


「ドーモ、マスターであるジルのペットをやっているクロリアだ。分類上は闇ノ上位精霊にアタル。ククク、マスター共々ヨロシクナ」


 横柄な態度で一礼すると、目の前にいた5人の精霊が一斉に逃げ出した。


「お、おい!?」「逃げるな!!」「精霊がビビっているのか……?」


 そしてクロリアから最も近い位置にいたガーウィンは……ゴロンと横になり、つぶらな瞳をして一生懸命お腹を見せ始めた。


「クゥ~ン……クゥ~ン」


「ガ、ガーウィン……?」


「ククク、どうした? モシカシテ私を誘ってルのカ?」


「ブルンブルン……!!」


 寝そべりながらも凄い速さで首を横に振っている。


「クク、ツレナイじゃないカ。同じ闇の精霊ダロ? 互いに首輪モ着けているんダシよ、仲よくシヨウゼ」


「ガクガク……――」


 クロリアらしからぬソフトな手つきで彼のお腹を撫でると、震えなのか痙攣なのか分からないくらいに体を揺らし、間もなく失禁しながら失神した。


「ククク、戦う前カラ戦意喪失とは情けナイ精霊共ダ。……ダガお前らはモウちょっと根性を見セテくれルんダロ?」


「うっ」


 挑発的な笑みを浮かべ、俺と戦おうとした6人に濃厚な殺気をぶつける。

 これはキツイぞ。なんせ心の根っこから恐怖という感情を引き摺り出してくるからな。耐性がないと立つこともままならないかもしれない。

 とか思った矢先に6人ともヘタリ込んだ。しかも2人ほど泡を吹いている。……うん、そろそろ止めるか。アリサもクロリアが間近にいる所為で居心地が悪そうだしな。


「クロリア――」


「フン、どんな異常事態かと思えば闇の問題児の仕業か」


「学長!!」


 うわぁ……よりによってこのタイミングで来るか。


「これはこれは土の大精霊様。ご機嫌麗しゅう」


「ほう、形だけでも挨拶できるようになったとは随分と成長したではないか。案外上手くやっているようで安心したぞ。アイツが聞けば喜ぶだろう」


「オット、小言はタクサンだ。マスター、ソウイウわけダカラ私は戻るゾ」


「ちょい待て……!!」


 制止も空しく俺の影に引きこもってしまった。逃げやがったな……!!


「さて」


 学長が俺とアリサに視線を向けた。

 アリサは平然としている様に見えるが、俺の腕を握る力がちょっとだけ強くなっている。


「学長! あの女みたいな奴は危険です! あんな凶悪な精霊を従えている時点で普通じゃありません! クロスセブンから追い出すべきです!」


 最初に喧嘩を売って来た男がそう訴えると、うんうんと他の5人も続いた。

 ……ちっ、面倒な。どうせならクロリアも失神させてくれればよかったのに。公衆の面前で学長と揉めるわけにはいかないしどうしようか……。

学長は大きく溜め息を吐くと――。


「愚か者め!!!!!!!」


「っ~~~~~~~~~~」


 6人にこちらまで痺れる程の一喝をした。


「6人掛かりで1人を倒そうなどと、よくもまあそこまで恥知らずな事ができるものだ。あげく手も足も出なければ俺を頼って追放などと……貴様らそれでも男か!!」


「「ひっ」」


「見ていた貴様らも同罪だぞ!! いくらジル・クロフトの力が知りたかったからとはいえ、この不公平な戦いを見逃そうとしたのだからな!! さあ、己が恥を思い知ったのならとっとと行くべき場所へ消えろ!!」


 学長の声にみな慌てて走りだし、数百人はいた集団がものの十秒で解散させられた。

 俺はと言うと、きっとポカンと口を開けていたと思う。


「お前達はこっちだ。その腐った根性を叩き直してやる」


「うわあああ」


 6人はそれぞれゴーレムに乱暴に担ぎ上げられ、校舎の方へと連れて行かれる。そして後に残ったのは俺とアリサと学長だけ。


「さて2人とも」


「「はい!」」


 アリサと一緒に背筋を伸ばす。


「本来は黙ってあの垂れ幕を設置させたことを叱るべきなのだが……今回は不問としよう。バカな奴らが迷惑をかけたせめてもの詫びだ」


「い、いえ、学長が悪いわけではありませんので!!」


「フン、らしくない殊勝な態度だな。……アリサ・フィーリア」


「はい」


「その“愛”を貫いてみせろ。貫き続ける限りは俺が応援してやる」


「ありがとうございます」


「うむ」


 学長が見たことがないほど優しい顔をしている。

 これは……誰かとアリサを重ね合わせているんだろうか?


「ではな。節度をわきまえつつも、学生らしい青春を送れ」


 そう言って校舎へと歩いて行った。

 えっと……。


「……私は正直スイレン様以外の大精霊はそこまで尊敬していなかったのですが……」


「分かるぞ。たぶん俺も今アリサと同じ気持ちだ」


 ――それから俺たちの関係は瞬く間に広まった。しかし学園内では学長が目を光らせてくれた為、俺達は予想外に平和な学園生活を送ることができ、学長に感謝する日々が続くこととなる。

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