第40話 イチャイチャ
彼女がいる――。
あぁ……なんと素晴らしい響きだろうか。
その事実だけで心は弾み体に活気が漲ってくる。世界も明るく照らされかたの様に光り輝いて見えるし、なんだか空気すら美味しく感じる。うっとうしいと思っていた男子ですら今なら慈愛の心で接することができるかもしれない。昨晩もあまりにテンションが上がりすぎて一睡もしていないんだけど全然眠くないどころか調子がいい。
つまり彼女すげえってことだ。
やべえよマジパネぇ。どんだけ彼女すごいんだよ!?
たった1日でこれだけの効果があるんだから1週間、2週間、1ヶ月後とかはどうなってるんだろ!? このわくわくうきうき気分も少しは落ち着いているのかな? それとももっと大変なことになっているのだろうか? ……うん、どっちでもいいけど早くアリサに会いたいなー。会っていろいろお喋りしたい。昨日はアリサへの気持ちがうんたらかんたらとか言ってたけど、俺の心はもうすっかりアリサ一色に染まっているのだった!!
「おお~~~~~~~~~~っ、すっげぇーーーーー!?」
ん? クラスメイトが盛り上がってるな?
「はぁ……はぁ……どうですか!?」
「記録17秒56。まあまあですね。スイレン様の契約者なのですからこのくらいはできて当然でしょう。たった17秒でそこまで息が上がるのは気になりますが……これからも精進することですね」
「は、はい……!!」
どうやらティリカが実戦魔法学のテストで好成績を収めたらしい。
しまったな、アリサばっかり考えていたからティリカの勇姿を見逃した。今はテスト中でもあるんだし頭を切り替えないと。……早くテスト終わんねえかなー。
「まったく……クーミル先生はもっとティリカさんを素直に褒めてもいいんじゃないですか? 学年2位の成績ですよ?」
「私からすればジルロット先生の方が甘く思えますね。3位のククルさんと2秒しかタイムが違わないのですよ? あれ以上どうやって褒めろと言うのですか? 過剰な称賛は人を堕落に追い込むだけです」
「やれやれ、相変わらず厳しい価値観をお持ちだ。……では次、ジル・クロフトさんどうぞ」
「はい」
このテストは指定された範囲内に存在する40の的を1分間で可能な限り破壊するというもの。手段は何でもいいのだが、動かない的もあれば素早く宙を飛び回る的、生半可な攻撃なら防御する的、さらには攻撃してくる的もあり、なかなか難易度は高めだ。
1年生なら時間内に半分破壊できれば優秀、2年なら全て破壊できて優秀、3年なら40秒を切れて優秀といったところかな。だからティリカとククルは学園全体で見ても優秀な部類に入る。ちなみに全学年トップは今のところアリサの5秒43。さすがは俺の彼女だ。
「緊張せず、リラックスして挑んでくださいね。あなたの実力なら半分壊すことも十分に可能なはずです。頑張ってください」
「はい」
位置に着く。
的はすでに配置されており、スタート前から狙いをつけるのは容易い。それでも昨日までの俺なら8割の破壊に留めていただろうが――。
「それではいきますよ、3、2、1……始め!!」
「はぁっ!!」
開始と同時に全ての的を風で粉砕する。
うん、やはり調子がいい。間違い無くアリサ効果だな!!
「記録0.64秒。くすくす、やはりあなたは別格ですね。見事な魔法でしたよ。ようやく実力を隠すのをやめるのですね?」
「ええ」
「それは楽しみです。あなたに触発されて少しでも学園のレベルが上がることを期待しましょう」
「……」
「……」
ジルロット先生、ティリカ、クラスの皆が信じられないものに出逢ったみたいな顔をして俺を見つめてくる。今後はこういう顔を見る機会が多くなるかもな。なんせ俺はアリサと付き合っていくんだから。
……アリサがただの学生なら難しい問題はない。普通のカップルとして日々を過ごせばいい。しかしアリサは大精霊の契約者。世界中の人が彼女を狙っている。そこにただの一般人が交際を宣言したところで横やりが入ることは必至だ。俺だけが被害に遭うのならまだいいが、アリサにまで嫌がらせがいくのは耐えられない。だから余計な邪魔をさせない為にも俺は立場を強くしなくてはいけない。
その第一歩が学生最強。とりあえず学園で最強になっておけば少なくても同じ学生からは文句がでないだろう。これからは遠慮なく実力をオープンにしていくぜ。
「それで残りのテストも全力でやったんですか?」
「うん。でも昨日はけっこう手を抜いたから総合1位はおろか10位以内にも入れるかどうか怪しいって感じかな」
「では私とジル様のカップルで1位と2位を独占はお預けですか」
「お~、さらっと自分が1位発言が出ましたね」
「当然です。ジル様の彼女ですからね」
「ん~~~~~~~~~~彼女とか照れること言ってくれるじゃないか……!!」
「ふふ、くすぐったいですよ~」
後ろから抱きしめるとアリサが笑いながら体をくねらせる。
ヤバい、超可愛い。
ときめきすぎてキュン死しそうだよ……!!
ああ、今からこんなんでもつかな?
――そう、これからアリサと放課後デート……!!
部室で着替えてきたから俺は私服でアリサは制服。時間もそれほどないから適当にクロスセブンを歩き回るだけだが、それでも俺達にとっては初めてのデート。テンション上げるなって方が無理だ。
だが浮かれすぎは禁物。ここは男としてアリサをリードしなくては。
まずは……。
「なあアリサ。手、つないでみない?」
抱きつくのをやめ、スッと手を差し出す。
「いいですね、是非つなぎましょう!!」
彼女の手を壊れ物を扱うように優しく触れてゆく。
ただ握るだけじゃないぞ。
指と指を絡め合わせる恋人つなぎだ……!!
「……」
「……」
いい。
いいよ。
凄くいい……!!
アリサのほっそりした手から伝わるほのかな温かさと、手の密着具合が堪らなく素敵!! いつまでもこうしていたいくらいだ。
「ふふ、私達、周りからはどう見えるんでしょうね?」
言われてやっと周囲に人がいることを思い出した。
ふむふむ、俺達がどう見えるかか……。
「百合ップル……?」
「もう! 百合が余計です……! 素直にカップルだけでいいじゃないですか!」
「ごめんごめん、つい照れちゃって……。でも怒ったアリサも可愛いよ」
笑顔で謝罪する。
「……ジル様のバカ。そんなんじゃ騙されないんですから……」
ぐはっ!!
みるみる顔を赤くしてそっぽを向くアリサとか卑怯すぎるだろ!? 思わぬ大ダメージを受けちまったぜ。なのでアリサを見て回復。癒されるわぁ……。
「って、そうだ……!! いい機会だし、そろそろその“ジル様”ってのやめない?」
前々から気になってたんだよなー。
「!?!? どどどど、どうしてててでしょう……?」
おお? めっちゃ動揺しているぞ。
「いや、だってさ、俺達付き合ってるんだよね? 恋人に様付けで呼ばれるのはちょっと変だと思うんだ」
「変じゃありません! 至って普通ですぅ!」
「そうかぁ? でも様で呼ばれると俺の方が優位みたいでモヤモヤするんだけど……。ね、お願いだからジルって呼び捨てにしない?」
「ヤです。絶対に嫌です! ジル様が髪を切るのを嫌がるのと同じくらいに嫌です!」
それは相当だな……。
「何でそんなに嫌なんだ?」
「私はメイドとして生きていくと決めた身。ですから例え恋人であろうと、仕えるべき主を呼び捨てなどとても畏れ多くて……」
あ、やっぱり俺ってアリサの主人ってことになってるんだ。
となると――。
「じゃあご主人様命令。せめて2人っきりの時は呼び捨てにすること」
「……それに私がメイド服を全く身に付けていない時、という条件も追加してくださるのなら善処します」
「OK、それでいこう」
とりあえずの落とし所としてはこんなもんだろう。
「さあさ、こんなデートっぽくない会話はやめてあそこの店に寄ってみませんか? おそろいのマグカップとか買いましょう!」
「いいね!!」
よっしゃ、めーいっぱい楽しむとするか!!
「相変わらず男性の部屋とは思えない場所ですね」
時刻は20時を廻り、外はとうに日が落ちている。
デートを満喫した俺は暗くなってきたからと、スイレンやアリサ達が暮らす屋敷へ送ろうとしたのだが、アリサが最後に俺の部屋に行きたいというのでご招待した。もう遅いとは思うのだが、俺もまだアリサと一緒にいたかったからな。
「まあね。我ながらなんでこんな部屋になったか不思議だよ」
「あの淡いピンクのカーテンが元凶のような気がしますが……む、怪しい物発見!!」
とうっ、とベッドにダイブし出した。
「ん~~~~っ、ジル様の匂いがします……!!」
枕に顔を埋めて足をバタバタしている。
俺の部屋に来て舞い上がっているのか、それとも周囲の目がなくなったからなのか少し子供っぽくなっている気がする。
「ほらほらパンツが見えてはしたないぞー。それに2人だけの時はジルって呼び捨てにする約束だろ?」
本当は大人っぽい黒のショーツに興奮気味なんだけど、鋼の意思で欲望を押さえつける。
さすがに“する”のはまだ早い。そういうのはもっとムードが高まってからじゃないと。
例えばイチャイチャとじゃれ合う内にふと目が合い、自然とお互いが引き寄せられるようにキス。そして次第にキスは激しくなり相手を求める欲求はさらに高まって遂には体へと――とかが理想の1つだよな。むらっとした程度でするなんて全然ロマンチックじゃない。
まあそれに何より初めてのデートでするなんて早すぎる。もっと大事にしていかないと。だからとっとと消え失せろ煩悩め!!
「今履いているソックスはメイド服を着ていた時にも身に付けていた物です。つまりこのソックスはメイド服の一部も同然。約束した『メイド服を全く身に付けていない状態』ではないので、様付けOKなんです」
「おいおい……」
枕を抱きしめながら謎の理屈で反論してきた。
たぶんどうあっても呼び捨てにするつもりはないな。俺も絶対に呼び捨てがいいわけでもないから認めてしまってもいいんだが……ふむ。
「じゃあさ、しばらく様付けでいいから俺のどこを好きなったか教えてくれない?」
ベッドに腰を掛け、知りたいような知りたくないような自分でもよく分からないことを尋ねる。
するとアリサも枕を抱きながら俺の隣にピッタリ寄り添ってきた。……この位置もいいが……おい枕よ、そこ代われ。
「話すのは構いませんが、おそらく私にしか理解できないと思いますよ?」
「んー、それでも聞きたいな」
代わる気配がないので枕をポイッと投げ捨てる。
これでよし。
「分かりました。……ジル様を好きになったのはですね、“ジルロット様”にほっぺをむにむにされた時です。あの瞬間から『私はこの人と結婚するんだ』と強く強く心に決めたんです。なので具体的に『どこを』と聞かれるとちょっと困ってしまいます」
「へぇ……」
ということは…………“ジルロット”と初めて会った時からか。なら一目惚れってやつかな。いや、当時の年齢を考えれば無意識のうちに【直感】で俺の正体を見抜いて好奇心が芽生えてそれを恋と勘違いした可能性も……。他にもあの年頃だと――。
「もう、また難しく考えていますね? もしかして不安なんですか? 大丈夫ですよ。私はジル様が大好きですから――」
そう言ってアリサはキスをしてきた。
一瞬で頭が真っ白になる。
「どうです? 不安は解消しましたか?」
不安、不安か……。
確かにそうなのかもしれない。アリサはずっと俺の事を想い続けてくれたんだろうが、俺にとっては急だったからな。本当に俺を好きなのかちょっと自信がなかったかもしれないな。
「ありがとう。不安はどこかに吹き飛んだよ。ん……ちゅっ……」
お礼にと、今度は俺から彼女の湿り気を帯びた唇へと触れる。
「んっ、ふぁ……ちゅっ……ジル様……」
「アリサ……ちゅむ、ちゅぱ…………んは……はむ……」
ついばむ様に、貪る様に、慈しむ様にして俺達はキスを重ねる。
他の一切が頭から消え、アリサ以外なにも考えられない。
「はぁ……はぁ……あむ」
「んん!?」
アリサの舌が俺の口内に入ってきた。
多少驚きはしたもののすぐに受け入れて絡める。
彼女のほどよく柔らかな舌の感触とぬくもりがもう癖になってしまった。
「はむ、んちゅるっ、れろっ……んふ……ちゅぷ……」
気持ちいい……。脳が蕩けてしまいそうなくらいの快感だ……。キスってこんなに気持ちがいいものなんだな。……違うか。アリサとするからこんなに凄いんだ。
俺はさらなる快楽を求めてより舌を絡め合わせ、ぴちゃぴちゃと卑猥な音を立てていく。
快楽と至福の波がどっと押し寄せてくる。
キスでこれだけってことはこの先はもっと凄いんだろうか……? いやそれはさっき早いと――。
「……んは……ちゅ……ぷはっ……はあはあ……ジル様……私も……したいです」
「っ」
アリサの上気した顔と哀願に理性があっという間に崩壊していく。
「いいんだな……?」
「はい」
その言葉を合図に、俺達は息を荒くしながら自分達の衣服に手をかけた――。
………………。
…………。
……。
「ふふ、ジル様。私、今とても幸せです」
「ああ、俺もだよ」
ちょっとした運動を終えた俺達は、そのままの格好で横になって微笑み合いながら、ひたすら余韻に浸っている。
なんとも言えない疲労感と充足感が実に心地良い。
もう死んでもいいやってくらいに満たされている。
「……でも1つだけ言わせてもらうと、ジル様ってその……能力で男性機能を補っているわけじゃないんですよね?」
「え、何で?」
「正直アレはジル様にはあまりに不釣り合いでしたので。……いえ、私はジル様がちゃんと男性と言えなくもないという事実に喜んではいるんですよ?」
「うんまぁ、そんな些細なことよりさ、家に帰らなくていいのか?」
時刻はもうすぐ22時。スイレンが心配して辺りを探し回っているかもしれない。
「些細ではないですが……分かりました、気にしないようにします。スイレン様についてはテストの打ち上げで友達の家に泊まると予め伝えてありますので平気ですよ」
「そっか」
さすが用意周到だ。
「ふふ、ですから今晩はずっと一緒ですよ、ちゅっ」
おっと、不意打ちでキスをされてしまいましたよ。
「やってくれたな~~、ていっ」
お返しに胸を揉んでやる。
「やん、もうエッチなんですから……! でも負けませんよ!」
「んん……ふぅぅ……ん……ちゅ……ぷはっ!! ……おいおい、またしたくなったらどうするんだよ?」
「その時はその時です。あむ、ん……ちゅぅ……ちゅる……」
こうして俺達はじゃれ合いながら、朝まで最高に素敵なひと時を過ごしましたとさ――。




