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1.5mの世界  作者: 粗井 河川
2章
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第37話  1-8クラスは今日も平常運転です

「おっはよーーー!!」


 久し振りの学園!!

 クラスメイトにとっては半月、俺にとっては実に1年振り。すっかりテンションが上がった俺は皆を驚かせようと窓から教室に入ってみた!!


「だからっ、ジルは“男”なんだよ! 本人もそう言ってるんだから女子更衣室じゃなくて俺達と一緒に着替えるべきなんだよ!」


「そっちこそ何度同じ議論をすれば気が済むわけ!? ジルは女なのよ!? 複雑な家庭環境の所為で男と名乗っているだけなんだから私達が察して協力しないでどうするの!!」


「違う違う。ジルは男よ。そこは間違えないで。でも“彼女”は女子更衣室で着替えるべきね。その点では女子の意見は一致していると言えるわ」


「いやいや、あたしは反対なんだけど……」


「断固抗議する! 我々男子一同、女子の不当な申し出に屈せず、ジルの男の尊厳を守り抜く為に戦う!」


「そうは言うけどさ、あんたらだって内心では女だと思ってるんでしょー? じゃなきゃホモよホモ。……うへへ、それはそれでアリか」


「……」


 この人達、朝から何を話しているんだ……?

 こんなキャラだったか?

 なんか怖いんですけど……。


「!? お、おい、た、大変だ……!! ジルだ、ジルがいるぞ……!!」


「おいおいまた幻覚を――ってマジだ!? ジルがより美少女になって帰って来た!!」


「キャーーーーーかわいいいーー!!どうしたのその髪!?」


 俺に気付くと、皆が一斉に寄って来た。

 やたらと興奮していて危なそうな奴もいるけど、こうして皆が俺の登校を喜んでくれるっていうのは素直に嬉しいな。


「リネア教にはちゃんと入信した?」「ぐふふ、やはり実物は最高ですぜ」「で、処女は無事か?」「やっぱ女じゃないですかーーー!!」「御大の帰還、身が震えんばかりの幸福」「王子とはどこまでいったの!?」「前の方がよかった……!!」「俺とセックスしてく――ごべす!?」「王子と一緒にお風呂入ったの? ねえ!?」


 前言撤回。

 やっぱ嬉しくないわ。


「はいはいそこまでよ!! もうすぐ授業が始まるんだから席に着きなさい!!」


「ちっ」「はーい」


 ティリカが手を叩きながら声を張り上げると皆が席に着き始めた。男子と女子で反応が露骨に違ったが、あえてどちらとは言うまい。


「おはよう」


 ティリカに微笑みながら挨拶する。

 ククルやアリサにしたみたいに抱きつくのは自重した。俺とティリカの仲を考えるとこれくらいが妥当だろう。


「おはよ。アリサから聞いてはいたけど本当に髪が伸びたのね。あれ以上、女っぽくなるなんて……」


「可愛い?」


「はいはい、かわいいかわいい。それよりもアンタの机と椅子はないから早く空き教室から取って来なさいよ」


「はい?」


 なにそれ?

 疑問に思いつつ俺の席を見てみると、確かに何もない。唯一空いているのはティリカの席だけだから席替えの線もないな。

 もしかしてイジメ……?

 それか前のナンチャラ会みたく俺の事を気に入らない誰かが嫌がらせをしたとか……。

 このクラスにいると勘違いしそうになるが、俺は他のクラスの生徒からあまりよく思われていないからな。容姿の所為もあるが、何よりもアリサと同じ部っていうのが気に入らないらしい。『部活を辞めろ』的な主旨の手紙が机に入っていたことも1度や2度じゃない。今回も……。


「一応言っておくと、誰かが意地悪してそうなったわけじゃないわよ。むしろ善意の結果でそうなったの」


「?」


 ますます分からなくなった。


「理由、知りたい?」


「是非」


「本当に……?」


「う、うん」


「あのね、アンタがいない日々に耐えられなくなったある男子がアンタの机に――」


「分かったもういい。新しい机を取ってくる」


 世の中には知らない方がいいこともあるのだ。

 クラスメイトが1人足りないような気がするのもきっと気のせいさ!!



「さあジル昼飯の時間だ!! 男同士友情を深め合おうじゃないか」


 午前最後の授業が終わると同時に、弁当を持った男共に囲まれた。

 もうお昼か。

 あの空間を出て以来時の流れが速く感じる。


「今日は学食に行くからお前達だけで食べてくれ」


 しかしどんなに短いひと時であろうと、休み時間の度にアレコレとセクハラを仕掛けて来るような奴等とお昼などゴメンだ。……ったく、常識を弁えた態度で接すればこっちも譲歩してやるのにな。


「安心しろ。俺、今日はお弁当を作り過ぎたからジルにも分けてやるよ。というか食べて下さいお願いします」


 ……個人的に『男から言われたくないセリフランキング』上位に入りそうなセリフだ。


「あ~~~、俺も何かあんまりお腹空いてないから誰か食べてくれないかなぁーーーチラっ」


「じゃあ学食に行ってくるから」


 無視して席を立つ。

 悲痛な嘆きを聞きながら教室の扉に手をかけると、勝手に開いた。


「およ?」


「こんにちはジル様」


 どうやら扉の向こうにメイドさんがいたみたいだ。

 手にはバスケットを持っているからティリカと食事しに来たのかな?


「これから学食に行かれるのですか? もしよろしければサンドイッチを作って来たので一緒にどうでしょう?」


 女の子に言われたいセリフランキング上位だ!!


「食べる!!」


 もちろん即答。

 それでなくてもアリサの手作り料理とか断る理由がない。

 昨日の件で思う所がないわけじゃないが、それとこれとは話は別だ別。


「ふふ、では用意しますね」


 そう言って教室に入ろうとする。


「え、あ、ここで食べるの?」


「学食の方がよろしかったですか?」


 今もクラスメイトに注目されているし、余計な邪魔が入りそうだから他の場所の方がいいと思うんだが……まあ、アリサが構わないならいっか。


「いや、ここでいいよ。じゃあ俺の席に案内にするな」


 俺が席に戻ると男子連中は意外と素直に離れた。空気を読んだのかそれとも大精霊の契約者相手に下手なことは言えないと思ったのか。たぶん後者。


「なによアリサ。こいつとお昼を食べるつもり?」


 前の机とくっつけたり、机が汚れないように布を被せたりして準備をしているとやや不機嫌そうなティリカがやってきた。


「もうお姉ちゃん、メイド服を着ている時は言葉遣いに気を付けてって何回も注意しているでしょ?」


「あたしにはあたしなりの考えがあるの。それよりあたしも一緒するわよ」


「ダメ。お姉ちゃんは他の子と食べて」


 しっしっ、と追い払うように腕を振っている。


「ちょっとどういうことよ!?」


「俺!?」


 急に矛先が俺に向いた。

 俺に怒っても困るんですが……。


「ま、まままさかあんた達、つ、つつ付き合ってるとか――」


「はーいティリカちゃん、あっちで私達とお食事しましょーねー」


「ちょ、離して!! 離してよ~~~~~~~~っ!!」


 女子達に両腕を抱えられ、教室の隅に連行されてしまった。

 うわー……めっちゃ睨んでるよ……。


「これで邪魔者はいなくなりましたね。準備もできましたし、さっそく食べましょう」


「そ、そうだな!!」


 目の前にはおいしそうなサンドイッチが並んでいるのだ、今はアリサとの昼食を楽しめことに集中しよう。

 俺はまずハムと野菜が挟まれたオーソドックスなサンドイッチを手に取り口へ運ぶ。マヨネーズのほんのりとした酸味がアクセントとなってイケる。マヨネーズってこっちの世界じゃ割と高めの調味料なんだけど、サンドイッチにはよく合うよな。これを選択するあたりアリサは分かっていらっしゃる。

 続いてフレンチトーストらしき物に手を伸ばす。これは何だろう? パンの間にチキンとチーズが挟まっているな。焼きサンドイッチ? ……いや、違う。バターの味がするぞ。パンをバターで炒めたのか!! オシャレなことするな。


「どうでしょうか? お口に合います?」


「ああ、バッチリだ。文句のつけようがない」


「ふふ、よかったです安心しました」


 味もそうだが、栄養のバランスもいい。他のサンドイッチと合わせると主食・副菜・主菜が偏りなくそろっている。それに1つ1つが小さめに作られており、小食の俺でもいろんな種類が食べられるようにとの配慮も感じられる。

 正に食べる人を想って作られた料理だ。

 

 ふむ……。

 そろそろハッキリ認めよう。

 自惚れと言われようとも、もはやアリサが俺に一定以上の感情を抱いていることは確実だ。このサンドイッチからだけでもそれは分かる。嫌いな奴やどうでもいい奴にこれだけ手間をかけるなんて有り得ないからな。

 ……じゃあその感情は何に起因するのか?

 恋慕? 友情? 部員同士の絆?

 

 そうだな、俺が男でアリサが女であることを考えれば恋が最も可能性が高そうだ。

 だが俺の『容姿』を考慮するとどうだろう? アリサは昨日の会話からも分かる通り、俺が男に見えないと思っていることは間違いないのだから、恋の線は消えるよな。

 うん、『アリサは俺がフロルだと気付いている』のなら恋というよりも“敬愛”の方がしっくりくるな。彼女にとって俺はちょっと変わった親、あるいは“ジルロット”の事も考えて兄と思っているんじゃないか? そうすればこれまでの彼女の行動も全て説明できる……かも。


 はっ、待てよ!?

 そもそもメイド服を着て俺と接してくるんだから『私は仕事で仕方なくお前と接しているだけだからな? 勘違いするなよ?』って言ってるも同然なんじゃ……。俺は何を恥ずかしいこと考えて――いやいや、さすがにこれはネガティブすぎる気も……。


「う~ん……」


「ジル様、何やら深く考えすぎて変なこと想像してませんか?」


「あ、ああ、ごめん。昼飯の途中だったな」


 いかんいかん。つい結論を急ごうとして我を失っていたみたいだ。落ち着かないとな。

 ふぅ……。


「あのですね、ジル様は物事を理屈で捉え――」


「失礼するぞ。お前がジル・クロフトだな?」


「はい? ええ、そうですが……」


 やたらと偉そうな男が食事中だというのに何の遠慮もなく割って入って来た。

 態度からして上級生なんだろうが何の用だろ? まあ俺が喜ぶような用事ではないんだろうな……。


「サンフレアの事件、聞いたぞ。お前だけ何もしなかったそうだな? あのミュラン王子ですら多少の活躍はしたらしいのに」


 心底バカにしきった目だ。

 ふーん……あれから5日ほどしか経ってないのにもうクロスセブンの一介の生徒が事件の詳細を知っているのか。少し驚いたな。


「お前みたいな意気地なしはカルカイムの恥だ。俺だったらあまりの情けなさに外に出られないぞ。なのにお前ときたらよくもまあ平然としていられるもんだ。羞恥心というものがないのか?」


「……」


 こう思っている奴はこいつだけじゃないんだろうな。

 あー、俺だけ何もしなかった事にしたのはちょっと失敗だったか……。


「だいたい男を自称する癖に何だその格好は。そんな女々しい姿をしてアリサ・フィーリアの隣にいたら彼女の品格が落ちるだろ。少しでも彼女を思う気持ちがあるなら2度と彼女に近づかないで欲しいものだ」


「さっきから黙って聞いていれば――」


『そこまでだ!!』


「あぁ!?」


 アリサが腰を浮かすとほぼ同時に、先輩がレイピアを持った覆面3人組に囲まれた。

 …………。

 は?


「先ほどからの聞くに堪えぬ戯れ言」「そして我らが聖域を穢した罰」「しかと受けてもらう」


「な、何だお前達は!?」


「我ら三騎士」「御大に忠誠を誓いし僕にして」「黒に滲む惨禍の代弁者」


 覆面達から学生のレベルを超えた魔力を感じる。


「お、俺を誰だと思っている!? 俺はカルカイム王側近の大臣の四男だぞ!?」


 マジで何が起こってるんだ……?

 アリサを見ると彼女も目を点にしている。


「荒涼たる大地を血で満たそう――」「静寂な愚民を悲鳴で沸かそう――」「漆黒の空に贄を捧げよう――」


 うお!? 魔力が物凄く荒ぶっている!?


「わわわわかった……!! 俺が悪かった、悪かったから――」


『断末魔の鬼胎を以て我らの糧となれ“渦状六芒(フラクタルスペクトル)”』


「うわあああああああああああああああ」


 先輩の足元によく分からない黒の模様が現れ、瞬時に彼を呑み込む。


「私共もこれで」「残りの時間」「ごゆるりと」


 覆面3人衆も模様に飛び込むと、役目を終えたのか模様は跡形もなく消え去った。


「……」


 何、今の?

 最初から最後まで訳が分からなかったんだが……。

 アリサも目頭を押さえて唸ってる。まるで計算外の事態が起こったかのようにも見える。

 そして混乱する俺達に比べてクラスメイトは実に平然としており、誰も今の出来事について突っ込まず、食事やお喋りを再開している。ティリカですらやれやれと首を振るだけだ。

 ……あ、そう言えばさっきよりも男子の数が随分と減っている。女子も数人いないな。

 ……。

 怖ええええ……。何なんだよこのクラス……。

 俺がいない間に何があったんだよ……。


「えっほん。えーとですね、明日から公開テストですよね? その間、部活は休みですが“大事な話”がしたいので明日の放課後、お時間いただけないでしょうか?」


 ――。


「ああ、いいよ」


 今のコントが頭から吹き飛んだ。

 明日、明日か……。

 話の内容次第では――俺も覚悟を決めよう。




 余談。

 先輩は翌朝、笑顔で学園の草むしりをしている姿を発見された。どうやら一晩中草むしりをしていたらしく、体の心配をした先生が声を掛けるも『邪魔をするな!』と持っていた草で突如襲い掛かり、なんやかんやの末1週間の停学処分を食らったそうだ。

 この日から学園7不思議として『全裸職員室事件』の他に『三騎士』の話が噂されるのだが……これはまた別の話である。

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