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1.5mの世界  作者: 粗井 河川
2章
89/144

第36話  ペンダント

 彼女が欲しい。

 そう思ってからもう何年経っただろう。

 前世も合わせれば20年くらいはいったんじゃないか?

 これまでは欲しいと言いながらも、あーだこーだ理由をつけて彼女をつくろうとはしてこなかった。

 だがそんな情けない自分とも今日でさよならだ。

 俺は今から輝かしい日々への第一歩を踏み出す。

 彼女をつくるにはそう――ナンパだ。


「やるぞ……!!」


 街行く女性を眺めながら自分を奮起。

 クロスセブンには各国から様々な人が集まってくる。種族も多様だし、可愛い系、美人系、カッコいい系も勢ぞろい。まさに選び放題だ。

 だが誰でもいいわけじゃない。

 俺にも好みはある。

 そうだな……知的なお姉さんとかいいかも。なんかクロノスに甘やかされてからそっち方面に目覚めた気がするんだよな。膝枕されながら耳掻きとかしてもらいたい……!! だからエルフとか狙ってみようか。あの人達は寿命が長いからお姉さん属性を持っている人が多いでしょ、だぶん。

 あるいはロリババァでも可。『のじゃー!!』とか言う人に甘えてみるのも楽しそうだよな。……天使族よりも希少だろうけど。


「おっ」


 綺麗な金髪エルフの女性を発見。

 胸もあるし見た目は文句なしだ。

 早速話しかけてみよう。

 ふふ、今の俺は【自由自在】で積極性MAXだからな、初めてのナンパでも躊躇せず男らしくいくぜ!!


「ねぇ、お姉さん。暇だったらあそこの店でお茶しない?」


「あら? ……うふふ、これは可愛らしいナンパね。でもごめんなさい。私、男の方が好きなの。貴女も女じゃなくて男と付き合ったらみたら? じゃあね」


「……」


 ま、まあ、1人目だもんな。こんなもんだろう。むしろ初めての割に上手くいった方さ。

 さ、気持ちを新たに今度はあの女性にアタックだ!!


「お姉さん暇ですか? よろしければあそこの店で僕と一杯どうですか?」


「まあっ、ボクっ娘なんて久しぶりに見たわ!? しかもレズだなんてとっても珍しい。ありがとう、故郷でいい土産話になるわ。それじゃあね」


「……」


 うん、まぁ、予想はしてた。

 出来る限り男っぽい服装と髪形にしてみたんだけど、やはり男に見えなかったか……。でもたかが2回だ。諦めるにはまだ早い。元々そう簡単に上手くいくとは思っていなかったし、どんどん声を掛けて行こう!!


 そしてしばらく頑張った結果――。


「もう、お姉さんをからかわないで。そんな格好したって貴女が女の子だってことくらい分かるわ。胸がないからって自分を男だなんて貶しちゃダメよ。すっごく可愛いんだからもっと自信を持って。ね?」


「あ、ありがとうございます……」


 ナンパしたのに何故か励まされたり、


「ねえねえ、君カワイイねー。そのボーイッシュ? な格好、似合ってるよ。でも俺は君が女の子らしい服を着た所も見てみたいなー。俺がお金を出すからさ、あの店とか覗いてみない?」


 逆にナンパされたり、


「なになに君って女性に興味あるの? はっはーん、それって今まで付き合ってきた奴がダメ男だったからでしょ? 君みたいなタイプは俺のように強くて――」


「失せろ」


「ひいいいいいゴメンなさーーーい!?」


 ナンパされたりし、僅か2時間ちょっとで女性8人にフラれて男9人をフるという散々なことに。


「……」


 話しかけた女性全員に女と思われた事はこの際どうでもいい。問題なのは俺がナンパした回数よりもされた回数の方が多いってことだ!! 何だか以前よりも声を掛けられる率が上がってないか? 髪か? 髪が伸びたからか!?

 まあ理由はどうであれ、このままだと野郎相手に時間をとられてしまうから対策を練らねばいけない。女性に相手してもらいたいのに何が悲しくて男なんぞ相手せにゃいかんのか。

 ふむ……。

 例えば男が近づかない場所に行くのはどうだろう? ランジェリーショップとかなら男はいないよな。余計な邪魔は入らないし、服の話をしながら極自然に女性と会話もできる。そうして折を見て俺が男だと打ち明ければ――うん、完璧だ!!


「って、そんなわけあるか!!」


 笑われるか怪しまれるかの未来しかみえない……。

 うぅ……わかっちゃいたが俺の容姿が足を引っ張りまくりだな……。この体は好きだけど、今回ばかりは恨めしい……!!


「1人でノリツッコミなんてされてどうしたんですか?」


「んー?」


 耳慣れた声に振り向けば、そこには制服を着たアリサがいた。


「ちょっとな。大したことじゃないから気にしないでくれ」


「悩んでいますーって顔に書いてありますよ? そうですね……これからお昼を食べに行こうと思っていたので一緒にどうでしょう? 相談に乗りますよ?」


 昼食……。そうか、その手があったか!!


「いや、大丈夫だ。誘いは嬉しいけど1人で食べてくれ。こっちも1人で何とかするから」


 考えてみれば昼食はナンパの絶好の口実。この前オープンして人気の『甘水』に誘えば俺が女だと思っても付いて来たくなるはずだ。

 ふふふ、アリサには悪いが今日の俺は本気なのだ!!


「ダメ、ですか……?」


「うっ」


 その上目遣いは卑怯だろ……。


「サンフレアの観光ではジル様とあまり行動できなかったのでチャンスだと思ったんですが……迷惑だったでしょうか……?」


「あー、そんなことないぞ。さぁ早く行こうじゃないか!!」


「わー!! ありがとうございます!!」


 俺の本気って弱いなぁ……。




「はぁ、それで8人に話しかけて全員に女と間違われたと」


「そうなんだよ。何がいけないと思う?」


「何もかもじゃないですか? そうやって物憂げにグラスを揺らす姿とか色気すら感じますもん。これで男なんて言われてもよっぽど素直な人じゃないと信じてもらえないでしょうね」


 食事しながら先ほどの事を話してみたが、アリサは呆れ顔だ。

 色気を出しているつもりはないんだけどな……。


「前にもチラッと言いましたが、男に見られたいなら髪を切った方がいいですよ。切っても男には見えないでしょうが、少なくてもロングよりかはちょっぴり男っぽくなるはずです」


「やだ」


 絶対に切るもんか。


「じゃあ諦めるか、ジル様を男だと知っている人と付き合うしか他に道はないと思います」


「身内か……」


 パッと思い浮かぶのはスイレンとクロノス。

 でもスイレンは家族並に距離感が近すぎてイマイチそういう感情にもっていきにくいな。クロノスもあの時“契約”していれば違う関係になったんだろうけど……。


「むー」


「ん? どうかした?」


 アリサが膨れっ面をされておる。

 その顔もけっこう可愛い。


「何でもありません!! ……あ、すいませーん。このスペシャルパフェお願いします」


「え、それ頼むの!?」


 怒った顔を急に笑顔に変え、普通の3倍の大きさのパフェを注文し出した。……何を怒っていたんだろうな。女の子の感情って偶に山の天気のみたいに変化するから難しい。


「普通のパフェの3倍程度ですから余裕です」


「1人前しっかり食べた後じゃきつくない?」


「私はスラム出身ですからね、食べられるんだったら食べておこうという考えが染みついちゃってるんです」


「へー……そーなんだー」


 ヤバい、こういう時ってどう返事をしたらいいのか分からん。


「それと基本的に必需品以外は持たない性格になっちゃいましたね。嗜好品なんて持ってても腹の足しにはなりませんから欲しいと思えないんですよ。逆にお姉ちゃんは貧しい生活を経験したからこそ、高価な物に憧れていますけどね」


「はー、なるほどねー」


  もっと高い物を買ってあげた方がよかったかもしれないな……。今度スイレンと反省会をしないと。


「そんなわけで私が持っているアクセサリーはこれだけなんですよ」


「どれどれ――」


 ポケットから取り出したのは、盾を象ったペンダント。なかなか悪くないデザインだけど、大精霊の契約者が着けるにはかなり安っぽい。


「持ち歩くだけで着けないのか?」


「これには対となる剣のペンダントがあるんですが、今はとある方に貸しているのでそれが返って来るまでは着けないと決めているんです。どうせならセットで使いたいじゃないですか」


「……」


 そうかこれが……。


「ちなみに貸した方はフロル様です。あの方は約束を破るような人ではないので、いつか必ず返してくれると信じています。……ふふ、失くさないに大事にしてくださると嬉しんですが」


「ああ、きっと人目に付かない所にひっそりとしまっているんじゃないかな?」


 あれは俺が持っていていい物じゃないから亜空間にしまってある。もうフロルに代わる必要はないと思っていたけど最低あと1回は代わんなくちゃいけないのか。


「個人的には身に付けていて欲しい気持ちもありますけどね。……あ、そうそう、そのペンダントにはちょっとした細工がしてあってですね、私にはそのペンダントの在りかが分かるようになっているんですよ」


「――っ」


 嘘だ、と言いそうになるのを堪える。

 これはアリサの罠だ。あのペンダントは調べ尽くしたが正真正銘ただのペンダントで特殊な機能など一切なかった。しかしそれを指摘すれば俺がフロルですと認めるも同義。さすがにこんな初歩的トラップに引っかかるのは恥ずかしい。


「ふーん、じゃあ今はどこにあるんだ?」


 この質問には答えられないだろうから――。


「どこにもありません」


「え?」


「この世界にはないんです。正確にはこことはちょっとだけ違う亜空間のような場所、でしょうか……? 距離的にはすぐそこなんですが……」


「――」


「あ、パフェが来ました!! ……ん~~~っ幸せです!!」


 アリサはおいしそうにパフェを頬張っている。

 俺はその姿を嫌でも注目してしまう。

 彼女は一体どこまで気付いているのだろうか……? 全てを理解しているのか、それとも理解したふりをして揺さぶりをかけているのか、あるいは俺の思い込みなのか。

 いや、甘い考えはよそう。

 アリサは全部分かっていると思った方がいい。

 おそらく学園の屋上で会った時からすでに……。

 そう考えると今の会話は遠まわしに『そろそろ打ち明けてくれませんか?』と言っていたのかな。

 俺は話すべきなのだろうか……?

 それとも黙ったままの方が……?

 もちろんすぐに答えが出るわけなかった。

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