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1.5mの世界  作者: 粗井 河川
2章
87/144

おまけ   クロノスといっしょ

“1日目”


「あなたにはここで1年を過ごしてもらう。私の邪魔をしなければ好きに過ごしていい」


 こちらを見ず、ルービックキューブを弄りながらクロノスは淡々と告げた。

 どうやらもう俺なんか眼中にないらしい。

 だがそんなこと今はどうだっていい。

 問題なのは彼女の言葉だ。

 こんな何もない場所で1年だって……? 辺りを見回してもあるのはせいぜい歯車くらいで、とても時間を潰せる物なんてないぞ。

 冗談じゃない。こんな所で過ごしたら半年もしない内に気が狂ってしまう。何としてでも脱出する手立てを見つけないと……!!



“3日目”


 無理でした。

 隅々までこの空間を探索したけど出口はおろか扉すらない。完全に密閉された空間だ。それでもこうして空気は吸えるのだからどこかしらに隙間があるはずだと何度も何度も調べ直してみたものの、結局は徒労に終わった。

 唯一の収穫はここが半径300mの球体の中であると分かったくらいか。……まぁ、この広さもクロノスが自由に変えられるのかもしれないけどね。


「あー、やる気でねー……」


 脱出できる見込みがない、1年も引き籠らなくちゃいけない、することがない。これらの絶望に加え、クロノスに負けたことも地味にショックですっかり腑抜けてしまった。

 不眠不休だったし、しばらく寝ようかな……。



“50日目”


 暇だ。暇だ。暇だ。

 暇過ぎて頭がどうにかなりそうだ。

 【自由自在】で呼び出せる暇潰し品はもう出し尽くした。だからアルパカさんに頼んで地球の物を取り寄せてもらおうと思ったけど、ここは外部との連絡を遮断されているため無理。

 じゃあ魔法の練習でもしようかと思えば、クロノスに「魔力の回復はしない。節約を勧める」と忠告されてしまった。でも俺には能力による魔力回復があるもんねーと意気込むも、何故か回復しない。どうやらここにいる限り、俺に起こるあらゆる事象はクロノスによって管理、取捨選択され、彼女が“いる”と判断したものは彼女に吸収されるらしい。つまり自然回復するはずの魔力は全てクロノスのもの。例えそれが能力によるものだろうとお構いなし。とんだチート精霊様だよ。ここにバルディアを放り込めばそれで万事解決しそうなくらいだ。

 ……ゆえに彼女の協力を得られなかったのは残念でならない。いきなり勝負を挑んだ浅慮な自分を呪うぞ。もっと別のアプローチをしていれば違う結果になったかもしれないのに。やはり内心のどこかに負けるわけがないという驕りがあったのだろう。結果、きつい代償を払うことになったがこれも自業自得。甘んじて受け入れるしかない。はぁ……。



“100日目”


 もう限界。


「クロノス様。精神が死んでしまいそうです」


 ルービックキューブを弄っているクロノスに直談判。

 邪魔するなと言われたから今日までずっと話しかけなかったが、遂に我慢できなくなった。することがない。することがないよ……!! 勉強すら一通り終わらせたからとにかく暇!! 適当に髪の毛を掴んで何本掴めたか数えるくらいには暇なんです。

 あと久しぶりに声を発したらパッと言葉が出て来なかったんだけど、肉体の方もヤバいのかもしれない。


「好きに読んでいい」


 その声と共に本棚が出現した。


「おお!!」


 数は少ないし、分厚くて鈍器みたいな本ばかりだから普段の俺なら不満を垂れるだろうが、今は宝の山に見える。


「ありがとうございます!!」


 ふっふっふ、久し振りにわくわくしてきたぜ。

 やっぱ見たことが無い物っていいね!!

 さあ、大事に大事に読むぞ!!



“120日目”


「……」


 12冊目の本をそっと閉じる。

 ダメだこりゃ、俺には理解できない。

 何が『ご存じの通り5次元空間におけるサボレナルフィンク干渉の不可逆性はやっかいな問題だ』だ。ご存じねえよ。

 残念ながら他の本も似たり寄ったりな内容な為、残りの本にも期待できない。俺にはこいつらを読むための前提知識が欠如しているのだ。まあ、暇を潰す為に読むんだけどさ。



“121日目”


 クロノスの観察日記をつけようと思う。

 世界最強を観察することはきっと俺の力になるはずだ。……決して本に飽きたわけじゃないヨ。


「よし、そうと決まれば――」


 迷惑をかけないように基本この空間の隅っこにいたが、クロノスの近くへと移動。要は邪魔しなければいいんだ。クロノスも特に何も言ってこないし好きにさせてもらおう。



“122日目”


 クロノスはずっとルービックキューブを弄ってました。

 時々虚空を見つめることもありましたが、何をしていて何を考えているのかは分かりませんでした。



“123日目”


 クロノスはずっとルービックキューブを弄ってばかりでした。



“125日目”


 今日もずっとルービックキューブを弄ってました。

 自分はなんて暇人なんだろうと思いました。



“126日目”


 彼女のことはよく分かった。

 どうやら彼女はルービックキューブが好きらしい。しかも丸々5日ぶっ続けでやるくらいには大好きだ。

 観察を始める前までは俺が気づかない所で何かやっているのだろうとばかり思っていたが、少なくてもこの5日間は寝る間も惜しんでひたすらルービックキューブをカシャカシャしていた。もしかすると彼女は120日間ずっとキューブを弄り続けているのでは――そんな考えすら頭をよぎる。

 ふむ……。

 よくない。よくないな。彼女はキューブ以外の物にも興味を持つべきだ。余計なお世話だろうが、俺もすることがないので少々お節介を焼かせてもらう。……とは言ってもアレを出したのは俺だし、アレ以外の物も出し尽くしているんだよな……。

 そうなると……。


「クロノスさんや、今から俺の昔話をしようと思いますがよろしいかな?」


「……」


 無言は肯定と取る。


「じゃあまずは俺が3歳の時の話な。俺にはルーファスっていう兄さんがいるんだけどさ――」


 物なんてなくてもここには俺がいる。

 せっかく2人きりなんだし、絶対に仲良くなってやる。

 幸い時間はたっぷりあるしな。



“130日目”


「そこで俺は言ったんだ『兄様、そこ間違っていますよ』って。そうしたらさ『調子に乗るな!!』と怒ったんだよ。そっからルー兄さんとの冷戦に突入したんだ。いやー、あれには参ったよ」


「……」


 クロノスは相変わらずキューブをカシャってるだけで反応はない。

 この程度じゃ挫けんぞ。



“150日目”


「俺の母さんとククルの母さんは仲がいまいちでな、俺達の前では見せなかったけど影では衝突が多かったんだ。何故だか分かるか?」


「……不明」


「リンダさんは親父の2番目の奥さんなんだが……母さんもリンダさんも一緒に生活を始めるまで互いの存在を知らなかったんだよ。母さんにしてみればいきなり現れた余所者。リンダさんも自分が1番と思ったら2番目。しかも最悪な事に初めて顔合わせした時は互いに妊娠していたんだ。ホント俺の親父ってクズだよな」


「……」


 反応は薄いけど、こちらから質問すれば3割ぐらいの確率で返事をしてくれるようになった。

 まだまだ先は長い。



“180日目”


「ティリカは昔から活発だったけどアリサはそうでもなくてな。感情を表に出す子じゃなかったんだ。……今は違う意味で感情が読めないけどな」


「……」


 うーむ、あれから進展がほとんどない。

 『黙れ』とか言われないから不快ではないんだろうけど、なかなかデレてくれないな。……明日はちょっと変化球でも投げてみるか。



“181日目”


『キャーーやめてーーー!!』


『グゲゲゲゲ、そうは言っても体の方は正直みたいだゼ』


「醜悪なオークが下着越しに粘膜を擦ると、そこから少女の愛液が染み出てきた。少女は苦悶と快楽の混じった息を漏らし、僅かに腰を揺らす。そう、どんなに取り繕うとも彼女も“女”だったのだ」


『ゲゲゲゲ、さあお楽しみといこうカ』 


『いやあああああああ!!』


「興奮したオークは愛液の滴る下着に手をかけ力を込める」


「……」


 クロノスがルービックキューブを動かす手を止め、こちらを凝視している。どうやら興味津々のようだ。俺の昔話よりエロか……。

 ふむ……。

 ちょいとイジワルしてやるか。


「下着はあっけなく布きれと化し、少女の聖域が露わに――ふぁーあ……。喋りっぱなしで疲れたからそろそろ寝るな」


「!?」


 話を中断して布団を召喚。


「せっかくだからしばらく冬眠しようと思う。おやすみー」


「……」


 さーて、どうなる……かな……zzz。



“183日目”


「んん……」


 体がゆさゆさ揺れている。

 なーにぃ……?


「起きて」


 どうやらクロノスの仕業らしい。


「どうかした……?」


「プチプチ出して」


「んー……はい。おやすみzzz」


「……」



“184日目”


「起きて。プチプチが全部潰れた」


「はい……zzz」


「む」



“185日目”


「起きる」


「うおっ!?」


 強めの口調で叩き起こされた。

 軽く殺気が混じっているぞ。


「ずっと寝ていたのでは罰にならない」


「と言われましても、やる事がなくって……」


「話くらいなら聞く。前の続きを話すといい」


 かかったな!!


「えーっと……どんな話をしてたんだっけ? いろんな話をしたから忘れちゃったよ」


「オークに捕まった少女が――」


「少女が?」


「……もういい」


 そっぽを向いてしまった。

 ふふ。機嫌を損ねるわけにもいかないし、これくらいにしておくか。


「ああ、思い出したよ。あの続きな」


 エロ精霊様の為にお話を再開しますか。



“240日目”


「王手。これで俺の勝ちだ」


「……油断しただけ」


「でも負けは負け。大人しく罰を受けてもらおうか」


 苦労のかいあって遂にクロノスと賭け将棋を指す間柄になった。

 無視されることもなくなったし、最初に比べれば格段の進歩だ。

 この調子でさらに仲を深めたいと思うので、どんどん踏み込んでいくぜ。


「はい、俺の事を『にーさん』と呼んでみな」


「にーさん」


「ダメダメ。ぜんっぜん気持ちが籠もってないよ。もっと可愛くあざとくやってくれないと」


「……覚えてるといい」



“241日目”


「王手。私の勝ち」


「むー……」


「罰ゲーム。私を『姉さん』と呼ぶ」


 昨日さんざん俺に辱められたクロノスは嬉しそうだ。

 彼女の願望を聞き出す為にわざと負けたんだが、気づいた様子はないな。

 しかし姉さん、か……。

 いいぜ、俺の本気を見せてやる。


「姉さん!!」


 どうだ!!

 大地に咲き誇る一輪の花の如き笑顔。

 それと共に、迷子になった子供がようやく姉を見つけたかのような安堵と喜びを込めた会心の『姉さん』だ!!


「――」


見るとクロノスは目を丸くして硬直していた。

 あれ、なんか想像よりも大分反応が大きいんですけど。


「もう1回」


 気のせいかやや興奮している。


「姉さん」


 今度は甘えた感じで言ってみる。


「可愛い」


「ふぇっ!?」


 ギュッと抱きしめられた。

 何気にこれが初めてのクロノスとの接触だったのだが……不意打ちを食らった俺はドキドキやら緊張やらで萎縮してしまい、貴重な体験と祝福すべきクロノスとのターニングポイントを満足に楽しめないのであった……。



“280日目”


「ジルはこのルービックキューブの6面全てを同時に見ることは出来る?」


「無理です」


「そう。人はその構造上、立体の全てを瞬時に把握することは出来ない。どうしても限界が存在する。そしてこれは何も視野に限ったことじゃない。聴力、触覚、嗅覚、味覚全てに“知覚限界”がある。では限界を超えるにはどうすればいいか? 最も簡単なのはより上の次元に行くこと。そうすれば下の次元で起きるほぼ全ての事は知覚可能になる。ただ、注意しなければいけないのは知覚できるからと言って対処出来るとは限らず――」


「せんせー!! 意味が分かりません!!」


 前半はなんとなく分かるが、後半はさっぱりだ。


「問題ない。こういった知識はまず全体を知ることが大事。“知らない”と“理解できない”は決してイコールじゃない。――それで高次元に行かなくてもジルが“風の瞳”と呼ぶ魔法のように、代替物を使用して知覚を補うことも可能。むしろこっちの方がポピュラーで――」


 『姉さん』の一件からクロノスは今までが嘘のように積極的に構ってくるようになった。こうして授業もしてくれるし、料理も作ってくれるし、髪も梳かしてくれる。とにかく姉っぽい行動を取るようになり、俺をひたすら甘やかそうとしてくる。俺としては恥ずかしいのだけど、甘えると彼女が嬉しそうなので俺からも時々甘えるようにしている。……癖になりませんように。



“300日目”


 今日は彼女に膝枕をしてもらっている。

 時折頭を撫でてくれるのだがそれがまた心地よい。

 互いに言葉はなくとも安らかな時間が流れていくのを感じる。

 至福だ。



“310日目”


「ボボンボは2000年前から堅物だった。だから軽い性格のシャイニングとはたびたび衝突があったと聞く」


「へー」


 学長達の昔話を聞きながら、俺にはある思いが芽生えていた。

 もうすぐ1年経つ。そうすればクロノスとも……。

 うん、手遅れになる前に思い切って告白しよう。



“320日目”


「姉さん――いやクロノス。お願いがあるんだがいいか?」


「どうしたの?」


 首を傾げる彼女の顔は優しい。最近は口調も柔らかくなってきたし、たまに笑顔も見せてくれるようになった。

 うぅ……何だか緊張してきたがここは大事な場面だからしっかりしないと。

 よし。


「クロノス、俺と契約して欲しい!!」


 なるべく男らしい声でハッキリと伝える。

 言った、言ったぞ!!


「ほん、き……?」


「ああ。俺は心の底からクロノスと契約したいと思っている」


 時の精霊と契約するとどんなメリットがあるのかは知らないし、別にメリットなんかなくてもいい。俺はただ彼女とのつながりが欲しいのだ。ここを出てもまた彼女と会える“確約”と言い換えてもいいかな。

とにかく俺は彼女との関係を残り40日だけで終わりにしたくないのだ。


「…………わ、わかった、同意する」


 長い沈黙の後、彼女は首を縦に振ってくれた。


「本当か!? よっしゃあああ!!」


 ヤバい、かなり嬉しいぞ!!


「よし、じゃあ気が変わらない内に早く契約しよう」


「今すぐ……? りょ、了解した」


「ん?」


 何か妙に動揺しているなと思ったら、天蓋付きのダブルベッドが出現した。

 へ? っと呆気に取られていると、何故かクロノスが服を脱いで乳房やおへそを披露し出した。


「綺麗だ……」


 状況は分からないが、彼女の姿を見たら自然と感嘆の言葉を口にしていた。それだけ彼女の体は美しい。まるで精巧な芸術のように見る者を惹いて止まない。


「……」


 顔を赤くしながら下の衣服にも手をかけている。

 ごくっ。

 見たい。彼女の生まれたままの姿を――。


「って、何で服を脱いでいるんだよ!!」


 寸での所で我に返った俺は、急いで彼女に上着をかける。


「? 契約しないの……?」


「!?」


 しかし彼女は心底不思議そうだ。

 え、嘘、マジで?


「契約ってエッチするの……?」


 ベッドを用意して服を脱ぐんだからそういうことだよな?

 じゃあスイレンと契約しているティリカとアリサも……。


「男女のまぐわいこそが契約……では?」


「え?」


「え?」


 あれ、もしかして噛み合ってない?

 どこかに認識のズレがあるんじゃないか?

 よーく振り返ってみよう。

 ふむ……。


「あー……もしかして、だけど。男女のエッチと勘違いしてない? 俺が言ったのは精霊と人が結ぶ契約だったんだけど……」


「……以前、言った通り、私と、他の精霊は互いに独立しているから……システムが違う。だから私は“契約”できない」


 顔を俯かせてプルプル体を震わせている。


「ごめんなさいーーーー!! 知らなかったんです!! 無知だったんです!! 悪いのは俺だから――ああ待って……!!」


 顔を真っ赤にして行ってしまった……。



“330日目”


 まだ戻ってこない。

 思うに俺は事情を察した時点で押し倒すべきだったんだ。そうすればクロノスに恥をかかせなくて済んだし、俺も晴れて童貞を卒業していた。まあ童貞だったからこそ、そこまで気がまわらなかったんだけどな。

 ああ、本当にすいません。



“335日目”


「猛省する」


「ごめんなさい……」


 15日ぶりに帰って来たクロノスはいきなり俺の衣服をひん剥くと、どこからか用意した1人用の浴槽へと俺を突っ込んだ。そして自分の衣服も脱ぎ捨てると狭い浴槽に無理やり入り、俺を後ろから抱きしめた。

 背中には生乳の感触がしてヤバい。

 それでも心頭滅却して謝罪する。


「でも私と契約したいと言ってくれたのは嬉しかった。今はその真意も理解できる。……心配しなくていい。これが終わった後も会おうと思えばいつでも会える」


「そっか……ありがとうな」


 これで安心して罰ゲームを終えられるな。


「でも私だけ恥をかくのは不公平。ジルももっと赤面するといい」


「うぅ……」


 胸をさらに押し付けてくる。

 こうしてしばらく嬉しいような辛いような生殺しをされるのだった。



“355日目”


「そろそろ1年間でジルが成長するはずだった色んな部分の残りを返す。どこか成長させたい場所はある?」


「うーん、順当に魔力でいいんじゃないかな?」


「魔力の成長部分は私が使ったからほとんど伸びない。それでもいい?」


 よく分からんが魔力はダメなのか。


「そうだな……じゃあ髪は?」


「わかった」


「おお? おお!?」


 髪が急に伸びて後ろ髪がお尻の辺りまで到達した……!!


「ロングヘアーなジルも可愛い」


 早速クロノスが俺の髪を触って楽しんでいる。

 いいね、しばらくは色んな髪形を試してみるか。



“359日目”


「いよいよ明日」


「そうだね」


 いつもとは逆に俺がクロノスに膝枕をしている。

 彼女の髪を梳くいながら優しく頭を撫でる。


「今日はこのままで」


「ああ」


 ゆっくりと、だけど確実に時間は進んでいく――。



“360日目”


「時間。これで罰ゲームも終わり」


「……」


 最初はどうなることかと思ったけど、途中からはあっという間に感じたな。クロノスとの距離もかなり縮まったし悪くない時間だった。


「この扉をくぐれば外に戻れる」


「そっか……」


 名残惜しい気もするが、俺の帰りを待ってくれている人もいる。彼女とはいつでも会えるんだから早く行かないとな。


「外は騒がしいから気を付ける」


「ああ、ありがとう。……それじゃあ姉さん、またね!!」


「行ってらっしゃい」


 彼女の言葉を背に受け、俺は扉を勢いよく開けた――。





“361日目”


「驚いたわー。いきなり現れてジー君にキスするんだもん」


「互いの裸は見たしアレくらい普通。それにあんなのはキスとは言わない」


「嘘!? ジー君の裸を見たの!? え、それでどうだったの? 本当についてたの?」


「それよりもあんな攻撃でやられて情けない。大精霊の名を返上すべき」


「あーあー、聞こえなーい」


「罰が必要。“リネア”の頃を思い出すといい」


「――……あ、ああああああ!! ちょっと何て事してくれたのよ!? 思い出しちゃったじゃない!!」


「いい気味」


「やめてよ!? 自分が崇拝されているなんて恥ずかしくて死にたくなるんだから!!」


「……」


「ちょっと遊んでないで聞きなさいよ!!」

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