第34話 パワーアップ
「はははは、馬鹿な奴等です!! のこのこ死にに来るなんて!!」
「あ、ああ……」
アリサは壁にもたれかかれ、ククルとレキアは床に倒れ伏したまま動かない。
いったい何が……? あの騎士がやったのか? 何で? どうして? 味方じゃないのか?
「おやぁ? 運がいいのがイマすね。へたり込んでオカゲで助かりましたか」
騎士が僕の目の前までやってきた。
その手にはさっき収めたはずの剣が握られている。
だ、ダメだ……怖くて体が言うことを聞いてくれない……。
「ハハハ、どんな情けない奴かと思えばミュラン王子でしたか!! 王子にしてはあまりに覇気がないので一般市民か何かと勘違いしてましたよアハハッハハハハ!!」
僕を嘲笑う姿は隙だらけなのに一歩でも動けば僕は殺されてしまう、そんな確信がある。
「さて、私の存在を知ったからには生かしてオケナイのですが……気分がいい。君には特別にチャンスをアゲましょう」
「チャンス……?」
もしかして助かる? やった!! ……でも僕だけ? 男の僕だけ? ここは戦うべきなんじゃ……いや、僕じゃこいつに勝てない。ジルとアリサには勝てない相手と絶対に戦うなって言われているじゃないか。うん、そうだ。僕に課せられた使命は何としてでも生き延びて誰か助けを呼ぶことだ……!!
「なーに簡単ですよ。そこで寝転んでいる巫女を殺すだけでいいんです」
「――」
「あの巫女だけは絶対に死ンデもらわなければ困りますからね。君が私の代わりにヤッてくれるのなら見逃してあげましょう。あぁ、もしその前に一発ヤリたければ構いませんよハハハハハハ」
「くたばれ下衆野郎!!」
湧き上がる衝動に流されるまま、騎士へと本気で殴りかかった。どうなろうと構うもんか。絶対にこいつを殴ってやる!!
「やれやれ……。こんな破格の条件を無駄にしようなんてバカな王子ですね」
しかし僕の渾身の攻撃はあっさり受け止められてしまった。
「そんな王子はこうしてあげましょう」
「ふべっ」
頭を掴まれた、と思ったら視界が反転して視界が真っ黒になった。……頭が……物凄く痛い。鉄の味がする。床が冷たい。視界がボヤける。体は……まだ動く。
「ハハハ、王子は最後にしてアゲマスよ。殺すのは少女3人を死体に変えてからです。まずは巫女の心臓が抉り取られる姿を見ていて――」
「燃えろ!!」
「ナッ!?」
奴の左手を掴んでそこから僕の魔力全てを注ぎ込んだ炎をくれてやる。
「このクソガキがっ――!!」
「ぐあっ」
激昂した騎士に顔面を殴られた。
炎はもう消えているし、外傷も見られない。ノーダメージか。……はは、でもアイツを怒らせることは出来た。
「雑魚が調子に乗りヤガッテ……。その両腕を切り落としてやる」
抵抗するだけの余力はない。けど構わない。僕なりに意地は見せた。満足だ。
「ええ、よくやりました。後は任せて下さい」
「アリサ・フィーリア!?」
薄れゆく意識の中で見たのは騎士を襲う複数の矢。
よかった……無事だったんだ……。
後はアリサに任せ、よう――。
「いくら大精霊の契約者とて、学生に負けるホド私は弱くないぞ!!」
「その割には私に一撃も当ててないですけどね」
んん……うるさいですね。人がせっかく寝ているのにドタバタドタバタ……。
「ククク、ヨウヤク御目覚メカ」
「!?」
空耳が聞こえた様な気がしましたが、そんなものを気にしている場合ではありません。アリサが騎士と戦っています。
そうです思い出しました。あのクソ野郎に不意打ちを食らったんです。当たり所が良かったのか特に体に異常はありませんし、急いで加勢しましょう。
「凍れ」
「なに!?」
「今ですアリサ!!」
奴の左足を床ごと凍らせて動けなくしてやります。不意を突くことを最優先にした為、文字通り足止めにしかならないでしょうがアリサならこれでも十分でしょう。
「ナイス、ククル!! ……雷掌!!」
「ごふっ!!」
雷を纏った高速の掌底で奴の鎧を打ち砕き、足の氷を引き剥がしながら吹っ飛ばしました。……アリサは格闘もいけるのですね。バチバチっという残響もあって不覚にもちょっと格好いいと思ってしまいました。
「く、くくく……くはははははははは!! お前らミタイな小娘にコレを使うことになるとはナ……!!」
「む」
奴は立ち上がって懐から小瓶を取り出すと中の液体を飲み干しました。何だか嫌な予感がするので今度は体ごと凍らせてやりましょう。
「ハッ、何かしたか?」
「――」
魔法が発動しません。いえ、魔力は消費しているので発動はしているはずです。なのに起こるはずの現象が起きません。……あの液体が関係しているのでしょうか?
「ハハハ、この薬は飲んだ者をあらゆる魔法から守ってくれるんデスよ!! もう君達のヤワな魔法は効かん!! ……副作用はアルが君達を殺すのに支障はナイ!!」
そう高らかに誇示すると無数の炎槍がこちらに狙いを定めてきました。
不味いですね……。魔法が効かないとなるとお手上げです。
「ククルはあの槍をお願いね。私はアイツを叩く」
「倒す策はあるのですか――」
返事も聞かずにアリサが特攻を仕掛けました。魔法は効かないのなら身体強化による格闘戦へ持ち込むつもりでしょうか。
「ふふ、君の動きはもう見切りましたよ。どうしました? もっとスピードを上げても大丈夫ですよ?」
アリサの素早い攻撃を難なく避けています。本当に余裕があるのでしょう、口調が気持ち悪いくらい丁寧です。
「ではこれならどうでしょう」
両袖からナイフを取り出し、すかさず投擲。1本は奴の頬を掠めました。
「ほう? そんな物を隠し持っているなんて少々驚きましたよ」
「んー、もうちょっと試してみないとダメか」
また両袖からナイフを取り出しました。今度は1本ずつではなく、各3本ずつで計6本。指の間に綺麗に挟んでいます。
「何本出そうと――」
「私が用意したナイフには即効性の毒が塗ってあります。主に麻痺・睡眠・幻覚なんかの症状を引き起こすはずなのですが……その薬は毒からも守ってくれるのですか?」
「!!」
奴は明らかにナイフを警戒し始めました。
いいですその調子ですとエールを送ってやりたいのは山々ですが、さっきからもう何十本も槍を防いでいるのでこっちも集中力と魔力が限界です。とっとと決めやがって下さい。
「どうしました? 何を小娘相手にビビっているのですか? そんな弱い心でサンフレアを堕とせると本気で思っているのですか?」
「……っ、黙レ!!」
「ふっ――」
「きゃあ」
騎士が顔を真っ赤にしてアリサに殴りかかった瞬間、激しい閃光と共にけたたましい爆音が鳴り響き、思わず耳を塞いで目を瞑ってしまいました。
「う、あっ、あぐ……」
目を開けると、騎士が足をガクガクさせながら辛うじて立っています。全身はボロボロで鎧も足に申し訳程度にくっついているだけ。誰が見ても瀕死。対してアリサは……無傷。余裕の笑みすら浮かべています。
「い、今のは……手榴弾だナ……? ナンテ物を持ち歩いてヤガル……」
手榴弾……小型爆弾ですか!?
魔法を使わず気軽に高威力を出せる代物ですが、とにかく値段が高く、さらに事故も多いため市場にはほとんど出回っていないはずです。少なくてもそこら辺の店で売っているような物でないのにどこで手に入れたのやら。
「手榴弾は効くのですね。ふふ、たくさん用意してよかったです」
「「――」」
スカートを両手で摘み軽く振ると、カランコロンといくつもの手榴弾が床に転がりました。……あぁ、今日はやけに厚着だと思っていましたがこれらを隠し持っていたからですか。もし暴発でもしたら木端微塵になってもおかしくないでしょうに……。気が狂ってなきゃとてもマネできません。
「オ前……イカレテルぞ……」
「そうですか」
手榴弾の1つを蹴り上げるとまた爆発が起こりました。
そして爆風が収まると騎士が仰向けに倒れたままビクともしません。
「私相手に恐怖するようじゃ大したことありませんね」
勝った、のでしょうか?
「何いまの音!?」
立て続けに起きた爆発のせいか巫女が飛び起きました。見た感じ怪我もありませんし、王子以外は皆無事の用ですね。
「あー……もしかして終わっちゃった?」
状況を察した巫女がばつの悪そうな顔をして頬を掻いています。
「ええ、結局アリサが1人で片付けましたよ」
「そんなことないよ。ククルがあの槍から私を守ってくれたから何とかなったの。私1人じゃ厳しかったよ」
「そうでしょうか?」
殊勝なことを言いますね。足元にはまだ手榴弾が転がっているんですからどうとでもなった気がしますが。
「ああ、これは土で出来た偽物だよ。本物はさっき使った2つだけ。さすがにこれが全部本物だったら重くて動きにくいし危ないよ。……まぁ本当は値段が高くて私のお小遣いじゃ足りなかったんだけど」
「――」
騙されました……。私も騎士も見事にアリサのハッタリに引っかかったわけですね……。でも2個だろうと、手榴弾を持ち歩く時点でおかしいのは確かです。
「物騒な話が聞こえるけどレキアには聞こえなーい。それよりもそいつが目覚める前に縛り付けて目隠しと猿轡を付けようよ」
「賛成」
「そうですね早く――」
「ハーハッハ!! ナニ勝った気でいるんダ!?」
「「!!」」
突如、光り輝く矢が私達の真横を駆け抜けました。撃ってきたのは騎士――ではなくオカマ司教。
「え?」
騎士は変わらず伸びたままなのに、何故かあのオカマからさっきまでの騎士と同じ気配を感じます。
「まさか本体は他者の体を乗っ取れる霊体のような存在……?」
「はぁ? なにそれ?!」
「ゴ名答!! ハハハ、あのゴミ素体に比べてこの体は素晴らしいぞ!! さすが上位精霊なだけある!!」
あのオカマ、精霊だったのですか!?
いえ、そんなどうでもいいことよりこの状況です。策はあるのかとアリサを……見ない方がよかったですね。珍しく冷や汗を掻いています。
「さあ、どう料理してヤロウか……」
ニタニタしながら奴が一歩踏み出し、私達が一歩後ずさると――。
「ただいま!!」
脈絡もなく、唐突に、何もない所から、私達の間に、銀髪の美少女が登場しました。
「久しぶりの外だ!!」
彼女はこの場に相応しくない程ハイテンションです。
「あ」
少女と目が合いました。
早歩きでこちらに近づいてきます。
彼女は髪の長さが違う以外、不思議なほど兄様に似ていますね。
「ん~~~~~~~~~~っ、会いたかったぞ!!」
アリサ共々抱きつかれました。
ああ……間違いありません。
一昨日よりもさらに女らしくなっていますがこの人は――。
「兄様!!」
「はっ……!?」
いけないいけない。“1年ぶり”にククル達に会えたからテンションが上がり過ぎてつい抱きしめてしまった。ククルはともかくアリサには馴れ馴れし過ぎたよな。
「ぁぅ……」
見れば顔を赤くして俯いている。
嫌そうじゃないし、もう少しならいいか。
「兄様――兄さん、その髪はどうされたんですか? 一昨日よりも随分と伸びていらっしゃるので一瞬誰だか分かりませんでした」
「ああ、これね」
俺の髪はいろいろあって後ろ髪がお尻を隠せるくらいにまで伸びたのだ。そう、念願の銀髪ロング!! これで前から試してみたかった髪形が出来る!! ……でもセミロングだからこそ出せた魅力っていうのもあるからなぁ。それが出来なくなるかと思うと一抹の寂しさを感じる。
「まぁ、とにかく伸びちゃったの」
「なるほど!! 兄さんはロングの方が似合うと思っていたのでとても素敵ですよ!!」
「ふふ、ありがとう」
「ぁぅぁぅ……」
ククルを撫でるついでにアリサにもやってみたらもっと俯いた。可愛いな。
「うんうん、ククル達も少し見ない内に成長したんじゃ――」
「ね、ねえ。感動の再会中に悪いんだけどさ、彼……凄く怒ってるわよ」
「おぉ、レッキー――じゃなくて……えーっと、えーっと……レキアも久しぶりだな!!」
「……いいからほら!!」
「ん?」
指を差した方にはオカマみたいな奴が肩を震わせていた。
「誰あれ」
つーかミュランが頭から血を流して倒れているじゃん。敵か? 敵だな。
「あいつは人の体を乗っ取る悪霊です。今は上位精霊に憑りついています」
ふーん。前に草原で会った奴の仲間かな?
手っ取り早く【自由自在】で……ってあれ、使えない?
まーた使えなくなってるのかこいつは。
「よく分からんが、まずはお前カラ殺してやる!!」
「空気を読んで今まで攻撃しないでくれてありがとう。でも手加減はしないからな」
しょうがないので突進してきたオカマを左手でビンタし、オカマから本体を引き剥がす。本体は透明な成人男性みたいな奴。左腕には火傷の跡らしきものがある。……ふふ。
「そんなバカな……ウォッ!?」
次に奴を無理やり俺の影の中に押し込み、終了。
「倒した!!」
「さすがです!!」
「ぁぅ……」
「えぇ……」
髪が伸びたおかげか調子がいいな。いや、久しぶりにククルやアリサに会えたからかな? どちらにしろ前より強くなった気分だ。
「今、何か魔法を使ったの? 全然魔力の流れを感じなかったけど……」
レキアが奇妙な物に出くわした時のような目で見てきた。
んーと【自由自在】は……使えるな。3人とも能力の射程圏内。よし。
「悪いけど、皆ちょっと“止まって”てくれな」
3人とも全く動かない。一応、顔の前で手を振ってちゃんと止まっているかを確認。大丈夫そうだな。
「クロリア」
「ククク、お呼びかいマスター」
俺が闇の上位精霊の名を呼ぶと、ククルの影から黒髪でスクール水着姿の少女がニュルッと出てきた。胸元にはひらがなで「くろりあ」と書かれたゼッケンが張られ、首には首輪も装着してあるが、奴が好きでそうしているのであって俺の趣味ではないことは断っておく。
「状況説明を」
「了解だ」
早く皆でワイワイ騒ぎたいけど、問題発生中のようだし、俺がいない間に何があったのか知っておかないとな。
「――というわけでペットである私がマスターの意向通り、こいつらを守ってやったのさ。偉いだろ?」
ククル達には【自由自在】の守護をかけてものの、カベルの件もあってそれだけじゃどうにも不安だった。だから謹慎中のクロリアに留守を任せたのが、どうやら正解だったみたいだ。
「で、あの穴は他の都市にも現れたのか?」
「クク、精霊ネットワークによるとサンフレアだけだな」
ふむ……ここだけが狙われたのか。
「分かった。じゃあ影にしまったアイツから情報を引き出しておいてくれ。特にシャイニングさんを倒した手段は絶対だぞ。終わったらアイツは好きにしていいから」
「ヒューーさすがマスター!! ちょーど喋るサンドバッグ欲しかったんだ!! 愛してるぜ」
さて、外には魔物がいるようだからそっちを何とかしておくか。3人にはもうちょっとだけこのままで――。
「その必要はない」
クロノスが空間から上半身だけを出して現れた。
「姉さん!!」
「姉さんだぁ……!?」
「魔物は全て消しておいた。ついでに穴も」
さっすが世界最強。これで事件も一応は解決だな。
「ありがとう、助かったよ」
「礼は不要。私とジルの仲」
「おい、マスターマスター!! 誰だこいつ」
「んー?」
「私も気になる」
「こっちが闇の上位精霊クロリアで、こちらは精霊のクロノスさん」
軽く紹介すると、何故か両者の間で火花が散った。
「クロリア……。生意気。私と発音が半分もかぶってる。それに馴れ馴れしい」
「はっ、やろうってか。どこの精霊だか知らねえが――いい!? なんだコイツ、超つえーっ!?」
碌に抵抗すらさせてもらえずにクロリアはお姉ちゃん時空へと引きずり込まれた。
「……」
2人とも行ったみたいだし、能力解除っと。
「ん~っ、やっと終わったね。街が無事か確認したらお風呂に入りたいな!!」
「兄さん、髪が長いと洗うのが大変でしょうから私が手伝いますよ」
「あぅ……」
3人とも完全に終わった気でいるけど、実はこれからが真に大変なんだろうな。
「皆さん、ご無事ですか!!」
精霊を引き連れながら騎士達がなだれ込んできた。彼らはすぐに床に倒れているミュランとオカマ、騎士に気付くと、介抱を始める。
「ええ、私達は大丈夫。ちょっと疲れたくらいで元気よ」
「あらー、それはよかったわ。じゃあさっそく何で避難もしないでこんな所にいるのか説明してくれるかしら?」
「「げっ」」
ククルとレキアが恐る恐る振り返ると、そこにはちっちゃくなったシャイニングさんが笑顔で威圧していた。
――こうして大精霊の数時間にも及ぶ説教が幕を開けるのだった。




