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1.5mの世界  作者: 粗井 河川
2章
84/144

第33話  宮殿へ

「待って!!」


 アリサと外へ出ようとすると巫女が声を掛けて来ました。


「レキアも行く。ここで何もしなかったらシャイニング様とサンフレアの人達に顔向けできないもん」


「ぼ、僕も行くぞ……!! ここで残ったら男の恥だ!!」


「クー!? クー!!」


 約1匹は行かないと力の限り首を横に振っています。大精霊がやられる姿を見たのですから当然の反応でしょう。


「王子も足手纏いになりそうですし残って――」


「わかった。4人で行こうか」


「ああ!!」


 本気なのでしょうか……?

 王子など盾や囮にするぐらいしか使い道がなさそうですが。

 まあ、王子のお守はアリサに任せればいいでしょう。


「――それでね、外へ出る前に話しておきたいことがあるの」


「はい? 何ですかいきなり」


「レキアの【能力】について」


「「能力?」」


 そういえば先ほど【能力】がどうこう言ってましたね。


「百聞は一見に如かず。まずはやってみせるね」


 巫女が私達の肩を順々に触ってきました。

 試しに肩を軽く回してみますが、触られた箇所を通じて力が湧いてくるとか、そういった変化は特に感じられません。


「今、皆の服にあらゆる攻撃から身を守ってくれる加護をかけたよ。でも説明しただけじゃわからないだろうから――」


「うわっ!?」


 王子に向けて火の玉を放ちました。しかしそれは王子に当たることはなく、直前で掻き消えました。……魔法、とは違いますね。


「これは【神懸り】っていう【能力】でね、物質にレキアが望む特性を付与することができるの。要はレキアだけが使える魔力を消費しない固有魔法ってことかな」


「す、すごいじゃないか……!! どれくらいすごいのか分からないけど、とにかくすごい力だ……!!」


 かみがかり、ですか……。ようやく巫女っぽいワードが出てきましたね。確かに望む特性とやらに制限がないのなら強力な力です。

ですが1つ気になることが。


「何故その力を一昨日の風呂で使わなかったのですか?」


 使っていれば簡単に負けはしなかったでしょうに。何か制限でもあるのでしょうか?


「この【能力】はリネア様から授かった神聖な力だから私的な理由では使わないって決めてるの。……あ、そうそう、皆には加護をかけたって言ったけど、シャイニング様を襲ったようなあまりにも強すぎる攻撃や、逆に弱すぎる攻撃なんかは防げないから注意してね。それと一度付与した物質にはもう二度と特性を付与できないから、その点も頭に入れといて」


「わかった!!」


「……」


 要は気休めですか。期待して損しました。


「ねえ、話が終わったのならもう行っていい?」


 アリサが若干イライラを含んだ声でせかしてきます。あの様子だと巫女の力には関心が無いようですね。意識はもう完全に宮殿へ向いているみたいです。


「レキアの方は大丈夫!!」「私もいつでも」「ぼ、僕もだ」


「それじゃあ私が先陣を切るね」


 素早く外へ出るなりさっきからウロウロしていた2つ首の魔物を凍らせました。何の淀みもないスムーズな動きです。どうやら魔物との戦いに慣れているみたいですね。


「魔力は私の方が圧倒的に多いから、魔物は基本的に私が倒す。皆は出来るだけ魔力を温存しつつ撃ち漏らしがあればお願いね」


 そう頼みながら空から奇襲してきた鳥を凍らせ、周囲の安全を確認すると走り出しました。私達も遅れまいと外へ飛び出します。……約1匹は私達に敬礼をするだけで本当についてきませんでしたが。




「ねえ、ククルはどう思う?」


 通算25体目の魔物を凍らせるとアリサが私に尋ねてきました。

 ここまでずっと1人で戦っているのに魔力切れや疲労している様子は見受けられません。むしろ無駄に気を張っている王子が1番疲弊してそうですね。


「どう、とは?」


「“敵”の目的」


 やれやれ……。


「そんなの分かるわけありません」


 ただ状況に流されるままの私が分かっているのは『何も分からない』ということだけです。


「思考停止しないで考えてみて」


 む、仕方ありませんね……。


「……普通に考えればサンフレアの壊滅、でしょうか」


 あの穴から魔物が降ってくるのですからそうとしか思えません。

 光の大精霊を倒す為という説も頭をよぎりましたが、あの人が消えてしまった今も魔物の雨が止まないことからそれは有り得ないでしょう。


「じゃあ普通じゃない発想をすると?」


 それは――。


「あまり言いたくはありませんが……光の大精霊が私達を驚かす為に企んだ自作自演ですかね」


 大結界のおかげでまだ人や建物に被害はなさそうです。つまり現状被害に遭ったのは大精霊だけ。消えた振りをして裏で糸を操っている可能性もないとは言い切れません。


「ふふっ、こんな状況でもそういう発想ができるククルは凄いと思うよ」


「ふん」


 褒められても嬉しくありませんね。


「それで、アリサはどう考えているのですか?」


「レキアも気になる」


 巫女が隣に並んできました。……そんな目をしないで欲しいですね。あくまで可能性の話であって本気でそう思っているわけじゃないのですから。


「さあ、私にも分かんない」


「はぁ?」


 何ですかそれは。私には思考停止するなとか言っておきながら自分は何も考えていないのですか。


「でも私の勘によるとククルの考えはそれほど間違ってないはず」


 また勘ですか。


「……じゃあアリサもシャイニング様のイタズラだと思ってるわけ?」


「ううん。シャイニング様は今回の件には関わっていないと思う。言わば完全な被害者」


「よく分かりませんね」


「だから私もよく分かってないんだって。ま、宮殿に行けばいろいろわかるよ」


 そうこう無駄話をしている内に宮殿が見えてきました。

魔物とは思っていたより遭遇しませんでしたし、案外楽勝――とはいかないみたいです。


「オオオオオオオオオオオオ」


「なんだ!?」


 雄叫びを上げながら巨体が降って来ました。見上げるほど大きい牛頭人身の魔物は宮殿への道を護る番人のように私達の行く手を遮っています。

 迂回は……無理そうですね。どうやら倒すしかないようです。


「邪魔!!」


「オオオオオ!!」


 早速アリサが無数の鋭利な氷を放ちますが、体に当たっても突き刺さることなく地面へと落ちます。ダメージはなく、ただ怒らせただけ。


「こんな攻撃じゃダメか……。レキアお願い!!」


「任せて!! 『消滅』しなさい!!」


 巫女が光を魔物の顔に当てると、首から上が消し飛びました。頭を失った魔物は棒立ちのまま動く気配はありません。


「す、すごい……」


「……」


 今のが【神懸り】ですか。

 初級魔法の光に『消滅』の効果を付与したわけですね。

 ……それであの効果なのですから恐ろしい力です。期待外れなんかじゃありませんね。


「見た? これがレキアの本気なんだから!!」


「まだです!!」


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」


「っ」


 消滅したはずの顔が突如再生し、大気が震えるような咆哮をあげました。


「っく、再生能力があるなんて生意気ね。じゃあ次は再生できないように体ごと消滅させてやるんだから……!! って、あれ? 魔法が出ない……?」


 巫女が唖然としています。

そんなバカなと思い私も魔法を発動しようしますが……できません。


「……」「な、なんでだ!?」


 アリサと王子も同じ状況のようですね。

 これは不味くないですか……?


「オオオオオオ」


「一旦退くよ!!」


「妥当な判断です!!」「賛成!!」「わかった!!」


 ゆっくりと近づいて来る魔物から逃げる為、後ろを振り返ると――。


「もう一体いる!?」


 すぐ後ろに全く同じ魔物がいました。


「挟まれた……」


 最悪です。逃げることもできません。こうなれば巫女が付与したという加護を信じて突っ切りましょうか。

 そう思っていると視界に素早く動く影を捕らえました。


「おりゃあ!!」


「オオオ!?」


 影は魔物の顔面に蹴りを入れて吹き飛ばしました。

 そして魔物と入れ替わるように現れたのは――。


「よう」


「赤毛!!」「誰だ?」「誰?」「オロフ・アルシャルク様ですか」


 ニヤニヤしたこいつの顔は今でもハッキリ覚えています。以前私と兄様の買い物を邪魔しやがった赤毛野郎です……!!


「くくく、苦戦しているようだな嬢ちゃん達。そ・こ・で、“たまたま”サンフレアへ遊びに来ていた優しくてカッコいい俺様が助太刀してやるよ。ほれ、ミノタウロスは俺が抑えててやるから逃げるなり宮殿へ向かうなり好きにするといい」


 そう言ってもう1体の方を睨むと魔物の動きが硬直しました。


「ではお言葉に甘えて」


 アリサが迷うことなく宮殿へ走り出します。

 正直、私はもう行きたくないのですが……。


「これでこの前の件はチャラにしてやります」


 自分でもよく分からないままアリサを追いかけます。


「ありがとうね、カッコいいお兄さん」


「僕もいつか貴方のように誰かを守れる男になってみせる……!!」



「……んー、全員宮殿行きを選んだか。いいね~、若さゆえの無鉄砲さっていうのは。俺も若い時は無茶をしたもんさ。でもよー……1人くらい俺の心配をしてくれてもよくね?」




 宮殿の中は荒れていました。

 私達が今朝出る前は無駄に輝きを放っていた壺も無残に壊れて光を失い、微笑みを浮かべていた絵画の女性もいなくなっています。柱もところどころ壊れていますし、ここで誰かが争っていたのは明白でしょう。しかも結界の効果は宮殿にも及んでいるはずですから、人対人の可能性が高いです。


「アリサの勘が当たったみたいね」


 果たしてそれは良いのか悪いのか。


「とりあえず朗報。魔法はもう使えるようになっているよ」


 アリサが水を宙に浮かべています。

 もう赤毛が魔物を倒したのか、それともあの場を離れたからでしょうか。何となく後者のような気がします。


「……あのさ、微かに物音がしないかい?」


 驚き役がオズオズとそんなことを言い出しました。

 集中してみると確かに上の方からバタバタと音が聞こえます。


「えーっと……礼拝堂の方からだ!!」


 巫女の後に続いて階段を上り、礼拝堂へと目指します。ここまで来たのですから覚悟を決めてやります。


「ところでさっきから誰も見かけないけど使用人や騎士はどうしてるの?」


「使用人は非常時には地下に避難しろって指示があるからそこね。騎士は……昨日の事件を調査する為に出払っているから宮殿にはいても2~3人くらい」


 丁度騎士がいない時に狙われたわけですか。……それはさすがに出来過ぎていませんかね?


「だんだん音が大きくなってきた!! あの扉の向こうが――うっ……」


「どうしま、し……」


 礼拝堂の前に中年の男の首と体が転がっていました。

 ……人の死体を見るのは初めてです。臭いが……。

 きっと今回の観光は一生忘れない思い出になるでしょうね。


「レキア、この人が誰だか分かる?」


「……う、うん。たぶん、ヨクニ司教だと思う」


「そう……」


 ヨクニ? そいつは女児を監禁していた奴らの親玉じゃありませんでしたっけ? そいつが何故ここで死んでいるのですか?


「今は考えてもしょうがないし、まずは扉を開けるよ。――せいっ!!」


 もう考えるのが面倒になってきたので思考を全て放棄します。考えるのは全て終わった後です。


「あれは……騎士とホレス司教かい?」


 礼拝堂では白い鎧の騎士と、昨日大精霊を訪ねて来たオカマ司教が戦っていました。


「グぐう……ギギギイ……!!」


「くっ、意外にしぶとい……」


 オカマ野郎は白目を剥いて狂った獣みたいな呻き声をあげています。素手で騎士の剣を攻撃していますし、容姿も相まって化け物にしか見えません。

 対する騎士は容姿が少しいいくらいで、どこにでもいるような感じの奴です。

 これは決まりですね。


「そんな……まさかホレス司教が……?」


 巫女は驚いていますが私は『やっぱり』という気持ちです。

 何となくアイツは怪しいと思っていました。


「っ!? 皆さん何故ここに!? 早く逃げて下さい!!」


 騎士が私達に気付きました。

 援護するとしましょう。


「待って、レキアがやる。『気絶』しなさい!!」


「グキッグゥギギギ……――」


 光がオカマの全身を照らすと、少しの抵抗をして地面に倒れました。

 すると騎士が本当に気絶したのかを確認し、持っていた剣を収めます。

 本当に便利な力です。


「も、もしかして終わったのかい……?」


 王子の緊張が解けたのか床にヘナヘナと座り込んでいます。……あまり人の事は言えませんが、今回何もしていないじゃないですか。


「ねえ、何があったの?」


 嬉しそうな笑みを浮かべながら駆け寄ってきた騎士にレキアが説明を要求しました。


「はい。空に現れた『侵略者の穴』はホレス司教とヨクニ司教がこの街とシャイニング様を葬る為に呼び出したものです。それを知った私は何とかヨクニを始末し、ホレス司教を追い込んだんですが……レキア様達がいらっしゃらなかったら危なかったですね。どうやってあの穴を呼んだのかは、これからじっくりとホレスを尋問して調べることになるでしょう」


「そうだったの……」


 なるほど、こうして聞くと難しくも何ともありませんね。黒幕は司教コンビだったと。

 

「ふぅ……」


 真相も分かりましたし、後は街に蔓延っている魔物と穴だけですが、援軍とやらに任せれば大丈夫でしょう。

 終わってみれば楽勝とはいかないまでも、それなりの難易度でしたね。


「……?」


 ふとアリサを見ると、不思議そうに首を傾げていました。まだ何か気になることでもあるのでしょうか?


「あれ……?」


 巫女まで何かに気付いたようです。

 そういう意味深なことは止めて欲しいですね……。


「どうかしました? 何か疑問があるのですか? でも大丈夫です心配いりません。だって皆さんは……ここで死ぬんですから――!!」


「――」


 ………………感覚が曖昧です。

 謎の浮遊感に襲われたと思ったら横になっています。どうしてでしょう? ああ……、頭がボーっとして眠くなってきました。寝てしまいましょうか。……ちっ、王子の情けない叫びが不快ですね……。聞こえない様に……早く……寝ましょう……。

 そうだ……兄様の夢が見られますように――。





「ゲームオーバー。勝負は私の勝ち」


 ルービックキューブを弄りながらクロノスは自身の勝ちを宣言した。

 表示されているタイマーは-00:00:54。

 制限時間を54秒オーバーしている。

 すなわち俺の負けということ。

 足元には俺がこれまで出した様々な玩具が散らかっている。

 捕まえるチャンスは何度もあったのに、俺は結局それをものにできなかったのだ――。


「なかなか面白かった。こうしてルービックキューブにも出会えたし礼を言う。でも決まりは決まり。ルールに則りジルの“1年”を貰う」

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