第28話 散策
「どうも巫女やってるレキアでーす!! 気軽にレキアちゃんって呼んでね!!」
挨拶と称した洗脳トークライブが終わり、観客もいなくなったところでレキアと顔合わせをすることになった。
実際に会ってみて目を引いたのはやはり白い翼。本当に真っ白で綺麗だし、ふわふわしていそうだから触ったら絶対に気持ちいいと思う。でも見た目はいいけどアレって日常生活で邪魔だよな。服を着る時とか濡れて乾かす時とか大変じゃないのかな?
そんなこと考えていたら翼が引っ込んだ。……どうやら出し入れは自由のようだ。
「レキア、頑張っていーーーーっぱいサンフレアのいい所を紹介するから、思いっきり期待していいよ!!」
ミュランの方を見ながら天使のスマイル。
こんなものを向けられたらたいていの男は悪い気はしないだろうな。
「あ、ああ、楽しみにしているよ。……そ、そうだ!! 自己紹介がまだだったな。僕はミュラン・カルカイム・オーウェン。次期カルカイム国王だ」
「わぁあ、王子様なんだ!? すっごーい!!」
目を見開き、手を叩いて大袈裟に感心している。
「そんなことはないさ。僕はまだまだ王子として未熟だ。これからもっと精進しなくちゃいけない」
「王子なのを鼻に掛けないんだね。しかも努力家だなんて。……うん。レキア、そういう人けっこう好きかも」
今度はやや熱が入った目でミュランを見つめだした。
「あ、ありがとう……」
顔を赤くし、頬を掻きながらそっぽを向く初心な王子。まぁ、ミュランは今まで女性に好意を寄せられたことがなかっただろうから仕方のない反応なのかもしれない。まさに女に騙される典型的なタイプと言えるだろう。
「ほ、ほら、僕だけじゃなくて君たちも自己紹介しなよ!!」
「レキアも気になる!! おねーさん達ってミュランの彼女なの?」
瞬間、空気が凍ったような気がした。
「アリサです。王子とはただの部員同士の関係です」
「ククルです。王子とは他人以上知り合い未満の関係です」
2人とも無表情で返答。声に何の感情も籠っていないのがかなり怖い。
「ふーん……。じゃあ、おねーさんは?」
ん、俺か。俺は――どうしようか?
ぶっちゃけ俺はこいつが気に食わない。アリサは“同類”なんて言っていたがとんでもない。容姿が可愛い所は似ているがそれだけで、俺とレキアは全然違う。俺は自然な可愛さにこだわっているのであって、レキアの様な作られた可愛さではない。日本の言葉に『立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花』というものがあったが、何でもない動作から自然と可愛さが溢れ出てこそ真の美少女と言えるのではないか? ……少なくてもただ手当たり次第に男受けしそうな行動や言動をするのは俺の目指す可愛さとかけ離れている。よって、俺とレキアが同類なんて心外極まりない。
……まぁ、レキアがぶりっ子なのは仕方のない事情があると察することはできる。巫女なんてやっているから信者獲得の為にいろいろとあるのだろうからな。
でもそれはそれ。やっぱり俺としてはどうしてもレキアみたいなタイプは毛嫌いしたくなってしまうのだ。
「ジルです、よろしくねレキアさん。王子とはギリギリ友人くらいの関係だから安心してください」
だけど立場は相手の方が上だからな、喧嘩を売るようなマネは避けた方がいい。ここは穏便に“自然体”でいこう。普段の裏声では失礼だもんな、うん。
「ジル……。男の名前に使われることがほとんどだけど……もちろん女の子だよね?」
「私、男に見えますか……?」
「ううん、ごめんね!! 男2人って聞いていたから変なこと聞いちゃった。……もう、こんな基本的な情報に間違いがあるなんてシャイニング様はいい加減なんだから……」
「いや、だからジルは――」
「自己紹介が終わったのなら早く宮殿とやらに行きませんか? 体を拭いていたとは言え、この道中まともにお風呂に入れなかったのでそろそろ恋しいのですが」
「そうだね。それにシャイニング様ってけっこうさびしがり屋さんだから、あんまり待たせちゃうと拗ねちゃうし早く行こっか。……そうだ!! 着いたら女の子同士でお風呂に入ろ!! 女の子同士で友情を深め合うの!!……ふふ、なんならミュランも一緒に入る?」
「いえ、謹んでお断りします!!」
ククルの射殺さんばかりの眼力を受け、全力で拒否をした。よくみると足が僅かに震えている。
「面白そうなのにざーんねん。……それじゃあ案内しながら――」
「レキア様!!」
白い鎧の騎士が慌ててやってきた。たぶんだけど宮殿の方から来たのかな?
「どうかしたの?」
「はっ、シャイニング様からの言伝です。『ごめんなさーい。急にお偉いさんたちが来ちゃったから相手しなくちゃいけないの。夜までには帰ってもらうから、彼らと会いたくないならそれまでは貴方たちだけで街を観光してちょうだい』とのことです」
「えーーーーーなにそれっ!? お風呂は!?」
「夜までお預けですね。荷物は騎士の方に任せて、私達だけで散策しましょう」
「お偉方と出くわしても良いことがあるとは思えませんし、仕方ありませんね」
そうだな。今、宮殿に行くのは得策ではないな。つーか行きたくないし。
「しょうがないなー……。うん、じゃあ気を取り直してサンフレアの案内をするよ!!」
「でしたら1つ提案があります」
はい、と手を挙げたのはククル。
初対面がいる中で積極的に意見を言おうとするなんて珍しい。
「このメンバーで歩き回るのは少々目立ちます。二手に分かれた方がいいのではないでしょうか」
「レキアだけでも目立つのに、さらに美少女3人に、王子のミュランもいるもんね。……考えてみたらミュランはすっごい幸せ者じゃん!!」
「そうだろうか……」
「王子へのやっかみを減らす為にも別行動は必須でしょう。それで分けるのなら、巫女と光の大精霊に直接招待されたアリサは一緒に行動。男手が必要なこともあるかもしれませんからそこに王子も混ぜ、3人に比べれば一般人も同然である私とにい――姉さんの2人行動でどうでしょう?」
尤もらしい理屈だが、要は俺と2人だけで行動したいだけなのだろう。まぁ、最近ククルと2人っきりというのは少ないから皆が納得するならそれでもいいかな。
「僕はここへはあくまで部活の延長で来ているつもりだから、部長であるアリサの意見に従おう」
「う~ん……レキアは特に文句ないけど、ミュランがそう言うならアリサが決めればいいんじゃないかな?」
じゃあアリサ次第か。一体どういう選択をするのか興味深いな。
「そうですね……別行動自体には賛成ですね。ただ、ククルの班分けは認められません。やるなら公平にくじにしませんか?」
「ちっ」
アリサも別行動派か。
なら――。
「くじを作る時間がもったいないし、グーとパーでわかれない?」
合図とともにグーかパーを出して、同じ手同士で分かれるというルールを説明。
こっちの方が手っ取り早くていいだろう。
「僕はそれで構わない」
「レキアも面白そうだしさんせー!!」
「どんな結果になろうと恨みっこなしですよ。……姉さん」
ククルが目で何か合図を送ってくるがわからん。
「ふむ……では私はグーを出しますね」
『!?』
アリサがいきなり禁じ手を使ってきた!!
ちょっと待てこれじゃあ公平さが――。
「いきますよ、グーとパーにわーかれろ!!」
強引に進めるアリサに流されるまま俺が出した手は――。
「みてみてー!! あれがタルコットさんがやってるパン屋さんなの!! あそこのジャムパンは甘くてすっごく美味しいんだよ!!」
「わ、わかったから少し休憩しないか? さすがに疲れたよ……」
「もー疲れたの? まだ1時間くらいしか経ってないよ? それじゃあ女の子にだらしないと思われちゃうよ?」
「悪かったね……」
――俺、ミュラン、レキアの『グー組』はレキアに案内されるままにサンフレアを歩き回っていた。ミュランはもうへばっているが、レキアが通りかかった全ての店についてどんなものが売っているとか、店主が美人やらカッコいいだの説明をしてくれるので、聞き疲れたのかもしれない。なんせずっと喋り続けていたからな。しかもけっこう楽しそうだから、本当にサンフレアが好きなんだろう。その点は素直に意外だった。
そうそう、意外と言えばレキアに挨拶をする人が多かったことだ。男だけじゃなく、女性も子どもも親しみを込めて挨拶をしていた。てっきり女性には嫌われるタイプだと思っていたのだが、どうやら決めつけるにはまだ早いみたいだ。だからって俺の好感度はまだ上がっていないがな。
ちなみにグーを出す宣言をしておきながらパーを出したアリサは、絶望の表情を浮かべるククルと一緒にどこかに行ってしまった。……アリサの真意は俺には読めない。あんなことを言ったからには何か思惑があったのだろうが、それが何なのかはさっぱりだ。俺達3人の内の誰かと行動を共にしたくなかったのか、それともククルと一緒になりたかったのか。そもそもこの結果がアリサの目論見通りなのかさえ分からん。
うーむ……。
「ねえ、ミュランにはベンチで休憩しててもらってさ、私達はそこのブティックに行こ!!」
「え?」
突然話を振られ驚いた。
指を差した方向を見れば、小奇麗な服飾屋がある。
「それがいい。2人で楽しんできてくれ」
「30分くらいで戻るね!!」
「きゃあ!?」
レキアに腕を引かれ、半ば突入するように店へお邪魔した。
「いらっしゃい――ってなんだレキアちゃんか。ん……? 今日はメッチャ可愛い子もいるじゃん。珍しいこともあるもんだね」
応対してくれたのはラフな服装のお姉さん。
店もそんなに広くないし、店員はこの人だけかな。
「シャイニング様のお客さんなの!! それで服を見てってもいいよね?」
「好きにしなよ。どうせ断ったって勝手に見ていくんだろ? ……それと見ての通り男はいないし、営業モードはやめたら?」
「営業モード?」
まさか――。
「もー、せっかく隠していたのに!! ……ま、いっか。ジル、こっちこっち。この店はトップスしか置いてない変な店だけど、品揃えはけっこういいんだよね」
「……」
口調はそんなに変わっていないが、レキアの声がやや低くなった。それにキャピキャピオーラが鳴りを潜め、代わりに怠そうなオーラがこんにちはしてきた。
「あ、これなんてオシャレでいいじゃん。値段は――うわっ、高っ!? 完全にぼったくりじゃん。けっ、客を舐めるなっつーの」
口調も荒くなってきたな……。つか、やっぱり腹黒キャラだったか。
「くっくっく、聞いたかい? これがレキアちゃんの素だよ」
「あー、白状するとね、レキアは男の前では完全無欠の美少女キャラを演じてるの。男が好きそうなことを言ったりしたりして、とにかく男を優先。それで女だけの時はこうしてリラックスモードってわけ。……本当はネタばらしはもっと先のつもりだったんだけどね。でもジルは気付いていたよね?」
「うん。正直、ステージを見ていた時からそうなんだろうなーと思ってた」
おそらく……いや、絶対アリサとククルも気付いているだろうな。
「うざいかもしれないけどさ、これも巫女の仕事の一環だから我慢してね。おわびに服をプレゼントしてあげるからさ」
ふむ……俺の中でレキアの評価が変わった。本人から直接事情を聞いたからか、最初に比べて嫌悪感がかなり薄れているのがわかる。
それどころか――。
「私は今のレキアちゃんって自然な感じがして好きだよ」
「えっ……? あぅ、い、いきなりなに……? うん、で、でもまぁ、いちおう、ありがとぉ……」
「うひゃースゴイわね!? 見てた私も照れそうな笑顔だったわよ!?」
「ほ、ほら、このクロップドカットソーなんてどう?」
「え、これじゃあ短すぎておへそが丸見えじゃない?」
「こういう服なの。そんな綺麗な肌をしているんだからもっと見せつけてやらないとダメだよ。さ、とりあず試着してみよう」
露出の多い服はあまり趣味ではないのだが……レキアみたいに実際に話してみると印象が変わるケースもある。新しい魅力に目覚めるかもしれないし試しに着てみるか。
――こうして俺はいろんな服を試着することになり、その過程でレキアと打ち解けていくのであった。




