第22.5話 2人の夜
「うわああああああああああああん、ジル~~~~~~~~~~っ!! アリサが、アリサが私を虐めるの~~~~~~~~~~!!」
嫌な予感は的中した。
その日の夜、スイレンが泣きながら俺の部屋に入ってき、そのまま腰へと抱きついてきた。
「あー、よしよし、だいたい何があったか想像がつくけど、ちゃんと説明はしてくれよなー」
「ぐすっ、あ、あのね、ぐすっ、あ、アリサが、腕輪の形をした……つ、土の下位精霊を身に着けてたの……。そ、それでね、精霊はペットやアクセサリーじゃないんだから、元いた場所に返してきなさいって言ったの……」
「うんうん」
どこかで聞いたことのあるセリフだ。
「そそそ、そうしたらあの子、何て言ったと思う? 『この子と契約してもいいですか?』って言ったのよ!? 私と契約してい、いるのにぐすっ、酷いと思わない!?」
目に涙を浮かべながら訴えかけてくる。
「うーん……別にアリサはスイレンとの契約を破棄するとは言ってないんだろ? なら認めてやればいいじゃないか」
実例を聞いたことはないが、精霊との契約は複数結べるらしいからそこまで大した問題でもないと思うんだが。
「何言ってるの!! 他の精霊と契約したいなんて、私達からしてみれば『お前は役立たずだ』と言われたも同然なのよ!? すっ~~~~~~~~~~ごく不名誉な事なんだから!! こんな事が他の精霊に知れたらどれだけバカにされることか……」
「おいおい、アリサがスイレンをそんな風に思うわけないだろ?」
「でもあの腕輪と契約を結びたがっているということは、私じゃ務まらないことがあるってことでしょ? そう考えると無性に悔しいの……」
「……」
おそらくアリサはスイレンとの契約を維持したまま、下位精霊とも契約したいんだろう。んで、スイレンはそれを認めたくないと。
言葉にしてみれば簡単だが、これは俺が思っている以上に難しい問題だな。
必ずどちらかが折れなくちゃいけない。
すなわちアリサが諦めるか、スイレンが認めるか。
アリサは賢い子だ。だから複数契約を結ぶことの意味はわかっているのだろう。それでもなおスイレンに頼むくらいだから、余程の事情があると考えられる。
一方でスイレンの言い分もわからなくはない。彼女は大精霊だからメンツというものもあるだろうし、『役立たず』扱いはきついもんな。
さて、どちらの味方につくか……。
「…………スイレン。やっぱり俺はスイレンが折れるべきだと思う」
「え……?」
「なるべくアリサ達の思い通りにさせるって決めただろ? なら例え悔しくても情けなくても、無理矢理に呑み込むべきじゃないか?」
「う゛ーーーーーーーー!!」
俺のパジャマに噛み付き、イヤイヤと首を振り出した。
彼女の気持ちが痛いほど伝わってくる。
「大丈夫だ。スイレンが役立たずじゃないことは俺がよーく知っている。なんせ俺がこの世界で1番信頼してんのはスイレンだからな。役立たずであるはずがないだろ? だから心配すんな。大精霊らしくどーんと構えて、気軽に許可すればいいんだよ」
頭を撫でながら、優しく力強く語る。
「……」
「それでもしスイレンのことをバカにする奴がいたら教えろ。俺があらゆる手段を用いて謝罪させ、お前の素晴らしさを叩き込んでやるよ」
顔が熱い。
我ながら随分と恥ずかしいことを言ったもんだ……。
だが、偽らざる本音だ。
「……ふふ、ありがと。今日のジルは何だか優しいのね」
………………。
「あら、私はいつも優しわよ?」
「ったく、すぐそうやって照れ隠しするんだから……」
呆れたようにため息をつかれてしまった。
「……ねぇ、私はアリサに許可を出そうと思うわ。『契約したいの? ふーん、別に構わないわよ』って感じでね」
……。
「そうか」
「うん」
――俺達の間に沈黙が流れた。
スイレンは抱きついたまま離れる様子はない。
俺も頭を撫でる手を止めてはいない。
「ふぁあ~あ。……何だか眠くなってきちゃった。今日はこのまま……ここ…で……」
「あ、こら――」
「すぅ……すぅ……」
ダメだ寝てる……。
すやすやと、まるで子供の様に眠っている。
ふむ、そういえばスイレンの寝顔を見るのは初めてか。
こうしてみると人とまったく変わらないんだよな……。
「……しょうがない、今回だけだぞ?」
そのまま後ろに倒れ、魔法で明かりを消していく。
そしてスイレンのひんやりした感触に抱かれながら、俺もゆっくりと目を閉じた。




