第22話 設立
「アリサさんってホント凄いよねー。私なんて同属性の魔法を連続で出すことだって無理なのに」
「あんたは複数の属性を持ってるだけマシでしょ。こっちは土属性だけよ? どう足掻いたって複合魔法は使えないもん」
「羨ましいなぁ。きっと各国からたくさんお誘いがあるんだよー。私だったらイケメンでお金持ちで性格がいい貴族様と結婚するなー。……はっ!? もしかして逆ハーも夢じゃない!?」
「ならあんたも頑張って複合魔法を使えるようになれば? 夢が叶うかもよ?」
「無理だよー。複合魔法を使える人なんて世界にどれくらいいると思ってるの? そんな無駄な努力するくらいならアリサさんと仲良くなって、その交友関係を利用する方がまだ現実味があるよ」
「あんた意外と腹黒いわね……」
アリサとミュランの試合が終わって4日が経った。
あの試合を観に行った者達は未だアリサと『フォートレス』の話で盛り上がっている。今も耳を澄ませば女子生徒の会話が聞こえて来るし、前の方では男子が観に行かなかった生徒の為にもう何回目かもわからない解説を手振り身振りでやっている。他のクラスも似た様な状況だろうから、生徒のほとんどが試合の結果を知っている事だろう。
その関係なのか、ティリカの周りにはいつもより多くの生徒がいる。しかもうちのクラスの奴らじゃない。アリサやフォートレス、ティリカ自身の実力について質問しにわざわざ他クラスからお越しになられているのだ。
「凄いよなー」
「最近は特に話題も無かったから皆お祭り気分なだけ。休みを挟めば少しは落ち着くと思う」
俺の何気ない独り言をネルが拾ってくれた。
この一言だけで察する辺り、彼女もなかなか侮れない。
「なー、ネルはアリサのことどう思う?」
髪を梳かしてあげながら、ふと思いついたことを聞いてみる。
「何とも。凄い人なんだろうけど、特に関心はないかな。試合も観に行かなかったし」
ちょっと残念。
関心があるならアリサに紹介しようと思っていたのに。
「父ちゃんは興味がありそうだったのになー」
「え? お父さんいたの?」
お、ネルが食いついた。つーか知らなかったのか。
「女王様と一緒にな。俺にネルとルパをよろしく頼むって言ってたよ」
「来てたのなら顔くらい見せればいいのに……」
背中越しからでも不貞腐れた顔をしているのがわかる。
ふむ。オロフは第一印象から人に好かれるタイプではないと思っていたけど、そうでもないみたいだ。少なくてもネルからは嫌っている様子が感じられない。普通、このくらいの歳になると女の子は父親を毛嫌いしそうなのにな。家ではいい父親をやっているんだろうか。……いや、オロフなんてどうでもいいか。
それよりも――。
「そういや王子はクラスでどうしているんだ?」
心の整理がつくまでは特訓を延期して欲しいと申し出があったから、ミュランとは顔を合わしていない。もう変な行動を取ることはないだろうが、ちょっと心配である。
「だいたいは精霊とコミュニケーションをとっているかな。あんまり上手くいっているようには見えないけど。あとは……クラスで陰口を言われているくらい?」
「どんな感じに言われているんだ?」
「『情けない』『どの面下げて学園に――』『瞬殺王子』『顔だけ』『へたれ』『先は暗い』『王子なのに下位精霊って……』とか他にも――」
「あー、もういいや。ありがとう」
「そう?」
やっぱそうなったか。
ただでさえミュランの評判はあまりよくなかった上にあの敗北だ。「王子最高!!」とかなるはずないもんな。残念ながら当然の結果といえる。
いろいろと思うところはあるが、この件に関して俺が出来ることはない。悪評を払拭できるかはアイツのこれからの頑張り次第だ。
「ジル。その、昼食を一緒にどうだろうか……?」
朝にあんなことを思ったからか知らないが、昼休みにミュランが教室までやってきた。
クラスメイトの視線が一斉にこちらに向いたのがわかる。
「ほほう、いい度胸だ」「よくぞ我らの前でジルを誘ったもんだ」「ただで済むとオモウナヨ」
「な、なんだ君達は!?」
そしてあっという間に覆面3人組に囲まれた。
ミュランが驚いているが、俺もビックリだ。
いや、マジで何なのこいつら……。何で覆面なんてしてんだよ。……ああ、そっか。王子の前だから誰かわからないようにしているのか。
まともに相手するのもバカらしいし、とっとと行こう。
「あー、はいはい、俺は王子様とお食事だからお前達は大人しくしているように」
「ぬっ、ジルがそう言うなら仕方ない」「だが気を付けろ」「その男は危険だ」
「じゃあ行こうか。学食でいいよな?」
「あ、ああ。それで構わない」
「いいか、王子よ――」
まだ何か言っている男子を無視して教室を出た。
ミュランも変な顔をしながらも付いて来る。
「どうかしたのか?」
「なあ、君のクラスは何か変じゃないか? 君に話しかけた途端、まるで魔物の群れに囲まれたような錯覚に陥ったんだが……」
「そっちじゃない。俺を訪ねてきた理由の方だよ」
ファイの姿も見当たらないしな。
「あぁ……。……正直に言おう。まだ心の整理はまったく出来ていない。君が何故あれほど強いのかや何故カムイとして活動しているのか疑問だし、そして何よりも君のその女性らしくあろうとする姿勢は永遠に理解できないと思う。つまり君には謎が多過ぎる」
「ふむふむ」
「だから悩んでも無駄だと思った。あれこれと考えるよりも君と正面から向かい合った方が得る物があるはず。そう結論を出し、こうしてお昼に誘ったわけさ。……本当ならファイも一緒が良かったんだけど、彼はどこかに遊びにいってしまったよ」
なるほどね……。
「それじゃあ何はともあれ、これからよろしくの握手だな」
その場で立ち止まり、右手を差し出す。
「あぁ!!」
その手をミュランが強く握りしめた。
「――ふふ、御2人ともなかなか絵になっていますよ」
「アリサ」「君か……」
そこへメイドさんが声をかけてきた。
妙にタイミングがいいが、気にしない気にしない。
「こんにちはジル様、王子様。これから学食に向かうのですよね。私もご一緒してよろしいですか?」
「それで足りるのかい?」
「もしかして私より少ないんじゃ……」
各自、好きな物を注文しテーブルに着くと、2人が俺のメニューを見て少し驚いている。
「これで十分さ」
サンドイッチ2つにサラダ。確かに多くはないが、何も驚くようなことじゃないと思う。現に周りには俺と似た量を食べている女子はけっこういるし。うん、やっぱ変じゃない。
ちなみにミュランはステーキとシチューとパン、アリサはナポリタンみたいなものとスープをいただいている。さすがに2人とも食べ方は綺麗だ。
「そんで、アリサも何か用があるんじゃないのか?」
全員が食べ終わった頃を見計らって、アリサに尋ねる。
「はい。実は御2人にお願いがありまして」
へぇ、アリサの頼みか。俺だけじゃなくてミュランもいるし、どんな内容か見当もつかんな。
「新しく部を作ろうと思うので、御2人には是非入部してもらいたいんです」
「僕が!?」
「それまたどうして……?」
「それはですね――」
大精霊と契約しているアリサは入学当時から部活動の勧誘が多かった。その中に気に入った部活があれば入部しても良かったのだが、生憎と彼女の御眼鏡に適う部活はなかったらしい。よって勧誘は全て断っていき、その甲斐あって最近は落ち着いてきたのだが……そこへ先日の決闘である。アレのおかげでまた勧誘が激しくなり、さすがにアリサも断るのが面倒くさくなってきたらしい。
「だから自分で部を作ってしまおうと思いまして。そうすれば勧誘もなくなるはずですからね」
部活に入りたくないから新しく部を作るのか……。
「どんな部を作るんだい?」
「部なら何でもいいですからね。適当に観察部とかにしようと思っています。それでいかかでしょう? 御2人が入部していただけるなら、部設立の最低条件である『3人以上のメンバーがいること』をクリアできるのですが」
「……」
「僕は入らせてもらう。アリサには借りもあるしね」
「まずは1人ですね」
ミュランは即決か。
俺もそうしたいところだが……どうしよう。アリサの部だもんな……。勧誘を断るためというのは建前で真意は別にある可能性が高い。それがわからぬ内に入るのは危険だと、俺の脳が警鐘を鳴らしている。
それに姉のティリカがこの場にいないのも気になる。……あ、でもティリカは料理研究部に入っているから無理か。1度入部したら1年間は辞められないもんな。
はぁ……せめてククルがいれば……。我が妹も深淵部とかいう訳のわからん部に入ってしまったからダメなんだよな……。
「むむむ……」
「ダメ、ですか……?」
「うっ」
アリサが上目遣いで頼んできた!?
やばい、そんな目をされると気持ちが傾く。
……えええい、びびってどうする!! アリサと共に過ごせるチャンスじゃないか!!
「OK、入部しよう」
「ありがとうございます!!」
そんな満面の笑顔を向けられると早くも入って良かったと思ってしまう。
我ながら単純だ。
「あれ、僕の時と反応が――」
「では入部届をお渡ししますので、記入をお願いします。上手くいけば来週から部活をスタートさせられるはずです」
「ん?」
書類を差し出された時に気付いた。
アリサが右腕に銀のバングルを付けている。いや、それ自体は最初から気付いていたのだが……。
「なあ、もしかしてそのバングルは――」
「気付きました? はい、土の下位精霊です」
やっぱり。
「えっ!? だって君はスイレンと契約しているんだろ!? どうして下位精霊と!?」
「ふふ、まだこの子とは契約していませんよ? ただ一緒にいるだけです。でも――いずれは契約するかもしれませんね。さ、それよりも記入の方をお願いします」
うーん……嫌な予感がするなぁ……。




