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1.5mの世界  作者: 粗井 河川
2章
71/144

第21話  完了

 お食事会を終え、お偉いさん方と別れた俺は学園へと足を運んだ。

 休日でも部活動やら教師に相談などでそれなりに賑わってはいるはずなのだが、アリサの試合を観に行ったからか生徒の数は少ない。人のいない静かな廊下は独特の雰囲気があってちょっと好きかも、とか思いつつ屋上までやって来る。屋上はこの前、学長とスイレンが吹っ飛ばして立ち入り禁止だったけど、いつの間にか元通りになっていた。

 ふむ、周りには誰もいないし、高さ、遮蔽物の有無、見晴らしの良さなどを考えるとやはりここだな。


「よし、やりますか」


 俺は目を瞑りながらゆっくりと深呼吸をし、精神を集中させてゆく。


「…………行け、風の瞳よ」


 東西南北の4方向へ風を吹かす。

 風は勢いよく街中を駆け抜けて行き、俺の“目”となって見たものの情報を映像として脳に伝えてくれる。

 

 俺が今やっている事は王子の捜索。スイレンはそっとしておけと言っていたが、どうしても気になる。無いとは思うが、自殺したり、アリサや他の人に八つ当たりなんかをしていたら大変なことになるからな。せめて、今どこにいて何をしているのかぐらいは把握しておきたい。

 えーっと……ここにもいないし、あっちの方は……。

 風を通して見た映像を処理していく。

 ん……、女王とオロフが一緒に話していて……光の大精霊と教皇が観光……皇帝とヒルト王が従者と何かを……これは関係なくて…………ククルはネルと……………クラスの男子か………………アリサがこっちを……………………イレナ………………………………………………………いた!! こっから南東の方角に――。


「っう……あったまいてぇ……」


 頭がふらふらする。目の焦点が合わない。おまけに体もだるい。

 アリサのフォートレスに対抗して4つ同時に発動してみたが、ちょっと無茶だったか。同属性でこれだから、異属性4つのフォートレスとかどんだけ負荷がかかるんだよ。……でもさ、何で俺がこんな思いをしてまで王子を気にかけなくちゃいけないんだ? 美少女でもない上に野郎だぞ。そう考えるとイライラしてくる。

 まあ、それでも調べた甲斐はあったけどな。あいつ、体に悪そうなオーラを放って邪悪な笑みを浮かべていたし明らかに普通じゃなかった。放って置くとヤバそうだからすぐに回収しないと。……いや待て。この後の展開を考えると“あの子”への連絡が先か。


「……よし、OK」


 準備は整った。

 さっそく街中をほっつき歩いている不良王子の元へ転移するぞ!!




「よいしょ」


「何だっ!?」


 移動したらすかさず王子の首根っこを掴み、クロスセブンから少し離れた森へと転移する。


「どこだここは!?」


 何が起きたか分からず混乱しているであろう王子は一旦無視。

 周囲の状況確認。

 ……うん、人の気配なし。

 これでこいつに集中できるな。


「それにお前は誰だ。お前の仕業か?」


 む、よほど混乱しているのか俺が誰か分かっていないらしい。


「誰って……」


 カムイだが、と答えようとしたところで気づいた。

 しまった……。今の俺はワンピース姿でカムイの格好じゃない!! 転移する前に着替えようと思っていたのに忘れてた……。でも、俺だと気付いていないようならまだ誤魔化せるかな?


「…………見てわかんない? ジル・クロフトだけど?」


 いや、面倒だしここはバラしちゃおう。


「なに……ジル・クロフトだと? お前が……? なよなよしている奴ではあったが、一応男だったはず。まさか……本当は女だったのか!?」


「いいえ。歴とした男ですよ」


 地声ではっきりと否定する。


「訳が分からない……。仮に女じゃないというなら何故そんな格好をしている。何故男らしい格好をしない」


「うふふ、似合うでしょ? この服はお気に入りなんだから」


 その場でくるりと一回転。決まった。


「……まあいい。お前がジルだというのなら好都合だ。この力の実験台にしてやる!!」


「む」


 王子の体から、明らかに学生レベルではない量の魔力が噴き出す。

 ただの威嚇じゃない。

 放出された魔力は熱を帯び、やがて火へと変わる。ほんの数十秒で辺りは火の海へと包まれた。


「これは……」


 俺の知っている王子ではこんなことは出来ない。

 やはり決闘の後に何かあったんだな。


「けひゃひゃひゃヒャヒャヒャヒャ!! ちょっと力んだだけでこれだ!! さあ、ジルよ。アリサへの手土産になってもらおうか。主人候補の焼け焦げた姿だ。きっと彼女も喜んでくれるだろう。なーに、大丈夫。今の姿よりか断然男らしくなれるさヒャハハハハ!!」


 ……。


「アリサに会いに行くつもりなのか?」


「そうだ。彼女は俺を散々馬鹿にしてくれたからね。本当はどちらが強者なのかをその体に刻み込んでやるのさ」


 へぇ、ふーん……ほーん、そう。アリサをね……。なかなか面白いことを言うなーこいつ。体に刻み込む、だっけ……? ふむふむ……。よし、決めた。お仕置きしよう。


「ん? やる気か? いいね。その少ない魔力で精一杯抵抗するといい。俺の炎で軽く呑み込んでやるよ……!!」


「ふん」


 何の躊躇いもなく撃ってきた複数の火の矢を、指を鳴らして消す。ついでにもう一度鳴らして、周囲のメラメラと燃え盛っていた火も消しておく。


「はあ? な、なにが……。魔力の流れが一瞬で途絶えたぞ!?」


 慌てている王子につかつかと近づく。


「っ、来るな!!」


 何か魔法を発動しようとするが、俺が指を鳴らすと何も起こらない。


「なっ」


「八連風華」


「ぐふぅ」


 魔法を腹に食らい、その衝撃で木へと激突する。


「もう終わりか?」


「……ひヒ、ヒャハハハハ、面白い。面白いよ!! どういうわけかお前は魔法を消し去ることが出来るみたいだ。それならそれで戦いようはある」


 そう言って立ち上がり幹を殴ると、人の体以上に太い木がミシミシと音を立てて倒れた。……ふむ。


「魔法に頼らない純粋なパワーを思い知れ!!」


 俊敏な動きで間合いを詰めてき、鋭い打撃を繰り出してくる。さすがに当たったら痛そうなので何とか躱す。


「どんどんいくぞ!!」


「却下する」


「ぐっ……なんだ……? 体が、重い……」


 俺の一声と共に王子の動きは鈍り、立っているだけでも辛そうになる。


「周囲の魔力が……活性化している……。お前……何をした……」


「さぁねー」


 俺がしたのは重力の倍加。周辺の重力をざっと5倍ほどにしてみたのだ。尤も、それを軽々しく教える気はないが。それに重力という概念はまだこの世界では一般的で無い為、説明しても分からない可能性もあるしな。


「な、舐めるなよ……この程度で、俺を……」


「ふふふ、そうかそうか。じゃあどんどんいってみよー」


「がっ――」


 まだ動けそうなので6倍にしてみる。

 6倍からは様子を窺いつつ徐々にあげていき、9倍でストップ。王子はうつ伏せに倒れたまま、ほとんど動かない――というより動けないのか。

 切りがいいかと重力を10倍にしたところで、王子の顔の前にしゃがむ。


「ほら頑張って。もうちょっと顔を上げれば私のパンツが見えるよ!!」


「――!! ――――!!」


 おやおや。何か言おうとしているが全然聞こえないな。でもまだまだ元気そうなのは伝わった。


「失礼するねー」


「――――」


 背中に腰掛ける。座り心地は普通、かな。王子だからって別に良くも悪くもない。ただ、心が僅かばかり高ぶっている。……自分ではMだと思っていたんだけどなー。


「ほらほら、もっと抵抗しないの? 私を丸焦げにするんじゃなかったの? それとも実は私に乗ってもらえて興奮しているの? うふふ、だとしたら王子様は男に欲情する変態さんなのね」


 こんな言葉がスラスラ出てくるようじゃMとは言えないかもね。


「――っ!!」


「おっ?」


 一瞬、王子の体がほんの少し起き上がったが、すぐ力尽きた。


「……」


 うん、そろそろ止めておくか。これ以上やると王子の体が危険だからな。さっさと原因究明と行こう。


「んじゃあ、何があったか調べさせてもらうぞ」


 【自由自在】を使って王子の記憶を辿る。

 ふむふむ……、どうやら若そうな男(顔ははっきりと分からないが)から怪しげな玉を押し付けられたみたいだ。その玉は王子の体に吸収されたことにより、筋力と魔力が底上げされ、学生離れした力を与えた。そしてその力に溺れたこいつは自信を負かしたアリサに復讐しようとしました、と。


「結論。その力は危ないので没収」


「――――!!!!」


『ミュランの体を2時間前の状態と同じにしますか。YES or NO』


 YESっと。

 玉が吸収される以前の状態に戻す。これが最も簡単かつ副作用のないやり方のはずだ。


「あ、ああ……俺の……俺の力が抜けていく……」


 重力の魔法はすでに解除した。

 そうしないと元に戻った途端ぺちゃんこになるかもしれないからな。


「で、正気に戻ったかー?」


 2~3分経ってから尋ねる。


「…………ああ」


 よし。

 腰を上げて王子から離れる。

 すると王子も動き出し、胡坐を組んで座った。目が少々虚ろだが、多分もう大丈夫だろう。


「何か言うことはあるか?」


「…………」


「何もないのか?」


「……………………何故僕を助けた」


「あ?」


「僕は君を殺す気でいた……。そしてアリサも殺しても構わないとも……。それは君も分かっていたはずだ。なのにどうして……どうして僕を助ける?」


「ふふっ、何だそんなことか」


「何故笑う……?」


 だって、な……。

 こいつの頭の中では自分がさぞかし強くなったと思っていたんだろうが、傍から見れば全然だ。そりゃあ学生のレベルではなかったが、上位精霊や大精霊なんかにはまるで届いていない。唯一魔力だけがその域に達していたかもしれないが、魔力だけ有っても人は強くなれない。その魔力を生かす技術や発想力が無ければ宝の持ち腐れだ。よって俺からすれば子供が危ないオモチャを振り回していたようなもの。一種の若気の至りだ。


「まあ……、あれだ。お前にはまだ教えていないことが沢山あるからな。コーチとして世話のかかる教え子の面倒をみただけだ」


 でも口から出たのはこんな言葉だったけどな。


「!? ま、まさか……」


 頃合いか。


「おーい、もう出てきてもいいぞー」


「クー」


 俺の呼び声に一匹の妖精がやって来る。身長20cmにも満たない小さな妖精だ。


「これは……下位精霊?」


「そう、火の下位精霊だ。お前は力が欲しかったんだろ? ならこの子と契約しろ」


「!?」


「はっきり言うが、お前がアリサに勝てる可能性はない。この先、何年修行してもその事実が変わることはないだろう。だけどそれも当然。なんせ彼女は大精霊と契約してるんだからな。勝てるわけないじゃないか。相手は実質2人だぜ? ――だから1人で強くなるのは止めろ。この子と一緒に2人で強くなれ。噂によると下位精霊は契約者と共に成長するらしいから、自分がどれくらい強くなったかの鏡にもなって丁度いいだろう?」


「クー」


「幸い、この子はお前との契約に乗り気だからな。毎日果物をくれるだけでいいってさ。……ったく、この子を探すのに苦労したんだからな?」


 見かけた下位精霊に片っ端から話しかけ、王子に合いそうな子を探したのだ。かなり大変だった。おかげでじんみゃ――精脈は広がったけどな。


「…………………………分かった。その子と契約しよう。……ただ、その前に1つやるべきことがある」


 起き上がり様に懐から七剣エンジュを取り出した。


「君はどうやら僕を許してくれるみたいだ。おまけに今後も面倒を見てくれる気でいる。正直、いろいろと整理はできていないけど……。その気持ちに応えるためにも、僕はケジメをつけなくちゃいけない。ただ君に甘える存在ではないことの証明、そして甘言に惑わされ人を傷つけようとしたことの戒めを!!」


「!?」


 王子は思いっきり自分の左の甲へエンジュを突き刺した。

 そして引き抜くと、痛々しい傷口から血がドクドクと溢れてくる。


「バカ!! 何をやって――」


「カムイ――いや、ジル・クロフト!! 僕は今後絶対に自分から人を傷つけないこと――必ず世界トップクラスの火の使い手になることを――この傷と流れる血にかけて誓おう!!」


「――」


 今までの姿からは想像も出来ないほど堂々とした姿を見て俺は――こいつは本当に王子なんだなーと、今さらなことを思った。





「すまなかったっ!!!! 僕は君に負けた後、危うく復讐しに行くところだった……!!」


 翌日、校門の前で王子の謝罪する声が響き渡った。


「はあ、そうですか」


 他の生徒がぎょっとする中、謝罪された本人はどうでもよさそうにカチューシャを弄っている。


「本当に何と謝ればいいか――」


「そんなことよりも2つ質問があります。1つ。何故ジル様が一緒なのですか?」


 アリサがミュランの隣にいる俺へと視線を向ける。


「ああ、それは――」


「それは俺がこいつのコーチだからな。事の顛末は見届けようと思って」


 ミュランが負けたからには、いずれカムイとしてアリサの前に出なくてはいけない。100%バレると決まっているんだから、びくびくと怯えるよりかは自分から教えてしまった方が気は楽だ。


「まあ!? まさかジル様が王子のコーチだったなんて!! 驚きですね!!」


 ちっともそんな素振りを見せずに楽しそうに笑っている。やはりというかコーチが俺だっていうのは気付いていたんだろうな。


「……では2つ目。王子の傍にいる子はもしかして精霊ですか?」


「ああ、昨日契約したばかりの下位精霊ファイ。ジルのおかげで契約できた」


「クー!!」


「なるほど……下位精霊を………………」


 何やらファイを凝視して深く考え込みだした。

 その視線に耐えられなかったのか、ファイが居心地悪そうに校舎の方へ飛んで行く。


「あ、待て……!! っと、とにかくすまなかった。僕に出来ることがあれば何でも言ってくれ。出来る限り力になろう。じゃあジル、アリサ、先に行っているから」


 左手の包帯を少し撫でると、走って行ってしまった。

 ……やれやれ。謝るならちゃんと説明しなくちゃ何のことか分からないだろうに。まあアリサなら言わなくても大体の事は察しているかもしれないけど。


「む、私も呑気に考え事をしている暇ではありませんでした。用事があるので私も先に失礼します」


「ああ、気を付けてな」


「ふふ、――――ですね」


「え? 今、なんて――」


 もう行ったか……。


「…………」


 今の、俺には『これで荒療治は完了ですね』って聞こえたが――。

 まさか、まさかだけど、これまでの流れ全てがアリサの計画通りなんてことは……流石に有り得ないよな?

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