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1.5mの世界  作者: 粗井 河川
2章
69/144

第19話  決闘

 王子を止めるかどうか。

 結論から言えば俺は止めなかった。いや、止めることが出来なかった、が正しいか。

 決闘の申請はすぐに受理され、3日後に行われることが精霊を通してクロスセブン中に広がった。当日は一般人も観戦できるコロシアムで行われることが決まり、衆人環視の前で戦うことになる。まるで見世物みたいだが、大多数の前で勝敗をはっきりさせることや、安易に決闘をさせないための抑止力としての狙いがあるらしい。

 これほど大きなイベントとなると学生達の関心も高くなる。その日の内から王子VSアリサがどうなるかの話で持ち切りとなり、決闘の準備も始まっていたことも相まって、もはや俺の意見1つで止められる流れではなかったのだ。

 だから俺は王子のコーチとして、少しでも勝率が上がる様に全力で鍛えてやることにした。


「……こんなものだろう。彼女相手にどこまで通用するかは知らんが、思いつく限りのことはしたつもりだ。あとは上手くいくよう神に祈れ」


「ひぃ、ひぃ…………ありが、とう……ございました……。ふぅ……。いよいよ明日、アリサと雌雄を決するんだな!! 僕は勝ってみせるぞ!!」


 この短い時間で効率よく訓練する為、反則技も使用した。具体的には体力と魔力が無くなったら秘薬だと言ってただの炭酸水を飲ませ、その隙に能力で全回復――の繰り返し。おかげで魔力の最大値もちょっと上がったし、宣戦布告以前よりも動きのキレが良くなったような気がする。

 しかしそれでも――。


「彼女に勝てる可能性は極めて低い。その事実だけは絶対に忘れるなよ」


 アリサは0だと言っていたが、教えても意味はないので黙っておこう。


「わかってるわかってる!! 大精霊と契約しているんだから甘く見るなってことだろ? 大丈夫、油断なんてしないさ!!」


 なんか心配だなおい。


「だいたいカムイ、僕は勝敗にそこまで固執してないんだ」


「……ほう?」


「確かにアリサに勝って主人候補の最有力者になることは大事だ。あんな軟弱な男が主人候補だなんて間違っているからな。でも――それと同じくらい僕は自分の力を試してみたいんだ。カムイに鍛えられた僕がどれほど強くなったのかを」


「なら負けても構わないと?」


「もちろん勝つつもりさ!! 次期国王として、何よりも1人の男として観衆の前で女の子に負けられない。本気で勝ちに行く。手段だって選ばないつもりだ。……で、その結果負けるのであればしょうがない。僕はその事実を受け入れてアリサの主人になるのは諦める。大人しく義父で我慢するか、姉のティリカに狙いを変えるよ」


 まーだ義父とか何とか言っているのか。こいつのこういう所もいつか矯正したいな。あとアリサに負けても、次はティリカを狙うっていうのも逞しいのか軽いのか……。

 でもこの調子なら勝敗がどうなっても深刻なことにはならない、かな……?

 願わくば、決闘が2人にとって良い方向に進みますように。




 そして迎えた当日。

 決闘の舞台となるコロシアムの前は人で溢れかえっていた。クロスセブンは人の多い都市だが、一ヵ所にこれほど集まるのは極めて珍しい。屋台まで出店してあり、何も知らない人が見れば祭りでもやっているのかと勘違いしそうだ。……まぁあながち間違ってもいないけど。

 でもいくら王子VS大精霊の契約者とは言え、学生の戦いにこれほどの人が集まるのはどうかと思わなくもない。


「兄さん見て下さい!! ポップコーンの屋台があります!! 観戦のつまみにどうでしょうか!?」


「はいはい食べたいんだね。待ってるから買ってきていいよ」


「ありがとうございます!! ついでに飲み物も買ってきますね!!」


 すっかり祭り気分でハイテンションな妹を見送る。

 ダメ元で誘ってみたのだが、まさか来るとは思わなかった。ククルはこういうイベントには興味がなさそうなのにな。


「それだけ彼女も今回の戦いには注目しているのですよ」


「んー、そうなのかしら――って、ローザ女王!?」


 急に話しかけられ振り向いて見れば、そこには白髪エルフがいた。

 え、何でこんな所にラングットのトップがいるの!?


「久しぶりですねジル。ふふっ、本当に可愛くなりましたね。この4年間で世界はだいぶ変貌を遂げましたが、あなたほど見た目が変わった存在はいない――」


「こらこら女王さん。勝手に先へ進むなと……お? もしかしてジル・クロフトか? ひゅー、そのノースリーブのワンピース、よく似合っているぜ」


「オロフ・アルシャルク!?」


 ラングット最強の男までいるのかよ!? 本当に何しに来たんだよ。まさか今日の決闘を見に来たってわけじゃないだろうな。


「そのまさかです。王子とアリサの試合を観たくて遠路はるばるやって来ました。しかも私達だけじゃありませんよ。カルカイム、ベルダット、レストイアのトップと光の大精霊も既にコロシアムで待機中です。……ああ、決闘が行われることは私が“2週間前”に皆に知らせておきましたので」


「――」


 嘘……だろ……? じゃあ各国のトップと大精霊が学生同士の決闘を見るためにわざわざ足を運んだって……? それほど価値のあることなのか? 大袈裟すぎるだろ……。


「くくく、なーに驚いてるんだか。嬢ちゃんの立場を考えればそう変な事でもないだろう?」


「オロフの言う通りです。ジル、あなたはアリサ――いえ、大精霊と契約している者の影響力を甘く見ています。彼女の初の公式戦なのですから、これだけ注目が集まるのも無理からぬこと。……ふふ、大精霊の方々も風以外は皆、何らかの方法で状況をチェックしていますし、今のコロシアムは間違いなく世界で最も注目されている場所でしょう」


 信じられない……。

 そこまで大事になっていたなんて……。


「ではジル。積もる話もあるでしょうが、人を待たせているので失礼しますね。また会いましょう。行きますよオロフ」


「へいへい。でもその前に……。ジル。俺の娘とついでにクソ猫をよろしく頼む。しっかり世話してやってくれ。報酬として手は出してもいいけどあくまで合意の上でな。たぶん処女だから優しくしてやるんだぞ? あ、避妊はちゃんとしろよ!! しないと後々面倒なことになるからな。学生の内は自制しておけ。……よし、今度必要な道具は送ってやるよ。それともし俺のハーレムに加わりたくなったら――」


「い・き・ま・す・よ」


「いててててててて」


 耳を引っ張られながら行ってしまった。

 俺の中ではローザ女王とオロフの絡みが全く想像出来なかったのだが、案外上手くやっていそうだったな。


「ふむ……」


「兄さん、買ってきまし、た……はて、もしかして誰かとお話ししていましたか?」


 戻ってきたククルが、さっきまで2人の立っていた所を見ながら聞いてきた。


「いや……ちょっと知り合いに会ってな。その人によると今日の試合、各国のトップと大精霊達も見に来るんだってさ」


「へぇ……。意外に暇な方達なんですね」


 やっぱそういう感想だよなー。

 俺らがおかしいのかね?




「静粛に!! これよりアリサ・フィーリアとミュラン・カルカイム・オーウェンの決闘を始める!! 進行は審判と兼任し、彼らの学長である俺が務める」


 数万人もの観客が一斉に口を閉ざし、闘技場に現れた土の大精霊へ注目する。

 いよいよか。


「今回の主役達に登場してもらうその前に、いくつか注意事項を説明しておく。まず、『決闘』はお前達を楽しませる為の娯楽ではないということ。お前達の役目は勝負の証人となることだ。よって戦いが始まったら私語などせず黙って見守れ。次に――」


 話を聞き流しながらローザ女王を探してみる。あの言動から察するに国のトップ同士で固まっているはずだ。まだ教国と帝国のトップは見たことがないから気になる。

 んーと……いた!! 如何にも貴賓席ですみたいな場所でローザ女王とオロフ、それにヒルト王達がくつろいでいる。見たことのない人がチラホラいるが、あの法衣を着ているおっさんが教皇で、ガタイのいい獣人が皇帝なのかな。……つーか一緒にスイレンまでいるじゃん。もしかして彼女の隣にいるプラチナ色の髪をした女性が光の大精霊なのか? もしそうなら4ヶ国のトップ+大精霊3人がここにいることになるな。……凄いことなんだが集まる理由を考えると、どうもモヤモヤする。


「――説明は以上だ。2人とも入ってくるがいい」


 ん。


『ワアアアアアアアアアアアアアアア』


 大歓声に包まれながら、アリサと王子が同時に登場した。アリサはいつものメイド服であり、王子の方は制服だ。2人とも緊張をしている様子はなく、観客に向けて笑顔すら浮かべている。たぶん俺の方がずっと緊張していると思う。


「よし、2人とも楽にしながらルールを聞け。決闘のルールは『身代わりくんの体力を0にした方の勝ち』だ。『身代わりくん』とは対象が受けたダメージを肩代わりしてくれる人形で――まぁ早い話、体のダメージを気にすること存分に戦えということだ」


 そう説明すると、2人の背後に土の人形が2体ずつ出現した。


「補足をする。人形を1体破壊した方の勝ちだ。2体目は余剰ダメージ吸収分。人形に直接攻撃をしても無意味。狙うのは互いの肉体のみ。説明は以上だ」


「勝つのはどっちだと思う?」


 空のポップコーンの容器を悲しそうに見つめているククルに問うてみる。


「どっちが勝っても気に入りませんが……アリサでしょうね。勝負の見所は王子がどれだけ健闘するか、だと私は思っています」


 ふむ、だいたい俺と同じ意見だな。注目すべきはアリサがどのように戦うかと、王子が彼女を苦戦させられるかだ。

 さてどうなるか――。


「最後に両者とも一言述べて構えろ」


「勝てるように精一杯頑張ります」


「勝つのは僕だ!!」


 2人が戦闘態勢に入る。

 2人の距離は7m。王子ならすぐにでも接近戦にもっていける範囲。

 試合の展開を予想するだけで自然と手に力が入っていく。


「では――――」


 観客が固唾を呑んで見守る中――。


「始め!!」


 戦いの火蓋は切って落とされた!!


「うおぉ――」


「ニヴルヘイム」


 まさに一瞬の出来事だった。

 学長の合図と同時に、王子が駆け出そうと足を踏み出した瞬間、闘技場は凍りついた。戦いの舞台は蒼い氷に覆われ、王子も首から下が完全に凍ってしまっている。観客も王子もあまりの出来事に付いて行けず、茫然自失状態だ。


「決まりましたね」


「いや……」


 確かに決まったように見える。アリサの魔法は見事で、王子はもう動くことは出来ないだろうし、こうしている間にも徐々に人形が削れてきてはいる。しかし人形が完全に破壊されるまで勝負はどう転ぶか分からない。例え動けなくても魔法は使えるのだから、王子が諦めさえしなければ――。


「ふうー……準備完了。――さて、観客の皆様。今から私がお見せするのは魔法が持つ可能性の一端です。私の“主人”になるとはどういうことなのかも踏まえつつ、ご覧ください」


「――」


「これが私の導き出した最適解――『フォートレス』です!!」


 ――まず初めに感じたのが強い風。

 次に目に映ったのがアリサの周りを護るようにふよふよ浮く多数の石版と、彼女の上に浮かぶ無数の氷の矢。

 そして最後に気付いたのが、この風には電気が混じっているということ。

 すなわち彼女は――。


「4属性の魔法を同時展開しているのか……!!」


「化け物ですか……」


 ククルの言葉も無理ない。

 それだけアリサは人間離れしたことをしているのだ。

 異なる属性の魔法を同時に発動する。複数属性を持つ者なら誰でも一度は試してみることだが、これがとにかく難しい。異様に制御が複雑で扱い辛く、発動しても維持できずにすぐ消滅してしまう。ククルも昔、水と雷の合成魔法を練習していたことがあったが、あまりの難易度に諦めたほどだ。それをアリサは同時に4つの魔法を発動している!!

 複数属性魔法を発動するには卓越したセンスと集中力、魔力に演算能力、精神力、想像力に加え、2属性以上を使えるという幸運も必要だ。

 凄い……凄いぞ……!!

 たぶんアレ――フォートレスは強風と電気で敵を近づけさせず、仮に攻撃されても周囲を漂う石版が防御、そしてあの氷の矢で攻撃をするという1対多数を想定した攻防一体の魔法なんだろうが12歳の発想じゃない!! ましてや実際に発動し維持するなど……!!

 間違いない。アリサは天才だ。それも飛びっきりの天才。

 現時点で既に世界最強へ片足を突っ込んでいる。

 

 ゆえに――王子を戦わせてしまったことが悔やまれる。


「さすがに長くは持たないので終わりにしましょう。攻撃陣形タイプ氷『一斉掃射』」


 放たれた氷の矢は強風に乗って勢いを増し、さながら弾丸の如く氷漬けの王子を貫いてゆく。もはや矢の数が多すぎて王子の姿が見えない。

 攻撃が止むとそこにはへたり込む王子と、9割以上削れた2体目の人形が。


「それまで!! 勝者、アリサ・フィーリア!!」


 こうして決闘は終了。

 結果はアリサの圧勝。

 王子はこれまでの特訓の成果を何1つ見せることが出来なかったどころか、満足に動くことすら許してもらえずに敗れることとなった。

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