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1.5mの世界  作者: 粗井 河川
2章
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第18話  宣戦布告

「そこまで。両者とも離れるように」


「はぁ、はぁ……あ、ありがとう……ござい、ました……」


「おう、お疲れさん。かなり良かったぜ」


 俺の合図に王子とDクラスの冒険者が距離を取る。

 2人には10分間の模擬戦をしてもらったのだが、結果は引き分け。冒険者の方は余裕を残す一方、王子は息も絶え絶えだが、大人相手に引き分ければ上出来だろう。以前と比べれば格段に強くなっている。


「世辞は……いい……。僕は……防御に手一杯で、ほとんど攻撃……できなかった……」


「それが凄いのさ。俺は攻撃には自身があったのに決定打を与えられなかった。お前は本当によく耐えたぜ、自信を持っていい」


「そうか……。ありがとう」


 何かを確かめるように手を握る王子。

 成長したのは強さだけじゃない。心もちゃんと成長している。今までだったら礼を言うなんて有り得なかった。まだ少し生意気な所があるが、王子であることや年齢を考えれば許容範囲だろう。


「じゃあ俺はこれで帰るわ」


「ああ、助かった」


「いいってことよ。その代わり今度“2人で”依頼を受けに行こうな」


 妙に2人を強調して去って行った。

 ……俺が男だと知っているはずなのにあんなことを言うってことはアイツ、ホモなのか? だとしたら最悪だ。王子の特訓に協力してくれたことはありがたいが、もう頼むのは止めた方がいいな。……ん、そういやギルドの連中はやたらボディタッチが多いけど……まさかそういうことなのか? なるほど、通りで容姿はなかなかのイレナに手を出さないわけだ。あーあ、気づかない方がよかったな……。


「カムイ」


「ん、どうした?」


 呼吸は……もう整っているな。

 やはり体力はある。


「僕は本当に強くなったんだろうか?」


「ここ一月で見違えるほど強くなった。……ただし、あくまで学生レベルでの話だがな」


 教えると調子に乗るだろうから黙っているけど、同学年で王子に勝てる奴はそうはいないだろう。


「同じ学生であるアリサ・フィーリアに通じるほど?」


「無理だ」


「何故?」


「大精霊と契約しているというだけで、学生レベルとは一線を画す。おそらく学生でフィーリア姉妹に勝てる奴などいない。――いたとしてもそいつは間違いなく普通じゃないぞ」


 考えられる可能性は上位以上の精霊と契約しているか、能力者、この2つだけかな。


「……ちょっと過大評価じゃないか? カムイは彼女の実力を見たことがないからそう思うだけだよ。最近僕はアリサとの勝負のことを思い返しているんだけど、せいぜいさっきの冒険者と同じくらいの強さの気がするよ」


「む……」


 アリサを甘く見るなと言ってやりたいが、確かに俺は彼女の本気を見たことがないからな……。契約を抜きに考えればククルと同じくらいだと思うんだが……。だとすると王子がアリサに勝つことも不可能ではない、かもしれないな。


「アリサと戦う気なのか?」


「まぁね。あまり悠長にしていられないし、そろそろ戦おうと思っているよ。でも……まだ彼女に勝てる自信はないし、何よりカムイは反対みたいだからもう少し訓練してからにするよ」


「賢明な判断だ。……さ、続きを始めるぞ」


 自分の力を過信する兆しが見えたし、自惚れないよう徹底的にしごいてやるか。

 ――しかしアリサの実力、か。ちょっと気になるな。



 なーんてことを思っていたら翌日、アリサと学園の廊下ですれ違った。


「ジル様。久しぶりですね」


「久しぶりって程でもないけどな」


 相変わらずメイド服を着ているが、ティリカと違い見た目も夏服モードだ。袖とスカートの丈、ニーソックスが短くなっている。俺としてはスカートが短すぎて男どもに余計な刺激を与えないか心配だが、さすがに俺が口出しする様なことじゃない。


「73時間12分42秒ぶりなんですから、十分久しぶりですよ」


「え、まさか数えていたのか?」


「ふふ、冗談です。ただ適当に言っただけですよ」


「だよな……」


 あまり冗談に聞こえなかったけどな。深く考えるのは止めよう。……どうも俺はアリサと会話すると緊張する癖がある。何か目的があるのか、発言に裏はないか、今日こそはフロルの事を尋ねて来るのか、と警戒してしまうのだ。

 そんなじゃダメだダメ。素直に会話を楽しまないとな。


「ところでジル様は夏に入ってからずっとポニーテールですね。気に入っているんですか?」


 よし、俺が好きな話題だ。


「髪形としては好きな部類だな」


 ポニーはシンプルでありながら奥が深い髪形だ。工夫次第でどこまでも魅力を引き出すことが出来る。シュシュやリボンで結べば可愛く見せられるし、ゴムで留めればフォールな場でもOK。結ぶ長さや高さで与える印象も変わり、ちょっと横にずらしただけでもかなり違う。それに今みたいな暑い季節にはスッキリして過ごしやすいしな。

 あとは……うなじがエロく見えると思う。個人的にはここが最も重要なポイントかなー。


「うーん……でもポニーテールって女の子がするものですよね? ジル様がするのはおかしいと思います。ジル様はもっとこう……髪を短くして男らしくされてはどうでしょう?」


「おっと、それは出来ない相談だ。俺は髪が長い方が好きだからな」


 これからも髪は伸ばす。例え誰に何と言われようとそれが覆ることは絶対にない。


「まぁ、私はどっちでもいいんですけどね。でも、もしお姉ちゃんと早く仲良くなりたいなら髪は切った方がいいですよ」


「……」


 ティリカと仲良く出来る日は遠そうだな……。


「あぁ、そう言えばジル様は魔法学の闇属性について講義は受けましたか? 私に闇属性の適性はないので、いまいち理解しにくかったのですが――」


 その後は授業について分からなかったり、疑問に思ったりしたことの受け答えをした。アリサが分からないことを全て俺が答えたら不自然だろうから、ある程度は俺も分からない振りをし、ヒントだけ教えるようにしている。……尤も、アリサにはバレバレだろうけどな。


「ありがとうございました。おかげで疑問は解消――」


「やあアリサと………………ジル・クロフト」


「こんちはー、王子」


 質問が終わったところで、タイミングよく王子がやって来た。

 アリサには笑顔だが、俺にはあからさまに「何でこいつが……」みたいな目を向けて来る。だいぶ性格がマシになったとは言え、俺の事が気に入らないのは変わらないようだ。

 そんな王子に「実は俺がカムイでしたー」って打ち明けたらどうなるのか。興味は尽きない。


「何かご用ですか?」


 さっきまで笑顔だったアリサが真顔で応対している。


「いや、たまたま通りがかったから挨拶しただけだよ」


「そうですか。ではこれでお引き取り願います。まだジル様とのお話が済んでいませんので」


「ジル“様”……? 何故彼に様を付けるのかな? 確かククルには様は付けていなかったと思うけど……」


 雲行きが怪しくなってきたが、そこは俺も気になる。


「そうですね……。自分の中で様を付ける基準は、『目上の方』『自分より強い方・優れている方』『お世話になっている方』『尊敬している方』『恋愛対象』ですね」


 ふむ……。


「それじゃあ僕の事を“王子様”と呼ぶのはもしかして……!!」


「王子様は『目上の方』ですからね。さすがに呼び捨てには出来ませんよ」


「……」


 期待に膨らむ目で見た王子を一蹴。滅茶苦茶落ち込んでらっしゃる。


「じゃあ……彼の場合はどうなんだ……。まさか『自分より強い』なんて言わないよね?」


「さあ? それを教える気はありません。ただ1つ言えることはジル様が“主人”候補の1人ってことくらいです。……あ、これはオフレコでお願いしますね」


「「!?」」


 嘘!? 俺って主人候補だったの!? 何時の間に!? じゃ、じゃあ俺が主人に名乗り上げればOKするってことか!? あ、あと候補の1人とも言ったよな!? 他にもいるのか?

 ダメだ……頭がこんがらがってきた……。


「彼が“主人”候補……。なら僕も――」


「王子様はもちろん違います。基本的に『目上の方』というだけでは“主人”候補には成りえません」


「……」


 ふぅ……。王子の落胆っぷりを見たら落ち着いてきた。

 さすがにここまでバッサリ切られると男として同情しなくもない。


「……あんな女みたい…奴が…………なのに僕は………………このまま…………………………決めた!! アリサ・フィーリア!! 僕は君に決闘を申し込む……!!」


 決闘!?

 決闘っていったら、学長立会いの元で行われる本格的なやつじゃないか。


「ふふ、そこでジル様ではなく私に言う所“だけ”は好感が持てますよ」


「まだ早いとは思っていたけど……最早一刻の猶予もない。僕が勝ったら“主人”にしろ――とは言わないまでも、僕が主人候補であることを世界に宣言してもらう」


「もし負けたら?」


「学園を卒業するまで、僕から君へは接触しないと約束しよう」


「うーん……それだと今まで相手をしてきた分と合わせると足りないですね……」


「君の出す条件に従おう」


「……今回はやけに気合が入ってますよね。何か秘策でもあるんでしょうか?」


「ある!! 僕には優秀なコーチが付いているからね。これまでの僕とは思わない方がいい!!」


「へぇ……。では私が勝ったらそのコーチを紹介してください。それと先ほどの条件を合わせたのなら決闘を引き受けましょう」


 いいっ!?

 ハラハラ見守っていたらとんでもない条件が出た。


「いいよ、その条件で決闘だ!!」


 良くねえよ!? 王子が負けたら俺はカムイとしてアリサに会わなくちゃいけないんだろ。絶対にバレる……。会った瞬間にバレる……!! バレてもそこまで問題じゃないかもしれないけど恥ずかしいから嫌だ。


「じゃあすぐにでも学長に決闘の申請をしてくる。詳しい日時が決まったら連絡する」


 止めたいのに止める理由が思い浮かばず、王子の後ろ姿をただ見送る破目に。


「ふふ、何だか楽しくなってきましたね」


 全然楽しくない。

 王子が勝っても何か気に入らないし、この勝負はどちらが勝っても俺の損にしかならない。出来れば引き分けに終わって欲しいが……。今から王子を鍛えれば間に合うかな?


「では突然ですが、ここでクイズです。王子が私に勝てる確率はどれくらいでしょうか?」


「え? 本当にいきなりだな……」


 でも王子が勝てる可能性か……。これまでの訓練で王子が強くなっていることと、俺の中でのアリサの強さを比較すると……。


「勝負の形式にもよるが10%……、いや5%かな」


 接近戦に持ち込めればこんなもんだろう。


「残念ハズレです。正解は0でした。王子が決闘までに何をしようが当日どんな戦法を取ろうが、私に勝てる可能性は存在しません」


「――」


「ふふ、勘じゃありませんよ? これまでの情報と、今の王子を見た上で弾き出した“事実”です。断言しましょう。『勝つのは私』だと。……3日後の決闘、是非見に来てくださいね」


 軽く一礼し、教室へと戻って行く。

 ……あの傲慢さすら感じる強気のセリフ。もし他の誰かが言っていたらフラグだと思うかもしれないが、アリサの場合はそうなると思わされてしまう。

 だとしたらカムイは王子を止めるべきなのだろうか。

 それともいい経験になると決闘に全力で挑ませるべきか……。

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