第14話 報酬と男らしさ 後編
「失礼する」
学長との話を終え、俺はすぐにある場所を訪ねることにした。
「なんだいその如何にも怪しそうな格好は。暗殺でもしに来たのかい?」
出迎えてくれたのはアマゾネスみたいな感じのお姉さん。訝しげな視線でこっちを観察してくる。
「違う。登録をしに来ただけだ」
「ふ~ん。冒険者登録にねぇ」
そう、俺がやってきたのは冒険者ギルド!!
学長の話で学園に貢献する気になった俺はあれこれと考え、内側からではなく外側から貢献することに決めた。すなわち学生同士の問題を解決するのではなく、学園に害を与えようとする余所者から守ろうということだ。そんな奴がいるなんて情報はないが、あんな特殊な場所なんだから何れ必ず出て来る。そういった情報はギルドが一番集まりやすいため、ここで網を張ろうってわけだ。
「ま、好きにするといいよ」
横に退いてくれたものの、俺から目を離さない。そんな怪しいか?
ちなみに今の俺の格好は黒の外套に身を包み、顔の上半分は仮面で隠してある。髪も黒に戻してあるから、誰が見ても俺がジル・クロフトだとは思うまい。……おかげでちょっと怪しまれているが。
「おいおい来る場所を間違えてねえか? ここはお前みたいなちっこい奴が生き残れるほど甘い所じゃねえぞ。大人しく東の学生ギルドに行きな!!」
今度はガタイのいい礼儀知らずが絡んできた。
俺の身長は162cmだから決して小さくはない。そりゃあ男としては大きくないけど……まだ伸びるもん。
「無用な忠告感謝する」
イラッときたので適当に返事をして横を通り抜ける。
「待ちな。どうしても登録をするっていうんなら……へっへっへ、ギルドの厳しさってやつを教えてやるよ」
再び俺の前を塞ぎ、威嚇するように顔を近づけてきた。
……酒臭い。もう夕方とはいえ、酔っぱらうのが早くないか?
「頭を冷やしてこい」
「おおっ!?」
つーわけで、外まで吹き飛ばしてやる。
「ヒュー!! アンタやるじゃん!!」
「俺はお前を歓迎するぜ!!」
さっきのお姉さんが称賛し、周りの野次馬も拍手してくれた。歓迎ムードっていうのは何か新鮮。ちょっと照れるな。
「では登録をお願いしようか」
「おら、じゃあここに必要事項を記入しな」
受付の禿げたおっちゃんに頼み、差し出された紙にさらさらっと記入する。
「早いな。えーっと、名前がカムイ。年齢が……って後は全部空欄じゃねえか!!」
どうせ本当の事を書く気なんてないから、いっそ空欄にしてみたのだ!!
「そちらで適当に埋めておいてくれ」
「おいおい、せめて男か女かくらいは記入してくれよ」
「つまらん冗談だ。見れば判るだろ? 俺は男だ」
いい機会だしギルドにいる間は本気で男として振舞うことに決めたのだ。
そのため現在絶賛男モード中。俺が持てる全ての男力を表に出しているため、女に見える筈がない。
「いや、判んねえから聞いたんだよ。男だったんだな」
「なん……だと……?」
そんなバカなことが……はっ!? そうか!! このおっちゃんは荒くれ者の男ばかり見てきたから、きっと男の基準が人とはちょっと違うんだ!!
ふー、びっくりさせやがって。
「んじゃ、望み通り後はこちらで記入させてもらう。そんで次は……ギルドの説明はいるか?」
「知人から教わったから不要だ」
「それはちゃんと最新の情報か? 今は4年前と違ってアルファベット制だぞ?」
「わかっている」
昔はギルドのランクや魔物の強さは一級、二級、一つ星、二つ星で表していたが、今はSS、S、A、B、C、D、E、F、G、Hクラスで統一されている。
なお、アルファベットは漫画から知識を得たスイレンが便利そうだからという理由で4年前に広めた。世間にはまだ普及しているとは言い難いが、新しいものに敏感なギルドは率先して取り入れたのだ。決してスイレンが圧力をかけて採用させたわけではない、と本人は申しておりました。
「話が早くて助かる。ならこれで手続き終了だ。今日は依頼を受けるには遅いし、このHクラスの証明カードを持って帰りな」
「ああ」
安っぽい紙でできたカードを懐にしまう。
出来ることならここで飛び級の申請をしておきたいが……。
クロスセブンは小さなトラブルは多いものの大きな問題が起こることはほとんどないと聞く。周辺の魔物も精霊が粗方退治しているようだし、難しい依頼は少ないだろう。なら冒険者として本格的に活動する気のない俺が数少ない高難度の依頼を奪うわけにはいかない。あくまでここへは情報収集に来ているだけ。ギルドの生態系を崩すのは止めておこう。
「失礼す――ん?」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 新入りに舐められたままでたまるかぁああああ!!」
俺に吹き飛ばされた男が性懲りもなく突っ込んできた。
ふん、大人しくしていれば酔いの所為に出来たのにな。
「あぐっ!?」
足払いをかけ、うつ伏せに倒れたところで背中を足で押さえ付ける。
丁度いい。先程ちっこいと言った罰を受けてもらおう。
「舐められたくない気持ちは分からなくもないが、向かう者に容赦はしない。我が黒炎に身を灼かれたくなければ豚の様に許しを乞え」
禍々しく揺れ動く黒炎を顔面に突き付けながら足にも力を込めていく。
「あちちち!! わ、わかった……!! わかったから!! ぶひいいいいいいいいいいいいいいい……!! これで勘弁してくれ!!」
あ、一瞬背中がゾクゾクした。
こういう路線もアリだな。
「いい子だ、良く出来ました。――では今度こそ失礼する」
「あ、あぁ……」
全員の視線を集めながら、颯爽とギルドを退出。
「ふっ」
き、決まったぁぁぁぁ!!
今の戦闘から退出までの流れは完璧だったでしょ!!
アレなら誰がどう見ても男にしか見えなかったと断言できる。今頃ギルドでは謎の男が現れたと騒ぎになっているんじゃないかな!?
うんうん。
偶には男らしいことをするのも悪くない。情報収集だけじゃなくて、男らしさを忘れないためにもギルドにはちょくちょく顔を出そう!!
「行ったか?」
「ああ。ガッツポーズしながら帰っていったよ」
「そうか。で、お前達。カムイの性別はどっちだと思う?」
「女」「男」「男だろ」「女、かな」「判らん」「いや女でしょ」「女。まるで女王みたいだったぜ」「男じゃね?」「女よ!!」「女がいい!!」「男以外認めぬ」「男!!」「女ね」
「女という意見がやや多いな。……ん? Dクラス以上は全員女という意見か。イレナ、お前はどうだ?」
「アタイかい? そうさね……。まだ断言はできないけど女、の様な気がするねえ」
「理由は?」
「口元が女。きちんと手入れされた髪。ふと見せる女らしい仕草。この三点だね」
「イレナに賛成だ。アイツは無理をして男を演じている、そんな風に感じられた」
「やはりそうか……。俺もカムイは女だと思ったんだよ。見ろよこの丸っこい字!! こんな字、男が書くものじゃねえよ」
「これは女で決まりか……?」
「でもそうすると誰なんだろうな? 女であそこまで強い奴っていったら噂の一つくらいはありそうだけど……」
「少なくても俺達の世代じゃないな。まだ若そうだったし学生という線は考えられないか?」
「それじゃあ、あそこの生徒ってこと? 候補がいないわけじゃないけど……本当にそうかしら?」
「少なくてもあの仮面の下は間違いなく美少女だ!! これだけは胸を張って言える!!」
「……アタイも賛成だね。相当レベルが高いはずだよ」
「容姿と強さを兼ね備えた奴か……。パッと思いつくのは帝国の姫さんとレストイアの巫女さんくらいか。ああ、あとフロルの弟子もいるな」
「情勢的にカルカイムは有り得ないだろう。アイツがククル・クロフトやフィーリア姉妹っていうなら話は別だが」
「はいはい、そこまでにしな!! 実際はどうであれ書類上は男だ。本人もそう望んでいるようだし、男として接しろ!! 期待の新人なんだから余計な詮索をして逃げられないように。判ったな!?」




