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1.5mの世界  作者: 粗井 河川
2章
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第8話  彼女の仮説

「一緒に火属性の魔法を鍛えましょう!!」「授業では教えてくれない剣術の応用を学べるぞ!!」「さあ、共に祈りましょう」


 昼休み。グラウンドでは部活動の説明&勧誘合戦が行われていた。屋上からは学生たちの活気づいている様子がよく見える。


「いいねぇ、青春って感じで。……ん? ああ、俺はいいんだよ。どこにも入部するつもりはないからな。それよりもしっかりと頼むぞ? あんまり遅くなると心配してこっちに来そうだし」


 「任せろ」と言わんばかりに風を巻き起こすと、ハヤブサ型の精霊は空を切り裂くように翔けていった。

 あの速度なら明日にはメルフィの元に着くだろう。


「さて、定期連絡も終わったしどうしようか」


 昼休みが終わるまでまだまだ時間がある。教室に戻って本でも読みたいところだが、今戻れば途中で部活の勧誘に遭うかもしれない。校内でも文科系の部活が勧誘をしているため、出来ることなら避けたい。かなり強引だからなアレ。

 ……しばらくはここにいるしかないか。


「あーあ、こんだけ学園が活気づいているのにな」


 ボケーと時間を潰している奴なんて俺と粛正会くらいなんじゃね。

 

 ――結局、職員室へ全裸で突撃した彼らは2週間の停学となった。前代未聞なことをした割には普通の処罰だが、彼らが学園に復帰することはないだろう。なぜなら粛正会も2週間の活動停止となったからだ。

 この期間は粛正会としての活動は一切禁じられる。つまり、今まさに行われている新入生勧誘に参加出来ないのである。まあ元々粛正会はコネでしか入れないからそれ自体は特に影響はない。だが、昨年行われた“見回り”と称した各部活への嫌がらせが無くなったことは大きな意味を持つ。邪魔が入る心配がないため、皆のびのびと部活勧誘を行えるのだ。中には「粛正会を見ないように!! 彼らは見られると興奮します!!」「俺達の部活は露出会のように裸で職員室に突撃させることはありません!!」と、露骨に粛正会を皮肉っている部活まである。

 これは粛正会にとって屈辱だろう。今やあそこは露出好きが集まる変態の巣窟とみなされているのだ。反論しようにもあらゆる行動が禁止されているため出来ないし、黒幕を探そうにも突撃犯には記憶がない。出来ることは現状を黙って甘受するだけ。

 そんなフラストレーションを溜まる原因を作った5人が粛正会に戻ることは有り得ない。今頃はクロスセブンを出て、故郷に戻っているんじゃないかな。


「んー……、ちょっとやり過ぎた……かも?」


 もうちょっと違うやり方があったんじゃないかなーと思わなくもない。


「そんなことはありません。むしろ甘すぎるくらいです」


「――」


 独り言に返事が来たため、誰かと思い振り返ってみれば――そこにはうさ耳のメイドさんがいた。

 ついにこの時が来たか……。


「彼らが裏でしていたことを思えば、実に慈悲深い結果だったと思いますよ。肉体的には無傷で学園を去れたんですから」


 プラチナブロンドの髪をなびかせながら目の前までやってくる。

 背は……俺よりちょっと低いくらいか。表情も無表情気味だった面影はなく、実に明るい。胸もククルよりあるみたいだし、本当に成長したな。


「こんにちは、ジル・クロフト様ですね? 私はアリサ・フィーリアと申します」


 スカートの部分を両手でつまみ、恭しく一礼された。

 仕草もからも女性らしさを感じる。


「ああ、噂は聞いているよ。君みたいな有名人と話せて光栄だ」


 アリサの成長に何だか涙が出てきそうだが、感情を殺し平静を装う。

 この子は鋭い。僅かでも隙を見せればたちまち正体がバレかねない。


「ふふっ、私も粛正会のメンバーにあんなことをした人と会えて光栄ですよ」


 ほら、さっそくジャブが飛んできた。


「はて、何の事かな?」


「とぼけなくても大丈夫ですよ。先ほども『やり過ぎたかも』と反省していたじゃないですか」


「それは馬鹿なクラスメイトに手荒なことをしちゃった反省。さっきの休み時間についカッとなってやっちゃったんだよ」


「んー……その自慢の髪を無断で触られてしまったんですか?」


 ……。


「見てたのかな?」


「いえ、何となくですクラスメイトから無造作に髪を触られて壁に叩き付けたんじゃないかなーとか思っただけです」


 やっぱ油断できないな……。

 こうして会えたのは嬉しいが、これ以上話すのは危険だ。

 学園に入る時から決めていた通りアリサ達からは距離を取ろう。


「じゃ、俺はもう行くよ。君と会っている所を見られたらどんなやっかみを受けるかわからないからね」


「そんなつれないこと言わずに私と付き合って下さいよー。友人に自慢できますよ?」


 立ち去ろうとしたら止められた。


「ごめん、俺って慎み深い奴だからさ。あんま目立つのとか好きじゃないんだよね」


「ふふっ、わかりました。それじゃあ私の独り言を聞いているだけでいいので、ここにいてくれませんか?」


「ふむ……」


 それくらいならいいかな……?

 ちょっと怖いがアリサの口からどんな言葉が出て来るのか興味がある。


「OK。そこまで言うのなら君の声をBGMにグラウンドの様子でも見ているよ」


 アリサから視線を外して、下の生徒達に目を向ける。


「ありがとうございます。――ジル様はフロル様のことはご存じですよね? ……ああ、別に返事は結構です。これは独り言ですからね。ただ、心の中で何らかの反応をしてくださると助かります」


「……」


 いきなりフロルか……。

 フロル・ファントム・クリマアクト。6年前に彗星の如く現れた彼女は、卓越した身体能力と魔法を駆使し様々な伝説を打ち立てた。“一夜掃討”“天禍撃滅”“凍える摩天楼”なんかが割と有名。だが一番は何と言っても4年前の“メイユ市救済”だな。あれのおかげで一部からは大精霊以上の存在として語り継がれている。……しかし、それっきり姿を見せないことから「メイユ市を守ることと引き換えに命を落とした」という認識が多いのが現状。主にカルカイム、ラングットで活動していたため帝国方面ではその存在にやや懐疑的である。

 ――こんな感じかな。


「んー…………補足をすると、フロル様は一般人の知名度が低い方ってことですね。その代わり冒険者ギルドや貴族の方々でフロル様を知らない方はいませんが。それと大精霊以上というのはメイユ市限定の考えですね。あくまで大精霊よりも弱く、人類史上最強止まりというのが世間の常識です」


「……」


 えぇー……。口に出したわけでもないのに補足をされてしまった。

 言わなくても心の中で思えば【直感】で分かるのか?

 何それ怖い。


「『誰それ?』という反応をしなかったことからフロル様の当たり障りない概要を思い浮かべていると思っただけです。大したことではありませんよ」


「……」


 あ、グラウンドにいるあの先輩、チアガール姿がよく似合っていて可愛いなー。


「ふふっ。それでフロル様ですが、あの方は驚くほど素性が不明なんです。一応ギルドには120歳、ニート族なんて登録してありますがまず嘘でしょうね。また、初期の頃には光の精霊の庇護下にあるとか言ってましたが、その後は忘れたかのように使っていませんでしたし、これも嘘でしょう」


「……」


 うーむ、ククルも部活勧誘に顔を出してみると言っていたが見当たらないな。

 校内の方にいるのかな?


「常にあらゆることにハッキリとした態度を取るフロル様が何故そんな嘘をつく必要があるのか? ――それは自身の強さを説明する為だったのではないでしょうか。120歳という年齢やニート族という聞いたことのない種族。光の精霊の庇護下にあるなどはいい感じで説得力がありますよね。少なくともそう言われたら納得するしかないはずです。調べようにも手段がありませんからね」


 空が青いなー。


「裏を返せば、納得する材料を用意しなければならないほどフロル様の存在は非常識なのではないでしょうか? 例えば『本当の年齢は私と同じくらい』だとか」


「……」


 ん、そういや姉のティリカはどうしたんだろうな。もしかして近くにいるのかな?


「お姉ちゃんなら部活勧誘に顔を出しています。――さて、ここでちょっと話を変えてジルロット・トライフォースという男の子の話をしましょう」


「あ、知ってる。実戦魔法学の先生でしょ? フロルさんの一番弟子らしいね」


「違います。アレは偽物です。スイレン様と契約を破棄しても余裕で倒せそうな奴がフロル様の一番弟子であるはずがありません。変なこと言わないでください」


 怒られてしまった……。

 ちっ、あの使えない偽物め。やるならもうちょっと上手くやれよな。

 ……まあ仮にもこの学園の教師を務める人物を雑魚扱いするアリサがおかしいか。


「えっほん。……本物の彼もまた素性がよく分からない人でした。年は私と同じだと言っていたのに学園には通わず、そのくせ私よりも遥かに頭が良く魔法にも秀でていたんです。さらにスイレン様やフロル様とも顔見知り以上の間柄のようでしたし、ある意味ではフロル様より謎が多い人物ともいえます」


「……」


 閃いた!! ここで一句。

 かわいいな やっぱり俺って かわいいな。


「……そして彼はフロル様と同時期に私達の元を去りました。ただ、フロル様と違って彼とは今でも偶に手紙のやり取りをしています。何でも遠い田舎でのんびりと暮らしているようですが……、秘境だからと詳しい場所までは教えてもらってません」


「ふーん、遠距離恋愛の自慢?」


「ふふっ、おかしいと思いませんか? フロル様と“彼”が同時にいなくなるなんて。偶然にしては出来過ぎですよ」


「わかんないぞー。もしかしたら本当に偶然かもしれないじゃん」


「そうですね。その可能性も有り得るでしょう。ただ私にはある仮説があります」


 まさか……。


「『“ジルロット”こそがフロル様なのではないか?』という仮説です。……フロル様が“ジルロット”なのではありませんよ? 似ているようで全く違います。ジルロット“が”フロル様を演じていた、です」


 はぁ……、まったくこの子は……。


「客観的立場から言わせてもらうと、根拠がほとんど感じられないけど?」


「ふふ、別に人に理解してもらう必要はないので根拠なんていりません。重要なのは私が納得できるかどうかです。――さあ、結論に入りましょうか。私が思うに――」


 ふう――。


「フロル=ジルロット=ジル・クロフトである、ってことだろ?」


「その通りです。……ククルから聞きましたよ。ジル様はスイレン様と面識があるみたいですね。そして5歳くらいからずっと図書館で勉強していたとか。その時間をフロル様としての行動に充てていたのではないのですか? そして4年前に何らかのトラブルにより大怪我を負ったジル様は、フロル様としての活動が出来なくなったため私達の前から消え、ジルロットとして手紙を送るにとどめている。――これが私の考える最も有力な仮説です」


「……」


 本当によく考えたものだ。

 もはや完全にアリサの疑いを払拭するのは困難を極めるだろう。


「この仮説が正しければジル様はこの質問に答えられない筈です。『あなたがフロル様を演じていましたね?』」


 だからって「はい、そうです」と認めるわけにはいかない。

 精一杯抵抗させてもらうぞ。


「――断言しよう。俺はフロルさんじゃない」


「え?」


 さっきまで楽しそうにしていたアリサの顔が驚きで固まる。

 よし、チャンスだ。


「ついでにジルロットでもない。ただし俺は彼を知っている。彼は遠い東の“ニホン”という国からやってきてね。何でも通常の方法では行き来できないらしいよ。ああ、それと彼は銀髪だったろ? でも俺は黒が地毛なんだ。この銀は染めているだけだから。ジルロットのことを知らないふりしていたのは自分の存在はあまり公にしないでくれと頼まれていたからだ。OK?」


 早口で一気に捲し立てる。


「ちょ、ちょっと待って下さい。もうちょっとゆっくりお願いします」


「じゃあよーく聞いておくように。これが君の考えを否定する最も重要なファクターだ。俺はフロルさんと“1回”会ったことがある」


 これは紛れもない事実だ。


「む……」


 意外そうな顔をして思案顔になった。

 なんとかなったかな……?

 

 アリサの【直感】はマジでヤバい。嘘は通じないし、理論を無視して結論に至ろうとする。だが完璧かというとそうでもない。弱点はちゃんと存在する。

 それは1度に大量の情報が入って来た場合、処理できなくなるというもの。どの情報に反応すればいいのか分からずフリーズしてしまうのだ。これはある程度、精神状態にも影響される。パニックになったりすれば平静でいる時よりもさらに処理速度は低下する。

 そしてこの時に入って来た情報は後で【直感】の対象となる可能性が低い。何故なのかは知らん。あえて理由づけすれば情報の“鮮度”が落ちるから、かな。彼女の能力は生で入って来た情報に対しては驚くべき頻度で発動するが、過去の事柄にはあまり反応しない傾向がある。“直感”というよりかは“閃き”と言った方が近いかもしれない。

 他にも1%の確率で外れるや、興味のないことには発動しないなんて弱点もあるが……まぁこれは今は関係ない。


「ダメです、詰みました……。これ以上はちょっと無理です」


 お手上げですと両手を上げるアリサ。

 ほっ……。どうやら逃げ切ったか。


「じゃあ俺がフロルさんじゃないって分かってくれたんだな」


「……そうですね。現状では手詰まりですし、しばらくは別の仮説を探ってみようと思います。ご迷惑をおかけしてすいませんでした。変な女だと思わないでいただれると助かります」


「ははっ、別に気にしなくていいさ。なかなか有意義な時間だったよ」


「そうだ……!! ジル様はフロル様にお会いしたことがあるんですよね!? どんなことを話したのか興味があるので教えていただけませんか?」


 フロルと話した内容か……。

 しょうもない世間話なんかもしたし、それくらいなら教えてもいいかな。


「別にいいよ」


「ありがとうございます!! では、もうそろそろ昼休みも終わってしまいますし明日の休日はいかがでしょう?」


「あー、明日はククルと買い物に行く予定があるから無理かな」


 明日はいよいよブラを買いに行くのだ!!


「ククルと……。あのー、では私も付いて行っていいですか……?」


「え……? ふむ……」


 街に出るとなると、当然俺は“普段の格好”をすることになる。アリサに見られるのはさすがにな……。だが、これは逆にチャンスでもあるか。俺の私服を見ればアリサも揺らいでいる「ジル=ジルロット説」をさらに否定したくなるはず。そうすればアリサとは普通に友達として接することが出来る。みすみすこのチャンスを逃す手はないだろう。

 それにククルにとってもいい機会だ。友達がいないククルにアリサを紹介すれば、仲よくやっていけるかもしれない。学園が同じだったという接点もあるし、幸いアリサもククルを気にかけているみたいだからきっと上手くいくさ。


「分かった。一緒に行こうか」


「ありがとうございます!!」


 こうしてアリサと買い物に行くことが決定。

 うん、テンションが上がって来たぞ。

 これは明日、気合を入れてオシャレしないとな!!

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