第6話 大精霊様とデート(?) 後編
「ん~~~~っ!! 美味しい!!」
案内されたのは『甘水』という来月オープン予定の店。少々狭いが、雰囲気の良い喫茶店みたいな場所でなかなかオシャレだ。
だが特筆すべきは何と言ってもここの料理だろう。
俺が食べたのはオムライス。オムライスである!!
ケチャップで炒めた熱々のチキンライスの上に、ふわっふわでとろっとろの卵をかぶせ、その上からきのこの香りが漂うデミグラスソースをかける!! ……見ただけでわかったね。こいつは旨いって。そして食べた感想は――至福の一言。家族と取る食事くらい幸せな時間でしたよ、ええ。
てっきりこの世界には米はないものとばっかり思っていたのだが、どうやらその考えは間違っていたようだ。シェフの話によると米はレストイアの辺境で育っており、今まではその場所への道のりが厳しかったことから誰も収穫していなかっただけらしい。しかし“解放”が行われると、どこからともなく稲を精霊が持ってきたために栽培が可能になりました、と。
いや~、素晴らしいね。本格的に米が栽培されるようになってからまだ4年も経ってないのに、もうオムライスなんて高等技術に辿り着くとは。侮れんよ異世界。まるで誰かの意図を感じるくらいだ。
そして今、俺が食べているのはショートケーキ。スポンジケーキにホイップが塗られ、イチゴが乗っているアレだ。
こいつもこの世界では見かけなかったが、まさか存在するとは!!
あぁ……幸せだ。ケーキの甘さによって脳がどんどん幸せホルモンを分泌していくのを感じる。
「はっ、そうだ。こんな素敵なお店に連れて来てくれた大精霊様にお礼をしなくては!! ああ、それと今までの非礼の詫びもしないといけないな!!」
くそっ。この感謝を伝えるには何をすればいいんだ。
「そうか、脱げばいいんだな!? そうなんだな!?」
「落ち着け。さっきからテンションが変だぞ」
「……失礼」
いかんいかん。久しぶりの地球料理にテンションが上がり過ぎたようだ。
「俺とて暇ではない。そろそろ本題に入りたいのだが」
「OK。もう大丈夫。ばっちこい」
ちなみに敬語は不要と言われているので、人前でなければ楽に話させてもらうことにした。
「では質問タイムだ。簡潔に答えろ。学園に来た目的は?」
「ククルに拉致られた&フィーリア姉妹が気になったから。あとリハビリ」
「体はまだ治らないのか?」
「傷はほぼ癒えた。でも4年間ほとんど体を動かさなかったから体力がめっちゃ落ちた」
「推薦状は誰から貰った?」
「ローザ女王。公式にはカルカイム国王からってことになってるけどな。裏でどんな取引があったかは知らない」
「やはりな……。次。風と、闇の異端児はどうした?」
「メルフィは光の大精霊の元でお勉強中。こっちに来るのはもっと先かな。クロリアはメルフィの怒りを買って謹慎中。今は深い眠りについているよ」
「精霊達の噂で聞いたことがある。何でも闇と戦ったらしいが?」
「2年前にな。軽い運動のはずだったのに殺し合いに発展しちゃったんだよ。その所為でまた俺は瀕死になって、メルフィ激怒と」
「そうか。ではこれで最後だ。何故女装なんぞしている」
ふむ。
「女装……女装ねぇ……。いい機会だから言っておくが、俺に女装をしているという自覚はないぞ?」
「はあ? 現にしているではないか」
「これは自分に似合う格好をしているだけだ」
それがたまたま女物の服だったというだけの話。もし男物で似合うのがあればそっちを着る。今のところそんな服には巡り合っていないがな。だから本当は男物の制服は着たくない。どう考えたって俺にはスカートの方が似合っているんだし。
……でも俺が本気出したら女にしか見られないだろうからなあ。ある程度の線引きは必要だろう。そのために学園では男物の制服を着ているし、声だって意図的に低く喋っている。自分が男だというアピールも欠かさない。
あ、もちろん男として見られる必要がある時の話な。今日みたいなプライベートな日は思う存分、似合った格好をする。
「理解出来んな。男として生まれたからには男らしく振舞う。それが普通ではないか?」
学園長の気持ちは分かる。それは大多数の男が持つ当たり前の意見だからな。
さて、どう説明したもんかねえ。
「そうだな……。よし――。じゃあ斬れないものなどないと謳われる名剣を持った奴がいたとしよう。そいつはその剣を身を守る盾にしか使わない。どう思う?」
「アホだな。せっかくの名剣が泣く」
「それと一緒さ」
俺は可愛い。
ならその可愛さを生かさねばもったいない。この類まれな『可愛さ』という武器を磨かないと。
「容姿っていうやつは意外と馬鹿にできなくてな。学長だって身に染みただろ? 時に可愛さや美しさは場を支配し、『権力』をも凌駕するってことを」
可憐な少女が泣く。
それだけで圧倒的な人気や尊敬を得ているはずの大精霊が非難を受けるのだ。ある意味一番やっかいな武器と言っても過言じゃないだろう。
「……なるほど。確かに俺は容姿がもつ重要性を軽んじていたかもしれんな。……しかしだからといって、お前みたいに突き抜けることは出来んと思うがな。お前もある程度は楽しんでいるのではないか?」
「まあな」
髪を弄るのは楽しい。何を着ようか悩んだり、服を買いに行くのもワクワクする。綺麗なアクセサリーを見れば心躍るし、暇な時は如何に自分が可愛くなれるかを考えている。
我ながらちょっと変かな~とは思う。
だけど俺はそんな自分が気に入っているのだ。これからも誰に何と言われようと我が道を進み続けるさ。
「……だいたいわかった。質問は終わりだ。まだ時間があるし、そちらに質問があるなら受け付けてやるぞ」
お!! それなら。
「はいはい!! 何であんなパチモン教師なんか雇っているんですか!?」
「ジルロットのことか? 残念ながらそんなことを言われても知らん。俺はただ学長の座に就いているだけで人事や教育関連の方は基本的にノータッチだからな。不満があるなら奴を送り込んできたレストイアか、それを承認したカルカイムとラングットに言うのだな」
へぇ、アイツはレストイアから来たのか。てっきりカルカイムかと思っていたんだがな。
「もしかして奴を採用したのが俺だと思って、あんな嫌がらせをしてきたのか?」
うっ……。
「……違うもん」
可愛く誤魔化してみた。
だが通用しなかったみたいでジロッと睨まれてしまった。
「まぁまぁ、細かいことは気にせずに次の質問にいこう!! 何で学長なんかやってるの?」
「……きっかけはローザ女王から要請されたからだ。俺としても解放を行った以上、どこかで精霊のことを学べる場所が必要だと考えてな、それで引き受けた」
ふむふむ。意外と将来について考えているんだな。
「土の大精霊である必要性は?」
「俺しか出来る奴がいない。光はレストイアから動く気はないし、闇は有事以外は不干渉を貫いている。風はまだ未熟で、水は気に入った者に甘く気に食わん奴にはとことん冷たいからダメ。火は馬鹿。雷にいたっては人が嫌いだ」
確かに土の大精霊じゃないと無理っぽいな。つーか、大精霊同士って何か仲が悪そうだな。
「じゃあさ――」
「おっと、ここまでだ。そろそろお開きにするぞ」
ん、もう終わりか。この店について聞こうと思っていたのに。
「もしまだ知りたいことがあるならそうだな……学園に貢献してみろ。そのたびに何か有益な情報を教えてやろう」
「えー、面倒臭い。そんなことするくらいならスイレンに聞くからいいよ」
「あいつは水の2代目だ。初代である俺と光、闇の3人しか知らないこともあるぞ?」
……。
「わかった。気が向いたら貢献してみるさ」
「3日後から部活動の勧誘も始まる。学園が本格的に活発になれば自然とトラブルも発生するだろう。せいぜい目を光らせておくことだな」
うーん……体よくやっかいごとの解決を任されてしまったような気もするが……まあいいか。やるやらないは俺の意思に任されているんだし、当分は積極的に動く必要もないだろう。
それよりも学長がいなくなった今、俺がするべきことは――追加でチョコレートケーキを注文すること!!
ふふっ、早く来ないかなー!!




