第5話 大精霊様とデート(?) 前編
「ふ~んふふ~んふふ~ん」
髪をこうして弄って――よし完成!!
さっそく姿見でファッションチェックしよう。
髪は後ろの上半分をアップにして編み込んだ、いわゆるハーフアップ。服装は白のワンピースにオレンジのパーカーを羽織ってみた。ちょっとワンピースの丈が短いような気もするが、まあ許容範囲かな。下着が見えなければ大丈夫だろう。
続いてソックスだが……んー、合わんな。やっぱワンピースに長めのソックスはダメだな。短いのにして生足を見せていく方向にしよう。
「うん、こんなもんだろ」
もう一度鏡でチェック。そこに映っている者はどこからどう見ても美少女にしか見えない。いや、もともと美少女だったが女性用の服を着ることによりさらに磨きがかかっているといったところか。今の俺を男だという奴は頭がイカレていると言われても仕方ないだろう。
「ふふふ、じゃあ行こうか」
今日は休日。思いっきりクロスセブンを散策するぞ!!
街中をうろつくこと2時間。この街には各国から色んな物が集まってくるから当てもなくフラフラと歩き回っているだけでも目新しくて面白い。さっきもレストイア製のネコ耳カチューシャなんて珍しい物が売っていてから思わず買ってしまった。出来が非常によく、なんと魔力を通すとネコ耳がピコピコと動くのだ!! 早速明日、学園に着けていかねばなるまい。
物流の他に、人にも注目すべき点は多い。王都並に人の往来が激しいため、様々な人種を見かける。人種が多いということはそれだけ服装も違うという訳で、参考になりそうなファッションはなるべくチェックするようにしている。前世では全くファッションに気を使っていなかったのに、こうして行きかう人々を観察している自分がちょっと面白い。将来は地球の知識を生かしてアパレル関係の職に就くのも悪くないかもな。
――お、精霊がまた俺の前を横切った。
この街は人と精霊が同じくらいいるんじゃないかと思うほど精霊が多い。ふと目を向ければそこらじゅうに精霊がいる。ほとんど下位精霊だが、これだけいるのは珍しいんじゃないかと思う。やはり大精霊のお膝元だからかな? その精霊達と契約しようと学生や冒険者と思われる人達が声をかけている姿もチラホラ見るし、活気に溢れた街だよなここは。
出来ればククルも誘って2人で回りたかったが、女子寮で歓迎会をやるみたいだったから仕方ない。まぁ出席しなさいと説得するのにかなり手こずったが……。
「ごめんなさい。今日は1人で歩きたい気分なの」
通算5回目のナンパを断ったところで、そろそろ昼食を取ることに決めた。
せっかくだから今まで食べたことのない物を口にしたいと、ぶらぶら店を探していたら人だかりを発見した。
興味を引かれたので近づいてみる。
「お礼がしたいので我が家に来て頂きたい!!」
「だから礼なぞいらぬと言っているであろう」
「しかし何も礼をしないなど商人の恥。ここは是非とも礼を――」
中心にいたのは土の大精霊兼学園長と、豪華な衣装に身を包んだ恰幅の良い男。
何があったのか隣の人に尋ねてみると、あの男はここで商売をしている時にチンピラに絡まれ、そこを学長に助けてもらったらしい。感動した商人はお礼をしたいと言うが、学長の方はいらないと断り、ああして揉めていると。
ふむ……。
随分としょうもないトラブルだが鬱陶しそうな顔をしているし、これも何かの縁。手助けしてやるか。
「がくえんちょー!!」
「む?」
「おや?」
声を掛けながら学園長の腕に飛びつく。
「もう、何してるんですか!! ずっと待っていたんですよ?」
「お前は……!!」
「でもこうして見つけられて良かった!!」
花が咲くような笑顔で喜びを表現。
観客は魅了された!!
「これはこれは、なんともまあ可愛らしいお嬢さんだ。ひょっとすると大精霊様の恋人ですかな?」
「断じて違う!! ええい、お前もいつまで引っ付いている……!! 男の癖に気色悪い!!」
乱暴に振りほどかれてしまった。
だが甘い!!
「ひ、酷い……。いくら私に胸がないからって……男だなんて……。わた、私は、今日の為に、頑張っていっぱいオシャレしてきたのに……。それを……えぐっ……きもちわるいって……」
「こ、こいつ……!!」
「可哀想……」
俺の迫真の演技により周囲は同情的になり、学園長を見る目が厳しくなってきた。
「大精霊様。いかに大精霊と言えども、こんな可憐な少女を前に男だなんて暴言……見逃すわけにはいきませんな」
商人の言葉を受け、周りも「そうです、あんまりです!!」と声を上げ始める。
「ぐう……」
「皆さんいいんです……。私みたいな男が大精霊様にお近づきになろうなんて思ったのがいけなかったんですから……。とんだ身の程知らずですよね……」
学園長に背を向け、とぼとぼと歩きだす。
「大精霊様……!!」
「ぐぐぐぐ………………お、おい待て……!! 俺が悪かった。謝ろう」
「いいえ、謝らないでください……。むしろ私みたいなブサイクが今まで付きまとってすみませんでした……」
「ほら、大精霊様。ここは彼女を褒めないと!!」
「くっ……お前のその……髪。よく似合っているぞ。あと服もな。それとお前は……か、かわい……ぃ。だから元気を出せ」
「本当にそう思ってます……?」
「……本当だとも」
「え、えへへ。とっても嬉しいです!!」
涙をぬぐいながら笑う。
「「おおーーー!!」」
観客もこの一連の流れに感動し、パチパチと拍手をしてくれる。
よほど感情が豊かな方もいらっしゃるようで、「良かったね……!!」と涙を流している者もいるほどだ。
「はっはっは、後はお二方の邪魔をしないよう、見送りをするとしましょうか。さあ皆さん、盛大な拍手をお願いします!!」
商人の言葉を受け、さらに大きな拍手が辺りを賑わす。その音に釣られて人が集まり、ますます音は大きくなっていく。
さすがにこれ以上の注目は御免なのか、学園長は俺の手を握って足早に歩きだした。……握られているところが痛い。
去り際に商人から「私はプマール。困ったことがあればいつでも相談に乗りましょう」と言われたので、とりあえず社交辞令でよろしくと答えておいた。
「今日は大精霊様と麗しい少女の心温まるシーンが見れて気分がいい!! 赤字覚悟で大サービスしましょう。さあさあ皆さん、今日の記念に何かいかがですかな!?」
プマールの商売魂逞しい声も、風に乗って微かに聞こえる程度の場所まで来ると学園長は俺から手を離し、鋭く睨んできた。
「喜べジル・クロフト。お前は数百年ぶりに俺に『恥ずかしい』と思わせることが出来たぞ」
「つまり『人らしい感情を取り戻せた。ありがとう』ってことですか? ふふ、礼なんていいですよ。たまたま通り掛かっただけですから」
「……ここで一戦交えるか?」
「――っ」
急に雰囲気が変わった。
眼は一層鋭くなり、殺気が籠もった魔力も放出している。
はは、とんでもない威圧感だ。
溢れ出る魔力の本流により大気は歪み、地面はミシミシとひび割れていく。魔力によるものなのか、ただ俺が殺気に圧されているのかわからないが、重力が倍になったかのように体が重い。近くにいた人は悲鳴を上げることも出来ずにへたり込み、精霊は一目散に逃げ出している。
これが大精霊……!!
「いいね……!! 俺も大精霊の実力を生で体感したいと思っていたんだ。異存はない。やろうぜ!!」
激しい戦闘の予感に血が滾ってきた!!
「…………フッ、止めておこう。こんな所で戦えば周りに迷惑だ」
そう言って殺気を鎮める学長。
ちぇっ、またお預けか。左腕もなんだか残念そう――。
……。
また呑まれたか……。反省1だな……。
「皆の者、すまんな!! この街に侵入者が入り込んだのかと思ったが、勘違いであった。これは僅かばかりだが謝意の気持ちだ。遠慮なく受け取れ」
何らかの魔法が発動すると、へたり込んでいた人達の手には金貨が握られていた。貰った人は驚きつつも喜び、「大精霊様に感謝を」と笑顔で一礼して去っていく。
……俺もそろそろ行くかな。
何か気まずくなっちゃったし、さっさと行こう。
「じゃあ俺はこれで」
返事も聞かずに去ろうとするが――。
「どこへ行くジル・クロフト」
引き留められてしまった。
「これから飯を食いに行く。一緒に付き合え」




