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1.5mの世界  作者: 粗井 河川
1章
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第3話   魔法

 翌日、朝食を食べ終えた俺は早速、母さんから魔法を教わることになった。

 朝食の時にリンダさんがニヤニヤした顔でこっちを見ていたのが気になったが、今は魔法に集中するんだ。


「そういえばリンダが朝食の時機嫌が良さそうだったし、なんだかニヤニヤしながらジルのこと見ていたような気がするけど何か心当たりある?」


 ……。


「昨日の夕食の後リンダさんから偶にはククルの面倒を見てくれって頼まれて、それを僕が引き受けたからじゃないかな?」


「あぁ、きっとそれよ!!」


 うん、嘘は言っていない。本当の事だ。むしろそれ以外の事なんか昨日はなかった。


「かーさま、どれくらい時間がかかるか分からないし早く始めましょう!!」


「そうね、じゃあ始めましょうか」


 俺たちは今家の庭にいる。それなりに広い庭で、ちょっと体を動かすくらいなら十分足りるだろう。何故かところどころに焼き焦げた跡があるのがちょっと気になるが。


「まずは魔力の解放から始めるわね」


「魔力の解放?」


「ええ、それをしないと魔法は使えないのよ」


 母さんによると、この世界の住民は生まれた時点ですぐに体内にある魔力を封印し、魔法を使えないようにするらしい。そうしないと赤ん坊は無意識に魔法を使ってしまうことがあり、危ないからだ。そのため封印の魔法が開発され、それからは赤ん坊の魔法に関する事故――特に火事――は減ったらしい。

そうしてある程度成長して自身で物事を考えられるようになり、魔法を使っても大丈夫だと判断されたらその封印を解いて魔法が使えるようにする、ということらしい。

 なかなかよくできたシステムなんじゃないかな?


「それで、どうやって封印を解くんですか?」


「それはね、こうやって心臓に魔力を送り込むのよ」


 母さんが俺の胸に手を当てると、だんだんと胸が温かくなってきた。

 うはー、ぽかぽかして気持ちいいな!!


「どう、胸が温かくなってきたのが分かる?」


 が、それも長くは続かない。


「あー、むしろ熱いくらい」


 徐々に心地よい温かさから、我慢できない熱さへと変化してきた。

 やばい、逃げ出したくなってきた。


「動いちゃだめ。動くとまた始めからやりなおしよ」


 マジですか……。

 あのー、これ以上続くと耐えられそうにないんですが……。


「まだ……? これ以上はちょっと……」


 つーか、この魔力解放三歳児にはキツくね?

 今俺に起こっていることを無理やり例えるのなら、燃え盛る炎にギリギリまで近づいていて後ろに下がりたいのに前に進むことしかできない、そんな状況が心臓付近に集中している感じだ。

 母さんが魔法を教えるのに渋ったのは、俺がまだこれに耐えられるか分からなかったから、なのかもな。


「んー、あともう少しだと思うんだけど……よし、解けた!!」


 その言葉と同時に、俺の中の何かが弾けたような気がした。

 すると先ほどまでの熱さはすっかり消え、今まで経験したことのない感覚が体を駆け巡り出した。


「すごい……これが魔力……!!」


 説明されなくても分かる。今、俺の体に渦巻いているものこそが魔力そのものだ。


「は、はははははは、すごい、すごいすごいすごいすごい!!!!」


 未知の力を体感し、際限なくテンションが上がっていくのが分かる。

 なんだかすごく気分がいい。

 自分が万能になったような気すらする。

 違う。そうじゃない。

 気がするんじゃなくて万能になったんだ。

 そうだ。

 今の俺にできないことなんてない!!


「くくく、くははははははは「はい、そこまで『スタン』」


「はっ!?」


 何か衝撃が走ったかと思うと、急に目の前が真っ暗になった。







「ここは……」


 目を開けると母さんの顔が見えた。


「起きたわね。大丈夫? 痛いところはない?」


 どうやら俺は母さんに膝枕されているようだ。

 なぜこんなことになっているのだろう……?


「痛いところはないけど、何で僕は横になっているの?」


「そう、よかった……。ちょっと強くやりすぎたかと思って心配していたのよ」


 俺は封印を解かれてから、暴走状態に陥っていたという。

 暴走状態というのは体が自分の意志とは無関係に行動を起こしてしまい、魔力解放を行ったのであれば誰でも起こり得ることで心配するようなことではないらしい。

 今までに眠っていた魔力が急に目覚めた結果、体が驚いてしまいそのようなことになるのだという。

 暴走状態にはいくつかパターンがあり、今回俺がなったのは『高揚』のパターン。これは気分が異様に上昇していき、高笑いをし始めるというもの。数あるパターンのうち高揚はマシな分類に入るらしく、ルー兄さんが陥った『暴発』の時はひどかったらしい。『暴発』は自分の意志とは無関係に魔法が発動するというもので、ルー兄さんはそのせいで四方八方に炎弾を放ってしまい、収拾をつけるのに随分手こずったという。だから庭のところどころに焼き焦げた跡があったというわけね。

 ルー兄さんの一件があったので、俺も『暴発』を起こすのではないかと警戒しており、そのため俺に魔法を教えるのを反対していたらしい。ふむ、どうやら魔力解放の件で反対していたわけではないようだ。

 「ルーファスの魔力解放を行ってからそんなに日が経っていなかったのに、またあんなに疲れるのかと思うとなんだか嫌だった」というのが母さんの談。なら親父やリンダさんと一緒にやればいいのでは? とも思うが、昔学院で魔法が優秀だったという母さんは、子ども一人の暴走状態すら碌に制御出来ないというのはプライドが許さないらしい。

 そんで、手っ取り早く暴走状態を鎮静させるには気絶させるのが一番なんだとさ。暴走は魔力に体が慣れていないから起こるので、慣れるまでの時間は大人しく気絶させてしまおうというある意味強引なやり方だ。しかし気絶から目覚める頃には、こうして体が魔力に慣れてくれるから合理的な方法なんだと思う、多分。

 ちなみに『高揚』の場合は気絶させなくても大丈夫な時もあるらしいが、俺が三歳児らしからぬ邪悪な顔で高笑いを始めたので、心配になって気絶させたらしい。その時のことはよく覚えていないのだが、よっぽど酷かったのだろう。


「僕はどれくらい気絶していたの?」


「そうね……だいたい三〇分くらい……かな?」


 丁度いいので、ここでこの世界の時間について確認しておこうと思う。

 1分=60秒

 1時間=60分

 1日=24時間

 1週間=5日

 1ヶ月=30日=6週間

 1年=360日=12ヶ月

 今日は魔法歴1985年1の月の24日だ。

 ご覧の通り、ほとんど地球と同じなのでその点は非常に助かっている。

 もし、パルス年コクーンの月ファルシ週ルシの日とかだったら分かり辛いことこの上ない。というか覚えられる気がしない。

 本当にわかりやすくて良かった……!!


「それじゃあ、お昼までまだ時間はありますね。続きを始めましょう」


 膝枕が名残惜しいが、よっと勢いよく立ち上がる。


「まだ横になっていた方がいいんじゃない?」


 そう言われても、もうなんともないしな。

 せっかく魔力が解放されて魔法が使えるようになったんだ、一秒でも早く魔法を習得したい。


「いえ、そうね、続きを始めましょうか」


 俺の思いが通じたのかどうか分からないが、母さんもやる気になってくれたようだ。


「もうこれでジルは魔法を使えるようになったわけだから、次はジルの魔法の適性を調べようかしら」


 魔法には属性というものが存在し、火・水・土・風・雷・光・闇の七つに分類される。

 これらは基本属性と呼ばれており、全ての魔法は根源を辿ればこの七つの内のどれかに当てはまると言われている。まぁ、どう考えてもどの属性にも当てはまらない魔法もあるので反対する者もいないわけではないらしいが。

 それでも長い間、この七つの属性を基本とする考えは受け継がれてきた。

 それというのも、世界中で各属性に対応する精霊の存在が確認されているからだ。

 精霊について詳しいことはまだ分かっていないらしいが、彼らの存在と魔法は密接な関係があると信じられており、そのため基本属性という考えは根強いという。

 

 魔法の適性は属性の中でどれと相性が良いかというものだ。

 相性が良いと、その属性の魔法を使った時の消費魔力が少なくなったり、威力の上昇、より高度な魔法が使えたりするらしい。

 逆に相性が良くないと、その属性の魔法の消費が桁違いに多くなるし、たいした威力もでないという。

 よって、基本的には自分と相性の良い魔法を練習していくことになる。

 さて、俺の適正はどんなものかな?


「それじゃあ、いくわよ。――彼の者の属性を示せ『アフィニティ』」


 急に光に包まれたかと思ったら一瞬で光は消え、目の前に光る球が二つ出てきた。

 色は……。


「緑と黒ね。……うーん、微妙ね」


 そう呟くと目の前の球は消え去った。

 緑と黒か、ということは……。


「僕の属性は風と闇ということですか?」


「ええ、そうなるわね」


「それで微妙というのは?」


 さっきボソッと微妙とか呟いていたけど……。


「あれ、聞こえちゃった? ……あのね、風はともかく闇は使い勝手が悪いから一般的にはハズレの属性と言われているのよ。だからつい、ね。私としても闇属性の事は忘れて風属性を極めていった方がいいと思うけど」


なんだそういう意味か。てっきり闇というのは縁起が悪いからとかそういう理由だと思ったから安心した。


「闇属性はそんなにダメなんですか?」


 闇ってなんかかっこいいと思うけど。

 こう中二的な響きがして。


「ん~、ダメってわけじゃないんだけど……何て言ってらいいか……。そうね……あー、うん、やっぱりダメね。闇はハズレよ」


「もうちょっと頑張ってよ!?」


 思わずツッコミ入れちゃったじゃん!!


「と言われてもね……。魔法は突き詰めて言うとイメージの具現化だから、よりはっきりしたイメージが大事なのよ。だけど、炎や水、土なんかと違って闇は抽象的で具体的なイメージがし辛いのよ。せいぜい周りを暗くするくらいかな? そういうわけで過去現在問わずに、闇属性のみで有名な人は私が知る限りではいないわね」


 イメージしにくいという意味では光属性も闇と同じらしい。

 親父の適性は光属性なのだが、しょっちゅう「光属性なんて別に欲しくなかった」とボヤいているという。光属性はアンデット系の魔物には非常に有効らしいが、それ以外の魔物や対人戦においては目眩まし程度にしか使えず、あまり役に立たないらしい。しかも、唯一の活躍の場でもあるアンデット系の討伐も、光属性の人材が必要とされるほど差し迫っていないのでまさに宝の持ち腐れ状態。他の人なら光属性とは違う適性の魔法を使うのだが、運の悪いことに親父は光属性しか適性がないため、他属性の魔法はほとんど使えない。親父はその事実を前に「それなら俺は剣の道に生きる!!」と決め、ひたすら剣の修行に明け暮れた。その結果、剣の実力が買われて騎士団の入団に成功。ただ、剣だけではどうしても厳しい状況もあり、そういう時は光属性の愚痴をこぼしているらしい。

 ふむ、イメージが大事と言えば、最近同じようなことを思ったような気がしたが……何だっけかな?


 ……しかしあれだな、光や闇属性というのは地球では主人公や強敵キャラが使用している印象があるが、こっちでは不遇扱いなんだな。闇はともかく光まで不遇扱いだとは正直思わなかった。光というのは大抵どこでも神聖なものとして扱われていると思っていたんだけど違ったようだ。やはり文化が違えば考え方も違うということなんだろうか。

 でも……なんだかその違いがちょっと面白い。いつか余裕が出来たらこの世界を旅して回り、いろいろなものに触れていくのも悪くないな。


「さっ、とりあえず闇属性のことは忘れて風属性の魔法を練習しましょうか」


 っとそうだな……少なくても今はそっちの方に集中するか。


「風属性は文字通り風を起こすことができるんだけど、他にも身体強化で速さを付与することにも向いているわ。後者の方は難しいから今度にするとして、今日は簡単な風を起こせるように頑張ってみましょう。といってもさすがに今日は無理でしょうけどね」


 言いながら庭に落ちている木の枝を拾い、それを思いっきり高く放り上げる。


「お手本を見せるわね。『ウィンド・カッター』」


 母さんが両手を突き出しそう唱えると、刃のようなものが木の枝目掛けて飛んで行き、見事枝を真っ二つにした。


「おー!!」


 パチパチパチパチ。

 生まれて初めて見る生の魔法にちょっと感動。

 なるほど、これが魔法か。

 そんで今のが風魔法の基本中の基本ってやつか。


「どう? 今のが中級魔法の一つ『ウィンド・カッター』よ」


 ドヤ顔で決める母さん。

 ん? 今何て言った?


「今のが中級なんですか?」


 初級じゃないの?


「そうよ、初級・中級・上級・最上級の内の中級よ。レベルの高さに驚いたでしょう? 難しそうと思うのも無理はないけど、学院の卒業者や騎士団、冒険者の人たちならこれくらいはできる――あ、アルフは例外だけど。逆に言えば、それ以外の人たちでここまで出来る人は少ないわね」


「……最上級の魔法はどれくらいのことができるのですか?」


「最上級ともなると使える人はほとんどいないけど、そうね……この家を半壊する程度のことは簡単にできると思うわね」


 最上級で家一軒を半壊するのがやっとなのか……。

 おまけにその魔法を使える人はほとんどいなく、戦えそうな人たちはそれ未満の魔法しか使えず、一般市民に至っては木の枝を折ることもできないほど魔法が使えない、と。

 神様も魔法の水準が下がったと言っていたが、いくらなんでも使えなさすぎなんじゃないか……?

 もしかして、子どもだと思って嘘を教えているのか?


「魔法でハリケーンとか起こせないのですか?」


 こう、一撃で街を壊滅状態にさせることができるやつとか。


「あはははははは、そんなことできるわけないじゃない!!」


 めっちゃ爆笑されておる……。

 やっぱ嘘じゃなかったのか。むしろ嘘の方が良かったんだけどな……。


「だいたい、なまじそんなことが出来たとして、その強力な魔法を何に使うの? 中級魔法は勿論のこと初級魔法――火だけだけど――だって人を殺傷することが出来る程すごいのよ? 魔物との戦いだって上級魔法があれば戦っていけるんだから、そんな強力な魔法は必要ないと思うんだけれども」


 必要ない――か。

 なるほど、過剰な力は求めていないのか。

 必要な力だけで満足し、それ以上は求めない。

 母さんみたいな考え方の人だけではないとは思うが、そういう人が多いのかもな。

 向上心がないと言えなくはないが、俺はそんな考えを好ましく思う。

 それゆえに、魔法の水準を上げるということの難しさと、力を求めないという考え方を変えても良いものかという思いによって、先が思いやられるわけだが……。


 ……先の事を気にしてもしょうがない。

 この先どうするかはともかく、最低でも俺だけは何があっても対応できるように強くなっておかなくちゃいけない。

 そのための第一歩として、さくっと中級魔法をマスターしてしまいますか。


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