プロローグ 新たな地で
交流都市クロスセブン。
カルカイム王国、ベルダット帝国、ラングット王国、レストイア教国の4ヶ国に加え、火、水、雷、風、土、闇、光の7属性の精霊達が互いを理解し、より親交を深めることを目的として作られた実験型都市。
各国を魔物が襲った『第一次襲来戦争』を機にラングットのローザ女王が考案したもので、都市には様々な工夫が凝らされているのだが、最大の特徴は何と言っても“ユノトリア高等学園”の存在だろう。未来を担う子供たちが国家や種族という垣根を越え、ユピアーデの平和のために一致団結できる環境で学習する。このコンセプトをもとに完成した学園には将来の重要人物たち、教師役として各国で名の知れた人物、そして精霊すらも迎え、もはやクロスセブンはたった数年の間に世界で最も重要な都市の1つとして数えられるまでになった。
そんな多くの勢力の思惑が複雑に絡み合うこの地へ俺は足を踏み入れた――。
「ここがクロスセブン……。あぁ……これから兄さんとのめくるめく学園ライフが始まるのですね!!」
「はは、ククルは元気だな」
20日の長旅を物ともせずにはしゃぐ我が妹を見ていると、大人っぽく見えてもまだまだ子供だなと安堵にも似た感情を覚える。
「ふふ、この都市には邪魔者――じゃなくてルー兄さんもいないことですし、何かあったら私を頼って下さいね」
「ああ。そん時はよろしくな」
と言っても寮は男女別だし、クラスも一緒かどうかも分からないから世話になることはなさそうだ。それに例え何かあったとしても優秀だと噂の教師達が解決するんじゃないかな。
むしろ家事能力が残念なククルを俺が気にする機会の方が多いかもしれん。この都市にはククル以外の家族はいないんだし俺がしっかりしないと。
「さ、街を探索するのは今度にしてさっさと手続きをしに行こうか」
「はい!!」
入学式は明日だから急がないとな。
――さて、何故俺がクロスセブンに来ているのか。それはククルのもとにユノトリア学園への入学許可証が届いた3ヶ月前まで遡る。
送り主はカルカイム国王。いわゆる“推薦枠”で、中等学園では成績優秀者として通っていたし、親父と母さんがそれなりに名が知られていることから届いたのこと。
もちろん俺や家族は学園へ行くことを進めたのだが……本人は猛反発。あの手この手で説得するも、最終的に家が半壊したため諦めるしだいとなった。
しかし、後日俺にも入学証が届くと事態は一変。「行きたくない!!」と駄々を捏ねる俺をククルが「では兄さんと学園に行ってきます」となかば拉致するように連れ出したのだ。道中、逃げ出してやろうかとも思ったがククルがあまりに嬉しそうだったので、気になることもあるしリハビリにも丁度いいかと考え直し、学園に通うことを決めましたとさ。
目新しい街並みに目を奪われながらも無事に学園の受付までやって来た。
学園は日本の高校をちょっと大きく豪華にしたみたいな場所で、どことなく懐かしさを感じる。ふぅ、まさかまた学生生活を送ることになるとはね……。
「ようこそユノトリア高等学院へ。新入生の方でしょうか? でしたら入学証のご提示をお願いします」
さすが天下のユノトリア学園というべきか、受付のお姉さんの割には強そうだ。もし不審な動きでもしようものなら、即座に迎撃してきそうな気配がある――なーんてことはなく普通のお姉さんでした。
「はい、これですね」
「どうぞ」
下らないことを考えつつも入学証を渡す。
「ありがとうございます。確認しますので少々お待ちください。…………あのー、すいません」
おや? お姉さんが困ったように俺の方を見てきた。
「どうかしましたか?」
「ジル・クロフトさんのお姉さんでしょうか? 申し訳ありませんが、ご本人様にお越しいただけないと手続きは出来ない決まりになっていまして……」
「あー、そういうことですか」
「はぁ……やっぱりこうなりましたか」
ククルが呆れたように溜め息をつくが、俺としてはこの結果に大満足だ。
「問題ありませんよ。俺がそのジル・クロフト本人ですから」
「え……? で、ですがどう見ても……」
そう、俺は4年間で見た目が立派な美少女に成長したのだ!!
「いよいよ明日からか」
肩まで伸びた髪をブラシで梳かしながら、ふとこれからの学園生活を思う。そう言えばやるべきことは決まっているが、やりたいことは特に考えていなかった。せっかく3年間をここで過ごすんだから、学園生活を有意義にするため何か1つくらいは決めた方がいいよな。
そうだな…………うん、彼女をつくるか!!
俺ももうすぐ13歳。地球で言えば高校生くらいになるんだし、そろそろ彼女の1人くらいつくらないとな。あ、でも学園の生徒と付き合うのはナシ。いくら肉体的には同じくらいだといっても、学生に手を出すのはなんかこう、抵抗がある。
だから狙うのは学園の外にいる人だな。それも年上。クロスセブンの特性上いろんな人が集まっているのだし年下が好きだという女性は山ほどいるはず。候補者選びにきっと困ることはないだろう。
ふふ、早ければ来月中にはお付き合い出来るかもな!!
「……実際はそんな上手くいかないだろうけど」
俺は4年間で美少女になってしまった。原因は分かっている。メルフィとクロリアの遺伝子を組み込んだからだろう。具体的な因果関係は知らんがそうとしか考えられない。
幸い家族は俺の容姿の変化を好意的に受け止めてくれた(特に親父)が、これは特例であって、全員が全員受け入れてくれるなんてことはまず有り得ない。
なんせ男なのにそこらの女性より遥かに可愛いからな俺は。容姿関連でトラブルが起きることは目に見えている。特に学園でだな。ただでさえカルカイムは微妙な状況に置かれているからやっかいごとが多そうだというのに……。
それに懸案事項はまだある。寮は本来、相部屋のはずなのに俺だけ1人部屋なことだ。王族ですら相部屋なのにだ。しかもスイートルームのようで他の部屋よりも広くて豪華なんだよな。風呂や衣装部屋とかもあるし。
ちなみにこの謎自体は、テーブルの上の『救世の英雄には相部屋は窮屈でしょう。特別に専用の部屋を用意しておきましたよ。 ローザより』という手紙を見つけた時点で解決済みだ。
根本的な問題は何も解決していないけどな!!
もしこんな立派な部屋に住んでいることを貴族連中に知られたらどうなることやら……。でもいまさら部屋を交換してもらう気はこれっぽっちもない。居心地が良さそうな部屋なんだからありがたく使わせてもらおう。何か問題があれば全部女王の責任にしてしまえばいいんだし。
「はは、何にせよ退屈だけは絶対にしなさそうだな」
確かに面倒事は多そうだが、賑やかで面白そうじゃないか。ティリカやアリサも学園に通うみたいだし、明日からが楽しみだ。




