第42話 勝敗の行方
バルディアに一撃入れたところで、周囲の状況を確認。
さっきまでとえらく状況が変わっている。よほど激しい戦闘をしていたのだろう、生い茂っていた木は消え、辺り一面更地と化している。
クロリアは……酷い有様だ。ドレスはボロボロに破れ、体の至る所から出血。それでも辛そうにしている様子は無く、俺の登場にも動揺していないようだ。むしろどこか嬉しそうですらある。
反対にバルディアは鎧が半壊している以外に目立った外傷はないものの、その表情に余裕はない。思いのほか苦戦していたようだな。
……やはり魔法は通用するってことか。なら俺にも勝機はある。
あの空間に閉じ込められていた間、何故コイツに攻撃が通じなかったのか考えてみた。そして思い浮かんだのが『バルディアは能力を無効化する力を持っているのではないか?』というもの。もしそうならフロルの攻撃が通用しなかったのにも納得がいく。なんせフロルの力はほとんど能力のみで構成されているからな。それと俺が能力を使えなくなっていることの説明にもなる。
つまりバルディアさえ倒せれば能力が元に戻る可能性がある。使えるようになればクロリアもどうとでも出来るし、体力も回復できる。だからまずはバルディアを倒す。あの様子からして、素の力はクロリアよりもやや強いくらいだろう。なら十分に行ける。……例え倒しても元に戻らない可能性は考えない。ポジティブシンキングだ。
「クロリア!! まだ戦えるんだろ!! 俺を手伝え!!」
戦いを有利に進めるためにも2対1にする必要がある。
状況が変わった今ならクロリアにも協力させることは可能なはず。こいつには下手に頼むよりも挑発的に命令した方が効果がありそうだ。
「クク、しょうがネェな。手ヲ貸してヤロウ」
よし思った通り!! これでかなり有利になった!!
「……くく、良かったではないか。思い人に必要とされて」
「はぁ?」
いきなりのバルディアの発言に耳を疑う。
え、何それ。クロリアが俺のことを好きってことか?
「そうなのか?」
思わずクロリアに確認してしまう。
「アァ……!? ソンナわけネェダロ。殺すゾ」
「だよな。お前はそんなキャラじゃないもんな」
ちょっとビックリしちゃったぜ。
「……当タリ前だ」
「おい、バルディア。動揺させようたって無駄だぜ。こいつは色恋沙汰とは最も遠い存在なんだよ!! そんな乙女思考が出来るわけないだろバーカ!!」
だいたい何でクロリアが俺の事を好きになるんだよ。意味分かんねぇだろ。
「ほう、そうなのか? だがさっきは――」
「黙レ!!」
「!? バカ止まれ!!」
急に凄い形相で突っ込んで行くクロリア。
動きが直線的すぎる……!!
「……グ……ア……」
あと一歩の所まで近づくが、彼女の背中から血飛沫と共に刃が飛び出てその動きは完全に止まる。
「ふん、たわい無い。所詮貴様もただの女だったということか」
ヤバい、ここでクロリアに死なれると困る。助けに入らないと。
「来ルナ……!!」
「っ」
動かそうとした足を咄嗟に踏み留める。
「む?」
「モウ姿を保ってイラレナイガ……私にモ意地クライはアル。土産にコイツは貰っテ行くぜ……!!」
「ぐぬっ……!!」
腕を掴み、何かの魔法を発動させると、バルディアの右肘から先を切り離した。
「ククク……ざまぁみろ。ヒャハハハハハハハハハ……!!」
笑い声を上げながら、姿を消していくクロリア。数秒後には切断した腕ごと完全に消滅してしまった。
死んだ、のか……?
……いや、何をボケッとしている。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
片手で持てるサイズの黒剣を作り、バルディアの急所を狙う。
相手は弱っているんだ、このまま畳み掛けるぞ。
「くく、あの女が消えても動揺すらせんとは」
ちっ、ダメだ。左腕で全て防がれる。まるで木の棒で鉄を叩いているかのような手応えだ。やはり頑丈だな。
隙を突いて放っている『黒弾』も、当たりはするが外傷はない。怯みもしないし本当にダメージを与えられているのか不安になる。……遠距離攻撃はダメだな。消費魔力と効果が釣り合っていないように感じる。黒剣の攻撃のみに集中しよう。
「……おい、小僧。あの女をどう思っていたのか答えろ」
「はぁ、はぁ……敵にすると厄介、味方にすると頼りない邪魔キャラ」
剣が砕けたため、一旦距離を取るついでに答えてやる。
いくらキャラじゃないことを言われて頭に来たからってあの突撃はない。右腕を使えなくしてくれたことには感謝するが、早すぎる退場で±ゼロ。結果、俺のクロリアに対する印象は悪いまま。
まぁ、こいつを倒した後の事は心配しなくていいから、その点は助かったと言えなくもないかな……?
「くく、なかなかの畜生ぶりだな。貴様、才能があるぞ」
「はっ、何を意味の分からないことを……!!」
今度はより魔力を込めて剣の殺傷力を上げ、さらに防御されないくらい早く攻撃する為に『アクセル』をかける。
「ふっ――」
「ちっ」
それでも防がれてしまうが、さっきよりは手応えがある。このまま攻め続けるぞ。
「……小僧、最初に我が言ったことを覚えているか?」
問いかけを無視する。
今の俺に話している余裕などない。
「貴様の戦い方には駆け引きというものが存在しない。ただ闇雲に襲い掛かってくるだけ。苦しい時こそ我慢をし、冷静になり、機を待たねばならんのに貴様にはそれが出来ていない。そうだな……まるで子供のじゃれ合いに付き合っているかのようだ。くく、だから――」
隙が見えた!!
「こんな単純なフェイントに引っかかる」
捉えたと思ったはずの斬撃は空を切り、逆に体勢を崩したことでへバルディアに懐へ入られた。
拙い……!!
「喰らえ」
直後、極太の黒いビームが俺の脇を通過していく。
なんとか直撃は免れたが……回避が間に合わず左の肩から先が完全に消滅してしまった。傷口からは血が溢れてき、体のバランスも何だか悪い。
「外したか……。しかし、貴様の死は決まったようなものだな」
確かに元々フラフラだったのに、こんな怪我を負ったら放って置いてもそう長くない内に死ぬだろうな。
だが――。
「はは、それはお前も似た様なもんだろう?」
「何……?」
こいつは言った。苦しい時こそ我慢をするべきだ、と。
逆を言えば余裕があるならガンガン攻めるべきなんだ。なのにこいつは防戦一方でほとんど反撃をしてこなかった。俺を子供みたいだと扱き下ろしておきながら、な。これはどういうことか? それは奴がもうまともに攻撃をするだけの余力がないってことだ。
俺は動かない左腕を捨てる代わりに、勝利への現実的な可能性を得た。むしろ戦意は高まってきてすらいる。
「さぁ、どんどんいくぞ!!」
駆け引きなんて知るか。俺は愚直に突っ込んで行くのみ。
朦朧とし始めた意識に喝を入れ、再びバルディアへ向かって行った。
――我は一体何をしている?
何故こんな小僧一人に手こずっている?
理由は考えるまでもない。能力の解析と封じ込めに時間がかかってしまい、女装モードのこいつに手痛いダメージを受けたからだ。アレで体力・魔力の九割以上を失ってしまった。
その上あの狂った精霊の登場だ。奴の所為で残りの魔力もほとんど失い、おまけに右腕を持って行かれるという不甲斐なさ。何とか始末できたが、状況は悪化の一途。
もはや満足に動くことすら儘ならず、防御に徹するのみ。虫が止まるようなスピードの枝叩きでも堪える始末。無駄話をしてまで魔力を練る時間を稼ぎ放った魔法も外し、魔力量はゼロ。
なんという醜態だろうか。
そして現在も醜態を晒し続けている。先ほどまでよりもさらに加速した小僧の攻撃に体が付いて行かなくなってきているのだ。全身は傷だらけ、左腕は無く、血液を垂れ流し、瞳孔は完全に開き、呼吸をしているのかすら怪しい死に体の小僧相手に……!!
……戦いを終わらすだけならば簡単だ。
このまま防御に徹するか、少し距離を取ればいい。そうすれば向こうは勝手に出血多量でくたばるだろう。我も危ないが、間違いなく小僧の方が先に果てることだけは断言できる。
「――っ、……ふぅー、ふぅー……」
だが、そのような決着は勝利と呼べるだろうか?
意識を保つために自身の傷口を抉るような奴を相手に、そのような消極的な手段を取って我は満足か?
――断じて否!!
どのような状態であろうと“敵”は真っ向から捻じ伏せてこそ勝利と呼べるのだ。我は今までそうして勝利を収めてきたし、これからもそのつもりだ。例外など一つたりとも許してなるものか。
「来い、小僧!! 己のすべてを出し尽くして我に挑め!! そして我をその気にさせた栄誉を胸に散れ!!」
腕が重い。目が霞む。足が張り裂けそう。
体力はとうに限界にきており、魔力も尽きる寸前。動くだけで命が削られていくのが分かる。だというのに敵さんは急にやる気になっている。防御を捨て、攻撃してくるのだ。魔法こそ撃って来ないが、蹴りや打擲などの体術は積極的に仕掛けてき、フェイントを混ぜての攻撃は避けるのが非常に困難。なんとかモロに食らわないようにするので精一杯だ。
だがそれでも俺は攻めの姿勢を崩さない。攻撃を避けては切りつけ、食らっては切りつけの繰り返し。ここでこのリズムを崩せばもう俺に勝機はない。立て直す間も無くすぐにやられるだろう。
「かあっ……!!」
黒剣が砕かれた。
すぐさま再生するが、もう同じ威力の物を作るのは無理だろう。これで決めるしかない。
――っと、眠気が酷くなってきたので、腕の傷口を黒剣でグリッとやり喝を入れる。
ふぅー……。
よし、ちょっと目が覚めた。まだ行ける。
意識がある限り、勝つことは諦めない!!
「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「くははは、本当にしぶといな貴様は!!」
まるで弱った素振りを見せないバルディアだが、奴だって腕から大量に出血しているんだ、瀕死なのは同じはず。
だからこそ分かる。
奴は必ず起死回生の一手を打ってくる。このまま体術だけ使ってくるわけがない。
ああ、俺はそれを乗り越えて見せるとも。
「ぬうっ……」
「ふっ――」
よろめいたところへすかさず切りかかる。
来るか――?
「かかったな……!!」
奴が左手をこちらに向けたと思った瞬間、握っていた黒剣が消し飛んだ。
魔法消去か!!
「終わりだ!!」
勝ち誇った表情を浮かべ、拳を振り上げる奴へ――。
「禍黒槍!!」
なけなしの魔力全てを込めた暗黒の槍をブチかます。
この至近距離で避けられるものか。
「甘いわ!!」
「なっ――」
右の二の腕部分で弾きやがった……!!
「死ね!!」
もはや魔力は尽きた。
俺は迫る死の拳を前にして――。
「な……に……?」
バルディアの胸に一振りの短剣を突き刺した。
「俺の勝ちだ……!!」
七剣『エンジュ』。エクトルの戦いで回収し、女王との謁見後に王子に返そうと思っていたもの。途中、少しでも身軽になるために投げ捨てようかと何度も脳裏をよぎったが、必要になることを信じずっと持っていた。
「く……くははは、やるではない、か……」
ドサッ、と足元に倒れたバルディアへエンジュを構える。
止めはきっちり刺さないと……。
「これで……最後だ……!!」
力を振り絞り、エンジュを奴の頭目掛けて突き刺す。
「……?」
しかし――突き刺したのは地面。
奴の体はどこにもない。
「何が……」
「――悪いね、あとちょっとだったのに。でも、まだこの方を殺されるわけにはいかないんだよ」
目の前にはバルディアを担いだ黒装束の男がいた。
はは……ここにきて新手かよ……。
クソ展開もいいところだな。
「君もよく頑張ったけどここまでだ」
男の手に光が集中していくのが見える。
避けれるとも防げるとも思わないが、それでも何が起きても反応できるようにする。
そして、男の手から――。
「ひっ」
「貴様、誰の許可を得て神聖な勝負に水を差した……!! とっとと下ろせ!! 決着がまだついていない」
バルディアが男の手を掴み、魔法の発動を止めた。
「は、はぁ……!? そんな状態で戦えるわけないでしょう!! みすみす死なせるようなものじゃないですか――って気絶してるし」
フラフラする。
立っているのでやっとだ。
「おい、早くそいつを……置いていけ……」
勝ったような気がするが、幻覚だったのかもしれない。
きちんと勝たなくちゃ……。
「無理やり連れて帰ったうえに、君まで殺したと知れたら僕が殺されさそうだな……。しょうがない、君は見逃してあげるよ。どうせもって数分の命だろうしね。――あ、でも一応聞いておこうか。君の名前は?」
名前……?
「バジル……オリーブオイル……」
「そうかバジル・オリーブオイルか。ありがとう。お礼に君の名前には呪いをかけておいたよ。万が一その状態で助かったとしても、一時間後には必ず死ぬ呪いをね。うん、これなら僕が直接殺したわけじゃないと言えなくもない。――では、残りの余生を存分に楽しむといいよ」
何を言っているのかよく聞き取れないと思っていたら、奴らは現れた穴の向こうに行ってしまった。
「はぁ……」
地面に倒れ込む。
もう目がほとんど見えない。痛みも感じなくなってきた。
精根尽き果て、戦いが終わった喜びも、あいつらを取り逃がしたという悔しさも湧いてこない。
えーっと……そうだ、傷を回復しないと。
『sjぎふもえrmmkvslkdけkmdlfkd』
ダメか……。
能力は使用できないまま。
これは……もう……助かんねぇな……。
「…………く……!! ……て……――……!!」
「――――タ――……。………っ………か…………――」
約束……守れなかったな……。
ごめん、と小さく呟き、俺はゆっくりと目を閉じた。




