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1.5mの世界  作者: 粗井 河川
1章
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第36話  解説と開幕

「おはようございます。そろそろ来る頃だと思っていましたよ」


 朝9時。

 国のトップの元へアポなしで来たのだが、『お待ちしていました』の一言ですんなりと通された。そして相変わらず部屋にいるのはローザ女王一人。誰かが陰ながら守っている風でもないし、かなり不用心だと思う。“俺”が突然襲い掛かってきたらどうするつもりなのかね。

 ちょっと試してみたいかも。


「せっかく来て頂いたのだし心の具合はどうなのかといった世間話をしたり、貴方の些細な好奇心を満たしてあげたいところなのですが、生憎と今日は予定がぎっしりと詰まっています。こうして話していられるのも1時間ほどでしょうか。そのことを念頭に……さ、質問をどうぞ。そのために来たのでしょう?」


 これは、暗に聞きたいことだけ聞いてさっさと帰れって言っているのか? やっぱり俺が何を聞くかは分かっているんだろうな。女王の反応を想像しただけで胃が痛くなってくるが、聞かないわけにはいかない。


「ではエクトルについてお願いします」


「はぁ、エクトル、ですか」


 やる気のない返事をされてしまった。

 なんか俺が思っていたのとかなり違う反応だ。てっきりよくも可愛い甥を殺してくれましたね、的な展開になるのを覚悟していたのに。


「いくら分かっていたこととは言え、実際にそんなどうでもいいことを聞かれると微妙な気持ちになってしまいますね」


「どうでもいいって……」


 甥が死んだというのにそれはあんまりじゃないか?


「あの事件はエクトルが犯人。そして彼が死んだことによって事件は解決。それだけ分かっていれば十分なのですよ。ですからこれ以上の説明は、はっきり言って時間の無駄なのですが……それでも知りたいのですよね?」


「……」


 女王がそこまで言うのなら知る必要はないのかもしれない。他に聞きたいことも沢山あるし質問を変えるのも手だ。

 だが――。


「知りたいです」


 エクトルが何を思いどうやってあんな事をしたのか、また、本当に1000人もの人を殺したのか、優しそうなセリフや態度は演技だったのか。

 俺はそれが気になって気になってしょうがない。


「なら手短に説明しましょう。英雄願望のあったエクトルは異変解決の手柄を貴方達に取られるのが嫌でした。そんな時に“敵”から取引を受けて受諾。報酬として【催眠】と【吸収】とカルカイムの各都市へワープが可能なアイテムを手に入れ、あの凶行を実行。終わりです」


 え、終わりって。


「ちょ、ちょっと待って下さい!!」


 いや、さすがにそれじゃあ説明不足だろ!


「ああ、忘れていました。【催眠】は相手の意思を操ることが出来る能力。ただし複数人を同時に操ることは出来ません。【吸収】は対象の生命力や魔力を自分の糧とすることができ、自身の限界を超えての吸収が可能、というものです。エクトルは【催眠】を使ってブラトを操り、【吸収】で彼と1783人の方を殺しました。……他に質問は?」


 ……えーと、なんかあるか? 明らかに説明が足りないような気がするが、意外と聞くべきことなんてこのくらいの様な気も――。


「って、“敵”って何ですか!? 初耳ですよ! あと取引って言うのもちゃんと説明してください!」


 敵とか超重要ワードじゃねえか。


「“敵”とは我々ユピアーデに住む全ての人の敵のことです。ふふ、そのままで実に分かりやすいでしょう? エクトルは夢を通じてその“敵”から取引を持ちかけられたのです。……実は貴方のところにも来ていたのですが、フロルが塵一つ残さず消滅させてしまいました」


 何それ、全然身に覚えがないんですが。……え、うそ、マジで知らない内に俺は敵と会っていて、んでフロルがいつの間にか殺っちゃっていた、と?

 ……ダメだ。今、能力でそれらしい記憶を探してみたけど該当する夢が多すぎて特定なんかできんわ。この件に関しては素直に諦めるしかないな。


「取引の内容はエクトルが世界各地に『種』と呼ばれるものを撒くこと。残念ですがその種とやらどういうものなのかは不明です。エクトルは説明をされていませんでしたし、実際に種が撒かれた地点を私達が調べてみはしましたが、何も発見できませんでしたから」


 英雄願望がある癖にそんな危なそうなものを撒いたのかよ。矛盾してないか?

 いや、矛盾しているように見えてもエクトルにはエクトルなりに筋が通っていたのかもしれない。例えそれが誰にも分からないような理屈だとしても。


「これでほとんど解説は――まだありましたね。貴方が渡された資料にはエクトルが最初に事件を発見したことになっていますが、それは彼の捏造です。本当は王都の騎士団が発見しています」


 やっぱりな。じゃないと犯人自ら事件を表に出すことになるからな。


「ついでにこれも教えておきましょう。エクトルは最初、ククルちゃんを人質にしようとしていました。しかしあまりに隙がなさ過ぎて断念。アリサちゃんについても同様です。そうして隙だらけのティリカちゃんが選ばれた、というわけです」


 何だかティリカが凄く残念な子の様に聞こえるが、カルカイム最強の男に隙がないと思わせる2人の方が絶対におかしいと思う。ある意味、これが一番の驚きポイントかも。


「さ、最低限のことは話しましたよ。あとは少し考えれば事件の全容は自ずと見えてくるでしょう」


 ふむ……。

 エクトルの行動や言動、女王の説明から推理すると――。


 事件は奴に俺の秘密を話したことから始まる。

 英雄願望があった(人々から称賛されたいのか、自己満足タイプなのかは不明)エクトルは異変解決の主役になれないことに不満を抱いた。また、自分の理解が及ばぬ存在であるフロルにカルカイム最強の座を揺るがされていることにも頭を悩まされ続ける破目になる。


 そんな悶々とした日々を過ごす中、夢で“敵”にある取引を持ちかけられる。世界中に『種』を撒けば力を与えてやる、と。

 エクトルはこれを了承。指示を遂行し、報酬として【催眠】【吸収】、都市間移動が可能なアイテムを受け取る。そして奴の凶行が始まる。


 魔力感知で一定量以上の魔力を持つ者を探し、生命力を根こそぎ吸収し始めたのだ。

 何故そんなことをしたのかはもちろん俺やフロルを殺すため――ではなく、“敵”を倒すために魔力集めだったのだろう。根拠は、ほぼ無限と言っていい魔力を持っているフロルに対抗するには2000人足らずの魔力では圧倒的に不足しているから。それが分からぬエクトルではないだろうし、何よりも『来るべき戦いに備える』と言っていたことから、吸収した魔力は対“敵”用だと考えた。

 おそらく彼の頭の中では、『くす、貴方から頂いた能力のおかげで貴方を圧倒できる力を手に入れましたよ』とか思い描いていたんじゃないだろうか。


 そして人を効率よく集めるためにブラトを【催眠】で操ったり、騎士団の捜査を適当にこなしているうちに、とうとう国が痺れを切らしフロルへ緊急依頼を出す。

 おそらくこの時点ではエクトルが資料に細工をしていることからも、まだ捕まる気はなかったはず。しかしメルフィが言っていた『もうすぐ』という発言を聞き、予定は変わる。戦いが近いことを悟り、邪魔な俺達を殺して糧にする『覚悟』を決めた。


 その後は……ティリカを人質に取って、今まで溜めこんだ闇を全てぶつけるかの如く俺達に挑むも敗北。結局、自分が殺されることになってしまった――。


 と。

 細かいところは間違っているかもしれないが、事件の全容としてはこんなもんだろう。


「ありがとうございます。疑問は解消しました」


 よし、それじゃあ気持ちを切り替えて次の質問を――。


「ふふ、嘘はいけませんよ。まだ本当に聞きたいことが残っているじゃありませんか」


「え?」


「エクトルをあそこで殺すべきだったのか、ですよ」


「!?」


 そ、それは確かに思ってはいたが……。


「時間もないですし、私の偽らざる本音でお答えしましょう。……異変を本気で解決する気があるのなら悪党を一人殺したくらいでいちいち落ち込むな見苦しい。その程度の覚悟しかないのなら、むしろいても邪魔なだけ。大人しく引っ込んでいなさい、です」


「……」


 あー……心に突き刺さる言葉だな。

 思わずよろけそうになったよ。

 そうか、見苦しい、か。

 んなこと言われてもなぁ……。しょうがないじゃん。だって俺は今まで人を殺してきたことなんてなかったんだぞ? 普通ならショックを受けるのが当然じゃないか?

 でも……俺がやろうとしているのは異変を解決するなんていう全くもって普通じゃないことなんだよな。いつまでも“普通”に囚われたままじゃいられないか。

 よし! もうグダグダ悩むのは止めだ!


「ふふ、良い目ですね。どうやら間に合ったみたいで安心しました。出来れば万全な状態で挑んでもらいたいですからね」


「?」


「10、9、8、7……」


 何やらまーた意味深なことを言い出したかと思いきや、謎のカウントダウンを始めた。


「5、4、3、2、1……0。ジル。重大ニュースです。異変が発生しました」


 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?


「1体だけで都市を破壊できるほどの力を持った魔物がレストレイア、ベルダット、に2体ずつ、ここラングットに1体、そしてカルカイムに3体出現し、お供の魔物を連れ添って都市へ襲撃を仕掛けようとしています」


 あまりに急すぎてパニックになりそうだが、無理やり心を落ち着かせる。


「俺は何を?」


 女王が冗談でこんなことを言うはずがない。ということは本当に異変が起こったのだろう。

 なら俺は俺に出来ることをしなくては。


「現れた魔物は無視して構いません。盟約に従い、精霊たちが何とかしてくれますので。貴方はスイレンさんの所に向かい、後は成り行きに任せなさい」


「分かった」


「それとメルフィとは絶対に離れ離れになってはいけませんよ。……あと弟子を連れて行った方が総合的に見てマシ(・・)な結果になるでしょう」


 ふむ。こうしてアドバイスをしてくれるのはありがたいが……されるたびにある疑問が浮かび上がってくる。


「こんな時に尋ねるのもアレですが、女王が初めから全て教えてくれればいいのでは?」


 そうすればメルンや、エクトルに殺された人だって助けることが出来たかもしれないし、エクトルにあんなマネをさせる前に止めただろう。それにもしかしたら異変だって解決できるかもしれないのに。


「分かってはいるでしょうがそれは無理です。強引に流れを変えようとすれば最悪の事態になりかねませんからね。私に許されるのはせいぜい少しでも良さそうな流れに誘導するくらい。万能とは程遠い能力です」


 やはり人生そんなに甘くないか。


「さ、最初のボス戦が待っていますよ。余計な考えは捨て、目の前の戦いだけに集中しなさい」


「了解。それではまた」


 戦いへの不安、緊張、興奮、そして僅かな喜びを抱きつつ、俺はスイレンのいるメイユ市へと転移した。


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