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1.5mの世界  作者: 粗井 河川
1章
39/144

第35話  整理

「ジルを見たと思ったんだけどなー」


「お姉ちゃん、まだ言ってるの?」


 私が帰還してから約1時間。皆も大分落ち着き、普段の調子を取り戻している。

 これほど早く戻れたのも、当の本人が誘拐されていた時のことを全く覚えていなかったおかげでしょうね。


「はいはい!! さっきから気になってたんすけどジルって誰っすか?」


「あ、こら話は終わっていませんよ!! ……でも私も気になりますね。学園の友達ですか?」


 エミリーがカベルに説教中。どうやら黙ってエクトルの所に行ったのが気に食わなかったみたい。私としてはカベルが来て助かった面もあるから庇ってあげてもいいかと思ったけど、よくよく考えれば一人でエクトルの所へ向かおうとしたカベルの行動は褒められるものじゃない。もし私より早くエクトルの元へついていたら殺されていた可能性だってあったのだから、ここは大人しくエミリーの説教を受けてもらうことにした。

 

 ちなみにカベルがエクトルに気づいたのは魔力探知のおかげ。あまり精度が高くない代わりに一定以上の魔力は常時感知できるため、突如メイユ市に現れたエクトルに気づくことが出来たみたい。そして追いかけた理由はカベル曰く『元々怪しいと思っていたっす。だって師匠のことを友人と言っておきながら本心では全く逆のことを思っているように見えたんすから』とのこと。


「同い年の男の子でね。えーと、確か学園には通ってないって言ってたよ」


「それでも私やお姉ちゃんより頭がいいし、魔法も出来る方なんです」


「嘘!? 学園にも通わずアリサちゃんより頭がいいの!?」


「で、さらには魔法も出来ると。何者っすかそいつ?」


「んー、そういえばジルって普段何してるんだろう?」


「スイレン様なら知っているんじゃないですか? 知り合いのようでしたし」


 皆の視線が一斉にスイレンに向かう。

 スイレンは視線に気づかず、さっきから延々とティリカの体に異常がないかチェックしている。髪の毛の一本一本を丁寧に調べているその様は、何だか鬼気迫るものを感じる。


「スイレンさまー。もういいからジルの事を教えて下さい」


 もう何度目か分からない『浄化』の魔法を使うと、ようやくスイレンがこちら側に顔を向けた。

 頼むわよースイレン。上手いこと誤魔化して頂戴。


「ジル? ……ああ、ジルはフロルの子供なのよ」


「「!?」」


 発言者以外の全員に凄まじい衝撃が走った――。


「し、ししし師匠はお子さんががががいいったったのでで?」


 エミリーは大袈裟なくらいに驚き、


「処女だと思っていたのに!! いや、でも未亡人だと思えば……いける、か?」


 カベルは謎の葛藤をし、


「きゃあああああああああああ!! フロル様の旦那様ってどんな人なんですか!?」


 ティリカは大興奮、


「……」


 アリサは深刻な顔で物思いにふけっている。

 さて、どうしましょうか?

 正直、人妻設定はあまり好ましくない。どころか個人的には吐き気がするレベル。でもスイレンの事だから何か考えがあるのかもしれないし、この設定が全く使えないわけでもない。

 ふむ……。


「嘘、ですよね?」


 私が悩んでいると、アリサが確認するようにスイレンを見た。


「何故かしら?」


「ジル様の名前はジルロット・トライフォース。フロル様はフロル・ファントム・クリマアクト。家名が違います」


「あらら、バレちゃった。そうよ。嘘よ嘘。ちょっとからかっただけ。本当はジルは……うん、本人から聞きなさい。こういうのは私が勝手に言っていいことじゃないでしょう」


「っしゃあああ!! やっぱ処女だったんだ!!」


「なーんだ、つまんないの」


「最低なことを言っている人がいますが、私もちょっと安心しました。師匠が男の人とその……イチャイチャしているのは想像が出来ないですから」


 なーんか皆の反応が気に入らないものの、落としどころとしてはまぁまぁよね。

 問題の先送りとも言えるけど。


「そういや――」


「……」


「どうしたの?」


 話題がエミリーの恋バナに移って盛り上がる中、アリサだけは腑に落ちないって顔で考え込んでいる。


「いえ、ちょっと気になることが」


「何?」


「根拠なんてまるでないただの勘なんですが……親子でなくてもジル様とフロル様は何かしらの接点があるのではないでしょうか?」


 ……ヒュー、さすが【直感】。論理を無視していきなり結論に至ろうとするわね。やっぱり面白い能力よね。


「私が答えてあげるのは簡単だわ。でもスイレンの言う通り、こういうことは本人に聞きなさい」


「そう、ですよね」


「ふふ、そうガッカリしないの。代わりに1つ面白いことを教えて上げるから」


「?」


「私は“フロル・ファントム・クリマアクト”を名乗っているけど実はこれ、私の正式な名前じゃないのよ」


「えっ!? じゃ、じゃあ偽名なんですか?」


「あぁ、いやちょっと違うかな? 正式な名前じゃないからと言って偽名ってわけじゃないし……そう! いわば愛称みたいなものよ」


「愛、称、ですか」


「でね、私にはこの愛称とは異なるもう一つの名前があるの。もしアリサが私の本当の名前に辿り着くことが出来たら……ふふ、何でも一つだけ願いを叶えてあげる」


「あ……」


 あら? てっきりやる気を出すか喜ぶかと思っていたのに、悪い知らせを聞いてしまったみたいな驚き方をされちゃったわ。


「そんなに気に入らなかった?」


 もしかして今までずっと嘘をついていたと思われたとか? それとも試すような言い方が拙かったのかしら? この年頃の子供はちょうど多感な時期だし、どんな些細なことで傷つくか分からない。どうしましょう『フロル様なんて大嫌い』とか言われたら。


「あ、いえ、違います……。今、一瞬ですけど……フロル様とこうしてお話出来るのは最後のような気がして……。名前を当てろっていうのもひょっとして遺言なんじゃないかって……」


 ……。


「あははは、バカねぇ。私が死ぬって? ふふ。むしろ私をそんな目に遭わせることが出来る奴がいるなら会ってみたいくらいよ。だからそんな変な心配をしなくても大丈夫」


 アリサの髪をわしゃわしゃさせながら豪快に笑い飛ばしてやる。


「本当ですよね? 黙っていなくなったりもしませんよね?」


「大丈夫。約束するわ」


「……ちょっと待ってて下さい」


 急に自身の部屋に駆け込んだかと思ったら、何かを握りしめて戻ってきた。


「これを」


 渡してきたのは剣を模ったアクセサリー。


「これは私がジル様にプレゼントしようと思っていたものですが、フロル様に貸してあげます。5~6年くらいしたら返して下さい。人にあげる物ですから大事にお願いしますね」


 まったく、この子は……。


「ええ、ありがとう。大切にするわ」


「はい、自分の体と同じくらい大切にして下さい。約束ですよ!!」


 く~~~~~~~~~~、無性にこの可愛らしい生き物を抱きしめて撫で回したくなってきた!! どうする、やっちゃう? そんでお家にお持ち帰りしちゃう? うん、そうしましょう。


「盛り上がっているところ悪いわね。ティリカをお風呂に入れるついでにアリサも一緒に連れて行くわ。というわけでアリサ、準備してきなさい」


「はい分かりました。ではフロル様、失礼しますね」


 あーあ、行っちゃった。

 まるで心にぽっかり穴が開いた気分だわ。


「……本当にいい子よね」


「でしょ? 私はあんないい子達に危害を加えようっていう連中がいるなら容赦なく命を絶ってやるわ。それが私の正義ですもの。だからフロル、貴女は正しいことをしたわ。気にするなとは言わないけど、抱え込みすぎちゃダメよ?」


 これはアレかしら。スイレンなりに気を使ってくれているのかしら?


「ありがと」


 ならストレートにお礼を言わないと。


「おっほん……。んん。さて、それで貴女の弟子には夕飯の買い物に行ってもらったわ。ついでに食べていくみたいだし、偶にはフロルもどうかしら?」


「やめとく。時間も遅いしそろそろ帰るわ」


 充電はばっちりだしね。


「そう。じゃあジルにもよろしく言っておいて。ぶっちゃけフロルの心配はこれっぽっちもしてないんだけど、ジルは少し不安だからね」


 確かに“ジル”の精神は少し不安定。直接殺したわけでないとはいえ、エクトルの死には少なからずショックを受けている。殺してもいいと思っていたはずでも、実際に結果として現れるとどうしても動揺してしまうみたいね。きっと今も『何も殺さなくても良かったかもしれない』とか悩んでいるんでしょう。


「OK。それじゃーねー」


 ま、ジルが立ち直るまでは私が頑張りますか。





「珍しいこともあるもんだね。思わず驚いちゃったよ」


「こういう日もあるでしょ。ま、僕としてはこれを機会に兄離れしてくれたらとは思うね」


「それはどうだろうね? だぶん今日が例外中の例外なんだと思うよ」


 夕食を終え、ジュース片手に兄弟水入らずで談笑中。

最近ルーファスは騎士団の稽古で忙しそうだったからね、こうして落ち着いて話すのは久し振り。


「うーん、やっぱりジルが変なことをしたんじゃないのかい? 何もしていないのにククルがジルにあんな態度を取るとは思えないね」


いつもだとすぐ横にいるククルは「今の兄様に近づくことは重大な裏切り行為のような気がします」と、こちらに向かって嫌悪感を出しながら部屋に引き上げてしまった。

 


「心当たりはないんだけどなー」


 嘘。

 心当たりはありまくりよ。

 今、いろいろと療養中の“ジル”に代わって私が出ている。おそらくそれが原因。完璧に“ジル”を演じたつもりだったのだけど、ややブラコン気味のククルには僅かな変化すら見逃さず違和感を覚えてしまったのでしょう。他の家族は全く気付いていないというのに……驚くべき精度のお兄ちゃんセンサーよね。


「だとしたらジルが原因で避けているんじゃなくて、ククルの方に原因があって避けているのかもね」


「というと?」


 間違った憶測だろうけど興味はある。


「ジルは学園に行っていないし、ククルも学園のことはほとんど話さないから、同年代の子がどの程度のレベルか知らないでしょ?」


「まぁね。ククルが他の子と比べて凄く優秀ってくらいかな」


 ちなみにティリカの成績は平均より上。アリサはトップクラス。ついでにルーファスもトップクラス。


「その通り。ククルはこの2年間、常にトップだったよ」


「だった?」


「先週までわね。でもついに抜かされちゃったんだよ。とある獣人の女の子に」


「へぇ」


 もしかして……。


「僅差だったんだけどね、惜しくも最も可愛い女の子1位の座を奪われちゃったんだよ」


「あぁ――」


 容姿の話ね。てっきり勉強とか魔法の方かと思ったのに。


「本人達はそんなランキング付けが行われているなんて知らないはずだけど、噂が耳に入って落ち込んでいるのかもしれないね。ククル、あれでも自分の容姿にかなりの自信があるみたいだから」


「……話の内容よりも兄さんがそんなことを知っていることの方が謎だよ」


「はは、これでも僕はけっこうククルを気にかけているからね。可愛い妹に変な虫が付かないように常に注意しているんだよ」


 意外。

 ククルはルーファスの事があまり好きでないように見えたから、ルーファスも苦手意識を持っていると思っていたのに。シスコンなのかしら?

 ふむ……。


「ねえ、兄さん。もし、もし兄さんに絶大な力があるとするよ? そしてククルが暴漢に殺されそうになっている場面に遭遇したらどうする?」


 ……あー、失敗したかも。子供に聞くことじゃないわね。


「それは……実際にその場面に立ち会ってみないと分からないな。でも父さんなら、『娘に何をしている!!』って言って問答無用に切り捨てると思うよ。そして僕はそんな父さんを軽蔑することは絶対にないね」


 ふふ、聞いた“ジル”?


「ありがとう、とても参考になったよ」


 少なくても貴方のお兄さんは軽蔑しないってさ。





 時刻は23時45分。

 もうすぐ異世界生活の中で1位を争うほど濃かった日も終わる。

では今日1日で最も印象に残ったことは何か、と聞かれたら『昨日まで友だと思っていた人物を殺したことだ』と“ジル”は答えるでしょう。

 でも私は違う。

 私が思うに――


「死亡フラグが立ったことでしょう」


 アリサのあの言葉。『こうして話せるのは最後なのではないか』笑い飛ばしはしたけど、到底無視できるものじゃない。

 なにせアリサの【直感】は99%当たる。

 今までは何が来ても対処できると思っていた。でもそれじゃあダメみたいね。このまま慢心して翌日を迎えれば私達に明後日はないかもしれない、今からはこれぐらいの気持ちでいないと。

 アリサとの約束を果たすためにも、出来ることは全てやりましょう。


「まずは……」


 ローザに無理やり吐いてもらいましょうか。未来が視えるんだし、彼女なら今後の事はある程度知っているはず。エクトルの事もあるし、明日にでも会いに行きましょう。


「ただいま……」


 お、やっとメルフィが帰って来たわ。


「おかえり。今日は何をしていたの?」


「あれ、フロル? ……今日はババアの所に行ってから、指定されたトレーニングをしてた。すごくねむぃ……。」


「ごめんなさいね。疲れているところ悪いんだけど、少し付き合ってもらうわよ」


 能力でメルフィの疲れと眠気を取り除き、メルフィと出会った草原へと転移する。


「どうしたの?」


「これから私が稽古を付けてあげる。今から朝までに実戦で使えるレベルの魔法を10は覚えてもらうわ」


「……分かった」


 どのような展開になろうとも、メルフィの力は今後絶対に必要になってくる。だからメルフィには少しでも強くなってもらう必要がある。

 こんな短時間で覚える魔法なんて付け焼刃にもならないかもしれない。

 今からではもう遅いかもしれない。

でも何もしないよりはマシよね?

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