第34話 抱えし闇 後編
この回は2話同時投稿の内の後編です。
まだ前編を見ていない方はブラウザバック推奨です。
「――」
瞬間、俺の中の何かが弾けた。
「く、くく……あははははははははははははははははははは!!」
「おやおや、ついに壊れてしまいましたか?」
俺はバカか?
何故あんなことを考えていたのだろう。
どうにかしてエクトルを助けたい――などと。
もういい。こんな奴に遠慮する必要なんてどこにもない。
手段を選ばず徹底的に潰してやる。
「エクトル、お前は絶対に越えちゃいけないラインを越えた! その報いを受けてもらうぞ!」
「ぷ、あはははは、大した妄言です!! やはり頭がおかしくなりましたか!! このままもっと痛めつけてやりたいところですが……そろそろスイレンが痺れを切らして来るかもしれません。とっとと君を始末して吸収し、彼女の襲来に備えるとしましょう」
「安心しろ。お前はスイレンが来る前に終わる」
「それが君の最期の言葉です。……さようならジルくん『バースト・フ――』」
さあ、来い。お前に地獄を見せ――。
「ひっさぁーーーーーーーーーーつ、フラッシュ!! & 煙幕!!」
「なっ!!」
「なんだ!?」
突如、俺達の間に何か降って来たかと思ったら、そいつは周辺を白で埋め尽くすほどの光を放った。
たまらず目を瞑り、数秒後に目を開けてみると目の前は白い煙で何も見えない。
状況がまったく分からないで困惑していると――。
「キャンセル」
体の圧迫感が消えた。
どうやら鎖が外れたみたいだ。
「少年、もう大丈夫っす。よく頑張りましたね」
この声……カベルか!!
「ティリカは!?」
「大丈夫、一緒にいるっす。さ、煙が晴れる前に急いで――」
「ハリケーン!!」
強烈な風が吹き、辺りの煙を吹き飛ばしていく。
ティリカは……よし、カベルが担いでいる。
なら俺は――。
「よくもやってくれましたね……」
「ふん、王都にいるはずのあんたの気配がしたから来てみれば……やっぱりお前が一連の事件の犯人だったんすね」
(ここは俺が引き受けるから、君はティリカを連れて逃げるっす)
「ふぉもひふひょふはふぁい(その必要はない)」
「はい? あ、れ……」
【自由自在】で、カベルを眠らす。そしてすぐさま切断された手と消耗した体力の回復&能力の制限解除。
「落ちていた手を噛んで使用しましたか。野蛮な」
次にティリカの頬の傷の回復と、洗脳状態の解除。
「あ、れ……ジ……ル?」
同時にスイレンの元へと転送する。
「これで準備万端だ」
カベルは……悪いがもう少しそこで寝ていてもらう。
「くすくす、形勢逆転と言ったところでしょうか?」
「にしては余裕そうだな。強がりか?」
「多少、予定外とは言えこうなることは想定の範囲内です」
「そうか。『バレット』」
「ぐはっ……!!」
闇の弾丸をエクトルの右肩へと撃ち込む。
弾は易々と肩を貫き、血で染める。
まだだ。この程度じゃまるで物足りない。
「こうなることも想定内か?」
「……くすくす、『動くな』」
「お?」
体が動かない。
「言ったでしょ? 私には【催眠】と【吸収】の2つの能力があると。この2つがあればあんなマネしなくとも、真正面から君を殺せるんですよ。さ、お返しです。『自身の右肩を撃ち貫け』」
「断るに決まってるだろ。『バレット』」
今度は右太ももに狙いを定め撃ち貫く。
「なっ――!? な、なぜ拒否できるのですか!?」
驚いているエクトルを余所に、俺はエクトルの元へとゆっくり向かう。
「――!? 動くな。動くな。動くな動くな動くな動くな!!」
あーあ。動くなと連呼する姿は何だか見ていてみっともない。つい力を抜きたくなるが……そんなことは絶対にしない。
「さ、これで【自由自在】の射程圏内だ。はは、ようこそ1.5mの世界へ。歓迎するぜ?」
「なぜ、なぜなぜなぜなぜ!? なぜ【催眠】も【吸収】も効かない!? 今度は一体どんな反則技を使った!?」
「知らいないのか? 能力にも法則というものがあるんだよ。相反する能力がぶつかり合えば、より強いイメージを持つ方が勝つ」
エクトルの【催眠】よりも、俺の【自由自在】による拒絶の方が強かった。ただそれだけのことだ。
「だからこそおかしいのです!! 私が君なんかよりもイメージが劣っていると? そんなはずはない!! きっとその能力に何か細工をしてあるのでしょう!?」
……。
「もういいかエクトル?」
「何?」
「俺はもうあんたの顔を見ているのが耐えられない」
いや、もはや存在自体が許せない。
「だから死んでもらう」
「……くす、甘ちゃんの君に出来るのですか? 人はまだ殺したことが無いのでしょう?」
確かに俺もフロルも人を殺したことはない。
今まで犯罪者を相手にしたことはあったが、全員ボコボコにして騎士団に引き渡しただけだった。例え自身の命が狙われても相手の命を奪うことまではしていないし、これからもそうするつもりでいたのだが……。
こいつは……エクトルだけは絶対にこの手で殺す!!
「ティリカに手を出しておきながら生きていられると思うな!! これで最後だ!! エクトルよ『死――」
あれ、意識が……。
「……?」
「――っとっとっと。危ない危ない。まだ“ジル”には人殺しは早いわ」
「……その口調、フロルですね?」
「ご名答」
今は“ジル”の姿だけど中身は私。
何気にこの姿での登場は初めてじゃないかしら。
……んー、やっぱ落ち着かないわね。
「何をしに出てきたのですか?」
普段の格好に戻りましょうか。
「貴女に用はない!!」
変身っと。
うん、やっぱりこっちの方が落ち着くわ。
「彼に代われ!!」
でも“ジル”の体で動き回るってのも面白そうよね。今度試してみましょう。
「聞いているのですか!!!」
「うっさい。聞いてるわよ」
「っぁぁあああああああああああ!!」
あらいけない。エクトルがあんまりに偉そうだったから、ついイラッとして右腕を引き千切っちゃったわ。
ちょっと乙女のすることじゃないわよね。反省しないと。
「で、何だっけ? ……そうそう“ジル”と代われって話だったわね。お断りよ。貴方、自分の立場が分かってる? 私に命令できる立場じゃないのよ」
内心で“ジル”からも物凄い抗議があるけど代わる気はないわ。
ティリカを助けるのは譲ってあげたのだから、後は私がやらせてもらう。
「エクトルも構わないでしょ? 本当は“ジル”よりも私の苦しむ顔が見たかったって言ってたし。ふふ、よく考えると絶好のチャンスじゃない」
腕と足に多少の負傷はあるものの魔法も能力も使えるのだし、互いの距離は1.5mもない。一矢報いるどころか逆転することも十分可能よね。
「あが、ぐうう……て、天より降りし……滅びの焔よ、対象を……あ、余すことなく焼き尽くせ『フレア・バースト』」
エクトルが苦痛に喘ぎながらも必死に魔法を詠唱するも――何も起きず。
「ぐ、なぜ……」
「もう何やっているのよ!! 今、私から半径1.5m以内の場所は消費魔力が1000万倍になっているのだから、もっと魔力を練りなさい!!」
「1000……万……?」
『私の魔力は精霊と同等以上』とか言ってたんだし、そんな絶望的な目をしていないで根性を見せて欲しいわ。
「あ、それともやる気が足りないのかしら? ……しょうがないわね。私が応援してあげるわ。ほら、がんばれー、がんばれー、エ・ク・ト・ル!! ファイト!!」
「ぐ、ぐううううう……!!」
おお、エクトルの目に力が宿ったわ!! 応援の力って凄いのね。魔法も能力も使わずに人を元気にするんですもの。
でもそれも当然よね。何せ応援しているのが私だし。まったく、こんな優しくて美人な私に応援してもらえたエクトルは幸せ者ね。
「お前さえ……お前さえいなければ私は1番でいられたのに!!」
「あら、急に何?」
「せっかく長年努力して築き上げてきた地位をお前の所為で……!! 私が周りから何と言われているか知っているか!? 『強い。強いがフロルよりは弱い』だ!!」
「悪口でもない、ただの事実じゃない。」
「お前みたいな……人かそうでないのかも分からないような存在に負ける私の気持ちが分かるか!!」
「私に負けているのが許せない。それがこんなことをした本当の動機? そのためには人を殺しても何をしても良いって?」
随分とまぁ、身勝手ですこと。
「彼らは私の糧となることが出来たのです。これから無駄に生きていくよりはよっぽど有意義だったでしょう」
「本気で言っているの? ……犠牲者もこんな奴の所為で亡くなってしまって可哀想だわ」
「しらじらしい演技は止めろ!! お前のような冷徹な存在が人を哀れんだりするものか!!」
ふむ……。
「ていっ」
「がっ……!?」
かるーく蹴って左足首を粉砕。
「可哀想と思っているのは本当よ。でもそれだけ。悲しいとまでは思わない。正直、いきなり1000人の方が死にましたと言われてもいまいち実感が湧かないのよ。貴方の言う通り、冷たいのかもしれない。だから普通なら犯人は騎士団に突き出すだけだったでしょうね」
次に右足首を蹴り砕く。
そして倒れそうになったエクトルの胸倉を掴んで支える。
「それじゃあ、そんな私が何故ここまでしているか分かるかしら?」
「ぐっ、くす、貴女の……趣味でしょう?」
「正解はティリカと“ジル”を傷つけたからよ。私は身内に手を出す者に容赦しないの。私が人を殺すのに十分すぎる理由だと思わない?」
亡くなった犠牲者の為に殺す、なんてのはせいぜい1%くらいよ。
「……私を殺せば事件の真相は闇の中ですよ?」
そういえば事件の詳しい手口を訊いていなかったわね。といっても、犯人は分かっているのだし後は【能力】の出処と、どうやって数時間で王都からメイユ市まで来たのか、くらいしか疑問はない。
「今度ローザにでも聞くから心配しなくてもいいわよ」
あの女王はおそらくこうなることは分かっていたはずだから、知りたければ彼女に聞けばいいでしょう。
まぁ、万が一教えてくれなかった時の為にエクトルの記憶のバックアップは取っておきましょうか。
「というわけで貴方に訊くべきことは何もなし。一応、顔なじみということでこれ以上は苦しめないであげる。楽に逝きなさい」
ティリカや他の知り合いに死人が出なかったからこの程度で済ませているけど、もし出ていたら……自分でもどうなっていたかは分からない。
「……は、ははははははははは!! 貴女は強い!! しかしそれはこの世界だけでの話!上には上がいることをいづれ身をもって知ることになるでしょう!!」
「さようならエクトル。私の初めての人になれたことを光栄に思いながら死になさい。『ワールド・エンド』」
柔らかな炎に包まれると、エクトルの体が下半身から消えていく。
「あの世で……貴女方が来るの、を……待っていますよ……」
それだけ言い残し、エクトルは完全に消滅した。
「……」
なんだか無性に疲れたわ。
カベルの記憶を弄って、早くティリカ達に癒されに行きましょう。




