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1.5mの世界  作者: 粗井 河川
1章
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第31話  緊急依頼

「緊急依頼?」


 犬耳さんから話があると言われたので聞いてみれば、なにやら聞きなれない言葉が飛び出してきた。


「はい。国の依頼かつ、ギルドが早期に解決する必要があると判断した場合にのみ出される特殊な依頼の事です。……申し訳ありませんが原則、フロルさんに拒否権はありません」


 ふーん、強制なんだ。

 断るって言ったら犬耳さんがどんな顔をするか興味あるけど、さすがに悪趣味よね。


「特に切羽詰まった用事もないし構わないわよ」


「ありがとうございます! ではさっそく説明させてもらいますね。依頼内容は『最近急増している行方不明者の捜索並びに、原因の究明及び解決』です」


 ふむ……何かこういかにも難しいです、って感じの依頼ね。


「続けて」


「……初めに言っておきますと、ギルドは基本的に行方不明者の捜索は受け付けていません。犯罪に利用されるかもしれない、騎士団の管轄である、探すのが難しい等々理由は様々ですが、一番の理由は行方不明者の数が多すぎるからです」


「そんなに多いの?」


「年間数百万人と言われています」


「……確かに多いわね」


 というか多すぎでしょ。


「実際は家出や旅行、引っ越し、勘違い、自殺など事件性がほどんどないものばかりなのであまり深刻に捉える必要はありませんよ。冒険者の方の様に一か所に留まらない人も多いですし」


 ああ、そういうこと。


「それに行方不明者の定義が曖昧というのもありますね。食い逃げしている人を探している、というだけで行方不明者1人とカウントしていますから。そうですね……殺人や誘拐などの事件性の高いものだけで数字を出そうとすれば、だいたい5万人くらいに落ち着くんじゃないですか?」


 うーん……5万なら少ない、のかしら?

 私にはよく分からないわね。だから考えるのは止め。

 依頼の方に集中しましょう。


「それで最近はどれくらい増えたの?」

 

「今回の依頼が関係していると思われる行方不明者は1000~1500人です」


「誤差、っていうわけじゃないのよね?」


「数値だけ見るとそう思ってしまうのも無理ありません。ですがその人達には誤差で片付けるわけにはいかない、ある共通点があるんです」


 共通点ねえ……。


「貴族とか商人の関係者とか?」


 緊急依頼ということを考えると、それくらいしか浮かばないわね。


「中にはそういう人もいますが違います。共通点は『上級以上の魔法が使える』というものです。ご存じの通り、上級以上の魔法を使える人なんてそうはいません。なのにそんな人達がある日、何の前触れもなく消息を絶つ。これがカルカイムでほぼ毎日起こっています。はっきり言って異常事態です」


「んー、でもそのわりには対策を取るのが遅いんじゃない?」


「他の行方不明者の件に埋もれて発見が遅れたのは事実ですが、それでも100人ほどいなくなった時点で原因究明に乗り出しています。すでに怪しいと思われていた組織も2つほど壊滅させているんですよ? ですが“事件”解決には結びつかず調査も手詰まりになってきたので、こうしてフロルさんにお願いしているわけです」


「なるほど、私に頼む前にすでにいろいろとやっていたのね」


 そりゃそうか。


「ここにこれまで騎士団の方々が調査してきたことが書かれた資料があります。私が口で説明するよりもこれを見た方が状況を理解しやすいと思います」


「どれどれ」


 手渡された資料を速読していく。

 ふむふむ……。


 まとめると、最初の失踪者と思われる人が出たのが1年半前。場所は王都。その後も半年ほど王都を中心にゆっくりと人がいなくなり、100人を超えたあたりから“事件”に気づく。さっそく調査に乗り出したものの解決には至らず、それどころか日に日に失踪者は増えていく一方。調査が始まった頃から、王都以外の都市でも失踪者が目立ち始めたのが難航している要因。

 失踪者に『上級魔法を使える』という以上の共通点はなく老若男女、職業問わずにいなくなっており、現在の推定行方不明者は1000人。最大でも1500人くらいではないかと予想されている。

 原因は諸説考えられ、最も有力なのが『クーデター説』。次点で『他国による誘拐』。しかし必ずしも人の悪意が介在しているとは限らず、天変地異、魔物の仕業、ただの偶然による可能性も視野にいれるべき、と。

 

 だいたいこんなとこかしらね。

 感想、というより気になることは――。


「メイユ市は行方不明者が極端に少ないのね」


 王都が最多の400人。それ以外の都市はほぼ横並びに対して、メイユ市だけは推定3人と明らかに少ない。


「ここはフロルさんが拠点にしている場所ですからね、この依頼に“犯人”と呼べる存在がいるのなら近寄りたくない場所なんじゃないですか?」


 あらあら、それが本当ならいつの間にか私も抑止力的存在になっていたのね。


「じゃあそういうことにするとして、もう一つ気になること。ブラトは上級魔法が使えたわよね? そして1年前から行方不明。これってそういうことなんじゃないの?」


 昨日は冒険者がいなくなるのはよくあることとか言っていたけど、その内の何人かは絶対に今回の件と関係ありそうよね。


「……実はブラトさんからは連絡がありまして。『しばらくメイユ市を留守にする。師匠には黙っていてほしい』と。ですから今回の件とは関係ないと思います」


 あー、それならブラトの事は考えなくてもいいのかも。


「OK。気になることも確認できたし、調査に取り掛かることにするわ」


「はい、お願いします!」


 さてと、それじゃあまずは……。


「ようやく話は終わりっすか。それで俺達は何を?」


「もちろん私達も手伝います!」


 待ちわびたように我が弟子が駆け寄ってきた。

 うん、可愛げがあっていいわね。前の弟子達とはえらい違いだわ。


「なら貴方達も一緒に行きましょうか」


 私は二人を連れて、目的地まで転移することにした。




「ここは……?」


 私達がやって来たのは、目に見える物がソファぐらいしかない簡素な部屋。


「ここは王都にある私の隠れ家よ」


「ほえーここが師匠のお家……」


 2年間いろんな依頼をこなしてきたおかげでお金は有り余っているから、各都市に一軒ずつ家を建てたのよね。別に住むわけじゃないから調度品の類は最低限。まあ、その最低限すらも利用しておらず、もはや私達が転移をするための目印になっているのが現状だけど。


「さてと……準備があるから貴方達はこの資料に目を通しておきなさい。すぐに戻るわ」


「あ、はい」


 エミリーにさっきの資料を手渡し、再び転移。

 目的の人物は王城にいるはず。



「というわけで連れてきたのがエクトルです」


「はぁ、どうもエクトルです」


「……」


「……」


 5分程でエクトルを連れて戻ってくると、2人は無言で私達を出迎えてくれた。

 エミリーは無表情、カベルは目を見開いたまま。


「まったく……来るなら予め連絡してくれと言ってあるのに貴女という人は……」


「しょうがないじゃない。今回は緊急の用件があったんだから」


「緊急? ……ああ、“あの件”のことですか。それならしょうがな……くないですね」


「し、ししょお、そ、そのエルフは……?」


 カベルが何やら震えながらエクトルを指差し質問してきた。その姿は震える小鹿みたいでちょっと可愛いかも。


「だからエクトルよ。宮廷魔術師の」


「エクトル……。聞いたことがあります。曰く、師匠を除けばカルカイム最強の魔法使いだと。……それで師匠とはどういったご関係で?」


 今度はエミリーの質問。気のせいか若干、ドスを利かせた尋ね方だったような……。


「フロルさんとは……そうですね……友人、の様な関係ですかね。少なくても私はそう思っています」


「友人、ですか……。なら大丈夫ですね!」


「友人ねぇ」


 エミリーは手を叩いて喜び、カベルは胡散臭そうにエクトルを見ている。

 ……話を進めましょうか。


「私がエクトルを呼んだのは、私が引き継ぐ前は彼が騎士団を率いてこの件を調査していたからよ」


「でも解決には結びつかなかったんすよね? 実力を疑う訳じゃないっすけど、調査に関しては不向きなんじゃないっすか? というわけで帰ってもらいましょう」


 すかさずカベルが反論してくる。


「あのね……ちゃんと資料を読んだ? 王都の行方不明者について最初に気づいたのはエクトルなのよ。事件と関係なかったとはいえ、怪しい組織を2つ壊滅させている手腕も侮れないわ」


「ほえ~、よく気づけましたね」


 あ、そこは私も気になった。


「最近はちょっとしたことに敏感になっていまして、その所為だと思いますよ。それでも我ながらよく見つけられたものだと思いますが」


 なるほど。エクトルが異変について敏感になっていたからこそ発見できたのかもしれないわね。


「――んじゃ、そろそろ一番怪しい王都の調査を始めましょうか。エミリーとカベルは騎士団への聞き込み。私とエクトルは周辺の調査」


「はいはい、師匠! 私はカベルよりも師匠と一緒に行動したいです!」


「俺もエミリーとは嫌です!」


 まったくこの子達は……。


「でしたらカベル君は私と一緒に行動しますか? 男同士、気軽に行きましょう。なんでしたら魔法についてレクチャーしてもいいですよ」


 お、エクトルがカベルを口説きにかかったわ。


「すいません、自分、男には興味ないんで。それに師匠以外の人から魔法を教わる気はありません。弟子入りしたんだから当然です。これは魔法使いにとっての常識では?」


「……くす、フロルさんはいい弟子をお持ちですね。今やそのような常識を守る人は多くないというのに」


「まあね。なんせ私が選んだ弟子だもの」


 カベルはチャラそうに見えて意外としっかりしているのよね。まあ、そういう人じゃなきゃ弟子入りなんて認めないんだけど。


「そういうことなら私はフロルさんと一緒に行くことにしましょう。弟子なら師匠の言うことは聞くものですし、文句はありませんよね?」


「いや、それとこれとは話が……」


「ち、エクトルさんと一緒に行けばいいものを……」


 結局ぶつくさ文句を言いつつも2人は騎士団へと向かって行った。なんだかんだで2人はいいコンビだと思う。




「それで私達はどこに向かっているのですか?」


「んー、特に目的地が決まっているわけじゃないわ。条件に合いそうな場所を探しているだけ」


「……よく分かりませんが、フロルさんにお任せしますよ」


 弟子達を見送った後、私達は王都をブラブラと探索中。

 やはり王都は人が多いから思うような場所が見つからないわね。


「ところでフロルさんはどうお考えで?」


「何がー?」


「今回の件は異変と関係あるのか、ということです」


 ふむ……。


「あると思うわ」


「そう思う根拠をお聞きしても?」


「メルが昨日、『そろそろ何か起こる』って言ったの。その翌日にこんな依頼を頼まれたのだから何か関係あると思ってもしょうがないと思わない?」


 尤も、今回の件は1年以上前から起きていたみたいだから関係ない可能性も十分に有り得る。でも全く関係ないなんてことはさすがにないでしょうね。


「そうですか……メルフィさんがそんなことを。なら私も覚悟を決めなくてはいけませんね」


 拳を握りしめて、何か決意を固めているみたいだけど……。


「変な考えは止めておきなさいよ? じゃないと死ぬかもしれないわよ」


「ええ、分かっています。軽率なことは絶対にしません」


「本当に気を付けなさいよ――っとここら辺でいいか」


 話している内に、いい感じで人が寄って来なさそうな路地裏を発見。


「ここが何か?」


「まあ、見ていなさい」


『変身しますか? YES or NO』


 ある少女の姿を思い浮かべつつ、YESにタッチ。

 すると体がどんどん変化していくのが分かる。


「その姿は……ククルちゃん?」


「ふむ、こんなもんか。お次は……」


 自分の魔力量をだいたい最上級魔法を一回使えるか使えないかくらいまでに調節。そして周囲に微弱ながらも魔力を放つ。


「そして最後に……」


「うわっ!?」


 エクトルの手を引いて能力範囲内に入れ、他者からは彼の姿や魔力が一切感知できないようにする。


「一体何を?」


「犯人をおびき寄せるのよ」


「!?」


「いい――」


 今回の依頼で私が最も重要だと思ったのが、行方不明者が『上級魔法を使える』という点。一体犯人はどうやって上級魔法を使えると分かったのか。

 もし全員が同じ都市でいなくなったのなら情報収集でもしたのかと考えられなくもないけど、ほぼ全ての都市で被害が起こっていることからこの可能性は低い。

 ではどうやってか? 私は魔力感知が使われたのではないかと踏んでいる。これなら情報なんて集めなくても相手の魔力量が分かるし、騎士団やエクトル達が近づいてもすぐに逃げられる。犯人はこうして行方不明者の数を増やしていったのではないか。


 この仮説が当たっているのならば、犯人を捕まえることは然程難しいことではない。人がいない所で適当な魔力を放ちつつ待っていれば、向こうからやってくるのだから。もし王都でダメなら他の都市で試していけば、いつかは罠に飛び込んでくれるはず。


「なるほど……試す価値は――っ!!」


「――ビンゴ!!」


 上から何か来る!!


「ォォォォォォォォオオオオ」


 ドスン、と着地するやいなや、“そいつ”は私達の後ろに壁を出現させて退路を塞いできた。


「わわ悪いがガガが、おおお俺と一緒ニ来てもらうぞ」


 そう誘拐宣言をしてきたのは――白目を向いて明らかに普通ではないブラトだった。

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