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1.5mの世界  作者: 粗井 河川
1章
33/144

第29話  選択

「こんにちはジル。結論は出ましたか?」


 約束通り二日ぶりにお城を訪ねると、あれよあれよという間にローザ女王が待つ謁見の場へと案内された。前回と同じく女王一人だ。


「はい。ただそれをお伝えする前に質問をいくつかよろしいですか? まだ少しだけ引っかかる部分があるので」


 結論は出ているが、念の為いくつか確認しておきたいことがある。


「答えられる範囲で構わないのなら」


 前世では一般人に過ぎなかった俺が、世界の未来を左右する存在になっている。そのことに並々ならぬプレッシャーを感じつつも、何から質問するかを考える。


「では――」


「では最初にエクトルにあなたの秘密を教えなかった未来――便宜上Aの未来と呼びましょうか――の疑問にお答えしましょう。Aの未来での魔法の水準を知りたいのですよね?」


「……そうです」


 質問する前に質問しようとしたことを当てられてしまった。【ゲームブック】による先読みか。

 女王の言う通り、俺が気になっているのは未来の魔法事情。最近ちょっと忘れそうになるが、俺が神様に頼まれたのは『この世界の魔法の水準を上げてくれ』であって、魔物の異変を解決することではない。そういう意味ではAの未来を選んだ方が主旨には合っているのだが――2000年後には人口が10分の1になっているということは俺は失敗するということ。一体どの程度変化を与えられたのかは気になる。


「魔法の水準はきちんと上がっていますよ。ただ、それ以上に魔物が強くなっていくだけの話です。人類が強くなれば魔物もまた強くと、まるでイタチごっこのように」


 おいおい、それって……。


「つまり、異変を解決しない限りこの世界に未来は無いと?」


「断言は出来ません。なぜなら2000年から先の未来は視えないからです。ですからその後、奇跡的に異変が止まり人類の繁栄が始まる可能性も否定出来ないでしょう」


 『尤も、それは限りなく低いでしょうが』と苦笑する女王。

 なんだよそれ。選択肢なんてほとんどねえじゃん。

 ……それでも細かいことをいくつか質問していく。


「――Aの方はこんなものですかね」


 聞きたいことは大体聞けたと思う。


「もういいのですね? では次はエクトルにあなたの秘密を話した未来――こちらはBの未来と呼びましょう――の話をしましょうか。といってもこちらの方は質問にはお答えできませんが」


 Bの未来。すなわち異変解決のチャンスがあるという未来。ただし何らかの犠牲と引き換えに――。


「それはあんまりじゃないですか? 少しは質問に答えてもらわないと困ります」


 Aの未来はOKだがBの方はダメなんて、明らかに何か不都合なことを隠しているとしか思えない。


「ふぅ……。ジル・クロフト。茶番は止めませんか?」


「茶番?」


「そうです茶番です。あなたは私にどんな質問をし、どんな答えを聞こうとも最初の結論を変えることはありません。貴方は気づいていないかもしれませんが、それだけ強い決意を持ってここに来ているのですよ。ですから問答が結果に影響を与えない以上、茶番以外の何物でもないと思いませんか?」


 確かに俺は生半可なことでは意見を変えるつもりはない。なら女王の言う通りこれ以上の質問に意味は無いのかも。つーか……。


「女王には私がどちらの選択をするか分かっているのでは?」


「ええ。あなたがこの部屋に入って来た時にはすでに分かっていましたよ」


「なるほど。茶番ですね」


 俺は結論を変えるつもりは無い。女王は結論を知っている。

 このまま黙って帰ってもいいくらいじゃん。


「私達にとってはそうなりますね。ですが茶番だとしてもやらなくてはいけないことがあります。……エクトル!! もう入ってもいいですよ!!」


 女王の呼び声でエクトルが部屋に入ってくる。

 何故このタイミングで……って、ああそっか。エクトルの意思も確認しなくちゃいけないのか。今回の件のカギを握る人物と言っても過言じゃないもんな。


「こんにちはフロル様。だいたいの事情はローザ様から伺っています。何でも私がフロル様の秘密を教えてもらえるかどうかで、異変解決の結果が変わるとか」


「らしいわね。で、エクトルはどう思っているの? 知りたい? それとも知りたくない?」


「私は――知りたいです。……いえ、違いますね。是非教えてもらいたいんです」


「例え命の危険があるとしても?」


 女王が言う“犠牲”の中にエクトルが入っている可能性はある。命の危険性が低いと挙げた中にエクトルは含まれていなかったからな。


「世界の危機を私の命で救えるかもしれないのなら本望です。むしろ命惜しさに逃げ出す方が後悔するでしょう」


「覚悟はバッチリというわけね」


「そして何よりも私はフロル様と同じ道を歩んでみたいんです」


 ……………………はあ?


「え、なにそれ? 突然の告白?」


 エクトルってフロルの事をそういう目で見てたわけ?


「ははっ、違いますよ。ただフロル様と同じ道を進めば自分がもっと強くなれると思っただけです」


 なんだそういうことか。


「……強くなりたいと思う理由を聞いても?」


 あまり『強くなりてぇ!!』とか言うキャラでもないと思っていたんだが。


「正直、私はこれ以上強くなる必要はないと思っていたのですが、とある少年を見ていたら気が変わりまして。もっと強くなりたいと思うようになったんです」」


 とある少年、か。

 たぶん俺の事だよな? ……あー、何だか背中がムズムズする。


「さ、もういいでしょう。エクトルの意思も確認できましたし、そろそろフロル(・・・)の結論を聞きましょうか」


 パンパン、と手を叩き注目を集める女王。


「すいません、最後に少しだけ。……例えフロル様が秘密を教えて下さらなくても文句や恨み言を口にするつもりはありません。また、教えて頂けた場合、その秘密を誰にも漏らさないこともお約束しておきます」


 それだけ言い一歩下がるエクトル。

 じゃあ次は俺の番だな。


「私が出した結論は――」


 いや、この姿で言うのは違うな。


『ジルの姿に戻りますか? YES or NO』


 YESだ。


「俺は――」


「なっ、ジルくん!?」


「ふふ、やっぱり」


「俺はBの未来――異変解決への道を目指す!!」


 元の姿に戻りつつ、俺は高らかに宣言した。





「えー、つまりジルくんにはその姿、フロルさんの格好をしたジルくん、フロルさんの3パターンがあるということですか?」


「まあ、そういうことになりますね」


 現在、エクトルに俺の秘密について説明中。どこまで話せばいいのか迷ったが、女王が「話せること全て」と言うので、神に会ったことや【自由自在】、これまでしてきたことなどを説明することにした。

 でもさすがにいきなり全部を理解しろというのは無理があったのか、エクトルはかなり混乱しており、さっきから質問攻めにあっている。


「……フロルさんはどういう存在なのですか? 失礼ながら、ジルくんがフロルさんの格好に変身出来るのならば存在の意味はあまりないように思えるのですが」


「残念ながらフロルがどういう存在なのか説明することは出来ません。なぜなら俺にもよく分かっていないからです」


 仮説はある。間違っていたら恥ずかしいから披露しないけどな。


「そんなあやふやな存在をよく放っておけますね。危なくないのですか?」


「その点は心配いりません。あいつが俺に危害を加えたり、体を乗っ取るようなことは出来ないようになっていますから」


 ……まあそもそも消そうと思っても消せないんだけどね。最初の頃にやろうとして失敗したし。


「だといいのですが……。裏切られないように注意してくださいね」


「心配してくれるのは嬉しいのですが、あまり本人を前に言わない方がいいですよ。ばっちり聞かれてますから」


 記憶を共有しているから筒抜けだ。


「……なかったことにしといて下さい」


「それはフロルの気分次第でしょうね」


 やや顔を青くしながらもエクトルの質問はまだまだ続いた。



「――エクトルさんの質問に全て答えたわけですが、これで異変解決への未来が確定したということでいいんでしょうか?」


 質問タイムも終わったので、女王に確認する。


「ええ、そうなります。正確には“異変解決の機会を得ることが出来る”ですが」


「この後、ジルくんや私はどうすればいいのでしょう?」


「何もする必要はありませんよ。待っていれば勝手に向こうからやって来ますから。それまでは貴方たちの好きな様に行動すればいいでしょう。ただ、これから異変は活発になってきますので少しでも魔法を鍛えた方がいいのかもしれませんね」


「分かりました。……では、今日はこれでお開きということで?」


「ええ。尤も、すぐにまた会うでしょうが」


 ……?


「よく分かりませんが、私達はこれで失礼します。ジルくん、行きましょう」


「はい。ローザ女王、失礼します」


 一礼をし、立ち去ろうとするが――。


「ああ、ジル・クロフト。一つ大事なことを伝え忘れていました」


「はい?」


「大きな流れは決まったとは言え、今後も未来は細かく枝分かれしていきます。そして貴方はその内のおよそ半分の未来で死にます。ですが、今さら怖気ついて止めるなんて言いませんよね? エクトルの記憶を消してやり直そうなんてこともしないと信じてますよ」


 ……こんのクソババア。


「今になってそれを言いますか」


「ごめんなさいね。私も200年以上生きているせいか忘れっぽいんです。ですから事前にちゃんと伝えようと思っていても、うっかり(・・・・)忘れてしまうことが稀にあるんですよ」


 何がうっかりだ、白々しい。


「心配せずとも、今さら止めるなんてことはしませんよ。しっかりと異変を解決して生き残ってやります」


「良かった……!! その言葉を聞けて安心しました」


「女王の気掛かりも解消出来たようですし、失礼しますね」


 ある決心をしつつ、部屋の外で待っているエクトルの元を向かった。





 ジル達が部屋を出て数分。

 そろそろね。


「はーい、こんにちは。私とは初めましてよね?」


 後ろから突然話しかけられる。

 来ましたね。


「ええ、初めましてフロル。会いたかったですよ」


「あらら、やっぱり驚かないのね」


「ふふ、予め分かっていましたからね。……さて、フロル。いきなりだけどジルは少し単純すぎますね」


 こちらがちょっと挑発的なことを言えばすぐそれに乗ってくる。

 例えば先の例。

 茶番だから質問しなくていい? そんなわけないでしょう。それとこれとは話が別です。世界の行く末がかかっているのですから、渋る私の口を無理やり開かせるぐらいの気概を見せてくれないと困ります。そんなだから自分が半分の確率で死ぬという情報を伏せられてしまうのです。

 ああ、それとその事実を明かされた時の対応も減点ですね。きっとジルは私に嫌がらせのつもりでフロルを送り込んできたのでしょう。ですがそれも私の掌の上。フロルと会話してみたくてわざとあんな挑発的なことを言ったというのに、気づかぬまま見事に罠にかかってくれました。おかげで私の願いは達成です。

 行動を操りやすくて助かりますが、世界の命運を預けるには少し頼りない人物と思ってしまいます。


「ま、いいじゃない。利用したければ好きにすればいいわ。ただし、それ相応の覚悟を持つことね。もし悪事に加担でもさせたのなら……後悔することになるでしょうね」


 部屋全体をフロルの魔力で満たしつつ、忠告してくる。

 分かっていたこととは言え、このプレッシャーは凄まじいものがありますね……。


「今度こそ本当に安心しました。それだけの力を持っているのなら大抵の事はなんとかなるでしょう」


 見聞きするだけでなく実際に体感してみたかったのですが、想像以上でした。これなら問題ないでしょう。私が裏から手を回さなくても望む分岐点までは進めるはずです。

 やはり私の心配は杞憂でしたね。


「ふーん、良かったわね。ま、そんなことは置いておいて私から質問があるわ。何故、私達をメルンのところに向かわせたのかしら?」


 あっさりと魔力を消し去り、何かを振り回しながら訊いてくる。


「そのことですか。そうですね……理由はいくつかありますが、今回は主要な理由についてお話しましょう。フロル。もし私が貴女達にエルミーニア草原に行くように言わなかったらどうなっていたと思います?」


「……私達は草原の存在を知ることもなく、メルンはあの黒い奴に乗っ取られていたままだったんじゃないの?」


「その通りです。そして風の精霊は乗っ取られたまま、翌日遊びに来た火の精霊によって始末されることになります」


「……!!」


「ですから、貴女達が草原に向かわなければ風の精霊は助かったかもしれないという考えは間違っています。むしろ、メルフィという存在を残すことができた分、彼女にとっては最良と言わないまでも、なかなかの結果だったのですよ」


 他にはフロルが異変について話さず、すぐに立ち去る。精霊のやろうとすることを察知し、説得するなどの分岐点も存在しましたが、どちらの結果も最良とは言い難いもの。誰にとっても不幸にしかならない結果が待ち受けているだけ。

 それを思えば今回の結果は十分マシ(・・)な部類に入るでしょう。

 私は賭けに勝ったことになります。


「そう……。じゃあローザはメルン、いえメルフィの為に私達を?」


「フロル、また質問です。もしメルフィがいなかったらどうなっていたと思います?」


「……さあ?」


「正解はジルがアリサと二人で買い物に行く、です」


「……はあ? どういうこと?」


「まだ分かりませんか?」


 もしメルフィが存在しなければスイレン様はメルフィを連れて出かける必要はなく、宿に留まることになる。結果、ティリカはスイレン様の為に宿に残り、アリサは晴れて誰にも邪魔されることなくジルと二人っきりで買い物を楽しむことが出来る。


「あー、なるほど。つまりローザはジルの動機を補強しようと思ったわけね」


「そういうことです」


 ジルは異変解決を目指すと言っただけで詳しい動機は話しませんでした。

ですが、私には分かっています。ジルはアリサやティリカ達が安心して暮らせる世界を実現させるためにこちらの道を選び、そのためなら自分の死すら惜しくないと。

 他にも理由はありますが、彼の中ではこれが最も強い動機になっています。そしてこの動機こそが後に重要になってくる。

 ……本当は私が何もしなくてもアリサとの買い物だけでこの結論に至る可能性が高いのですが、ティリカがいた方がより確実な為、ジル達を風の精霊の元へと送りこんだというわけです。


「呆れた。ジルに異変解決の道を選ばせる為にそんな回りくどいことしたわけ? そんなことしなくても私達は異変解決の道があるのなら最終的にそっちに喰いつくのに」


「少しでも解決の確率を上げるためです。それに先ほども言いましたが、これが主要な理由なだけで他にも理由はあります」


「そう……。時間があればまた聞かせてもらうわ。エクトルも待たせているし、今日はもう帰ることにする」


「分かりました。気を付けてお帰り下さい」


 ふう、無事に乗り切りましたね。


「あ、そうそう。これは返すわね」


 ほいっと投げ出された物を掴む。

 何かしらと思い、見てみると――。


「私のパンツじゃないですか!?」


 何時の間に!?


「へぇ。驚くってことはローザにはこの未来が視えていなかったのね。案外、穴のある能力なのかも。……まあいいわ。私から言えることは、もうちょっと大人っぽい物を穿いた方がいいということだけ。それじゃあねー」


「あ、待ちなさ――」


 妙な捨て台詞を残し、フロルは転移で消えてしまった。


「……今日は油断しただけで、普段はもうちょっと大人っぽいのを穿いています」


 誰もいない空間でそう呟きつつ、取り敢えず私はパンツを穿くことにした。




「で、エクトルはこれからどうするの?」


 転移でメイユ市まで戻ってきた私は、女装したエクトルに尋ねる。


「王都へ徒歩で戻りつつ、気持ちに整理をつけようと思います」


「あら王都に戻るの? 私達の傍にいなくていいの?」


「いえ、私は王都からフロルさん達をサポートしようかと考えています。おそらくそれが私に与えられた役目なはずです」


「気を付けてね。何かあっても一人で解決しようとせず、私達に相談するのよ?」


「ええ。フロルさん達こそ、頼りないとはいえ私に何の連絡もなく異変を解決したりしないで下さいよ?」


「大丈夫よ。きっちり巻き込んであげるから」


「くす、よかった。……それではフロルさん。私はもう行きます。王都に着いたら詳しい予定について手紙を送りますね」


 最後に握手を交わし、エクトルを見送る。

 ……行ったわね。


「はてさて、これからどうなることやら」


 ま、やることに変わりはないか。

 私達は私達に出来ることをやるだけ。それだけよ。


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