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1.5mの世界  作者: 粗井 河川
1章
31/144

第28話  製作者と制限

 夢を見た。


「もっと自由に力を使いたくないか?」


 場所は見覚えがある空き地。


「お前はいつも感じているはずだ。それだけの力を持ちながら、存分に使う機会がないという不満を」


 内容は自身の影に話しかけられるというもの。


「俺にはちゃんと分かっているぞぉ。お前が周囲の連中の弱さにイライラしていることもな」


 影はさっきから見当違いなことを話している。


「おっと、そうだったな。イライラなんかしていないよな。見下しているんだよな。いや、むしろ憐れんですらいるのかな? 彼らの弱さを」


 ……なかなかにうざい野郎だ。


「おいおい、自分に言うセリフかぁ? 俺はお前の気持ちを代弁してやってるんだぞ?」


 頼んだつもりもないのに感謝を要求してきた。もういいや。早く覚めないかなー。


「くく、そう意地を張るな。いいじゃないか、夢の中くらい。好きに喋れ。誰も聞いていないし、誰も文句言わない」


 そりゃあ夢だもの、当たり前だろう。


「ああ、だから何も心配する必要はない。お前だって目覚めた頃には忘れている。だからお前の本音をさらけ出しちまえ。存分に力を使いたい、あの憐れな連中に見せつけてやりたい、ってな。すっきりするぞ?」


 すっきりか……。なぜだろう。その言葉がひどく魅力的に感じる。

 俺は影の誘いに――。


「はいはい、そろそろ朝よー。今日も濃ーい一日が待っているんだから早く起きなさい」


 返事をしようとしたところ、何処からともなく現れたやたら露出が激しい女が会話を遮ってきた。


「何だお前は!?」


 影にとって想定外なのか、ひどく驚いている。


「彼は起床の時間なの。だから話はここでお開き。でも安心して。続きは私が聞いてあげるから。さ、行きましょ」


「がぁ!? おい、やめろ!! 離せ!!」


 女は影の頭を掴み、引きずりながら俺から遠ざかっていく。


「まったく。性懲りもなくまた出て来るなんて……。精神が不安定なのかしら? ……まあいいわ。今度こそ絶対に出てこないよう、一切の容赦なく徹底的にかけらも残さず消し去ってやるんだから」


 かすかに女の愚痴の様なものが聞こえた。

 なんだか物騒なことを言っているなーと思ったら、いつの間にか二人の姿は見えなくなっていた。

 ……。

 ……。

 ……。




「……ん」


 意識がゆっくり覚醒していく。

 離れたくないと駄々をこねる瞼たちを無理やり引き裂けば、窓から降り注ぐ光が「よくやった!」と褒めたたえてくれる。ふん、俺を差し置いてくっつこうなどとするからそうなるのだ。


「……」


 何やら下らないことを考えてしまった。寝ぼけているのか?

 ……きっと、しょーもない夢を見たせいだな。

 どんな夢だったかはもうあやふやだが、そう確信できる。


「起きるか」


 今日はアリサとの買い物に、女王への返答もしなくちゃいけない。

 夢の事なんか記憶の彼方に追いやり、とっとと準備を始めよう。


「お?」


 ベッドから起き上がろうとしたら腕に違和感を覚えた。

 なんだろうと目を向ければ、俺の右腕に体操着姿の少女が抱きつき眠っている。


「……!!」


 いや待て!! メルフィだ。ふう……。一瞬誰だか分からず、脳裏に『変態』『ロリコン』『犯罪者』がよぎったが安心、安心。

 おとといから一緒に生活するようになったんだよな。

 ……いやー、本当に大変だった。なんせ俺とフロルの関係を説明するのに昨日一日要したもんな。最初、フロルから俺に変わったらめっちゃ警戒され、危うく攻撃されそうになったし。それを必死に宥め説得したら何とか理解してくれ、今みたいに寝顔を見せてくれる距離まで近づくことが出来た。

 ただ、どうもメルフィの中で俺はフロルの下だと思われているらしく、「一緒にフロルのために頑張る」と言われたのが少し気になっている。もしかしなくても勘違いしているんだと思う。立場的には俺の方が上のはず……なんだけどなー。


「ほら、メル。朝だぞー。寝るのは構わないけど、ブレスレット姿には戻ろうなー」


 スイレンと話し合った結果、まだ誕生したばかりで未熟なメルフィの存在は秘密にしておくことに決まった。そのためスイレンが面倒を見た方が何かと融通が利くのだが、これにメルフィとフロルが猛反発。メルは「ばばぁと一緒にいたくない」、フロルは「私が責任をもって育てる!!」と反対した結果――、俺が面倒を見ることになった。

 しかし少女の姿のまま家に連れて行くわけには行かなかったので、普段はブレスレットに変身してもらい俺の腕に装着。幸いというべきか、精霊は食事を必要としないので滅多に人型の状態を見られる心配もないから、そこまで大変でもない。


「んー」


 目をこすりながらも、俺の手首を掴むとブレスレットに変身するメル。

 どうやらまだおねむのようで、変身するとすぐに眠ってしまった。

 ちなみにメルの変身は【自由自在】によるものではなく彼女自身の力で行っている。スイレンは容姿を変えることは出来ても、腕輪のような物質に変身することは出来ないらしいので、メルのそれはフロルの魔力が混じっているおかげなのではないかとのこと。


「兄様!!」


「うわぁ!? 」


 ドアが急に開き、慌てた様子で部屋にククルが突入してきた。


「どうしたんだいククル?」


 我が妹にしては珍しく感情を乱している。……まさか親父がまた何かやらかしたのか!?


「今、兄様の部屋に女がいませんでしたか!? 家族以外で」


 ……。


「はは、何を言っているのやら。見ての通り、この部屋にはククル以外の異性はいないよ」


「……そう、ですね。なんだか胸騒ぎがしたのですが、杞憂だったみたいです。こんなことで寝起きを邪魔してしまい、すいませんでした。それと、おはようございます兄様」


 軽く頭を下げると、ククルは部屋から出ていった。

 ……ククルよ、君はどこに向かっているんだい? お兄ちゃんは君の将来がとても心配になってきましたよ?




 朝9時。ククルの誘いと親父の助けを求める声をなんとかやり過ごし、アリサとの待ち合わせ場所までやって来た。少し意外なことにアリサはまだ来ていない。ティリカと喧嘩でもしているのかもしれないな。


「ふむ、ちょうどいいか」


 試してみたいことがあったから今やってみよう。


『ローザ・ラングット・アーデルワイゼンと同じ能力を使えるようにしますか? YES or NO』


 女王の未来予知。

 やはり自分やこの世界にどんな未来が待ち受けているのか知ることが出来るのなら知っておきたい。女王は俺にあまり未来のことを知って欲しくないようだったが、何か問題があるなら自身の記憶を消去すればいいだけ。それで問題はないはずだ。


「というわけでYESっと」


 選択肢を軽くタッチ。

 これで女王と同じ能力を使えるようになった。あとは……。


「どうやって使うかだな」


 自分で考えるのも楽しいけど、時間もないしさくっと【自由自在】で調べるか。


「その必要はないパカ」


「ん?」


 なんか舐めた口調で話しかけられたような気がしたので振り向いてみると――。


「アル、パカ……?」


 そうとしか言いようがない生物が俺の事を見下ろしていた。


「初めまして、ジル・クロフトくん。僕は君が持っているような【能力】を作っている者だパカ」


 能力の製作者!?


「そんな人がなぜ俺の所に!? いや、そもそもなんでアルパカ!? あとその口調は!?」


 いきなりの事態に混乱する。

 もし現れたのが普通の容姿だったらそこまで取り乱さなかっただろうが、見た目がアルパカの上にムカつくくらい可愛らしい声、ツッコミを入れざるを得ない語尾が俺の混乱に拍車をかける。


「ちゃんと説明するから、そんなに取り乱しちゃダメパカ。まず、この容姿について。ジルくんは知らいないと思うパカが、今、神様たちの間でアルパカが大ブームなんだパカ。あの神をも恐れぬ傍若無人な態度。あれが大うけ!! 商品にアルパカのイラストを印刷するだけで売上が50%もアップするという一大旋風を巻き起こしているパカ。だからアルパカに感謝の意味を込めて変装しているパカ」


 何がだからなのか分からんが、その容姿に特に意味がないことは分かった。


「それでジルくんの所に来たのは――【自由自在】の仕様を少し変更することになったからそのお知らせパカ」


 ……。


「具体的には?」


「そう結論を焦らないパカ。……さて【自由自在】。これは育成シリーズの最後を締めくくるために僕達製作者が技術の粋を集めて作成した最高傑作。多少の制約はあるものの、所有者の望むことを実現させるという万能な能力。ジルくんも気づいていると思うけど、この能力は他のに比べると性能が段違いの代物なんだよ」


「ええ、俺もそれは自覚しています」


 頷きつつ、こんな所にアルパカがいても周囲が妙に静かだなーと思いチラッと周囲を見ると、動いている者は誰一人いなかった。……どうやら周囲の時間は止められているようだな。


「僕達は歓喜したよ。一般人に神にも等しい力を与えることが出来るってね。――だけど実際に商品として発売してから重大なミスに気づいてしまったんだよ」


「ミス?」


「【自由自在】はあくまで育成シリーズの一つであるということだよ……パカ。これがどういうことか分かるかなパカ?」


 ふむ……。


「【自由自在】一つで全ての能力の互換性がある、ということですか?」


「正解パカ。思っていたよりも頭がいいパカね。ジルくんのいう通り【自由自在】さえあれば【直感】も【奇跡の種馬】も【真偽】も他の全ての能力も再現することが出来るパカ。これはシリーズものとしては最悪の欠陥パカ。アニメのBDを二話収録ずつで販売しておきながら、最後の最後で全話収録特典映像つき、お値段そのままで売りにだすようなものパカ」


 いや、その例えはどうだろうか。


「新規の人はありがたいと思うかもしれないパカが、最初から買ってくれた人にとっては憤慨もの。購入者をバカにする舐め腐ったやり方だパカ。おかげで一部の神から凄まじい批判を受けてしまったパカ。……ここまで言えば仕様変更の内容も分かると思うパカ」


「……つまり、【自由自在】で他の能力を使えなくするということですか」


「またしても正解パカ。すでに販売した【自由自在】は全て変更済みだと思っていたパカが、どうやらまだ残っていたみたいでジルくんのが最後パカ。もしジルくんがこの仕様に気づかなかったら放って置くつもりだったパカが、気づいてしまったからには見過ごすわけにはいかないパカ」


「……もし俺が拒否したら?」


「抵抗は無意味パカ。製作者権限で能力を取り上げることだって出来るパカ。それに本当は黙って変更することも出来たパカが、それではジルくんに申し訳ないと思ってこうして姿を現した僕の誠意も少しは汲んでくれると嬉しいパカ」


 はあ……、しょうがないか。


「わかりました、あなたの要求を受け入れますよ」


「おお、助かるパカ!!」


 あーあ。いったいどれくらいの【能力】が存在するのか知らないが、それら全てが使えなくなるならかなりの制限を食らいそうだな。もしかしたら今まで普通にやっていたことすら出来なくなるかもしれない。


「ふふ、そこは安心するパカ。使えなくなるのはジルくんが出会った能力者の能力だけパカ。すなわち【直感】【奇跡の種馬】【真偽】【鉄壁】【ゲームブック】の5つパカ。だから、もしこれからの人生で他の能力者と出会わなければこれ以上の制限を受けることは無いパカ。本当は全ての【能力】を使えなくするところなんだパカが、こちらの不手際ということでこういった形にさせてもらうパカ」


 それは助かる!! なら今のところ大して制約を受けずに済みそうだ。

 あとは今後、能力者と出会わないようにお祈りしておくだけだな。……あー、でもまだ行っていない二国のトップが能力者っぽいんだよな。こりゃあどんな能力を持っているのか調査してから会うことになりそうだ。場合によっては無視することも有り得る。

 

 ちなみにアルパカの言う【鉄壁】と【ゲームブック】は初めて聞くが、前者はヒルト王。後者はローザ女王の能力なんだろう。


「ふふ、なんとさらにお詫びの品まで用意してアルパカ!! まさに至れり尽くせりだパカ!!」


「おお、素敵やん!!」


「まずは――」


 と、ここで腕輪から突風が吹きだした。

 なんだ!? と思った瞬間、俺の意識は反転し――。




「も、もとに戻ったパカか?」


 気づくと目の前にはボロボロのアルパカがいた。


「……は? 何が起こった?」


 思い出そうとするが……ダメだ。記憶に穴がある。


「こ、こわかった~!! ……何あの女!? 悪魔か何か!? 殺されるかと思ったよ!! 事前に存在を知っていたとはいえ、まさかあそこまで酷いなんて……」


 なにやら怖がっているようだが、アルパカの顔はほとんど無表情(?)のまま変わっていないので、いまいち感情が伝わってこない。

 つーかやっぱりフロルの仕業かよ。記憶の共有を遮断してまで何をしていたんだアイツ。


「それはねー、彼女の巧みな話術によって何故か手合せする流れになったんだよ。結果ボコボコにされた挙句にある要――っといけない、ジルくんには内緒だった」


「いや、そこが一番知りたいんですが……」


「ああ……思い出しただけで身震いがしてきたよ……。まったく、ジルくんはよくもまぁ、あんな魔王を生み出してくれたね!! いや、魔王なんてもんじゃないよアレは。邪神だよじゃ・し・ん!! まるで理不尽という言葉がそのまま具現化したような存在だったよ」


 ふーん。フロルって邪神クラスの強さなんだな。邪神なんて会ったことないし会いたくもないけど、どんな存在かちょっと興味ある。……でも頼むから異変を起こしているのは邪神とかいうオチだけは止めてくれよ、マジで。俺はそんな奴とは絶対に戦いたくないぞ。


「……おや、時間停止の効果がそろそろ切れるパカね。じゃあ僕は帰るパカ」


「ちょっと待って下さい! お詫びの品がどうこう言ってませんでした!?」


 お詫びの品をねだるなんて意地汚いことが、貰えるものは貰っておかないと。


「……!? なにあの白い奴は!?」「きゃーかわいいー!!」「美しい……」「ぶっさ!?」「魔物だー!!」「イケメンじゃね?」


 周囲の時間が動き出し、人々がアルパカの存在に気付き始めたが引くわけにはいかない。


「大丈夫パカ。すでに品は彼女に渡してアルパカ。だから例え今は記憶になくてもすぐに何を貰ったか認識できるようになるパカ」


「うわ喋った!?」「何語だアレ?」「きゃーかわいいー!!」「……食えるかな?」


 俺への配慮なのか、俺から視線を外したまま久しぶりの日本語で話しかけてきた。


「ふふ、ジルくんが僕たちの最高傑作を使って活躍するのを祈っているよ。じゃ、バイバイ……パカ」


 最後にそういうと、アルパカの体はゆっくり宙に浮き始め、徐々に加速しながら上空へと消えていった。

 ……いや、もっとマシな退場の仕方はなかったのか? 周囲が呆然としているぞ?

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