表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1.5mの世界  作者: 粗井 河川
1章
3/144

第1話   試行錯誤

 三歳の誕生日、この日俺は前世の記憶と神様からのお願いの事を思い出した。

 その時に、『三歳の俺』の記憶と『前世の俺』の記憶が混ざった衝撃のせいか、気を失ってしまったようだが、もう大丈夫。無事に記憶の融合は完了し、一つの記憶として統合された。

 さて、それじゃあいろいろと整理するかな。

 まずはこの状況からだ。


「良かった……目を覚ましたのね……!! もう、心配したんだからね……!!」


 今俺はベッドで半身を起こした状態で、とある女性に抱きしめられている。

 かなり強く抱きしめられていてやや苦しいのだが、本当に心配してくれている気持ちが伝わってくるため、そこまで嫌な気持ちじゃない。というか、胸が当たっていて幸せです。

 しかし……。


「心配かけてごめんなさい、かーさま。でももう大丈夫です!!」


 この人は俺の母親だからな、変な気持ちで接するのはいろいろ不味い。


「本当……? うん、確かに顔色も良いし大丈夫そうね。でも、念のため今日は大人しくしていてね。突然倒れたんだから、まだ何が起きるか分からないし」


「はーい、今日は大人しくしています」


「ふふ、良い子ね」


 そう言いながら笑顔で頭を撫でてくれる。我が母親ながら、笑顔が可愛らしい人だ。

 

俺の母親の名前はマーシャ・クロフトといい、赤髪碧眼で美人、というよりかはかわいいタイプの人だ。彼女は髪や眼を除けば地球人と見た目はほとんど変わらないため、俺としては親しみやすくて助かる。……助かるのだが、この状況はかなり恥ずかしい。というのも、彼女は一九歳とまだまだ若く『三歳の俺』+『前世の俺』が二十歳を超えている身としては、こうして撫でてもらうのは軽い羞恥プレイを受けている気分だ。

まぁ、そのうちに慣れる……かな? 慣れちゃいけない気もするが……。


ちなみに彼女のような人たちのことをこの世界では人族と呼んでいる。人族はこの世界で五割を占めており、一番数が多い種族だ。二番目は獣人で全体の四割を占めており、残りの一割はその他の種族で、エルフやドワーフ、竜族、天使族といった者たちが存在している。


 コンコン。

 

――と、ここでノックの音が。


「おーい、入るぞ。……お、目を覚ましたのか。もう大丈夫なのか?」


 今部屋に入ってきた男性はアルフ・クロフトと言い、俺の親父だ。一八〇cmくらいの長身で、銀髪碧眼の人族。男にしては長い髪を後ろに縛ったなかなかのイケメンさんだ。俺としては将来、彼のような容姿に成長するというのなら何の文句もない。


「はい、もう大丈夫です!!」


「ははは、そうか良かった! お前が倒れたと聞いて、今日は仕事を早く切り上げてきたんだが安心したよ!」


 そう言って、ややごつい手で俺の頭を撫でまわしてきた。

 うおっ、マーシャさ……母さんと違って力強いから、頭がぐるんぐるんする。


「心配かけてごめんなさい、とーさま……」


「なーに、そんなこと気にするな!! お前くらいの年なら偶にはそんなこともあるさ!」


 そして今度は背中を叩いてくる。

 くっ、い、痛い……。


「そうよ、まだジルは三歳なんだから、そんなこと気にする必要はないのよ」


 頭をナデナデしながらそう言ってくれる母さん。愛されているな俺……。二人のような両親で本当に良かった。


 ところで、母さんが言った通り今の俺の名前はジル・クロフトだ。言うまでもないが、ジルが名でクロフトが姓にあたる。

 俺はどうやら親父に似たらしく、髪は銀色を引き継いだ。眼は両親ともに碧眼なので俺も碧眼なのだが、この世界では魔力がある関係なのか両親の特徴が必ずしも引き継がれるとは限らないらしい。まぁ、これは全く関係ない話なので覚える必要はないらしいが。

 あ、それと俺が三歳児にしてはしっかり喋っているのは、地球に比べてこちらの方が子供の成長が早いからだ。こちらの三歳児は地球で言えば五~六歳くらいに該当する。約二倍ほどの速さでの成長だが、それはあくまで三歳までである。そこから先は成長は緩やかになり地球の五~六歳くらいの子供と成長はそう変わらない。それでも、ややこちらの方が成長は早いかもしれない、というのは神様の言である。やはり環境が違えば成長の仕方も異なるということなのだろうか。


「それじゃあ、俺はせっかく早く帰ってきたんだしマーシャ達と買い物に行ってくるが、お前は無理せずに休んでおけよ」


「夕飯までには帰ってくるから、そんなに長くはならないと思うわ。それまでは安静にね」


 そして交互に頭を撫でてから、二人は部屋から出て行った。

 


……よし、行ったよな。


「さーてと、これからいろいろと試してみますか!!」


 三歳になったから、もう神様から貰った【能力】も使えるようになっているはずだ。


「確か【自由自在】だったよな」


 神様から受けた説明によるとこの【自由自在】は、俺を中心とした一定範囲内を俺の好きなように操ることができるという強力な能力で、できることは能力者――この場合は俺――の想像力によって決まるらしい。

 説明を受けた時から早く使ってみたくてうずうずしていたのだ。

 さっそく試してみよう。


「まずは何か出してみるか」


 そうだな、少しお腹が空いたし食べ物を出してみるか。


「それで、どう出せばいいんだ……?」


 使えば自然と分かるよと言われ、具体的な使い方は教わらなかったのだが……。

本当に貰えたんだよな……?


「まぁ……とりあえずいろいろ試してみるか」


 神様は想像力が大事だと言っていたし、具体的に食べたいものを想像してみよう。

 俺はうま○棒をイメージしながら、出現しろと念じてみた。

 すると……。


「あ、出た」


 何もない所からうま○棒が出てきた。俺が知っているのよりもやや大きいような気もするが、見た目は間違いなくうま○棒だ。

早速、口にしてみる。


「味がしない……食感もなんか違うし」


 もう二本出して食べてみたが、二本とも最初に食べたのと変わらず味がしなかった。

 うーむ、味はともかく、見た目はうま○棒なのだから完全な失敗ではないのだが……こうも惜しいと完全なうま○棒が食べたくなってくるな。

 というわけで、さらにもう一本出してみたのだが、やっぱり味がなかった。

 ふむ……。


「もしかして味もイメージしなくちゃダメなのか?」


 さっきまでのは形だけしか強くイメージしておらず、味は何でもいいやと思っていた。だから味が反映されなかったのかもしれない。


「よし、今度は味や食感、匂いをイメージしてみよう」


 そして出てきたうま○棒チーズ味は……。


「うん、ちょっと味が違うけどうま○棒だ!!」


 やはり味もイメージしなくちゃいけなかったんだな。

味がちょっと違ったが、それはおそらく俺のイメージが悪かったせいだろう。だが、後何本か作れば完璧なうま○棒ができるはずだ。

あ、でももうお腹いっぱいだから今日はいいか。


 その後もいろいろと俺の能力について試してみた結果、だいたいの仕様が分かった。

 まず【自由自在】の有効範囲は俺を中心とした半径1.5mくらいで、狭いのか広いのかはよく分からない。そこのところは使っていくうちに分かると思う。ちなみに1.5m以上は現段階ではどうやっても伸ばすことは無理だった。まだ絶対とは言えないけど、なんとなくこの1.5mというのは不変のような気がする。

 そんで、この能力では飲食物や武器、衣類や寝具などが出せ、他にも範囲内の気温や湿度も自由に変えることもできた。範囲内にはもちろん俺も含まれているから、自身の強化だって可能だ。

 

ここまで聞くとかなり便利な能力の様に思えるが欠点、というよりかは制約? のようなものもあるようだ。

 まず、きちんとイメージしないと中途半端な結果になるというのが挙げられる。これは先ほどのうま○棒の件からも分かることだが、とにかくしっかりとイメージしないと望んだ通りの結果にならない。

さっき剣を出そうとした時も、切れ味や形、大きさはイメージしたが、重さや耐久性をイメージするのを忘れてしまい、やたらと軽く、一振りで自壊するという実用性が全くない剣が出来上がってしまった。

 気温・湿度の変更や水を出すといったものは比較的単純でイメージしやすいのだが、それ以外はまだまだイメージが不安定の上、顕現するのに時間がかかる。これに慣れるのには今のところ相当な時間がかかることが予想される。

 

 他にも、俺が創ったものは範囲外に出すと消えてしまうという制約がある。

 試しに俺が適当に創ったボールを範囲外に出してみたのだが、だいたい十秒ほどで消えてしまった。他にもいろいろなものを創って範囲外に出してみたが、全て十秒以上もつことはなかった。これで俺が【自由自在】で創った装備を誰かにあげるという選択肢はなくなったわけだ。


 他にも俺がまだ気づいてないだけで、様々な使い方や制約があると思うが、今のところ俺のこの【自由自在】に対する印象としては『可能性を感じる』だろうか。

 なにしろ、想像力さえあればいろんなことができるんだもんな。そして俺は想像力に限界なんてないと思っている。つまり想像力に左右される【自由自在】には無限の可能性があると言えるわけだ。そう考えるとなんだかわくわくしてくる。

 さて、これから……。


「あっ……」


 これからどうやって能力を鍛えていこうかと考えているところで大事なことを思い出した。

 

「俺の目的は能力を鍛えることじゃなくて、魔法の水準を上げることじゃん……」


 まぁ、神様も能力を上手く使って魔法を覚えろ的なことを言っていたから【自由自在】について研究するのは悪いことではないよな、うん。


「でも……やっぱり魔法のことについて知る方が優先順位は高いよな?」


 まずは魔法がどういうものか知らないと。

この能力を使えば魔法も使えると思うが、出来ることなら能力と魔法は別々に習得しておきたい。せっかく異世界に来たのだから能力だけでなく純粋な魔法を使いたいという考えもあるが、魔法の水準を上げるということを考えたのなら、まず俺が使いこなせるようにならなければお話にならないからな。

それと大戦の頃の魔法の水準も調べなくちゃいけないな。どの程度水準を上げればいいのかの指標が必要だし、最低限俺もそれくらい使えるようになっておかないと最近強化&増加しているという魔物にやられてしまうかもしれない。

そんで、魔法の勉強の合間に【自由自在】の研究っと。

やることはたくさんあるけど頑張りますか!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ