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1.5mの世界  作者: 粗井 河川
1章
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第18話  影

「というのが騎士団で起こった出来事よ」


「あはははは!! 実の父親に求婚されるなんて相当レアな経験をしたわね!!」


 宿屋の食堂にて、“私”はさっきの出来事をスイレンに報告中。

 どうやら勝手に戦ったことについては怒っていないようね。


「それで、その後はどうしたの?」


「断っているのにしつこかったから、面倒くさくなって気ぜt――眠らせてたわ。その後は父様と騎士達の治療。目立った外傷はなかったけど念の為にね。ふふ、そうしたら面白いことが分かったわよ」


「面白いこと……? 何それ、気になるじゃない!! 早く教えて――いえ、その前に自分で考えてみるわ。そう、ね……ハーマが女だったとか?」


「残念ハズレ。正解は『能力者を発見した』でした」


 “ジル”は冗談半分で調べていたから見つかって驚いていたわね。


「へぇー!? 誰がどんな能力を持っていたの!?」


「能力者はアルフ・クロフト。つまり父様ね。能力名は【奇跡の種馬】。何でも生まれてくる子供が非常に優秀になるんですって。“ジル”はともかく、他の二人は同世代の子供に比べて優秀みたいだから、ある意味納得したわ」


 父様がたまたま能力者であった、なんて偶然があるわけないから神の仕業よね。

 『お願い』を叶えやすいように出来るだけスペックの高い体を用意したってことなんでしょう。

 私はあの神に対してどうも胡散臭いイメージがあるのだけどこの一件から、頼んできた『お願い』に関しては本気で解決して欲しいという気持ちは感じ取れる。


「酷いネーミングセンスね。……んー、でも何が優秀になるの? 魔法? 体力? 頭の出来? それとも全部? でもジルの記憶を視たからルーファスやククルのことも知っているけど、魔法適正も多くないしククルに至っては病弱だったんでしょ。あんま優秀じゃないじゃん」


 あれ? そう言われてみるとそうね……。

 でも二人が優秀であることは間違いないし……。

 ふむ。


「……頭が賢くなるんじゃない? 二人とも頭いいし」


 “ジル”だって図書館で勉強していた時、スラスラと内容が頭に入ってきたしね。


「そう? 違う様な気もするけど……そういうことにしておきましょうか」


 確かにこれ以上は考えても時間の無駄ね。仮に【自由自在】で詳しく調べようと思ってもどうせ『権限がありません』とかなりそうだし。

 父様の子供は【奇跡の種馬】によって皆、優秀。こう思っておけば十分でしょ。


「じゃあ、話を戻してと。騎士団と戦ってみての総評をお願い」


「そうね……七剣の存在以外は予想の範囲内だった、ってところかしら。騎士達一人ひとりの実力は冒険者ランク三級以下。父様は身体能力に限れば私が出会った人の中で一番強かったけど、魔法ありならたぶん“ジル”の母さんの方が強いでしょうね」


 だから、騎士団の実力にはちょっとガッカリ。

 出来れば七剣なんか使わずに、己の実力のみで私に傷を負わせて欲しかったわ。


「七剣か……。『クロフト』という剣があるのは間違いないけど、そんな能力じゃなかったわよ。正気じゃなくて魔力を糧に切れ味を増していく剣だったはず」


「ん、どういうこと? じゃあアレは偽物だったってこと?」


 偽物にしてはやけに性能が高かったような気がするけど。


「いえ、おそらく本物だと思うわ。ただ能力を捻じ曲げられていたんだと思う」


「……自分の事を『クロフト』と名乗ったアイツの所為?」


 剣をへし折ったら消えたみたいだけど、捨て台詞も吐いていたし完全に仕留めたわけじゃなさそうなのよね。


「たぶん。絶対とは言い切れないけど所有者の体を乗っ取る剣なんて存在しない筈よ。ましてや七剣の名を冠するならなおさらね。……というかまぁ、実は犯人に心当たりがあるのよ」


 あら、心当たりがあるの。

 てっきり謎の敵が現れたかと思ってわくわくしてたのに。

 ふむ……スイレンが心当たりがあるということは……。


「もしかして精霊の仕業?」


「ええ。これまた絶対とは言い切れないけど、闇の大精霊の娘がそういうことしそうね」


「殺されかけたんだけど、精霊ってそういうことをするのもいるの?」


 まっ、切れ味のいい短剣程度じゃ私達は殺せないけどね。


「あの娘が特別なのよ。彼女は人――いえ、生物が苦しむ姿を見るのが好きだからねぇ……。一応、盟約によって人は殺さないことになっているけど、彼女に守る気があるかは分からないわ。刺すだけで実は殺す気は無かったという可能性もあるし、本気で殺す気だったのかもしれないし」


「別にそいつに殺す気があったかどうかなんて関係ないわ。重要なのは私の体に穴をあけたという事実よ。……次会ったら同じ目に遭わせてやるわ」


「次会ったら、ねぇ。ちょっと意外。てっきり『殺すから居場所を教えろ』くらい言うのかと思っていたわ」


 何、スイレンの中で私はそういうキャラなの?

 別にいいけどさ……。


「優先順位の問題よ。私達の目的は魔法の水準を上げることだからね、あまり寄り道している暇はないの。だから自分から探す様なことはしないわ。また私の前に現れたら相手をすればいいのよ」


 それにああいうタイプは、放って置いても向こうから来るもの。


「ククク、相変ワラズ余裕ソウダナ」


 ほらね。


「こんにちは。さっきぶりね闇っ娘ちゃん。元気だった?」


 突然現れた女形の黒い影に親しげに挨拶。


「アァ。面白ソウナ獲物ヲ見ツケテ、ワクワクシテイル所ダヨ」


 最初にスイレンと会った時と同じで表情はいまいち分からないけど、楽しそうな雰囲気は伝わってくるわね。


「はぁ……。やっぱり貴女だったのね。ずいぶん好き勝手やっているみたいだけど人は殺していないでしょうね?」


「クク、コレハコレハ『ビチャビチャ様』ジャナイカ。久シブリダナ。アァ、モチロン『殺シ』ハシテナイサ」


 本当かしらね? 思いっ切り苦しんで死ねとか言ってなかったっけ?


「ちょっと!! その名前で呼ぶなと言ったでしょ!? スイレンって呼びなさい!!」


 でも今は『ビチャビチャ様』の方が気になるわね。


「……もしかしてスイレンの本当の名前って『ビチャビチャ』なの?」


「違う。そんな変な名前じゃないわ」


 即答したけど、目が明らかに泳いでいるわよ……。


「クク、間違イナク『ビチャビチャ』ダヨ。大昔ニ、七大精霊同士デ名前ヲ付ケ合ッテナ、ソノ時ニ火ノ精霊カラ、付ケラレタ名ダソウダ」


 ビチャビチャ……何というか、うん、残念な名前ね。

 スイレンがダサいと思う気持ちも分かるわ。


「はぁ……そうよ、私の名前はビチャビチャですよ!! 笑いたければ笑えばいいじゃない!!」


 開き直っているけど、笑えないわね。

 笑ったら攻撃されそうとかじゃなくて、ダサいだけで面白くないもの。


「大丈夫、私にとって貴女はスイレンよ。これからもそう呼んでいくわ」


 ビチャビチャなんてちょっと言いにくいし。


「フロル……!!」


 おお、感激したスイレンが目を潤わせながら手を握って来たわ!!

 本当にビチャビチャって名前が嫌みたい。

 でもそのおかげでスイレンの好感度を稼げたわね。


「フン、ババァガ何、外聞ナンテ気ニシテンダ」


 と、ここで空気を壊す発言が。


「あぁんですって!? 誰がババアだぁ!?」


 闇っ娘の毒舌に、スイレンが抗議しだした。

 あーあ、せっかくいい流れだったのに。

 ……それにしてもスイレンの怒ると周囲の気温を下げる癖、止めてくれないかしら。

 周りで食事を楽しんでいた人たちが震えているじゃない。


「クク、何ダヨソノ姿ハ。ババァガ必死ニ若作リカ? ソンナコトヲシテモ年ハ変ワライゾ?」


「――ふん!!」


「おお!?」


 突然スイレンが闇っ娘に無数の氷の矢を放ちだした。

 全て命中し闇っ娘の体に穴をあけていくけど、攻撃が止むとすぐ穴は塞がっていく。

 どうやらダメージはゼロみたいね。

 それよりも闇っ娘ちゃんの体を貫通していった矢が宿屋に与えたダメージの方が大きそう。壁にかなり穴があいてるわよ。弁償しろなんて言われても、知らないからね私は。


「ククク、モウ終ワリカ?」


「この引きこもりが調子に乗って……!! 待ってなさい、すぐにあの世へ送ってやるわ!!」


 そう言うと、早足で出口へと向かい出した。


「ちょっと、どこ行くの!?」


 出かけるのは構わないけど、壁にあいた穴はどうするつもりよ。


「本体の所よ!! 今、私達の前に姿を見せているソレは本体の影よ。いくら攻撃しても意味はないわ。だからダメージを与えようと思ったら直接本体に攻撃する必要があるの。というわけで、私は今から本体の所に行ってくる。フロルには悪いけど、こいつは私が始末するから」


 ……あーあ、食堂から出て行っちゃった。


「クク、怒リッポイ、ババァダナ」


「闇っ娘ちゃんも余裕そうね。スイレンをどうにか出来るのかしら?」


「問題ナイサ」


 ふーん。それはスイレンを倒せるということなのかしら?

 それとも逃げ切れる自信があるってこと?

 たぶん後者かな。


「そう。でも闇っ娘ちゃんが何かする前に貴女は死んでいるかもね」


 スイレンが闇っ娘を倒すのは構わないけど、私もやるべきことはやっておかないと。


「ククク、笑エル冗談ダ。オ前ガ強イノハ認メルガ、ソレデモ私ニダメージヲ与エルコトハ出来ナイサ」


「それはどうかしら?」


『一部を除き、能力の制限を解除しますか? YES or NO』


 能力を解放し、私お手製のナイフを影目掛けて投擲する。

 するとナイフを避ける素振りを全く見せない影のお腹部分に命中し、そのまま通り過ぎることなく突き刺さる(・・・・・)


「アー? 何デ――ガフッ!?」


 グッド!!

 本体にダメージがいったみたいね。


「さっきの話、聞いていなかった? 『次に会ったら同じ目に遭わせてやる』って話してたんだけど」


 現れたからにはやり返す。

 やられたままなんて性に合わないわ。


「……ク、ククク、アハハハハハ!! 痛イ、痛イゾ!! 何テ痛サダ!!」


 うわぁ……、痛いとか言っている割に嬉しそうだわ……。

 ドSかと思っていたんだけどドМだったのかしら。


「……アァ、与エルバカリデ久シクワスレテイタヨ、コノ痛ミ……。ククク、心地イイ痛ミ、アリガトウ。礼ニ、オ前ニモ痛ミヲ、プレゼントシテヤルヨ!!」


 言うが早いか、いきなり五本の黒い槍を放ってきた。

 しかし――。


「ぬるい」


 私に当たる前に槍は消滅していく。

 能力を解放している以上、私に攻撃を与えることは至難の業よ。


「お返しよ。『引き千切れなさい』」


「グッ……!!」


 私が命令すると、影の左腕が文字通り引き千切れる(・・・・・)

 影へのダメージは能力で全て本体にも等しく伝わるように設定したから、今頃、闇っ娘ちゃんの左腕も取れちゃったんでしょうね。


「ハァ、ハァ……、痛イナァ、快感ダヨ!! ……ククク、オ前……最高ダナ!! 完全二気ニイッタ!! 必ズ、ソノ顔ヲ苦痛デ歪メテヤルヨ!!」


 痛がりたいのか、痛みを与えたいのかよく分からない娘ね。

 あ、それと逃げようとしても無駄よ。


「動くな」


「グッ、マタカヨ……」


 これで逃げられないわね。

 さて、襲いかかって来なければ、最初のお腹へのダメージで見逃そうかとも思っていたけどどうしましょうか。発言からしてまた襲いかかってきそうだし、ここで始末してもいいんだけど……。

 ……よし。


「闇っ娘ちゃんの気概に免じて、今回は見逃してあげることにしましょう」


「ナニ……?」


 お、不審がってるわね。


「ふふ、貴女にチャンスを上げる。何年かかってもいいから、もう一度私にかかってきなさい。そして私を苦痛で歪ませて頂戴。でも、チャンスは一回だけよ。負けたら、想像を絶するペナルティを受けてもらうから」


「……」


「もちろん勝てる自信が無ければ、私に挑まなくてもいいわよ。まぁ、そうなると貴女には私を除く生物への正当防衛以外の危害は加えられないようにギアスをかけたから、暴力とは程遠い生活を送ることになるけどね」


「……ククク、面白イジャナイカ。イイダロウ、必ズソノ傲慢ナ顔ヲ苦痛ニ染メテヤルヨ」


「じゃ、頑張って強くなりなさい。今のままじゃお話にならないわ。……そうね、敵に塩を送ることになるけど、腕は治してあげる」


 お腹の傷はやり返しただけだから治さないけどね。

 私が念じると、影の腕が元通りになる。これで本体の方も治っているはず。


「……フン、腕クライ放ッテオケバ生エテクルンダガナ」


 それは凄いわね……。


「サテ、ソロソロ、ババァガ来ルヨウダシ、私ハ行クカラナ」


「あらそう。私と戦う前にスイレンに殺られない様にね」


 そうなったら、それはそれで面白そうだけど。


「……余計ナオ世話ダ。アバヨ」


 それだけ言うと、影は霧散するように消えて行った。

 あ、名前を聞いてなかったわね。


「オット、ソウ言エバ自己紹介ヲシテナカッタナ。私ハ『クロリア』ダ。ジャアナ、フロル」


 また現れたかと思うと、名前を告げてすぐ消えてしまった。

 ……今度こそ行った様ね。


「クロリアか……。ふふ、次会えるのを楽しみにしているわよ」


 私の強さを知ってなお、挑もうとするなんてなかなか可愛い娘よね。

 おっと、可愛い娘で思い出した。ティリカ達が風邪で寝込んでいるのよね。スイレンもいないし、早く様子を見に行かないと。


「ん」


 食堂を後にしようとすると、宿屋のおばちゃんに突然紙を渡された。


「何これ? えー……なになに、壁の修理費用及び……食堂での、迷惑行為……つきましては一万キリカの請求を……って、マジ?」


「ん」


 軽く頷くとおばちゃんは去って行った。

 あぁ、目の前が真っ暗になりそう……。

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