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1.5mの世界  作者: 粗井 河川
1章
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プロローグ 神様の相談

「ここは……」


 気づいたら神殿みたいなところにいた。

 そして目の前にはやたらと神々しそうなじいさんが。


「初めまして、藤沢拓馬君。儂は神じゃよ」


「はぁ、神……様ですか」


 何を言っているのだろうかこの人は。

 俺は「なるほど、貴方は神様なのですね!!」と信じられるほど素直ではないので、いきなりそんなことを言われても困る。

 しかし、こんな見覚えのないところで自称神様と一緒というのは異常な状況なので、なにかしら非常識なことに巻き込まれたということくらいは分かった。


「あ、その顔は信じておらんな。まぁ、信じなくても事実は変わらないからどっちでも構わんけどな」


 んー、でも考えてみればこの人が本当に神様だったら機嫌を損ねるのは不味いよな。不敬で地獄行きなんてことになったら笑えない。

 例え神様じゃなくともこんな状況で二人きりなんだから、相手の機嫌を取っていた方がいいだろう。

 というわけで、一応目の前の人は神様ということにしておこう。


「いえ、貴方が神様だということを信じます。それでここはどこで、神様のような方が私にどのようなご用件なのでしょうか? 」


「ここは儂の『領域』でな、地球上のどこにも存在しない場所じゃよ。分かりやすく言えば天国みたいなところじゃよ」


 ん?


「い、今天国って言いましたか!? もしかして俺は死んだのですか!?」


「なんじゃ、気づいておらんかったのか。お主は車に撥ねられて死んだのじゃよ」


 マジか……俺は死んだのか……なんて簡単に信じられるわけあるかっ!!


「なんじゃったら、お主の死体を見るかの? 今なら事故現場の状況を見れるぞい」


「是非お願いします!!」


 俺がお願いすると、突然目の前に映像が出てきた。そこには――。


「うわっ、グロ……」


 かろうじて俺と分かる死体と、事故を起こした車とそれを取り巻く見物人が映し出されていた。


「どうじゃ、現状を理解できたかの?」


「……ええ、かなり衝撃的ですけどなんとか」


 あまり信じたくはないが、これを見たからには信じるしかない。それと目の前の方が神様であることも。

 しかしあれだな、まさか俺が死んじゃっていたとは。あんまり実感がわかないな。

その所為か死んだと聞いてもパッとしない短い人生だったなぁくらいにか思えない。

 一人暮らしで両親とはすでに死別しているし、妹とは仲が悪い。友達も少ないし悲しむ人もほとんどいないだろう。気掛かりと言えばまだクリアしていないゲームくらいで、特に生き甲斐にするものもなかった。きっとそんなんだから自分が死んでもそんなに慌てないんだろう。


「さて、このままだと君は鳩に転生するわけなんじゃが、それは嫌じゃろ? そこで一つ提案があるんじゃ」


 鳩!? 鳩かぁ、パッとしない人生を送った俺には思いのほか似合っているのかも?

うん、そうだよ、鳩になって大空を飛び回るというのも悪くないじゃん。


「いえ、別に私は鳩でも構わないのですが」


「え!? ……いや、とりあえず私の提案を聞いてくれる……? それを聞いてからどうするか判断しても遅くはないじゃろ? 選択肢も多いにこしたことはないじゃろうし」


 そうだな、提案を聞いてからでも遅くはないよな。もしそっちがダメそうなら鳩に転生すればいいんだし。


「分かりました。では提案の方を教えてください」


「君には儂が管理している地球とは違う世界に転生して欲しいんじゃ。そしてそこで世界を刺激してもらいたいのじゃよ」


 おおぅ、想像以上にぶっ飛んだ話がきた。


「刺激……ですか。すいません、いまいち意味が分からないので、もう少し詳しい説明をお願いできますか?」


「うむ。君に行ってもらいたい世界はの、昔は争いが絶えなかったんじゃが、今は小さな争いはあるものの基本的には平和なんじゃよ。そうじゃの……もう1800年は大きな争いは起きておらんかの」


「1800年ですか……それはすごいですね。平和で羨ましい限りじゃないですか。それの何が問題なのですか?」


 戦争をするよりかはよっぽどマシだと思うが。


「そうじゃな、平和なのは良いことじゃ。儂はそのことについて文句を言うつもりは一切ないんじゃが、それにより少々困ったことになっての」


 平和で困ることなんてあるのか?


「力の衰退が始まってしまったのじゃよ」


 神様が説明してくれたのは以下の通りだ。

 俺に行ってもらいたい世界は地球と違い魔法や魔物といった、俺から見ればファンタジーなものが存在するらしい。そしてまだ種族間の争いがあった頃は多種多様な魔法が研究され発展していったそうだ。

 しかし大戦も終わり平和になると生活のためや魔物を倒せるぐらいの簡単な魔法しか使われず、それ以外の魔法は廃れていった。時が経つにつれその傾向は顕著になっていき、ついには大戦時に使われていたような強力で複雑な魔法を使える人はいなくなってしまった。そして人々の記憶からもそうした知識は薄れていってしまったらしい。

 これが神様の言う力の衰退なのだが、そのことに関して最初は神様もあまり問題視していなかったという。必要ないのなら強大な力はそのまま忘れ去られてしまっても構わないと思ったからだ。

 だが、最近になってそうも言っていられなくなってきたらしい。

 ここにきて魔物の増殖と同時に強さの質が上がってきたのだ。

 今はまだ何とか対応できているが、このまま何もせずに放っておくとそう遠くない未来に魔物によってその世界の住民は滅ぼされるかもしれないらしい。


「さて、ここまでは分かったかの?」


「ええ、なんとか」


 要するに「平和ボケしているところに魔物が急に強くなってピンチ!!」ってことだと思う。


「それでの、なぜ魔物に異変が起きたのかはまだ分からないのじゃが、そもそも大戦当時に使われていたくらいの魔法の水準であればこれは気にするほどの問題ではないのじゃ。当時はかなり水準が高かったからの。……そこでじゃ、君には世界を刺激して魔法の水準を上げて欲しいのじゃよ」


 これまた無茶なことを言ってくれる。


「そのようなことを言われても、私はただの人間なんですから魔法なんて使ったことありませんよ?」


 まぁ、あのまま生きていたらある意味魔法使いになっていたかもしれないけど。

……正直頼む人を間違えているとしか思えない。


「そこはちゃんと保証するから大丈夫じゃよ。具体的には君には魔法とは違う【能力】を付与するつもりじゃ。【能力】は魔法の上位互換のようなものでな、それを上手く使えば魔法なんて使い放題じゃよ。今回は君のためにとっておきの【能力】を用意したんじゃぞ?」


「それなら地球人の私ではなく、その世界の住民に付与すればいいのでは? 廃れてきているとはいえ魔法は使えるのですから、全くのど素人よりかは断然いいと思うのですが」 


「そう思うじゃろ? 儂もそう思った。だから実際に【能力】――君にあげようと思っている【能力】とは違うものじゃが――をその世界の住民の何人かに与えてみたのじゃよ」


 そうか相手は神様だもんな、俺が考え付くようなことなんかもうとっくに試しているか。

 それでこの流れからすると……。


「結果は失敗じゃった。失敗した理由は様々じゃが、一番の問題は彼らに創意工夫が見られなかったことじゃ。与えられた【能力】のみに頼り、そこから何か新しいものを創ろうという発想や既存の魔法を強化していくといった姿勢が致命的に欠けていたんじゃよ。それでは周囲に大した影響は与えられないんじゃ」


 ふむ……。


「彼らにはちゃんと説明したんですよね? それでも散々な結果だったんですか?」


「いや、彼らには何も説明せずに【能力】を与えたんじゃ」


 あー、じゃあダメかも。

 俺だって突然大金を手にしても、それを増やそうと思ったり、人のために使おうなんて思わないし。それと似たようなもんだよな、多分。


「説明した方が良かったのではと思うのですが、そうしなかった理由があるのですか?」


 こんな簡単なことを思いつかないとは思えないから、きっと理由があるんだろうけど。


「説明したくともできなかったんじゃ。【能力】を与えるだけでもギリギリなのに、ましてや世界が危ないなどと説明するのは明らかに干渉のしすぎなんじゃよ。だから彼らには何も言わずに【能力】を与えたんじゃが、今思えば考えが甘かったと言わざるを得ないの」


「ということは、今こうして私に説明しているのはダメなのではないですか?」


 その説明だと今の状況は完全にアウトじゃん。


「まあの。そもそも他の世界の住民を別の世界に連れて行くというのも本当はダメなんじゃ。じゃが、他の神々とも交渉してな、いろいろと条件を付けられたが異世界人に限り一人だけならとOKを貰えたんじゃ。そうして君が選ばれたんじゃよ」


「何故私が選ばれたんでしょうか? 私よりも優秀な人なんてたくさんいると思うのですが」

 

 ある意味これが一番の疑問だな。自分で言うのも何だが俺はそこまで優秀な人間じゃないし、何かに秀でているようなものもないはずだ。


「……聞きたいかの?」


「ええ、かなり気になりますし」


 もしかして俺が気づかなかっただけで、実はすごい才能があるとか?

 ……やべぇ、想像したらちょっとワクワクしてきた!!


「本当に? 聞いてもガッカリしない?」


 やべぇ……何か嫌な予感がする……。

でも気になるしな……。


「……ええ、お願いします」


「実はの、誰かいい人材がいないか仲のいい地球の神に相談してみたんじゃよ。そうしたら奴が日本人がお勧めだと言ってな。日本人は魔法を題材にしたゲームや漫画、アニメなどがたくさんあるから、それらの魔法をお前の世界で実現させればいい刺激になるとアドバイスしてくれたんじゃ。儂はそれを聞いて『それだ!!』と思い、奴に日本人で誰か頂戴と頼んでの、すると『さすがに生きている奴は無理……あ、丁度今お前の条件に合いそうな奴が一人死んだからこいつでいいだろ。体がないからそっちの世界に転生させなくちゃいけないけどそれくらいの時間的猶予はあるんだろ? こいつもこのままだと鳩に転生だしきっと喜んで引き受けてくれるさ』ということを言い出しての、それが君というわけじゃ」


 何かツッコミ所が多そうな話だが、要は偶々選ばれたのか……。

 ……まぁ別に構わないけどな!! どうせそんなことだろうと思っていたからそんな期待なんかしていなかったし? 全然ショックなんて受けてないからね!!


「まぁまぁ、そんなに拗ねないでくれるかの。適当に選んだように思えるかもしれんが、奴が選んだんじゃ。儂は君には期待しているんじゃぞ? 奴に相談して悪いようになったことはほとんどないからの。……それでこの件は引き受けてくれるかの?」


 うん……それを聞いてちょっとやる気が出てきた。

 やっぱり期待してもらった方が気分はいい。

それでも簡単に引き受けるわけにはいかないけどな。


「いくつか質問したいことがあるので、それを聞いてからでもいいですか?」


「うむ、構わんよ」


「世界を刺激して魔法水準を上げて欲しいとのことですが、具体的にはどのようなことをすればいいのですか? 戦争を引き起こせなんてことでしたらお断りさせていただきますが」


 大戦時に魔法の水準が高かったというのなら、もう一度大戦を引き起こせば水準は上がりそうだ。だが、俺はそんな戦争を引き起こすようなマネはしたくないから、神様が戦争を望んでいるのなら断るつもりだ。


「特にこれをしろというものはないの。君の思う通りに行動してもらって構わんよ。早い話、君は儂の頼みなんか無視して好き放題してもらっても構わないのじゃよ」


「どういうことですか?」


「さきほどもチラッと言ったがいろいろと条件を付けられての、儂は君に命令できる立場には無いんじゃよ。だからあくまでお願いという形でしか君に頼めなくての、それをどうするかは完全に君の自由意思じゃ」


 何やってもいいのか。でもそういうのが一番困るんだよな……。


「神様としてはどうしてもらえるのが一番助かるのですか?」


「儂としては君にあげる予定の【能力】を上手く使って、新しい魔法を開発していってもらいたいの。できれば、その世界の固定概念を破壊するようなやつをの。昔と違って今は頭の固いやつが多いんじゃが、潜在能力はそこまで変化しておらんからの。きっかけさえあれば良い方向に変化していくはずじゃ」


 ふむ、つまり俺TUEEEEEEすればいいのかな?


「分かりました。では次の質問です。そもそもこのようなことをしなくても、魔物に追い込まれれば自然とそれに対応するために魔法の水準は上がるのではないですか?」


 追い込まれておきながらただ傍観しているとは思えないからな、追い込まれていけば強さの水準は嫌でも上がっていくはずだ。


「そうじゃな、そうかもしれん。じゃがそうなる頃には相当数の屍を築き上げた後じゃろうな。君は今、手を打てば助けられるかもしれない人々を見捨てた方がいいと言うのかな?」


「……失礼しました、考えが足りませんでした」


 失言だった。これは完全に俺が悪い。

 そうだよな、今何かしら手を打てば犠牲を減らせるんだもんな。なら助けようとするのが当たり前だよな。


「すまんの、ちときつい言い方をしてしまったようじゃ。……その世界はの、儂が初めて任せられた世界じゃから思い入れがあっての。じゃから、できるだけ少ない犠牲で乗り切りたいのじゃよ」


 思った以上に良い方じゃないか……。

 ……うん、期待していると言ってくれているし頑張ってみるか!!


「分かりました、神様のそのお願い、引き受けます!!」


「おお、引き受けてくれるかの!!」


「ええ、どこまでできるか不安はありますが、私なりに精一杯やらせてもらいます!!」


「うむ、頼んじゃぞ。じゃが、あまり儂の頼みにこだわらず自由にやるといい。恐らくそれが最善への一番の近道のはずじゃ」


 

それから俺は今後の予定についていろいろと説明を受けた。

 俺は既に死んでしまっている為、赤ん坊からやり直しになるのだが、記憶を引き継いだまま0歳から始めるのはお勧めできないと言われた。赤ん坊の体では思うように体が動かないので、できることがほとんど無いのだ。それに完全に赤ん坊になりきらなくては親に不審に思われるかもしれないという理由もある。なので、ある程度体が動かせるようになり、かつ親の目が離れ始める三歳くらいまでは記憶は封印することとなった。

 

他にも【能力】や魔法、俺が行く予定の世界についてなどの簡単な説明も受けた。

 

「さて、これで説明すべき点は全て終えたはずじゃ。向こうの世界に行ったら基本的に儂は干渉できんから、ここでお別れじゃな」


 そうか、向こうでは神様とは会えないのか。

 なら、次に会うのは俺が死んだときかな?


「そうですか……。名残惜しいですが、しょうがないですね」


「そうじゃな、決まりじゃからな」


 そう言いながら手を差し出されたので、神様と固い握手を交わす。

 そして握手が終わると……。


「さぁ、これでお別れじゃ。願わくば、君の新しい人生に幸あらんことを!!」


 すると俺は暖かい光に包まれ、徐々に意識が薄れていった……。













「ふぅ~、行ったわね。やっぱり、慣れない爺さん言葉は疲れるわ。上手くいったわよね?……うん、嘘も言っていないはずだし、私にしては上出来よ!! いや、ここは『さすが私!!』って言うところかしら? まぁ、とにかくやれることはやったんだから後は全部上手くいくように信じて待っているしかない、か。あいつが勧めてきた子だし多分大丈夫よね? もし全て上手くいったら、いっぱいご褒美を上げるから頑張ってね♪」


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