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1.5mの世界  作者: 粗井 河川
3章
144/144

エピローグ  宴

「ありがとーーーーーーーージーーーーーーーくーーーーーーーーん!!」


 勝利の余韻に浸っていたら突然女性が降ってきた。

 この人は……見覚えがあるわね。ジルにエロ本を送り付けた女神じゃない。

 何故か泣きながら私に抱き付こうとしてくるけど、服が汚れそうだから全力で避けちゃいましょうか。


「ぐすっ……なんで避けるの?」


「用件は何? 早く帰りたいんだけど」


「うぅ……冷たい……。どうして――あっ、もしかしてジー君じゃなくてフロル?」


「またはマクルリアでもいいわよ」


「どっちでもいいけど、とにかくありがとうね!! 貴女達のおかけでユピアーデの脅威は取り除かれたわ!! しかもあの憎きゲス野郎まで地の底へ叩き落してくれるなんて……感謝してもしきれないわ!!」


 再び抱き付こうとしてきたのでサッと避ける。


「別にお礼なんていいわ。貴女や神の為とかじゃなくて、私達の大事な人の為にやったことですもの。……でもお礼をくれるのなら貰ってもいいわよ?」


「もちろんお礼は用意してあるわ!! ……だけどそれとは別のお礼――というかなんというか……提案? みたいなものがあるんだけど、どう?」


「どうって言われても、その提案とやらを実際に聞いてみないと返事のしようがないわ」


「じゃあ言うけど……驚かないでね?」


「ええ」


「あのね……神様、やってみない?」





 それから2日後――


「ではでは、私達の勝利を祝して……乾杯!!」


「「乾杯!!」」


 魔界の襲撃を退けた俺達は、慰労の意味も含めて祝勝会を開くことにした。

 場所はスイレン邸の庭。集まったのはアリサ、レラ、ティリカにククルにモモ&ラピスにエミリーにミュランに……とにかくクロノス以外の知り合いがほとんど一堂に会した。中にはまだ顔合わせしていない面々もおり、レイシアなんかはラピスを気に入ったのか先程から追いかけまわしている。その様子を肴に酒をガブガブ飲んでいるモモをエミリーが注意したり、ミュランの彼女さんがレラとカザンカにサインを求めたりと、なかなかに盛り上がっているんじゃないだろうか。

 ククルなんか羽目を外し過ぎてアリサに襲い掛かろうとしているもんな。……いやアレは本気か。


「ホント皆よく頑張ってくれたわ! こうして無事に騒げるのは私達が力を合わせたからでしょうね!」


 宴の幹事をしているスイレンがかなり良いことを言っている。

 これが今回漫画を読んでいただけで何もしなかった大精霊様のお言葉じゃなければ感動できたのにな。……いやー、まさか俺がバルディアの元に向かった後も漫画を読み続けているとは思っていなかったよ。『頑張りたい奴が頑張ればいい』的なことは言っていたものの、さすがに少しは魔物退治に協力するだろうと信じていた。一応、本人もその気があったらしいが、曰く『漫画を読む手が止まらなかった』とか。今度シャイニングさんあたりに大精霊のなんたるかを説いてもらおうかなと密かに企んでいる。


「おーおー、盛り上がっているな」


「あ、オロフ先生」


「ま、どこもかしこもお祭り騒ぎだけどな」


 先生も祝勝会に誘ったのだけど、学園の打ち上げに参加しなくちゃいけないからと断られていた。あっちはなんか真面目な集まりっぽいし、つまんなくなって抜け出してきたのかな?


「ほれ、ローザからの手紙だ。たぶんこれが最後の――うお!?」


「よく来た我が従僕! さあ、あの変態を懲らしめてやるのじゃ!」


 ラピスに捕まり、レイシアの撃退を命令される先生。

 当分相手をさせられるのだろうなと判断した俺は、早速手紙の封を切ってみる。



『ユピアーデを救ってくださったことに深く感謝します。……実は貴方が神に勝てるかどうかは私にも分からなかったのですが、きっと貴方ならばやってくれるだろうと信じていました。これからは存分に貴方だけの人生を楽しんでください。 ローザより』



「……」


 もしMVPを誰か1人だけ挙げるとすればローザ女王かもな。

 女王の『バルディアのみに専念しろ』との言葉がなければ、おそらく魔界の幹部や魔物達は俺が1人で倒していたことだろう。だけどそれだとペネムは姿を現さなかったはずだ。アイツが現れたのはクロノスの力を借りたからだが、その案は俺には思いつかなかった。女王が発案し実行してくれたからこそ、俺は黒幕を倒すことができたんだ。

 うーん……これは後日改めて挨拶した方がいいかな?


「ジル様ジル様」


「ん?」


「難しいことは脇に置いて、今は楽しみましょう」


 頬を赤くしたアリサが体を預けてきた。

 その手にはワイングラスが握られ――


「誰だアリサに酒を飲ませた奴は!!」


「まぁまぁいいじゃないですか今日ぐらいは。それよりも、もっと大事なことをお話ししましょう?」


 むむむ、あんまりよくないけど……おめでたい席でもあるし、今回だけは目を瞑るか。


「大事な話って?」


「ジル様の悩みも解決したわけですし、そろそろ子供とかどうでしょう?」


「………………」


 これは酔っぱらっているってことにして聞き流していいよな? 本気で言ってないよな? いやいやユピアーデにはアリサくらいの年齢で母親になる人はいるけどさ、いくらなんでも早過ぎるよな?


「やめとけやめとけ。学生でシングルマザーなんて苦労するだけだ。今は学生らしく勉学に励め。そして別の男とくっつけ」


「ちょっとレラさん、いつまでジル様の女房面するつもりですか!?」


「お前こそいつまで彼女面しているつもりだ。いいかげん目障りだぞ」


「こっちのセリフです!!」


 俺から離れ、レラとバトルを始めるアリサ。

 助かった……のか?

 でも次の日とかにまた言われたらどうしよう……。俺に子供……子供ねえ……。まったく想像できない。なんでだろう、やっと大きな問題を解決したと思ったに、またでかい問題が……。こりゃあしばらく悩みそうだな。


「ハロー。みんな楽しんでいるかしら?」


「え?」


「うそ……」


「はい……?」


「まさか……」


「んん!?」


 気さくな挨拶をしながらやって来た人物に、アリサ達は目を見開いて固まった。


「来れないかもって言ってたけど、なんとか来れたんだな」


「ええ、私がこんな楽しそうなイベントを見逃すわけないでしょ?」


 そんな彼女達の予想通りの行動に内心で笑いつつ、新たなゲストを迎える。


「え、あの……冗談、ですよね? 誰かが変装しているんですよね?」


「変装なんかじゃないわ。本物よ。誰も私の完璧ボディーをマネられっこないわ」


「じゃ、じゃあ……本当に……?」


 アリサ達はまだ信じられないのか、頭に大量の疑問符を浮かべて困惑中。

 スイレンなんか俺とゲストの顔を高速で何度も見返している。

 

「そうよ、私――フロルは帰って来たのよ!!」


「「――」」


 半分くらいのメンツに衝撃が走る。


「フ、フロルさまーーーーーーーーーーーーー!!」


 真っ先に反応したのはティリカ。

 すごい勢いでフロルの胸に飛び込み、体全体で喜びやら感動やらを表現している。


「師匠……師匠なんですね!?」


 それに続いてエミリーが駆け寄った。

 目に涙を浮かべ、感無量といった感じだ。


「どういうことですかジル様!? 何故フロル様が!?」


「そうよジル! なんでフロルとジルが同じ空間に存在しているわけ!?」


 そして俺の元には説明を求めるアリサとスイレンが。


「実はだな――」


 ――ペネムを倒したことによって神の座に空きが出てしまった。その穴を埋めるために女神様から神にならないか勧誘を受けたのだが、そんなものに興味のない俺は断ろうとしたのに、あろうことかフロルはOKをしやがったのだ。当然俺は反発したのだが……フロルの『そろそろ私達は別の道を歩まない?』との提案に賛成し、“自由自在”の力で別々の存在へと分離することにしたのだ。


「だからあそこにいるフロルと俺はもはや別人。別個の存在だ。俺がフロルになることはもう永遠にない」


 ちなみに“自由自在”を使う権利はクロノスとキスをした俺にあるので、フロルは使えない。それでも神になる特典で様々な力を授かっていたから、神器なしの俺よりは確実に強いだろうな。


「そうですか……。まだ事実を受け止めきれないですが……これだけは言っておきますね。何があっても私の一番はジル様ですから」


 そんな素敵なことを言ってキスをしてくれるアリサ。

 別にフロルに取られるんじゃないかなんて心配はしていなかったが、それでも心が満たされるのを感じる。


「このレズップルが。随分と見せつけてくれるじゃない」


 スイレンが忌々しそうに酒瓶を掴み――


「貴様、人の夫に何をする!!」


 レラが大激怒し――


「ねえねえ、私の仕事を手伝ってみない?」


 ティリカとエミリーはフロルにスカウトされ――


「とにかくめでたいのじゃ!!」


 他の面々も存分にはしゃいでいる。

 賑やかでちょっとうるさいけれども、確かに“幸せ”はここにある。

 どうかこれからの人生も、この幸せを守っていけますように――。

本編はこれにて完結です。

まだ回収していない伏線や、スポットライトを当てていないキャラもいるような気もしますが、とにかく完結ですはい。

もしかするとおまけとしてifルートやエピローグ後、話の補完的なものを書くかもしれませんが……具体的にどうするかは未定です。


次がどのような形になるかはわかりませんが、ここまで付き合っていただいた皆様に惜しみない感謝を m(_ _ )m


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