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1.5mの世界  作者: 粗井 河川
3章
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第32話  正妻

 レラにスイレンの家に出かけると言った時のことである。途中で忘れ物をしたことに気付いたのでいそいそと戻ると、なにやら家に不穏な気配が漂っていた。直感的にヤバいと判断した俺は、持てる全ての力を使って存在感を空気と同調させ、不穏な気配の正体を暴くことに。そしてすぐに原因の特定に成功する。

 犯人は複数。それぞれがテーブルを囲んで向かい合っており、顔は冷静なのに妙なオーラを醸し出しながら互いを牽制している。その光景を見た理性は即座に逃げるべきだと判断したのだが、彼女達が果たしてどんな話をするのかという好奇心の方が勝り、俺は事態を見守ることにした――。


「ではそろそろ私達の関係について詳しく話し合うとしましょうか」


「ああ」


「同意」


「最初に簡単な自己紹介でもしておきましょうか。私はアリサです。ジル様の“初めての”彼女でもあります。あと私がジル様と“初めて”Hしました」


「私はレラ。ジルの妻だ。今回の話し合いで、お前らは私の慈悲によって夫と会話出来るんだということを是非とも知ってもらいたいと思っている」


「クロノス。ジルは死んでも私と一緒にいると約束した。この茶番に参加したのもただの気紛れ。貴女達と仲良くする気は1フェムトもない」


 ……開始早々、俺は見守る選択が間違いだったと頭を抱えそうになった。まだ3人とも互いに意識がいっているため俺の存在に気付いていないが、こんな状況で気付かれたらどうなるか分かったもんじゃない。

 いや、少なくともクロノスは俺に気が付いている……かな? アリサの直感すら凌駕する隠密術でも、クロノス相手に通じるかはちょっと自信がない。……でも正直、この場にクロノスがいることが不思議でならない。もしこれがレラとアリサの話し合いだけなら「またか」と思って素通りするのだが、クロノスが加わるだけで混沌具合が異次元突破する。彼女とは密室空間で1年を共にしたし、修行時代にもちょくちょく会っていたからだいたいの性格は分かるのだけど、それはあくまで俺と1対1の場合であって、俺がいない状態で彼女が他人とどんな会話をするのかは想像もつかない。そもそもどうやって連絡を取ったんだろう……。

 うーん……そんなことにはならないと願いたいが、さすがに戦闘になったら止めに入らないとな。


「分かってはいると思いますが、今回は『暴力行為禁止』です。理性的で節度のある話し合いにしましょうね」


 あ、さすがに戦闘はなしか。まあ当然だよな。戦闘ありだったらクロノスが優位ってレベルじゃない。クロノスの前ではレラですらもミジンコ程度の脅威にしかならないだろうからな。

 でもそうなると、アリサが最も有利……なのかな? 持ち前の頭の良さもあるし、なんと言ったってアリサには【直感】があるもんな。だがそれでもクロノスに通用するかどうかは……未知だ。


「私としては、ジル様が何人もの女性を囲ったとしても文句はありません。その方が私をジル様の正妻と認めるのであれば喜んで歓迎しましょう」


「フン、バカバカしい。夫には私1人いれば十分だ。お前など要らん」


「ウサギに同意。ジルの意見は尊重すべき。ただし、ある程度の選別は必須。最低でも10の次元に同時干渉できなければ話にならない。よって貴女達はすぐにジルと別れるのが正解」


「つまり私を認める気はないと?」


「そうだ」


「誤解。貴女がジルの記憶の片隅に存在することは認めている」


「残念です……。なら私も自分を守る為にも、そして私を選んでくれたジル様の為にも御2人を排除しなくてはいけませんね」


 ニヤリと笑うアリサ。まるで大義名分を得たと言わんばかりの表情である。

 黒いぞ……。


「やれるものならやってみろ」


「貴女の実力では不可能」


「もちろん暴力は使いません。ちゃんと話し合いで決着をつけますよ」


「話し合いで決着がつくとは思えないがな」


 確かにそうだ。

 現にレラとは毎晩のように言い争っているもんな。


「不毛なやり取りをしても時間の無駄」


「その通りです。私達だけでは永遠に決着はつかないでしょう」


「ではどうする気だ?」


「そこにジル様が隠れているのは知っていますね?」


「ああ」


「勿論」


 3人がこっちを向いた。

 ………出た方がいいのかな?


「あ、ジル様はそのまま隠れていてください」


 出なくていいらしいです。


「これから順番に発言をしてもらいます。内容はなんでもいいですから、とにかくジル様にリアクションをさせてください。ジル様が途中で遮ったり、恥ずかしがってどこかに行ってしまったらその人の勝ちです」


「なるほど、ジルへの理解力が試されるわけだな」


「勝った場合の報酬は?」


「その人が正妻です」


「こんなことしなくても私が唯一の妻ではあるのだが……いいだろう。受けようじゃないか」


「面白そう。やる」


「誰が勝っても恨みっこなしですよ?」


 なんかトントンと話が進んでいく。

 え、これってマジで俺の反応次第で正妻が決まるわけ? まだ誰とも婚約していないのに……? …………さあ、大変なことになってきました!! いまさら逃げることも出来ないし、3人の口撃に耐えられるとは思えない。非常手段である記憶の改竄もクロノスがいるんじゃあ無理……はっ!? もしかしてその為のクロノスなのか!?


「では順番を決めましょうか」


「私は何番でもいいぞ。おそらく長引くであろうから順番は然程重要じゃない」


「同意。2人だけの秘密を人前で迂闊には喋れない」


「なら私、レラさん、クロノスさんの順でいいですか?」


「構わん」


「異論はない」


 もはや「異論だらけだよ!」とツッコむ余裕すらなく、どんな行動が最善なのかに脳みその容量が喰われている。一体どうすれば――。


「なにやら必死に考えているようですが、遠慮はしません。いきます。……ジル様ってぬいぐるみを見ている時の顔が乙女ですよね。可愛らしいとは思いますが、できればデートをしている時はやめてもらいたいです」


 ……我慢我慢。

 大丈夫。この程度ならきっと周知の事実だ。ほら、レラとクロノスも「あるある」みたいな顔している。取り乱すレベルじゃない。……あれ、でも取り乱した方がいいのか? ここで終わらせればこれ以上、辱めを受けなくていいんだもんな。代わりにアリサが正妻になるらしいけど別に嫌ってわけでもないし……。


「次は私だな」


 そうこう考えているうちにレラのターンになってしまった。


「不意打ちでキスをされた時のジルのモノマネをする。……もう、バカっ」


 っ~~~~~~!!


「完全に乙女じゃないですか!!」


「可愛い。羨ましい。私の時はすぐに気絶したから見れなかった」


 めっちゃ逃げ出したい!!

 でもレラのドヤ顔がムカつくから意地でも逃げない!!


「私の番」


 うっ、次は何を言い出すかさっぱり分からないクロノスだ。


「ジルのあそこの大きさは最大で1※.7cm」


 ギャアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?

 とんでもないこと言ったよこの人!?


「まぁ……!!」


「フッ、なかなか攻めるな……」


 アリサとレラが照れて顔を赤くしているけど、俺の方がもっと恥ずかしいわ!!

 つーか何でクロノスはそんなこと知ってんの?!

 マジで叫び出したかったが、自分でもなんで叫ばなかったのかよく分からない。


「ふふ、勝敗とは関係なしに楽しくなってきました」


「悔しいが賛成だ。ワクワクしてきたぞ」


「この勝負の時間だけは貴女達と仲良くしてもいい」


 こっちは身悶えてどうにかなりそうだっていうのに、3人の間に奇妙な友情が成立している。……ヤバい。早く降参しないと、ただの暴露大会になってしまう……!!

 どうする? もう次のアリサの番でギブアップするか……?


「では次は私ですね。そうですね……。以前、夜にデートをしていた時なんですけど――」


「ちょっと、ジルはまだ来ないの!?」


「うおっ!?」


 後ろのドアが突然開き、思わず声をあげてしまう。

 何だと思い振り返ると――


「スイレン……?」


「あら? ジルの声がする。もしかしてそこにジルがいるの? なんで姿を消してるのよ。あんまりに来るの遅いから迎えに来ちゃったじゃない――って、えーっと……どうして御三方は私を睨んでいるのかしら?」


「最悪のタイミングで来ましたね」


「おい、どうするんだ。まさかビチャビチャの勝ちか?」


「不快」


 予期せぬ勝負の強制終了に、あからさまに苛立つ3人。

 だけど俺は超ハッピーだ!!


「よくやったぞスイレン!!」


 あまりの嬉しさに彼女の手を握って大きく上下させる。


「えっ、なに? どういうこと? 誰か説明してよーーー!?」


 この後、スイレンが大変な目に遭ったのは言うまでもない。


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