表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1.5mの世界  作者: 粗井 河川
3章
134/144

第28話  感動の再会

 レラに『勝手な行動は絶対に取らない』と約束させるのに数時間を費やしたのち、クロスセブンでの活動拠点となる家を購入することにした。さんざん悩んだが、ついでに小屋にあるお手製の服もそろそろどうにかしたかったので店じまいしたばかりの建物を買い取り、アパレルショップを開くことに決めた。

 初期の頃の作品はとても売りに出せるような代物じゃないけど、中期以降はお金を貰ってもいいんじゃないかなー程度の仕上がりにはなっているはず。特に後期のレースをあしらった衣装はどれも自信がある。その衣装の雰囲気に合う模様を考えに考え抜き、色や素材にまでこだわった至高の一品は正直売りに出すのが躊躇われる程。だから自身作にはそれなりの値段をつけ、その良さを解ってくれる人だけに売ろうと思っている。

 あー……でも本当に似合う人がいればタダであげてもいいかな? ここで誰にも着られないまま埃を被るよりも、真に相応しい人達に譲って着てもらった方がきっと服も喜ぶ。それで着てくれた人がちょっとでいいから素敵な服だと喜んでくれれば私も嬉しい。


「うん、ここを訪れてくれた人が心から満足できるような……そんなお店にしたいな」


「なるほどなるほど。つまりお前は私が必死で嬢ちゃん達とトラブル解決に向けて奔走している間にお洋服屋さんになる特訓をしていたってわけか。そりゃあ素晴らしい目標だなおい。私も慣れない代役を頑張った甲斐があるってもんだ」


 生活できるだけの環境を整えたので、クロリアを呼び出してこれまでの経緯を説明したら何故かお冠になってしまった。

 おかしいなー。そこまで変なこと言ったつもりはないんだけど……。

 やっぱり先に事務的な話じゃなくて、苦労をねぎらってあげた方がよかったかな?


「ねーねージル。なんかこいつペットの癖に生意気じゃない? 食べてもいい?」


 ついさっきクロノスに『邪魔だから返す』と追い払われてしまったモモが、クロリアに肩車をしてもらいながら彼女の頭を叩いている。


「妾と違って“きゅーと”でもないし、モモよりも弱そうじゃから飼う理由などないじゃろ。捨ててしまおう」


 私の袖を引っ張りつつ、窓を指差すラピス。


「おまけにこんな餓鬼共を連れて来るなんてマジで遊んでいたのか?」


 そしてさらに不機嫌になるクロリア。

 やれやれ……。


「こら!! 彼女は食料でもペットでもないんだからやめなさい。クロリアも今の私を見ればただ遊んでいたわけじゃないって分かるでしょ?」


 くるっと一回転をしてみせる。


「……そーですねー」


 棒読みっぽいけど納得はしてくれたみたいだ。

 意識が私からモモへと移り、邪険に引き剥がそうとしている。だけど実力はモモの方が上だから上手くいかず、結局成すがまま髪を弄ばれている。

 んー……さすがは小さくなっても最古の竜ってところかな? おそらく上位精霊の中ではトップであろう実力の持ち主をお人形扱いするなんて。実力的には申し分ないから是非とも戦闘で協力して欲しいんだけど……モモもラピスも派手な技しか使えないから街中で戦うと大変なことになっちゃうんだよねー。例え外で戦ったとしても辺りの地形を変えてしまうおそれもあるから、やっぱり大人しくしてもらうしかない。だから協力してもらうとしたら私――俺の店を手伝ってもらうくらいだな。


「あ、そういや定期連絡の時には言ってなかったが、嬢ちゃん達の記憶はとっくに戻ってるからな」


「……」


 モモとラピスに店番を任せるとしてもこの姿のままじゃあちょっと幼いかなーとか考えていたら、クロリアがさらっととんでもないことを言いやがった。


「具体的にはいつからだ……?」


「鉈女を退治した話はしただろ? その数日後には全員戻ったぞ。どうやら記憶を消された際の備えを巫女ちゃんとしていたらしくてな、それが発動して割とあっさりと」


「そうか……」


 まあ、あのメンバーならずっと記憶を改変されたままなわけがないと確信していたから驚きはあまりないけど……。うぅ……やだなぁ……絶対怒ってるよ……。顔をメッチャ合わせづらいよ……。


「魔界の連中と決着をつけるまでは嬢ちゃん達と会う気はないらしいが、クロスセブンにいる以上、必ず近いうちに見つかるぞ。だからまあ、早いとこ自分から会いに行ったらどうだ?」


 うっ、クロリアがまともことを言っている……。


「気まずいんだろが、せめて水のクソババアには挨拶しておけ。もし水の精霊に姿を見られればすぐにアイツの耳に届くからな」


「一応、その辺の対策はしているんだけど……」


 でも対策をしておきながらバレたら増々怒らせることになりそうだもんな……。

 これは行くしかないのか?


「誰かに会うのじゃな? なら妾も一緒に行くのじゃ」


「モモも行くー!! なんか面白そうだもん!!」


「――いいや、行くのは私と夫だけだ」


「ぎゃーーーーレラだーーーーー!?」


「ふ、ふん。ジルと一緒におればあんな奴、怖くもなんともないのじゃ」


 レラが散歩から帰って来るなりあからさまに怯える2人。モモはクロリアの背中に隠れ、ラピスは俺の袖を強く握っている。……あれだけ長い時間を共に過ごしたので少しは打ち解けてはいるのだが、今のように不意打ちで現れると途端に狼狽してしまうのだ。モモ曰く「“ちょっとやそっとの時間”じゃ解決しない」ということらしい。


「おいおい、このババアが夫とかアホなこと――がふっ」


「ん? どうやらクロリアは疲れが溜まっていたのか眠ってしまったようだな。モモとラピス、竜田揚げになりたくなければ彼女をベッドに運んで寝かせてあげなさい」


「あわわわわわ」


「しょ、しょうがないのー」


「酷え……」


 残虐極まりない方法で3人を黙らせて満足している姿は、とても教育者とは思えない。


「さあ、行くぞ。腑抜けた大精霊に喝を入れてやる」


 ぶっちゃけ嫌な予感しかしない。

だけど……今だけはレラのその勢いがありがたいかな。




 ――そしてやる気満々のレラと一緒にスイレンの元へと転移。

 アリサやティリカがいないことは確認済みなので、ほぼヤケクソ気味に彼女の目の前へと現れてやった。

 ふ、男は勢いと度胸だ!!


「なっ――ジル!? え、う、うそ……ほんと……に……ジルなの……?」


 いきなり現れた俺にスイレンは持っていた漫画本を床に落とし、目を見開いて固まっている。俺はそんな彼女を見て――不覚にも涙が出そうになった。

 ソファに寝転がりながら漫画を読み、すぐ横のテーブルには山積みの漫画と食べかけのおやつが乗っている。うん、まさに俺の記憶通りのスイレンだ!!

 あ、なんかだんだんと記憶が甦ってきた!!

 ポテチを食べながら「夕飯はまだー?」とせがむ姿、新刊を取り寄せる時間が待てずに苛立つ姿、もっとシャキッとしてくださいとティリカに怒られる姿、漫画の展開にケチをつける姿……。ああ、どれも懐かしいなぁ……。

 だけど眼前には思い出ではない、本物のだらけたスイレンがいる……!!


「ただいまスイレン……!!」


 感情が抑えられず、体が勝手に抱き付こうとしてしまう。


「おかえりなさいジル……!!」


 彼女も久し振りの再会を喜んでくれているのか、両手を広げて俺を迎え入れようと――


「鼻フックアッパー!!!!!!!」


「あぶな!?」


 彼女の間合いに入った瞬間、殺意のこもった二本指が俺の鼻を掠めた。


「ようやく姿を現したわねこのレズ男。ここがアンタの死に場所よ!! 私の記憶に手を出した酬いを受けるがいい!!」


 ダメだ……。

 控えめに言っても、物凄く怒っていらっしゃるよ!!


「わ、わかったスイレン、とりあえず土下座でもするから――」


「問答無用!!」


「ひい!?」


「フン、そうカリカリするなビチャビチャ。お前だってジルの事情は分かっているのだろう?」


 レラが俺達の間に割って入り、スイレンのパンチを片手で防いだ。

 ……ヤバい、普段よりも3割増しくらいに格好良く見える。


「アンタは……ツンバチじゃない。なんでジルと一緒にいるわけ?」


 ツンピカという名前が気になったが、ツッコムのはやめておいた。

 どうせ『ツンツンしててバチバチしているから』とかそんな理由に決まっているからな。

 しかし――


「簡単に言うと私がジルの妻だからだ」


「へえ……? どういう意味?」


「モモとラピスという家族(非常食)もいるし、他にも私達の子供(のような存在)も沢山いる。これ以上の説明は必要か?」


「いえ、よーく分かったわ。……この節操なしのレズ男は生かしておけないってことがね……!!」


 ――強引にでも話を逸らしておくべきだったなーと、すぐに後悔した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ