エピローグ
「その後はどうなったんですか?」
「見た感じ大した怪我じゃなかったから近くの診療所に連れてったよ。でもな、医者が帝国の姫だと気付いて大騒ぎしちゃってさ……。すぐに貴族御用達の病院に移されたよ。それからはまだ一度も会ってない」
8日間の旅を終えて帰ってきたアリサにこれまで起きた出来事を説明中。
あの皇子さんが平民になる前の最後の悪あがきに報復を仕掛けて来ないか心配だったから、知り合いの精霊に彼女の護衛をお願いしているが今の所そんな物騒なことにはなっていない。治療もとっくに終わっているようで、まだ病院にいるのは念のための経過観察らしい。たびたび脱走を企てて医者達を困らせているとかなんとか。だから俺が面会に行くとそのまま家まで付いて来そうなので自粛している。……それだけが理由じゃないけど。
ちなみにあのビグモとかいう奴は行方不明。クロリアが奴の左足をぶら下げながら「ゴメン、逃がしちゃったテヘペロ」なんてふざけたことをぬかしたので現在お仕置き中ある。ただ苦痛を与えても喜ぶだけなので、彼女には地域のボランティアを命じて多くの人から感謝されているという、彼女にとってはかなりの苦痛を与えることにした。今頃変な顔をしながらゴミ掃除をしていることだろう。
でも上位精霊相手に足を犠牲にしたとは言え逃げ切れるんだから、暗殺ギルドの連中はかなりレベルが高い。できれば関わりたくないが……どうせそのうち嫌でも関わるんだろうな……。情報が入ればいっそこっちから潰しにいってみようか……。
「それで、女になりきってみてどうでしたか?」
「ん? ああ、そうだな……あるべき姿に戻った感じがして楽しかったけど……やっぱり俺は男の方がいいな。根っこの部分には男らしさが残っているとも分かったし、これからも“可愛い男”として生きていくさ」
『イケメンに見えるようになろう計画』は中止だ中止。俺はイケメンになるよりも可愛くいたいのだ!! もはや可愛くなることは俺の“趣味”だからな。そう簡単にはやめないぞ!!
「結局そこに落ち着くんですね。ふふ、でもジル様らしいと思いますよ」
「すまんな、たぶんアリサにも迷惑をかけるかもしれない」
「気になさらないでください。それよりも……もう1つの件はどうなされるんですか?」
「もう1つ?」
何だろう――と思っていたら、バタンと大きな音をたてて部屋のドアが開いた。
「彼女のことですよ」
「ジル! どうしてお見舞いに来てくれなかったんだい、寂しかったじゃないか! ああでも理由は分かっているよ。恥ずかしくて会いに来れなかったんだろ?」
「レイシア!? もう入院はいいのか!?」
「もちろんさ。さっき無事に脱出――いや退院できたよ。それでこの前の返事を――おや? もしかして君が……?」
「はい、アリサ・フィーリアです。ジル様の“恋人”ですよ」
「そうか君が……。うん、君も可愛いから問題なしだ!!」
「なるほど、確かに変わった方ですね。なかなか面白い人です。……1つ質問をいいですか?」
「構わないよ。何でも聞いてくれたまえ」
「貴女もいろいろと悩んでいたみたいですが、結論はでましたか?」
俺も気になる。
レイシアは自分の本質が男であることに拘りを持っているようだったよな。あのデ――買い物で何か掴めたのだろうか。
「そうだね……私が出した結論は……私の性別なんてどうでもいい。そんなしょうもないことで悩むよりも、どうやってジルと付き合うかを考えた方が有意義だってことだ。大事なのは私がジルの事が大好き――その一点のみ!! それ以外の問題は全て些細なことさ!!」
「だそうです。ジル様を今の発言を受けてどうです?」
「どうって……」
どう答えればいいんだ?
なんかレイシアは期待のまなざしでこっち見てるし……。
ヘルプの視線をアリサに送るも、意味深な微笑みを返されてしまった。
えーっと……。
「とりあえず俺の所為で怪我をさせてしまって悪かった。あの時、俺がもっと早く動いてればそんな目に遭わせなかったのに……。それと俺を庇おうとしてくれてありがとう。あの行動は嬉しかったよ」
「じゃあ私と付き合ってくれるのかい!?」
「それはだな……言い辛いんだが、まだレイシアのことを異性として好きってわけじゃないんだよな。アリサだっているし、付き合うとなると……」
「ダメ、なのかい……?」
「そう……だな、まだ会って間もないし、いささか早急すぎる気が――」
「別にいいんじゃないでしょうか?」
「「え?」」
レイシアとハモッた。
アリサ……?
「1度お試しで付き合ってみればいいと思います。何も付き合ったからといって結婚しなくちゃいけないわけでもありませんし、気に入らなければ別れればいいんです」
「アリサ君の言う通りだよ! 試しにでいいから付き合ってみよう!」
……。
「アリサ……一体何を考えているんだ……?」
まさか男っぽい格好をしているレイシアに惚れたわけじゃないよな?
「本音を言えば私だって邪魔者が増えるのは喜ばしくないのですが……いずれ嫌でもラングット、レストイア、ベルダットから女を迎え入れなくてはいけません。なのでどうせなら裏切る心配のなさそうなレイシアをまず引き入れてはと思ったのです」
なんだそれ……初耳だぞそんな話。
「うんうん、私なら絶対にジルを裏切らないぞ」
「ですがまあ、今は親密になっていると周囲に思わせる程度でも構わないと思うので、付き合うことに抵抗があるのでしたら、ジル様の部屋に自由に出入りさせてあげる程度でもよいのではないでしょうか?」
ふむ……。
それくらいなら悪くは……ないかな?
「それでいいか……?」
「ちょっと物足りないけど……今はそれで我慢するとしよう。そういうわけだから――2人ともこれからよろしね!」
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
レイシアに2人まとめて抱きしめられてしまった。
「ふふふ、さあこれから私の輝かしいハーレムライフが始まるぞ!!」
やれやれ……すっかり有頂天になっているよ。
でもまあ、ちょっとワクワクしている自分がいるのも事実。
これからますます賑やかになりそうだ――。
次回更新は未定です。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。