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「見てよこのアンケート! 『ハラハラしました。特にお姫さまがセリフを忘れてしまったところが』だって! やっぱり、書かれちゃってるわねぇ」
ベッドの上で本当に入院患者なのかな? と思うほど大きな声で騒いでいるのはもちろんゆきのんだ。私たちは昨日の舞台のアンケートを手にお見舞いに来ているのでした。うぅ……ひどいよゆきのん。思い出させないで……。
「はぁ……雪乃、お前よく人のこと言えるよな? お前の初舞台なんか、二つしかセリフないのに、その二つとも言わなかったじゃないか。忘れたのか?」
「う……今は関係ないでしょ!」
……ゆきのんにもそんな時期があったんだ。今のゆきのんからは想像もできない。びっくりです。
「しかし、昨日はホンマすごかったなぁ……あんなに大きな拍手もらったの初めてやで」
魔王を倒したシーンの後、エピローグ、カーテンコールと舞台に立ったのだけど、その度に大きな拍手をもらってしまったのです。特にカーテンコールの最後、みんなで『ありがとうございました!』と言った時の盛り上がりと言ったら……映画の中でしか見たことないようなすごいものでした。
「俺はあかちゃんのアドリブ力に驚いた。そうそうできるものじゃないだろ」
とリュウ。いや、もう私夢中で、どこからセリフ思い浮かんだのかも思い出せないのです。
「そうじゃないでしょう。あそこは先輩としてリュウがフォローしなきゃいけないところだったのよ? それが何よ『貴様は何を言っているのだ?』なんてあかちゃんに全部任せるようなアドリブしちゃうんだもの」
くぼじゅんが、ちょっと呆れがちに言う。……今、リュウのモノマネしましたよ? しかもかなりうまい。くぼじゅんは本当に底が見えません。
「お前も乗っただろうが!」リュウが珍しく焦って声を荒げた。「大体、フォローだったら、ゆきのんのもビックリしたぜ?」
「おい、リュウ。今、話逸らしたよね。まあ良いけど。まあ確かに雪乃のあれは前代未聞だな。客席からあんな大声で『頑張れ!』なんていうものだから、何かヒント与えるのかと持ったら『とにかく頑張れ!』とか言うんだから」
「だ、だって! 見てられなかったんだもん! でも何も思いつかなかったし……しょうがないでしょ!」
顔を真っ赤にするゆきのん。私はその手を取ってぎゅっと胸に抱える。
「ゆきのん。本当にありがとう。ゆきのんが頑張れって言ってくれたから私、頑張れたよ?」
言葉だけじゃ絶対に伝えきれないこの想い。あの時みたいに、この手を通して伝わってくれたら。そう思って私は必死に握った手に想いを込めた。
「て、照れるじゃない! やめてよ! ぜ、全然、全然ダメだったからね! あかちゃんのお姫さま! 私が退院したらもっとたくさん稽古してやるんだから覚悟してなさい!」
「……うん」
「大きな声でっ!」
「うんっ!」
私、とても幸せです。演劇、とても恥ずかしかったけど、とても楽しかった。みんなと、仲間と何かを創り上げることがこんなに嬉しいことだとは思わなかった。
「で? 和歌山、あれは持ってきたんだよね?」
みっちゃんが嬉々として和歌山に訊ねる。
「おう! ちゃんとここに……じゃーん! 次回公演の台本やっ! ちゃんとあかちゃんの役もあるで!」
「お、さすがだな。仕事早いじゃん」
リュウが和歌山の肩を叩く。
「あかちゃん、昨日頑張ったからな。セリフ徹夜で増やしたわ。だから眠くてしゃーないわ」
「じゃあ、早速今から読み合わせねっ!」
「ここは病院よ? あまり大きな声出したらだめじゃないかしら?」
「小さな声で読めばいいじゃない! 早くやりましょ!」
私たちはベッドを囲んで台本を手に持つ。みんなが次の舞台に思いを馳せて笑いながら台本を読んだ。
私、これからもこの『くるみの森』で頑張りますっ!
了
ありがとうございました!




