04
明けましておめでとうございます!
昨年、拍手&感想コメント、および評価をくださった皆さま、本当にどうもありがとうございました。
本年もどうぞ宜しくお願いいたします。
「あ、まあ、ダフネちゃんには関係ないよねー」
「―――え?」
同じクラスの少女から与えられた一言。
きょとんとしたわたしの様子に、周囲から忍び笑いが起こった。
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林に囲まれた黄色い小道。
際に咲く夏の花が、木陰を抜けた涼しい夜の空気を喜んでいるかのように、風に遊んでいる。
色取りどりの、今の季節にしかない花たち。リボンで束にして瓶に飾れば、すごく可愛い。
いつもなら、母さまへのお土産にと摘んで行ったりもするのだけれど……でも、今日はとうていそんな気分にはなれませんでした。なんだか、わたしの気分につられて、花が萎れてしまいそうな気がして。
オレンジ色に染まる世界の中、堪え切れず立ち止ったわたしは大きく溜息を吐く。もう逃がすような幸せはカスほども残っていないので、遠慮なく盛大に吐き出します。
(……あついです)
だらだらと額や頤を伝っていく汗を、小さな手の甲で必死に拭いながら喘ぐ。
擦ると、日焼けしても赤くなるだけの生白い肌が痛くて、思わず顔を顰めました。
夏とは、暑いもの。
六年間も人間をやってきましたので、それくらいのことは知ってます。
でも、今年のように猛暑日が続くと、もやしっ子のわたしには到底堪えられるものじゃなくて。
……ああ。黒い革靴に包まれた足が、本日最期の足掻きを見せている太陽の光を受けて、じりじりと痛い。
黒い二ーソックスも、いい感じに血液を煮やそうと頑張っていますし。
(お家……なんでこんなに遠いんでしょう)
残りの帰路行程を計りながら、わたしは熱気でクラクラする頭を、汗まみれの首でどうにか支え直しました。
都心から外れた林の中に建つ屋敷。そこまでの道のりは、まだ子供のわたしの足には結構つらい。
緑に囲まれた川沿いの土地に住むよう両親が決めたのは、母さまの身体のためだということを知っていたから不満はなかったけれど、でも、こんな風に独りで歩かなきゃいけない時は、ちょっぴりしんどくて心細かった。
いつもより遅くなってしまった下校時間。
もう夕暮の時間だから、少しは暑さもマシになってるでしょうか? ―――そう期待したのだけれど、甘かったようで。
日中、日差しに焼かれた地面は未だ冷めておらず、立ち上る熱気は身長が低いわたしから容赦なく体力を奪っていきました。
ぬっとりとした大気を掻き分けながら、ただひたすらに無心に歩きます。
(あと少し。……もうちょっとだから、頑張りましょう)
帰ったら、母さまとエリスに冷えた果実水をくださいとお願いするのだ。ひんやり甘いあの味を思い浮かべていると、ちょっとだけ心が軽くなります。
そう、別に特別なことじゃない。
帰り道が辛いのはいつものこと。
―――でも、
「今日くらい、やさしくしてくれたっていいと思うんですけど」
こんな、元気が空っぽになってしまったような日でも、神様はわたしに容赦がない。
文句を言っても仕方がないということは重々承知なのだけれど、敢えて難癖を付けさせて貰います。
ぽってりと赤い夕陽。
(……明日は晴れなのでしょうか)
いつもより濃い色の夕焼けを目に映しながら、ぼんやりとそんなことを考えていたら、ふいに引きだされるように別の紅を思い出してしまい、顔を伏せました。
「……なんで………」
―――何でなんでしょう?
この一年と少し、その間に幾度となくしてきた自問。
どうして、
どうして、
なんで、わたしは………
「こんなに嫌われちゃったんでしょう……」
昨年の第一学年期と、この春からの学校生活―――とりわけ、今日の教室での出来事を思い返しながら、わたしはもう何度目ともしれない溜息をお腹の底から吐き出しました。
長くなったので、2つに分けます。