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果てしなき蒼の、君という光

作者: blue fruits
掲載日:2026/05/26

「あはは!」教室の喧騒のなかで一つだけ浮いたような声。

「パリンッ」という酒瓶の音と床に散らかる緑のガラス片。

 漂う煙と充満する紫煙の香り。

 僕と葵の甘酸っぱい日々はここから始まった。


 梅雨時のある日のこと。僕たちは二人で葵の家へと行き、次の定期試験に向けた勉強会をしていた。すると、階下から「ガチャッ」という音と共にきつい香水の匂いが漂ってくる。葵は血の気が引いた顔で


「瑠果、早く隠れてっ」


 という。僕は慌ててクローゼットの中に隠れようとする。しかし、遅かった。

 葵の母親が隠れている途中の僕を見つけ、


「何よ、まだ子供な癖に男なんか家に連れ込んでっ、さっさとあんたも一緒に出ていきなさいっ」


 と香水と葉巻の匂いを振りまきながら、ヒステリックを起こしたように叫び、僕たちを家から追い出す。

 僕と葵は、言葉を交わさずとも気づけば河川敷の公園のベンチに座っていた。子供たちの近くも遠い笑い声が二人の間の静寂を切り裂く。 そこからしばらくして葵を見ると彼女は静かに涙を流していた。葵は言う。


「私、お母さんに見捨てられて……これからどうしたらいいの」 


 僕にはそっと葵の背中に手を持っていく。


「さっきのことは、葵が悪いんじゃない。俺が悪かった」


「でも私はもう家に帰れないのよ、どうしたらいいのっ?」


 葵が取り乱したように叫ぶ。


「一回僕の家に身を置くっていうのはダメかな、?」


「いいの? でもお父さんがいるんじゃ……」


「親父はどうせ酔いつぶれて寝てるさ。 夜になって起きだしてくるタイミングで静かにしていれば大丈夫」


 そして、僕たちは僕の家へと移動した。


「葵はこの部屋使ってていいから」


「ありがとうね」


 自分の部屋に入った僕は、先ほど葵の母親に言われた言葉が脳裏にこだまし、息苦しくなってくる。

「ガチャッ」薄暗い部屋に入ってきた外の光とかすかに漂う香水の香り。

 部屋の外を見るとそこには制服のままの葵。


「瑠果、なんか私一人でいるのが怖くなってきちゃった。 何か話さない?」


 心細く感じていた僕が断る理由もなく、


「いいよ」


 と返事をする。


「私って、これからどうしたらいいのかな……」


 と葵が学校の時とは違った小さくほどけてしまいそうな声でつぶやく


「しばらくはうちにいればいいさ。 いつも僕を荒れた親父から守ってくれたお祖母ちゃんに相談してみるさ」


「ほんとに!? 学校の先生とかにお母さんの話をしたら少しは変わってくれるかもしれないし」


「……そうだね」

 ここで大人が介入して葵の母親がさらに荒れるのではないか。僕の心には一抹の不安も宿る。

 しかし心を奮い立たせ震える手でスマホを取り出す。

「電話してみるよ」


 ーー5分後


「お祖母ちゃんが明日の午後には来てくれるって!」


「ほんと! ありがとう瑠果」


「大丈夫だよ。 葵のためなら僕は何でもするさ」

「お祖母ちゃんが今日は来れないから夜は親父に気をつけろだってよ」


「わかった!」

「心細いし、瑠果の部屋に一緒にいてもいいかな……」


「いいよ」

「一緒に何かして一晩は過ごそうよ」


 そういえば、やけにおなかがすいたと思ったらもう六時だ。


「葵ー 何か食べたいものある? 何でもつくるよ」


「えっと、何が作れる?」


「カレーとかなら早いかも」


「じゃあそれで!」


 僕は葵のために腕によりをかけて料理を始めた。


 ーー40分後


「カレーできたよー」

「はいどうぞ!」


「すごい美味しそう!!」


「「いただきまーす」」


「んー おいしいー」


「だろー」


 彼女が僕の部屋で隣で僕の作った料理を食べていることがまだ信じられない。なんて幸せなんだろうか。二人で話しながら食べているとあっという間に食べ終わってしまった。


「瑠果ー お風呂借りてもいいかな……」


「ええよー 服とかってどうする?」


「それは何とか持ち出してきたから大丈夫」 


「じゃあ一階だから、使っていいよ」


「わかったー」


 自分の家のお風呂に彼女が入っているという状況で、年頃の男子が意識をしてしまうのも無理はないだろう。僕も例外ではない。そうこう考えているうちに葵が風呂から上がってくる。


「瑠果も入ってきていいよ」


「お、おう」


 つやと色気を感じる濡れた髪の毛と無防備な服装。僕の心臓は葵にも聞こえるのではないかというほど高鳴る。


「顔真っ赤だけどどうしたの?」


 葵が覗き込むようにこちらを見ると華やかなシャンプーの香りがふんわりと鼻をくすぐる。


「だ、大丈夫だよ」


 僕は逃げるように風呂場へと行く。


 高鳴っている心を落ち着かせながら入浴し、自分の部屋へと戻る。すると、葵が僕の布団にちょこんと座りながら待っていた。


「ねぇねぇ瑠果ー 今日さ、同じ布団で寝てもいい……?」


「え? いいけど」


 早鐘を打つ僕の胸。彼女と隣で寝るという事を頭で認識するまでには少し時間がかかった。


 ーー3時間後


 二人でゲームをして、話したりしているとあっという間に時間は過ぎ寝る時間になった。


「同じ布団で寝るのってなんだか大人みたいですごいドキドキするね」


 葵が囁くような吐息交じりの声で言う。


「そ、そうだね」


 可愛い声に一瞬現実から離される。着ている上着だけを通して感じる肌の温かさに互いが意識しあう瞬間が幾度となく訪れる。


「ドサッ ガサゴソッ」


 親父が起き上がってきた音がする。


「親父が起きてきたけど、リビングへ行くだけなはずだから大丈夫と思うよ」


 葵に伝える。


「私本当に大丈夫かな……」


 蚊の鳴くような声で言いながら葵は僕に強く抱きついてくる。密着したことで温かい葵の体温をさらに強く感じる。


「葵、大丈夫だよ」

「絶対僕が守るから安心して」


「うん……ありがとう」

「でもやっぱりちょっと不安だから瑠果に私のこと抱きしめたまま寝てほしいかも…… さすがに無理?」


「いいよ」

「このまま明日の朝まで寝ていようか」


 僕はそう言って、葵を抱きしめる。

 そうしてしばらくすると、葵はすやすやと寝息を立てて寝始めた。その可愛い寝顔に見とれていると僕まで眠くなり、夢の世界へといざなわれていった。


 ーー翌朝


 カーテンの間から差し込む朝日で目が覚める。僕の胸に顔をうずめて眠る葵の愛しい寝顔に見惚れていると葵もおきたようだ。


「ふぁぁ おはよぉー瑠果ぁー」


 まだ寝ぼけた声で葵が言う。


「おはよう葵」


 僕が答える。


 そしてそれぞれがゆっくりと朝の支度をする。僕はリビングで、散らばる緑のガラス瓶の欠片を無言で集め、捨てる。

 そして僕の部屋で焼いた食パンを食べ、2人で並んで話しながら学校へと向かう。


「昨日はいろいろあったけど大丈夫?」


 僕が聞く。


「うん まぁ大丈夫だよ」

「まだ、いつ家帰れるかがわからないのは心配だけどね」


「そうだよね、今日僕のお祖母ちゃんが来てくれるからそれで何か変わるといいね」


「うん」

「瑠果、色々とありがとうね」


「気にせんでいいよ 今は僕は葵と色々話せる状態が一番嬉しいから」


「ほんとに!! 私もだよっ」


 そうこう話しているうちに学校へとたどり着く。


 ーー放課後


 葵と一緒に家に帰り、しばらくすると家の前に見慣れた車が停まるのが見えた。


「おばあちゃん!!」

「わざわざ来てくれてありがとう」

「この子が葵」


「よ、よろしくお願いします」


「よろしくねぇ」

「葵ちゃんのお母さんと話してみようかねぇ」


「い、いいんですか?」

「でも大変ですよね……」


「大丈夫さぁ」

「こういうのは私の得意分野だからねぇ」


「おばあちゃんお願い!」


「可愛い孫の頼みとあらば断るわけにはいかないし、がんばるねぇ」


 葵の目には一粒の雫が浮かんでいた。


「瑠果の部屋にもっかい行きたいんだけどいい?」


 葵が涙声で言う


「いいね 一緒に遊ぼう」


 僕たちの幸せな恋はまだ始まったばかりなのかもしれない。

どわーーーーーーーーw

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