77.解析室
リー博士の端末が鳴り、彼女は手元のスマホを見ながら言った。
「あっ、犬の置物が見つかったそうよ。今のところ、人的被害が出そうな仕掛けは見つかってないみたい」
『その“贈り物”、どう対応する予定かな?』
「はい、モリス博士!通信を遮断するケースに入れて、研究施設に運ぶそうです」
『その解析を、ぜひ私にさせてもらいたい』
「お言葉ですが、博士はAIですので、干渉を受けるのではありませんか?」
リー博士は、やや困ったように指摘した。
『おっと、その通りだ!忘れていたよ。では、ゴトウ君はどうかな?彼は有能な技師だろう』
「街間の輸送がまだ回復していませんので、その後になると思います」
私がそう答えると、モリスAIが即座に応じた。
『それなら、あと二時間ほどで回復するはずだよ』
モリスAIの予測は正確だった。
二時間後、街間の荷物輸送が再開された。
*
ゴトウにはAIの干渉を受けないよう、完全に遮断された作業室が用意され、
犬の置物は厳重な封鎖ケースのまま、そこへと届けられた。
作業室には、旧式の検査装置がいくつも並んでいた。
非破壊検査用のスキャナーや解析用端末。
ゴトウは、テーブルの上にケースを置き、慎重にロックを解除した。
内部から現れた犬の置物に、手にしたスキャナーをゆっくりと沿わせていく。
小さなモニターに浮かぶのは、解像度の低い白黒の断面画像。
そのデータを最新機で解析し、3Dモデルとして再構築していった。
*
「ゴトウ技師より、解析が終了したとの連絡が入りました」
アイリスがそう告げたとき、私はダイニングで食事をとっていた。
「ゴトウさん、食事もとらずに作業してたのかな?」
私の目の前では、リー博士の映像が投影され、彼女も同じように食事をしていた。
「エンジニアなんてそんなものよ。夢中になったら止まらないの」
フォークを手にしたまま、リー博士は楽しげに笑った。
この二時間、私はずっと彼女と話していた。
こちらの世界のこと、ケンの父親のこと、幼いころのケンの思い出――
どの話も尽きることなく、私は次々と質問を重ねていた。
不思議なことに、会話が途切れる瞬間が一度もなかった。
エマの騒動以外の話題を、誰かとゆっくり語り合うのは、
この世界に来てから初めてのことだった。




