72.スポットライト
私は、震える指でケンへのメッセージを打ち込んでいた。
――エマの本当の標的はリー博士かもしれない。気をつけて。
リー系統のスマートウェアが破綻する恐れがある。
(お願い、読んで……ケン!)
送信から一秒も経たぬうちに、画面が点滅した。
《自動応答ー現在ビジーモードのため、後ほど返信します》
――受信はしてる。きっと大丈夫。
あちらには、優秀な人たちがいる。きっと、大丈夫。
そう繰り返しながら、胸の奥のざわめきを押し殺した。
私は、自分にそう言い聞かせた。
「アイリス、リー博士の写真が見たいんだけど。こちらに来た頃……若いころの写真」
「少々お待ちください」
リビングのモニターに、聡明そうな若い女性の写真が映し出された。
「きれいな人だね」
「はい。当時のChronoWorksは、広報資料に彼女の写真を多用していました」
「若くて、美しくて、聡明な科学者……エマは、自分がいたポジションを彼女に奪われてしまったんだね」
残酷な話だ。
今までちやほやしていたのに、新しい人が来た途端に、そちらに飛びつくなんて。
私は、人生でちやほやされたこともないし、スポットライトを浴びるような功績をあげたこともない。
だから、そんな理不尽な目にあったこともない。
――持つ者と、持たざる者。
どちらが幸せかなんて、きっと簡単には言えない。
むしろ、持つ者の人生のほうが、ずっとハードモードなのかもしれない。
「アイリス、エマ博士が生前からリー・ヤオ博士を標的にしていたと仮定して、これまでのすべての情報をもとに――この騒ぎの全容をシミュレーションして。」
「承知しました」
アイリスは動きを止め、静かに“思考モード”へと切り替わった。




