71.新旧の交代
「カリーム博士、事は急を要するので、説明は省いて、質問から始めます」
「あぁ、構わんよ」
カリーム博士は、何かを察したのか、声のトーンを落としてそう言った。
「モリス博士が亡くなった後、エマ・ヘミングウェイ博士の社内での立場は、どう変化していきましたか?」
「君の質問の意図は何かな?」
「エマの動機は“嫉妬”だったのかもしれないと思い至りまして」
「ふむ……なるほど」
「リー・ヤオ博士が第二世界からこちらに来た頃、ヘミングウェイ博士はどんな反応をしていましたか?」
「エマは、リー君がこちらに来た翌年に退職しておるな……」
「リー博士が何か嫌がらせを受けていた、という報告はありますか?」
「さぁ……いや、待てよ。一度おかしなことを言っていたことがあったな」
カリーム博士は、何かピースがはまったような口調になった。
「何かの置物を注文したら、思っていたものと違うものが届いた――確か、とても不穏なものだったと言っていたんだ」
「犬の死体の置物、でしょうか?」
「今、その可能性を感じておる」
「リー博士と通信は可能ですか?」
「いや、彼女のいる街とは通信が復旧しておらん」
「ケン・オオタ氏は、そちらの街にいますか?」
「いや、彼はリー博士と同じ街にいるはずだ。新しい工場の竣工のためにね」
「エマは、生前からリー博士の築き上げたものを滅ぼす計画を進めていたと考えられませんか?」
「チャールズが亡くなった後、エマを擁護する者は社内からいなくなった。彼女のアイデアは少々荒唐無稽でな……それを現実に落とし込むのがチャールズの役目だった。彼を失ってからの彼女は、社内で孤立していった。私には、チャールズの代わりを務める力がなかったからね」
「そこへ、リー博士がこちらに招致された――そういうことですね?」
「……そういう事になる。恨みがあるなら、私に向ければいいものを…」
「エマは、自分より若くて、才能のある女性に嫉妬したのではないでしょうか」
「そうか、では君も安全ではないな。気をつけなさい」
「わかりました。では、博士。リー系統のAIが攻撃を受ける可能性が出てきました。至急、対策をお願いします」
通信が途切れると、部屋に静寂が戻った。
私は深く息を吐き、手のひらの汗を拭った。




